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【第24話:ちょちょ】
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「すべての生命活動を停止せよ! 『絶対零度』!」
その声は、混乱の中にあっても良く響く美しい声でした。
ヘルハウンドの群れをまるごと氷像と化したその人物、フォレンティーヌさんは、未だ混乱している守護者たちの元に颯爽と駆けつけると、檄を飛ばします。
モデルみたいなフォレンティーヌさんがこういうカッコイイ登場をすると、凄く絵になりますね。
「私は七枚盾第4席の『樹氷』よ! 私がベヒモスを喰いとめるわ! だから皆は他の魔物をお願い! サポートで一本置いておくからそこから立て直して!!」
そして、身体強化していなければ聞こえないほどの小さな声で「みんなこんな所で死なないでよ……」と呟くと、守護者たちを庇うように聳える一本の大きな氷の木を出現させたのでした。
修練場で見せて貰ったものの倍はありそうな氷の巨木です。
前方の魔物の群れに自動的に牽制するような攻撃をしはじめた事で、徐々に劣勢だった戦況は持ち直してきているようです。
衛兵や守護者の人たちも、七枚盾の一人が駆けつけてくれたことで、士気が随分向上しているのがわかりますね。
ちなみに他の七枚盾の人たちは、正門あたりにいるようです。
これは、さっき第二の視界を引き延ばして確認したのですが、押し寄せてくる魔物の本隊も、こちらの衛兵や守護者の主力部隊も正門辺りに集まっていたので間違いないでしょう。
「わかった! こっちは任せろー!」
「生き残ったら酌でもしてくれよ!」
息を吹き返した守護者の人たちに気を取られていると、フォレンティーヌさんは振り返らずに一度だけ手を振って、ベヒモスの方に向かってしまいました。
「あ、挨拶しそこねちゃった……。まぁでも、フォレンティーヌさんがベヒモスの方を引き受けてくれるなら、先にこっちを手伝おうか」
城壁にとりついているベヒモスの元に滑走するように向かっていく後ろ姿をちらりと眺め、僕は僕の仕事に取りかかる事にします。
でも、その時でした。
またも驚愕の声が聞こえてきたのです!
「な、何だアレは!?」
「あんな魔物見た事も聞いた事もないぞ!?」
また新手でしょうか?
あれ?? でも、みんなこっちを見てるような……。
「馬鹿な!? いつのまに後ろに回り込まれたんだ!?」
「鈍色の外皮に覆われた蜘蛛の魔物だと!?」
あっ……これって、鬼蜘蛛の事ですね……。
「違います! 敵じゃないです!!」
そう言って慌てて誤解を解こうとしたのですが……。
「なに!? 子供の声が聞こえるぞ!? どこだ!?」
「まさか!? 蜘蛛の魔物に捕まってるのか!?」
うん。理由が分かった気がします……。
僕は今も鬼蜘蛛の背に乗っているのですが、ち、小さいので……認めたくないですが、少し小さいので、下からだと隠れてしまって見えないようですね……。
僕は無言で鬼蜘蛛の上で立ち上がると、飛び跳ねながら何度も大きく手を振り、
「えっと……ここで~す。ここに子供がいますよ~」
守護者の人たちもようやく僕の姿に気付いてくれたようです。
「な!? 坊主! 魔物の上で何やってるんだ!?」
「今助けにいく! そのままじっとしていろ!! 気付かれるぞ!?」
あぁ……これは何とか誤解を解かないと、鬼蜘蛛が攻撃されちゃいそうですね。
たぶん攻撃されても平気だとは思いますが、何とか落ち着いて貰わないと。
「あの~! 大丈夫です! この蜘蛛は……そう! 新型のゴーレムなんです!!」
時と場合によってはやさしい嘘も必要だ……って本に書いていました。
意味と使いどころあってるかな?
「それがゴーレムだと!?」
この世界のゴーレム技術はかなり進んでいて、大小さまざまな形のゴーレムが存在します。
中でも戦闘用ゴーレムは街の守り神シグルスをはじめ、とても力を入れて開発されていますが、さすがに巨大な蜘蛛の形のものはありません。
しかし、今この人たちが驚いているのは、蜘蛛の形ではないでしょう。
この鬼蜘蛛がまるで生きているかのような滑らかな動きをしている事と、マット加工された見た事のない金属の質感が外皮に見えた事が原因だと思います。
「滑らかなのは僕の異能……じゃなくて、ギフトで動かしているからです!」
最近知ったこの世界の魔法の言葉……それは『ギフト』!
系統こそ新しいものはあまり発見されなくなってきていますが、未だに次々と新しいギフトが報告されているようですから、これでたぶん信じて貰えるでしょう。
そもそもこの世界のゴーレムと元居た世界の機甲はよく似ています。
それを異能の力で式神として使役しているので、そんなに遠くない嘘ですよね。
それに、こんな事で時間を消費している場合ではありません。
鬼蜘蛛に命じて氷の木の元まで移動すると、背から飛び降りて
「とにかく! 僕もこの鬼蜘蛛で協力させて貰います! 鬼蜘蛛! 前方の魔物を刈り取るんだ!」
そう言って指示を出すと、僕も戦線に加わります。
加わったのですが……その中で指揮を執っていた大柄な守護者のお兄さんが、
「ちょちょ!? ちょっと待て! 百歩譲ってゴーレムの事はわかった! でも、お前は後ろに下がってろよ!?」
何前に出て来てんだよ! って何か焦っています。
「あぁ、気にしないでどうぞ?」
「どうぞじゃねぇ!? 気になるわ!」
う~ん? 気にしなくて良いのになぁ?
どうして見ず知らずの僕の事をそんなに気にするんでしょうか?
今度図書館で調べてみようかな。
「ちょちょ!? お前! その剣と魔銃って訓練用のものじゃねぇのか!?」
「ちょちょ? そうですよ?」
あ、お兄さん、何が恥ずかしいのか顔が真っ赤です。
でも、何を驚いてるのかな?
本物の剣や魔銃は、守護者や衛兵しか所持する事を許されていませんからね。
「だから『そうですよ?』って、可愛らしく首傾げてるんじゃねぇよ!? そんな装備で魔物が倒せるわけねぇだろ!」
「ちょちょ? この剣は鈍器になりますし? ちょちょ? 魔銃は訓練用の者でも目に当てれば大概の生物にはダメージを与えられますよ?」
「『ちょちょ』はやめろー!? って、そうじゃなくて、そんな事出来るわけ……」
お兄さんが「出来るわけねぇだろ?」って話そうとしていた時でした。
第二の視界に猛スピードでこちらに突っ込んでくる魔物の姿が映ります。
「あ……ちょっと失礼しますね」
僕はそのお兄さんの会話を遮って魔銃を抜くと、お兄さんのいる方向に銃を向け……、
「ちょちょ!? こっち向けんじゃねぇよ! いくら訓練用でも保護結界もなしで当たれば怪我するん……あぶっ!?」
会話をスルーして魔銃を二発撃ち放ったのでした。
「おい! あぶねぇぞ!? 避けろ!!」
「え? だから危ねぇって坊主に注意を……」
「そうじゃねぇ! サギット! 後ろだーーー!!」
その叫びと同時に鳴り響く轟音。
そこには僕に両目を撃ちぬかれ、バランスを崩して墜落した大型の魔物の姿がありました。
「この坊主……グリフォンを撃ち落としやがった……」
あ、サギットさんって事は、さっきヘルハウンドから逃げ切ったんだ。
その声は、混乱の中にあっても良く響く美しい声でした。
ヘルハウンドの群れをまるごと氷像と化したその人物、フォレンティーヌさんは、未だ混乱している守護者たちの元に颯爽と駆けつけると、檄を飛ばします。
モデルみたいなフォレンティーヌさんがこういうカッコイイ登場をすると、凄く絵になりますね。
「私は七枚盾第4席の『樹氷』よ! 私がベヒモスを喰いとめるわ! だから皆は他の魔物をお願い! サポートで一本置いておくからそこから立て直して!!」
そして、身体強化していなければ聞こえないほどの小さな声で「みんなこんな所で死なないでよ……」と呟くと、守護者たちを庇うように聳える一本の大きな氷の木を出現させたのでした。
修練場で見せて貰ったものの倍はありそうな氷の巨木です。
前方の魔物の群れに自動的に牽制するような攻撃をしはじめた事で、徐々に劣勢だった戦況は持ち直してきているようです。
衛兵や守護者の人たちも、七枚盾の一人が駆けつけてくれたことで、士気が随分向上しているのがわかりますね。
ちなみに他の七枚盾の人たちは、正門あたりにいるようです。
これは、さっき第二の視界を引き延ばして確認したのですが、押し寄せてくる魔物の本隊も、こちらの衛兵や守護者の主力部隊も正門辺りに集まっていたので間違いないでしょう。
「わかった! こっちは任せろー!」
「生き残ったら酌でもしてくれよ!」
息を吹き返した守護者の人たちに気を取られていると、フォレンティーヌさんは振り返らずに一度だけ手を振って、ベヒモスの方に向かってしまいました。
「あ、挨拶しそこねちゃった……。まぁでも、フォレンティーヌさんがベヒモスの方を引き受けてくれるなら、先にこっちを手伝おうか」
城壁にとりついているベヒモスの元に滑走するように向かっていく後ろ姿をちらりと眺め、僕は僕の仕事に取りかかる事にします。
でも、その時でした。
またも驚愕の声が聞こえてきたのです!
「な、何だアレは!?」
「あんな魔物見た事も聞いた事もないぞ!?」
また新手でしょうか?
あれ?? でも、みんなこっちを見てるような……。
「馬鹿な!? いつのまに後ろに回り込まれたんだ!?」
「鈍色の外皮に覆われた蜘蛛の魔物だと!?」
あっ……これって、鬼蜘蛛の事ですね……。
「違います! 敵じゃないです!!」
そう言って慌てて誤解を解こうとしたのですが……。
「なに!? 子供の声が聞こえるぞ!? どこだ!?」
「まさか!? 蜘蛛の魔物に捕まってるのか!?」
うん。理由が分かった気がします……。
僕は今も鬼蜘蛛の背に乗っているのですが、ち、小さいので……認めたくないですが、少し小さいので、下からだと隠れてしまって見えないようですね……。
僕は無言で鬼蜘蛛の上で立ち上がると、飛び跳ねながら何度も大きく手を振り、
「えっと……ここで~す。ここに子供がいますよ~」
守護者の人たちもようやく僕の姿に気付いてくれたようです。
「な!? 坊主! 魔物の上で何やってるんだ!?」
「今助けにいく! そのままじっとしていろ!! 気付かれるぞ!?」
あぁ……これは何とか誤解を解かないと、鬼蜘蛛が攻撃されちゃいそうですね。
たぶん攻撃されても平気だとは思いますが、何とか落ち着いて貰わないと。
「あの~! 大丈夫です! この蜘蛛は……そう! 新型のゴーレムなんです!!」
時と場合によってはやさしい嘘も必要だ……って本に書いていました。
意味と使いどころあってるかな?
「それがゴーレムだと!?」
この世界のゴーレム技術はかなり進んでいて、大小さまざまな形のゴーレムが存在します。
中でも戦闘用ゴーレムは街の守り神シグルスをはじめ、とても力を入れて開発されていますが、さすがに巨大な蜘蛛の形のものはありません。
しかし、今この人たちが驚いているのは、蜘蛛の形ではないでしょう。
この鬼蜘蛛がまるで生きているかのような滑らかな動きをしている事と、マット加工された見た事のない金属の質感が外皮に見えた事が原因だと思います。
「滑らかなのは僕の異能……じゃなくて、ギフトで動かしているからです!」
最近知ったこの世界の魔法の言葉……それは『ギフト』!
系統こそ新しいものはあまり発見されなくなってきていますが、未だに次々と新しいギフトが報告されているようですから、これでたぶん信じて貰えるでしょう。
そもそもこの世界のゴーレムと元居た世界の機甲はよく似ています。
それを異能の力で式神として使役しているので、そんなに遠くない嘘ですよね。
それに、こんな事で時間を消費している場合ではありません。
鬼蜘蛛に命じて氷の木の元まで移動すると、背から飛び降りて
「とにかく! 僕もこの鬼蜘蛛で協力させて貰います! 鬼蜘蛛! 前方の魔物を刈り取るんだ!」
そう言って指示を出すと、僕も戦線に加わります。
加わったのですが……その中で指揮を執っていた大柄な守護者のお兄さんが、
「ちょちょ!? ちょっと待て! 百歩譲ってゴーレムの事はわかった! でも、お前は後ろに下がってろよ!?」
何前に出て来てんだよ! って何か焦っています。
「あぁ、気にしないでどうぞ?」
「どうぞじゃねぇ!? 気になるわ!」
う~ん? 気にしなくて良いのになぁ?
どうして見ず知らずの僕の事をそんなに気にするんでしょうか?
今度図書館で調べてみようかな。
「ちょちょ!? お前! その剣と魔銃って訓練用のものじゃねぇのか!?」
「ちょちょ? そうですよ?」
あ、お兄さん、何が恥ずかしいのか顔が真っ赤です。
でも、何を驚いてるのかな?
本物の剣や魔銃は、守護者や衛兵しか所持する事を許されていませんからね。
「だから『そうですよ?』って、可愛らしく首傾げてるんじゃねぇよ!? そんな装備で魔物が倒せるわけねぇだろ!」
「ちょちょ? この剣は鈍器になりますし? ちょちょ? 魔銃は訓練用の者でも目に当てれば大概の生物にはダメージを与えられますよ?」
「『ちょちょ』はやめろー!? って、そうじゃなくて、そんな事出来るわけ……」
お兄さんが「出来るわけねぇだろ?」って話そうとしていた時でした。
第二の視界に猛スピードでこちらに突っ込んでくる魔物の姿が映ります。
「あ……ちょっと失礼しますね」
僕はそのお兄さんの会話を遮って魔銃を抜くと、お兄さんのいる方向に銃を向け……、
「ちょちょ!? こっち向けんじゃねぇよ! いくら訓練用でも保護結界もなしで当たれば怪我するん……あぶっ!?」
会話をスルーして魔銃を二発撃ち放ったのでした。
「おい! あぶねぇぞ!? 避けろ!!」
「え? だから危ねぇって坊主に注意を……」
「そうじゃねぇ! サギット! 後ろだーーー!!」
その叫びと同時に鳴り響く轟音。
そこには僕に両目を撃ちぬかれ、バランスを崩して墜落した大型の魔物の姿がありました。
「この坊主……グリフォンを撃ち落としやがった……」
あ、サギットさんって事は、さっきヘルハウンドから逃げ切ったんだ。
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