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第一章
第33話 悪夢
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その男の名はゾック。
王国を代表するある部隊を預かる部隊長だ。
ベルジール王国には他国からも一目置かれる部隊が二つある。
一つは通称『王国の盾』。
正式名称、ベルジール王国近衛騎士団『セイント』。
セイントはあらゆる脅威から国を守り、王を守る王国最強の騎士団だ。
そして残るもう一つは、通称『王国の剣』。
正式名称は、特殊執行部隊『カタストロ』。
ゾックは、このカタストロを率いる部隊長だった。
そしてこのカタストロは、王国最強の部隊だ。
つまりそれは、騎士団も含め王国にあまた存在する多くの部隊の中で最強だということだ。
その数は三〇〇人ほどと少ないが、得意な遊撃ではなく、たとえ正面からセイントと戦ったとしても、うち破れるほどの強さを持っていた。
しかし、王国の剣という言葉は隣国にまで知れ渡っているにもかかわらず、そのカタストロという名を知るものの数は非常に少ない。
それはカタストロが国王直轄であり、表舞台にめったにでてこない部隊だからだ。
国王直轄ということは、その任務の内容を知るものが少ないということでもある。
そしてカタストロは、暗部としての役割も担っていた。
王国の法で対処できない場合の実力行使。
不穏な動きを見せる貴族の内偵捜査。
大規模な犯罪組織の殲滅。
他国の諜報部隊のかく乱。
その活躍は多肢に渡る。
まさに虎の子。
高位貴族ならさすがにその存在もカタストロという正式名称も知っていたが、その対象は強さへの尊敬ではなく畏怖。
そんな部隊が今は数時間前から北の大森林に潜んでいた。
今回カタストロに与えられた任務は、先日発見された森での大規模な破壊工作の調査。
小さな痕跡も見逃さないカタストロにとって、これほど大きな痕跡が残るものの調査はそれほど難しくなく、わずかな時間でとある人物まで辿り着いた。
先日ベルジール王国に現れた異邦人だ。
すべての状況証拠は異邦人が行ったことだと示していた。
ただ、この異常なまでに大規模な破壊工作を実行した方法がわからなかった。
これほど大規模に行われた破壊工作が意味することがわからなかった。
そこでカタストロを預かる部隊長ゾックは、ダミーの監視のものをつけて大まかな動きだけを抑えつつ油断を誘い、その間に大きな罠を準備した。
カタストロにとって実力行使は通常の選択肢のひとつだ。
だが、今回は相手が相手なだけに万全を期して実行に移すことにした。
カタストロは王国最精鋭の部隊。
ひとりひとりがずば抜けた能力を持っているが、それでも冒険者ギルドのギルドマスターと肩を並べるほどの強さを持つものは部隊長のゾックだけだ。
いくら模擬戦とはいえ、ギルドマスターが異邦人の召喚したたった一体の魔物に勝てなかったという情報を軽視するわけにはいかなかった。
だから、他の任務についていた小隊も任務を一時中断させてすべて動員した。
有利な陣をはり、待ち伏せする事にした。
すべてうまく行っていた。
順調だった。
さきほどまでは……。
「い、いったいなにが起こったのだ……」
予定通り、異邦人に気付かれずに包囲することには成功した。
こちらがまだ気配を消しているにもかかわらず、すぐさま包囲に気付いたことには驚かされたが、ここまでくれば作戦上はなにも問題はなかった。
あとはゾックが姿を現し、圧倒的に有利な状況で尋問すればそれで終わりだからだ。
いや……そのはずだった。
「俺は夢でも見ているのか……」
気付かれたのがわかってすぐ、ゾックは作戦を早めて行動に出た。
すぐさま指示を出した。
接近戦が得意なものが近くを囲み、続いて魔法が得意なもの、弓が得意なものが順に異邦人を取り囲んでいた。
理想的な包囲網を作り上げていた。
それなのに……。
配置についていたものたち全員の喉元に、背に、胸に……剣が突きつけられていた。
剣を抜く間もなく、詠唱する間もなく、弓をかまえる間もなく……。
一瞬の出来事だった。
周囲一帯が光に包まれた。
部下たちは何の光かわからなかったかもしれない。
しかし、ゾックだけはかろうじてその光がなんなのか、気付く事ができた。
でも、それがなんだというのだろう。
それがバカげた数の魔法陣が一瞬で出現した光だとわかったとして、いったいなんになる?
ゾックが全力で逃げて、それでも逃げ切れるかどうか。
そんな圧倒的な強さを秘めた魔物が現れた。
隊員すべてのもとに数体ずつ。
「これは悪夢か……」
ゾックだってそれが夢でないのはわかっている。
もちろん悪夢でもない。
これは現実だ。
絶対に逃げられない布陣をひいていた。
そのはずだった。
高位の異邦人とはいえ、供のものをいれてもたった二人相手に、王国最強と自負するカタストロ全戦力を動員したのだ。
部下からはやりすぎなのではと何度も具申された。
だけど、若い時からゾックを何度も救った直感が、全力でことにあたれと告げていたのでそれに従った。
それなのに……気付けば絶対に逃げられない状況に追い詰められたのはゾックたちカタストロの方だった。
「残念ながら夢じゃないんだ」
その時、ゾックに話しかけるものがいた。
「なっ!? だれだ!?」
ゾックだけは魔物に剣を突きつけられる前に、なんとか間合いだけは確保していた。
だが、自分を取り囲んでいたのは骸骨の姿をした騎士たちだったはずだ。
だから話しかけられたことに驚いた。
骸骨が喋ったのかと思い。
だが、振り返ってそこに人の姿を見つけてさらに驚くことになった。
遥か先で包囲していた二人の人物がいることに。
「だれだってことはないだろ? これだけの歓迎の準備をしていたんだ。招待客の名前ぐらいわかるだろ?」
「な、なぜここに……」
ゾックのその呟きに、異邦人は不敵な笑みでこたえた。
王国を代表するある部隊を預かる部隊長だ。
ベルジール王国には他国からも一目置かれる部隊が二つある。
一つは通称『王国の盾』。
正式名称、ベルジール王国近衛騎士団『セイント』。
セイントはあらゆる脅威から国を守り、王を守る王国最強の騎士団だ。
そして残るもう一つは、通称『王国の剣』。
正式名称は、特殊執行部隊『カタストロ』。
ゾックは、このカタストロを率いる部隊長だった。
そしてこのカタストロは、王国最強の部隊だ。
つまりそれは、騎士団も含め王国にあまた存在する多くの部隊の中で最強だということだ。
その数は三〇〇人ほどと少ないが、得意な遊撃ではなく、たとえ正面からセイントと戦ったとしても、うち破れるほどの強さを持っていた。
しかし、王国の剣という言葉は隣国にまで知れ渡っているにもかかわらず、そのカタストロという名を知るものの数は非常に少ない。
それはカタストロが国王直轄であり、表舞台にめったにでてこない部隊だからだ。
国王直轄ということは、その任務の内容を知るものが少ないということでもある。
そしてカタストロは、暗部としての役割も担っていた。
王国の法で対処できない場合の実力行使。
不穏な動きを見せる貴族の内偵捜査。
大規模な犯罪組織の殲滅。
他国の諜報部隊のかく乱。
その活躍は多肢に渡る。
まさに虎の子。
高位貴族ならさすがにその存在もカタストロという正式名称も知っていたが、その対象は強さへの尊敬ではなく畏怖。
そんな部隊が今は数時間前から北の大森林に潜んでいた。
今回カタストロに与えられた任務は、先日発見された森での大規模な破壊工作の調査。
小さな痕跡も見逃さないカタストロにとって、これほど大きな痕跡が残るものの調査はそれほど難しくなく、わずかな時間でとある人物まで辿り着いた。
先日ベルジール王国に現れた異邦人だ。
すべての状況証拠は異邦人が行ったことだと示していた。
ただ、この異常なまでに大規模な破壊工作を実行した方法がわからなかった。
これほど大規模に行われた破壊工作が意味することがわからなかった。
そこでカタストロを預かる部隊長ゾックは、ダミーの監視のものをつけて大まかな動きだけを抑えつつ油断を誘い、その間に大きな罠を準備した。
カタストロにとって実力行使は通常の選択肢のひとつだ。
だが、今回は相手が相手なだけに万全を期して実行に移すことにした。
カタストロは王国最精鋭の部隊。
ひとりひとりがずば抜けた能力を持っているが、それでも冒険者ギルドのギルドマスターと肩を並べるほどの強さを持つものは部隊長のゾックだけだ。
いくら模擬戦とはいえ、ギルドマスターが異邦人の召喚したたった一体の魔物に勝てなかったという情報を軽視するわけにはいかなかった。
だから、他の任務についていた小隊も任務を一時中断させてすべて動員した。
有利な陣をはり、待ち伏せする事にした。
すべてうまく行っていた。
順調だった。
さきほどまでは……。
「い、いったいなにが起こったのだ……」
予定通り、異邦人に気付かれずに包囲することには成功した。
こちらがまだ気配を消しているにもかかわらず、すぐさま包囲に気付いたことには驚かされたが、ここまでくれば作戦上はなにも問題はなかった。
あとはゾックが姿を現し、圧倒的に有利な状況で尋問すればそれで終わりだからだ。
いや……そのはずだった。
「俺は夢でも見ているのか……」
気付かれたのがわかってすぐ、ゾックは作戦を早めて行動に出た。
すぐさま指示を出した。
接近戦が得意なものが近くを囲み、続いて魔法が得意なもの、弓が得意なものが順に異邦人を取り囲んでいた。
理想的な包囲網を作り上げていた。
それなのに……。
配置についていたものたち全員の喉元に、背に、胸に……剣が突きつけられていた。
剣を抜く間もなく、詠唱する間もなく、弓をかまえる間もなく……。
一瞬の出来事だった。
周囲一帯が光に包まれた。
部下たちは何の光かわからなかったかもしれない。
しかし、ゾックだけはかろうじてその光がなんなのか、気付く事ができた。
でも、それがなんだというのだろう。
それがバカげた数の魔法陣が一瞬で出現した光だとわかったとして、いったいなんになる?
ゾックが全力で逃げて、それでも逃げ切れるかどうか。
そんな圧倒的な強さを秘めた魔物が現れた。
隊員すべてのもとに数体ずつ。
「これは悪夢か……」
ゾックだってそれが夢でないのはわかっている。
もちろん悪夢でもない。
これは現実だ。
絶対に逃げられない布陣をひいていた。
そのはずだった。
高位の異邦人とはいえ、供のものをいれてもたった二人相手に、王国最強と自負するカタストロ全戦力を動員したのだ。
部下からはやりすぎなのではと何度も具申された。
だけど、若い時からゾックを何度も救った直感が、全力でことにあたれと告げていたのでそれに従った。
それなのに……気付けば絶対に逃げられない状況に追い詰められたのはゾックたちカタストロの方だった。
「残念ながら夢じゃないんだ」
その時、ゾックに話しかけるものがいた。
「なっ!? だれだ!?」
ゾックだけは魔物に剣を突きつけられる前に、なんとか間合いだけは確保していた。
だが、自分を取り囲んでいたのは骸骨の姿をした騎士たちだったはずだ。
だから話しかけられたことに驚いた。
骸骨が喋ったのかと思い。
だが、振り返ってそこに人の姿を見つけてさらに驚くことになった。
遥か先で包囲していた二人の人物がいることに。
「だれだってことはないだろ? これだけの歓迎の準備をしていたんだ。招待客の名前ぐらいわかるだろ?」
「な、なぜここに……」
ゾックのその呟きに、異邦人は不敵な笑みでこたえた。
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