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【第43話:真魔王ラウム その9】
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表現的にはこう言うのが適切だろうか。
『空間が無理やりねじ切られた』
ゼロが一瞬、爆発的に魔力を高めたかと思うと、真魔王ラウムとステルヴィオ、それに、その場にいた生き残っていたラウムの側近たちも丸ごと、その空間をねじ切るように切り取って、ゼロの持つ魔王領域へと引きずり込んだ。
その魔王領域は終わりが全く見えないほど広大で、どこまでも続く草原は、実際に元の世界の大陸が、まるまる収まるほどの広さを誇っていた。
ただ、元の世界と決定的に違うモノが空に浮かんでいた。
「く、黒い太陽って事は……ここはゼロの領域か……しかし、いきなり何てことを……」
意外にも、ステルヴィオもゼロの魔法領域に来るのは初めてで、その上、このような荒業が出来る事も知らなかった。
そして、ゼロが持つ途轍もない魔力を使った強引な魔王領域への移動に、面食らっていた。
しかし、一番驚いていたのは真魔王のラウムだ。
「ここは……あの……間違いないわ……本当にバエル、なのね……」
しかし、無理やりゼロの魔王領域に連れてこられたことよりも、そのゼロの存在自体に驚いているようで、まるで何かを確かめるように、一人ぶつぶつと繰り返し呟いていた。
「ところでラウム。そろそろステルヴィオと戦ってくれないかな?」
ゼロがそう言って話しかけると、そこでようやく正気を取り戻した真魔王ラウムは、
「バエルゥゥー!! あなただけは許さないわ!」
叫びながら、どこからともなく取り出した巨大な大鎌をゼロに向かって振り下ろした。
だが……その巨大な刃は、ゼロの二本の指で挟まれ止められる。
「なかなか強くなったようですね。しかし、ステルヴィオとの契約があるので、死んであげるわけにはいかないのですよ。それに、封印の件があるので私があなたと戦うと不味くてね。なので……すみませんが、私ではなくステルヴィオと戦ってくれませんかね?」
しかしラウムは全く取り合っておらず、無理やり大鎌を引き戻すと、狂ったようにそれを振るい、空間を斬り裂くような斬撃を無数に繰り出していた。
「よくも私たちを封印の贄になど使ってくれたわね! どれだけ苦しんだか!?」
それに対し、ゼロはただ直立し、攻撃されるがままに任せていた。
「くそっ! 死になさいよ! 死ね! 死ね!」
「ふぅ……そもそも戦いを挑んできたのはあなた達ですよ? それに、魔族はね。この世界にいてはいけない存在なんですよ。あと、何度でも言いますが、ラウム……あなたの相手は私ではない。ステルヴィオ!」
ゼロが叫ぶと同時にラウムが吹き飛んだ。
「わぁってるよ。話してるようだったから、待ってたんじゃないか」
魔剣を振り抜いた姿勢で素っ気なく言うステルヴィオだったが、その表情は少し寂しげだった。
「とりあえず、真魔王ラウム! オレと戦え!」
「餓鬼がぁ!! 邪魔するんじゃないわよ!」
それぞれが踏み込み一瞬で距離を詰めると、魔剣と大鎌が交錯して、ぶつかり合った衝撃で地面が陥没した。
「ここなら思いっきりできるぜ!」
「生意気な餓鬼が、調子に乗ってんじゃないよ!」
魔剣と大鎌が交錯するごとに、その衝撃で辺りの地形が破壊されていく。
一合、二合と打ち合い、離れて距離を取ることなく、その距離を更に詰めると、渾身の一撃が正面からぶつかり……ステルヴィオが打ち負けて吹き飛んだ。
「くっ……痛ててて。やっぱ魔王覇気じゃかなわねぇか……」
「馬鹿にするんじゃない! 人ごときが正面からぶつかって私に勝てると思ってるのかしら」
「あぁ、もちろん思ってるぜ? 勝てるって確信を持ってな」
「きぃぃ! どこまでも生意気な餓鬼ね! バエルとどういう関係か知らないけど、バエルの眷属ならあなたも逃がす訳にはいかないわ! 望み通り殺してあげる!」
真魔王ラウムはそう言うと、元々今までの魔王よりずっと強力な魔王覇気を展開させていたにもかかわらず、そこからさらに爆発的にその密度を引き上げた。
だが、それで怯むステルヴィオではなかった。
「誰もそんな事、望んでねぇよ! 人間の底力って奴をみせてやるぜ! 『聖魔混合』!」
叫ぶように言葉を発した瞬間、不浄と清浄の光を同時に放出させて、その身を包んだのだ。
「なっ!? いったいそれは!?」
歪んだ笑みを浮かべて今にも斬りかかろうしていたラウムだったが、聖光覇気と魔王覇気が混じり合うような見た事も聞いた事もない覇気を展開させたステルヴィオを見て、直感的に危険を感じて思わず後ずさった。
そして、自分の目の前をギリギリで通り過ぎていく剣閃に気付き、驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!? この私が動きを捉えられなかった!? しかも、私の魔王覇気を紙のように!?」
「勘の良いやつだな! だが、悪いが死んでもらう!」
次々と繰り出される剣閃に、真魔王ラウムは防戦一方となるが、ステルヴィオの顔には玉の汗が浮かび、あまり余裕があるようには見えなかった。
実際、優位に立ったかに見えたステルヴィオだが、その顔には、苦悶の表情が浮かんでいる。
もし、真魔王ラウムにもう少し余裕があれば、簡単に見抜かれていただろう。
この『聖魔混合』が短期決戦にしか使えないという事を。
短い時間なら問題ないが、そもそも魔王覇気と聖光覇気を交じり合わすような無茶苦茶な使い方をしているので、身体への負担が尋常じゃないのだ。
「ば、馬鹿な!? なんなのよその力は!?」
だが、真魔王ラウムは追い詰められていた。
そもそも自身の魔王覇気が斬り裂かれるような事態が初めてであり、身体能力こそ桁違いなものを持っているものの、今まではわざわざ避ける必要など無かったために、このような戦いをすること自体が初めてだった。
「こ、こんなの嘘よ!? バエルにだってこんな簡単に魔王覇気を斬り裂く事なんてできないはず!」
「そうですね。私の場合は無理やり高出力でぶつけて、捻じ伏せ破壊するような形になるでしょう」
力技なら問題ないというゼロの言葉に、一瞬きつい視線を向けるラウムだったが、しかし、余裕のない状況にステルヴィオに集中せざるをえなかった。
「ゼロ! 契約の一つ目だ! ちゃんと見てろよ!」
ステルヴィオは、口元から赤いものが流れ落ちるのもお構いないしに、ラウムの間合い深くへと踏み込むと、一気に袈裟に斬り裂いた。
「ぎゃぁぁ!?」
初めて受ける傷と痛みに叫ぶラウムだが、その瞬間、ステルヴィオも吐血して膝をついてしまっていた。
しかも、纏っていた『聖魔混合』の覇気が、ほとんど消失してしまっている。
「このクソガキがぁ!! どうやらお前もその技は無理があったみたいね! ぶっ殺してあげる!」
初めて受ける大きな傷と痛みに、叫び声をあげたラウムだったが、実際にはその驚異的な回復力により、致命傷には全くなっておらず、ステルヴィオに向けて大鎌を振り上げた。
しかし、ステルヴィオは焦るどころか、嫌らしそうな笑みを浮かべると、
「ば~か。こっちが本命なんだよ」
いつのまにか手にしていた『魔神の剣』を、横一閃に振り抜いたのだった。
『空間が無理やりねじ切られた』
ゼロが一瞬、爆発的に魔力を高めたかと思うと、真魔王ラウムとステルヴィオ、それに、その場にいた生き残っていたラウムの側近たちも丸ごと、その空間をねじ切るように切り取って、ゼロの持つ魔王領域へと引きずり込んだ。
その魔王領域は終わりが全く見えないほど広大で、どこまでも続く草原は、実際に元の世界の大陸が、まるまる収まるほどの広さを誇っていた。
ただ、元の世界と決定的に違うモノが空に浮かんでいた。
「く、黒い太陽って事は……ここはゼロの領域か……しかし、いきなり何てことを……」
意外にも、ステルヴィオもゼロの魔法領域に来るのは初めてで、その上、このような荒業が出来る事も知らなかった。
そして、ゼロが持つ途轍もない魔力を使った強引な魔王領域への移動に、面食らっていた。
しかし、一番驚いていたのは真魔王のラウムだ。
「ここは……あの……間違いないわ……本当にバエル、なのね……」
しかし、無理やりゼロの魔王領域に連れてこられたことよりも、そのゼロの存在自体に驚いているようで、まるで何かを確かめるように、一人ぶつぶつと繰り返し呟いていた。
「ところでラウム。そろそろステルヴィオと戦ってくれないかな?」
ゼロがそう言って話しかけると、そこでようやく正気を取り戻した真魔王ラウムは、
「バエルゥゥー!! あなただけは許さないわ!」
叫びながら、どこからともなく取り出した巨大な大鎌をゼロに向かって振り下ろした。
だが……その巨大な刃は、ゼロの二本の指で挟まれ止められる。
「なかなか強くなったようですね。しかし、ステルヴィオとの契約があるので、死んであげるわけにはいかないのですよ。それに、封印の件があるので私があなたと戦うと不味くてね。なので……すみませんが、私ではなくステルヴィオと戦ってくれませんかね?」
しかしラウムは全く取り合っておらず、無理やり大鎌を引き戻すと、狂ったようにそれを振るい、空間を斬り裂くような斬撃を無数に繰り出していた。
「よくも私たちを封印の贄になど使ってくれたわね! どれだけ苦しんだか!?」
それに対し、ゼロはただ直立し、攻撃されるがままに任せていた。
「くそっ! 死になさいよ! 死ね! 死ね!」
「ふぅ……そもそも戦いを挑んできたのはあなた達ですよ? それに、魔族はね。この世界にいてはいけない存在なんですよ。あと、何度でも言いますが、ラウム……あなたの相手は私ではない。ステルヴィオ!」
ゼロが叫ぶと同時にラウムが吹き飛んだ。
「わぁってるよ。話してるようだったから、待ってたんじゃないか」
魔剣を振り抜いた姿勢で素っ気なく言うステルヴィオだったが、その表情は少し寂しげだった。
「とりあえず、真魔王ラウム! オレと戦え!」
「餓鬼がぁ!! 邪魔するんじゃないわよ!」
それぞれが踏み込み一瞬で距離を詰めると、魔剣と大鎌が交錯して、ぶつかり合った衝撃で地面が陥没した。
「ここなら思いっきりできるぜ!」
「生意気な餓鬼が、調子に乗ってんじゃないよ!」
魔剣と大鎌が交錯するごとに、その衝撃で辺りの地形が破壊されていく。
一合、二合と打ち合い、離れて距離を取ることなく、その距離を更に詰めると、渾身の一撃が正面からぶつかり……ステルヴィオが打ち負けて吹き飛んだ。
「くっ……痛ててて。やっぱ魔王覇気じゃかなわねぇか……」
「馬鹿にするんじゃない! 人ごときが正面からぶつかって私に勝てると思ってるのかしら」
「あぁ、もちろん思ってるぜ? 勝てるって確信を持ってな」
「きぃぃ! どこまでも生意気な餓鬼ね! バエルとどういう関係か知らないけど、バエルの眷属ならあなたも逃がす訳にはいかないわ! 望み通り殺してあげる!」
真魔王ラウムはそう言うと、元々今までの魔王よりずっと強力な魔王覇気を展開させていたにもかかわらず、そこからさらに爆発的にその密度を引き上げた。
だが、それで怯むステルヴィオではなかった。
「誰もそんな事、望んでねぇよ! 人間の底力って奴をみせてやるぜ! 『聖魔混合』!」
叫ぶように言葉を発した瞬間、不浄と清浄の光を同時に放出させて、その身を包んだのだ。
「なっ!? いったいそれは!?」
歪んだ笑みを浮かべて今にも斬りかかろうしていたラウムだったが、聖光覇気と魔王覇気が混じり合うような見た事も聞いた事もない覇気を展開させたステルヴィオを見て、直感的に危険を感じて思わず後ずさった。
そして、自分の目の前をギリギリで通り過ぎていく剣閃に気付き、驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!? この私が動きを捉えられなかった!? しかも、私の魔王覇気を紙のように!?」
「勘の良いやつだな! だが、悪いが死んでもらう!」
次々と繰り出される剣閃に、真魔王ラウムは防戦一方となるが、ステルヴィオの顔には玉の汗が浮かび、あまり余裕があるようには見えなかった。
実際、優位に立ったかに見えたステルヴィオだが、その顔には、苦悶の表情が浮かんでいる。
もし、真魔王ラウムにもう少し余裕があれば、簡単に見抜かれていただろう。
この『聖魔混合』が短期決戦にしか使えないという事を。
短い時間なら問題ないが、そもそも魔王覇気と聖光覇気を交じり合わすような無茶苦茶な使い方をしているので、身体への負担が尋常じゃないのだ。
「ば、馬鹿な!? なんなのよその力は!?」
だが、真魔王ラウムは追い詰められていた。
そもそも自身の魔王覇気が斬り裂かれるような事態が初めてであり、身体能力こそ桁違いなものを持っているものの、今まではわざわざ避ける必要など無かったために、このような戦いをすること自体が初めてだった。
「こ、こんなの嘘よ!? バエルにだってこんな簡単に魔王覇気を斬り裂く事なんてできないはず!」
「そうですね。私の場合は無理やり高出力でぶつけて、捻じ伏せ破壊するような形になるでしょう」
力技なら問題ないというゼロの言葉に、一瞬きつい視線を向けるラウムだったが、しかし、余裕のない状況にステルヴィオに集中せざるをえなかった。
「ゼロ! 契約の一つ目だ! ちゃんと見てろよ!」
ステルヴィオは、口元から赤いものが流れ落ちるのもお構いないしに、ラウムの間合い深くへと踏み込むと、一気に袈裟に斬り裂いた。
「ぎゃぁぁ!?」
初めて受ける傷と痛みに叫ぶラウムだが、その瞬間、ステルヴィオも吐血して膝をついてしまっていた。
しかも、纏っていた『聖魔混合』の覇気が、ほとんど消失してしまっている。
「このクソガキがぁ!! どうやらお前もその技は無理があったみたいね! ぶっ殺してあげる!」
初めて受ける大きな傷と痛みに、叫び声をあげたラウムだったが、実際にはその驚異的な回復力により、致命傷には全くなっておらず、ステルヴィオに向けて大鎌を振り上げた。
しかし、ステルヴィオは焦るどころか、嫌らしそうな笑みを浮かべると、
「ば~か。こっちが本命なんだよ」
いつのまにか手にしていた『魔神の剣』を、横一閃に振り抜いたのだった。
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