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【第37話:暁の羊たち】

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 僕は突然修練場に現れた予想外の人物に、混乱を深めながらも何とか声を発する事が出来ました。

「どうして……ま、マリアンナさん? どうしてこんなところに……?」

 何とか絞りだしたその問いに、しかしマリアンナさんは僕ではなく、視線をずらして僕の隣にいる人物に頷きを返します。

「それは俺が話そう」

 そう言って立ち上がったのはサギットさんです。

 その事に僕は大きく目を見開いて驚かされました。
 視線が向けられたのでサギットさんが何か知っているのだろうことは、すぐに想像がつきました。

 ですが、サギットさんはすっくとそう言ったのです。

 僕が『破壊の共鳴』で与えた傷が、擦り傷一つ残らない完全回復した状態で……。

 マリアンナさんは一言も祈りの言葉を捧げていません。
 つまりそれの意味するところは……。

「マリアンナさん、今のは……異能の力ですか?」

 僕の言葉ににっこりと微笑みながら頷くマリアンナさん。

「マリアンナさん、ダインにはもう全部話しても良いんですか?」

「そうね。もうここまで知ったのなら、全て伝えた方が誤解が無くて良いでしょう」

「わかりました。ダイン、もうある程度予想がついているかもしれねぇが、グリムベルの反抗勢力を束ねている一人がマリアンナさんだ」

 このタイミングで現れた事で、なんとなく想像はついていましたが、それでも僕は驚きを隠せませんでした。

「ダイン、騙すような形になってごめんなさいね。本当はダインが成人してから伝えるつもりだったのですけど、状況が動いてしまったようなので待てなくなってしまったの」

「別に騙していたわけじゃねぇでしょ。俺もこないだダインに出会うまではダインのこと知らなかったんだし、うまく本部の奴らから隠せていたと思いますよ?」

「そうね。上手く隠せていると思ったのですけど……まさかこのタイミングで、この街に向けてモンスターウェーブを発生させてくるとは思わなかったわ」

 会話が進んでいきますが、ちょっと僕はまだ話についていけていませんでした。

「ちょっと待ってください。マリアンナさんがグリムベルの反抗勢力のトップという事なんですか?」

「まぁトップと言うよりも相談役みたいな感じかしら? 私は戦闘能力は低いし、直接は何もしてないから」

「マリアンナさんは『癒しの瞳』以外に、『状況分析』の異能を持ってるからな」

 なるほど。だから相談役のような立場になっているのですね。

「そうするとフォレンティーヌさんに声をかけたのも?」

「そうね。彼女に直接声をかけたのは私じゃないんだけど、そう進言したのは私よ」

 進言? トップじゃないと言っていたし、本当のトップは他にいると言うことでしょうか?
 さっきも「束ねている」と言ってましたし。

「反抗勢力を束ねているのはサバロン、元シグルス第4席『深海のサバロン』よ」

 その名は僕も知っている名前でした。

「フォレンティーヌさんの前の……」

 たしか片腕を負傷したか失ったかと言っていた気がします。

「サバロンの奴が負傷したってのは本当だが、腕を失って引退したって噂は嘘だぜ。なんせ奴は元々隻腕だからな」

 そして負傷して引退と装ったのは、サバロンさん自身が身動きが取りやすいようにするためだと説明してくれました。

「あ、そうそう~。サギット、あなたに伝えておかないといけない事があるのよ」

「ん? 何ですか?」

「連絡遅くなったけど、フォレンティーヌはサバロンが匿っているわ」

「ちょちょ!? それを早く言ってくださいよ!! 俺、ダインと戦う必要なかったんじゃないですか!?」

「ふふふ。だって~、ダインの実力をちょっと見ておきたかったから?」

 その言葉にガックリとうな垂れるサギットさんは、こちらに視線を向けて乾いた笑いを浮かべます。

「ダイン、すまねぇな。お前は素性がわからないと聞いていたので、今回の件で疑っちまった」

 そして、あらためて僕に頭を下げるその姿に、僕はちょっと同情の視線を向けながら「気にしないでください」と笑って返しました。
 内心、本当になんでクラン名を「オヒトヨシ」にしなかったのかと思っていたのは内緒です。

「それより、フォレンティーヌさんが無事と言うことなら、僕も一安心です。良かった」

 もともと世界の裏で起こっている陰謀を暴こうとしたわけでもなければ、この世界の始まりの謎を解こうとしたわけでもありません。
 僕はフォレンティーヌさんの身を案じて探していただけなのですから。

 それがとんでもなく大きな、この世界の在り方に関するような秘密を聞かされることになるなんて思ってもみませんでした。

「それでね。ダイン。あらためてダインにお願いするわ。私たちグリムベルの反抗勢力『暁の羊たち』に協力してくれないかしら?」

 しかし、マリアンナさんがその事に関係しているなら話は別です。

「もちろんです。僕は孤児院のみんなを守るって誓いをたてましたから」

「あらあら。それを聞いたら、ローズもきっと喜ぶわ~」

 え? もしかして……。

「そうよ~。ローズも成人した時に話してあるわ~」

 まさかローズがこんな危険な事に関係しているとは思いもしませんでした。
 これはますます僕も協力して、みんなの安全を確保しないといけなさそうです。

「そうそう。あと、グリムベルの者ではないのですが、エロ爺……じゃなかったわ。エロナー校長も協力者なのよ?」

「マリアンナさん……エロナーじゃなくて、ワグナー校長ですよ……」

「まぁ! 私とした事が。ローズが最近そう呼ぶからうつっちゃったわ」

 この先、影でみんなからエロナー校長と呼ばれる姿が見えるようです……。
 僕は絶対にローズに嫌われないように気をつけよう。

「それでフォレンティーヌさんは無事なんですよね?」

「そうだ。マリアンナさん、フォレンティーヌは今どこにいるんだ?」

 僕とサギットさんがそう尋ねると、まるで今思い出したかのように胸の前でぱちんと手を叩き、

「その事でさっそくダインとサギットにお願いがあるのよ」

 そう言って、僕たちに順に目を向けます。

 それに対して、僕とサギットさんは視線を交わして頷きを返します。

「ありがとう。実はフォレンティーヌとサバロン、それから数名のこちらの手の者である物の破壊に向かったのだけど、邪魔が入っちゃってね」

 ん? 邪魔? 破壊? そもそもどこに向かったんでしょう??

「じゃぁ、さっそく向かってもらえるかしら? モンスターウェーブの中心地に」
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