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第一章 前半
第1話:秘密じゃない秘密の遊び場
しおりを挟む窓から差し込む光で目覚めると、そこには見知らぬ天井が見えた。
「知らない天井だ」
いや。知らぬというと語弊があるな。
紅雅 穿輝としては知らない天井がそこにはあった。
子供の頃はカッコいい名前だと思っていたが、今はちょっと厨二っぽいとすこし恥ずかしかったりする……。
まぁそれはいい。
寝ているのは粗末なベッド。
家は木造ですこし古びており、ログハウスのような作りをしている。
先日誕生日を迎えて二八歳になった……はずなのだが……。
ん? 紅雅 穿輝? いや、オレはコウガだ……。こ、これはどういうことだ?
オレの中に一致しない二つの記憶が存在する!?
「飛び出してきた猫を避けようとして……あれ? ぐっ!?」
そこまで呟いた時だった。
頭を締め付けるような痛みが走り、日本という国で育った二八年間の記憶とここで育った五年間の記憶が走馬灯のように駆け巡っていった。
「そうか……これは前世と今世の記憶……」
混乱もすこしずつ収まってきて、今自分の置かれている状況をようやく理解することができた。
「これが……異世界転生というやつか……」
まさか前世で好きだったラノベのようなことが自分に起こるなんて……。
落ち着いたところであらためて周りに目を向ける。
机と椅子、そして自分の寝ている粗末なベッド以外なにもない部屋。
丸太を使った素朴な木の家。
ただ、元の世界の感覚で言うとすこし洒落た感じに見えなくもない。
ここは紅雅 穿輝としてではなく、この『異世界クラフトス』でコウガとしてオレが五年間過ごした家だ。
この家があるのは、名も無きちいさな山間の村。
『アデリア大陸』の小国『トリアデン王国』最西端にあり、一番近い『地方都市ドアラ』でも徒歩で一週間はかかるような場所。
めったに行商人も訪れない辺鄙な村だ。
「そうだ……魔物……」
先日、母が倒して持ち帰った猪の魔物の姿を思い出した。
そう。この世界には魔物がいる。
剣や魔法も存在する。
いわゆる異世界ファンタジーという世界だ。
うん。思い出してきた。
それに伴い、頭もだいぶん整理できてきたようだ。
今日はコウガとしての五歳の誕生日の朝。
起きたら当たり前のように前世である紅雅 穿輝としての記憶が蘇っていた。
そのうえでこちらで過ごした五歳までの記憶や感情が融合され、すごく不思議な感覚だ。
生まれてすぐに前世の記憶があったら正直いろいろ耐えられなかったかもしれないので、これはこれで正直ありがたかった。主にオムツ的なものとか授乳的なものとか……。
ちなみに神様の悪戯なのか、前世で苗字だった「紅雅」が今世では名前として「コウガ」と名付けられていた。
前世でも下の名前で呼んでいたのは早くに亡くなった両親だけだったので、コウガと呼ばれることの方がしっくりくるかもしれないが……なんだかモヤモヤするな。
そんなことを考えていると、扉が開いて母親が部屋に入ってきた。もちろん今世での母親だ。
「あら? コウガが先に起きてるなんて珍しいこともあるのね。やっぱり誕生日だからかしら?」
と言って、ふふふと笑みを浮かべる。
自分の親をつかまえて言うのも何だが、すごい美人だ。
これで元A級冒険者で槍術の達人だというのだから信じられない。
村の近くで魔物が見つかったりすると、だいたいいつも母さんが退治している。
「何惚けてるの? まだ寝ぼけているのかな?」
「え、えっと……おはよう母さん。お腹すいたよ。もうご飯は出来た?」
前世の記憶が蘇ったことですこし恥ずかしいものを感じるが、今まで通りに接することにする。
「コウガが朝ごはんを食べたがるなんて珍しいわね。小食でいつも食べたがらないのに?」
今まで通りというのは案外難しいようだ……。
前世ではかなり大食いだったから、ちょうど普通ぐらいになってくれているといいな。
こうしてコウガとしてのいつもの日常は、いつもと違う朝を迎え、新たな人生として動き出したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
前世の記憶が蘇ってから数日が過ぎた。
先日の誕生日には練習用の木の槍を貰った。
記憶が戻る前に母さんと同じような槍が欲しいと駄々をこねていたので、こっそり用意してくれていたようだ。
だからその槍を使って毎日練習していた。
もちろん数日でいきなり上手くなったりはしないが、それでも我ながら素質はある方ではないかとちょっと自惚れている。
きっと母さんから受け継いだ才能のおかげだろう。
だからこのまま練習を続けていこうと思う。
それよりオレには気になっていたことがあった。
『異世界を渡ったものには何か強めのギフトを授ける事になっているから楽しみにしていなさい』
前世のオレでもなく、今世のオレでもないぼんやりとした狭間の記憶。
あれは神様だったのだろうか。
あの時、光り輝く不思議な世界で言われた言葉だ。
だけどギフトと言われても、なんのことなのかわからない。
だからそのギフトというものがなんなのか調べてみた。
と言っても、ネットどころか辞書も新聞もない世界だ。
本は存在しているようだが、この村にはなさそうだった。
そうなると情報源は限られている。
数日かけて母さんや村の人たちに聞いてまわり、ようやくギフトがどういうものなのか、どうすればギフトの有無やその効果が確認できて使用することができるのかを知ることができた。
オレは人に見つからないように裏山の秘密の遊び場に向かう。
ただ、所詮子供にとっての秘密の場所。
遅くなると当たり前のように母さんが迎えにくるので、実際には秘密でもなんでもない。
それでも人目に付く場所ではないので、とりあえずは問題ないだろう。
そもそもスキルの確認だけなら別に家の中でもできる。
だけど、ギフトを使用する時はほのかに発光するらしいし、攻撃系のギフトだった場合、それを試すのは家の中では少々危険だ。
やはり家の中では駄目だな。
そんなことを考えながら歩いて五分ほど。ようやく秘密の遊び場に辿り着く。
「よし! さっそくギフトの確認をしよう! ドキドキするな~」
オレは年甲斐もなく……いや、年相応なのかな? とにかく興奮して気持ちを抑えられずにいた。
ワクワクが止まらない!
村の人に聞いた話では、ギフトとは左手の甲に宿るそうで、確認するにはその左手の甲を自分の額にそっと添えてこう言えばいいらしい。
「我が名はコウガ。神より授かりし贈り物、謹んでお受けいたします」
すると、左手の甲に光る紋様が浮かび上がった。
その瞬間、自然に理解した。
【ギフト:竜を従えし者】
この者、あらゆる竜を従え使役する事ができる。
え? ……竜……従える?
その言葉の意味を理解するまでの数秒の沈黙。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 凄い! 凄いよ! 竜! 竜だよ!」
オレは歓喜していつのまにか叫んでいた。
嬉しすぎて思わず変な踊りまで踊ってしまった。いや、それはどうでもいい!
「ヤバイなこれ!? ドラゴンテイマーになれるってことだよな!」
聞いた話ではギフトを授かるのは一〇〇人に一人ぐらいだそうだ。
だが、普通のギフトはすこし力が強くなったり、耐性がついたりする程度らしい。
その中でも強いとされているギフトは、強力な剣技や特殊な魔法が使えるようになるものと聞いていた。だからオレは、この手のギフトが貰えるものと思っていた。
だけど、本当にドラゴンテイマーになれるのなら、そんなレベルのものではない。
「これって聖剣を召喚する勇者の【聖剣を託されし者】や、全ての詠唱魔法を使用可能になる賢者の【魔法の真理】なみに凄いギフトなんじゃ……」
ただ、勇者や規格外のSランク冒険者は並のドラゴンなら一人で倒すそうだから、そこまでの人達ほどではないか。
「いや、それでも十分凄いや!」
オレは興奮を抑えきれなくなり、誰かとこの喜びを共有しようと気付けば母さんの元へと走っていた。
しかしオレは、この時はまだ気付いていなかった。
このギフトには大きな落とし穴があるということに……。
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追記:2025/09/20
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