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第一章
第37話 宰相
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ゾックたち王国の剣、特殊執行部隊『カタストロ』との邂逅から数日後。
オレは王城のとある一室にいた。
もちろんキューレも一緒だ。
ゾックとの話の様子から大丈夫だとは思っているが、危険分子と判断されて敵対的な行動をとられないとも限らない。
だから、あれからは特に身の安全には気を付けていた。
今はさすがに送還しているが、普段はキューレ以外にもヘルキャットを一匹呼び出し、常に周囲の警戒にあたらせている。
ああ見えてヘルキャットは捕食者として見破る能力が非常に高く、ゲーム時代からよくキューレと共に呼び出していた。
「しかし……またこの部屋に来ることになるとはな……」
以前ミンティスの件で王城に訪れた際には、もう二度と来ることはないかもしれないと思っていたのだが、またあまり間も明けずに来ることになってしまった。
今いる部屋。
それは、以前王城の来賓用の部屋に泊まった翌日に朝食をとったあの部屋だ。
そこでオレは待っていた。
誰を?
もちろんベルジール王国国王のバリアダ・フォン・ベルジール様をだ……。
などと、考えていたら来られたようだ。
廊下を歩いてこちらに向かってくる数人の気配を感じる。
そうそう。オレもこの世界に来てから、気配とかいうあいまいなものを感じる事ができるようになった。
まだ足音も何も聞こえないのにこちらに向かってくるのがわかるのだから不思議なものだ。
それから十数秒後。
ようやく部屋の扉が開かれた。
真ん中に国王様を据えて、その側には見覚えのない顔が並んでいる。
いかにも仕事ができそうな感じの壮年の男性と国王様の面影が見える若い男性だ。
他にも近衛騎士が護衛についていたが、今は部屋の外、扉の前で待っている。
「いや、待たせて悪い。こう見えていろいろ忙しい身でな。しかし、このように早くまた会うことになるとは思わなかったぞ」
こう見えてもなにも忙しそうに思うのだが、この世界の国王様がどんなことをしているか知らないからな。
オレは表情を真面目なものに切り替え立ち上がると、後ろに立つキューレと共に、ガンズに教えて貰った王国式の挨拶を披露する。
「お忙しい中、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。ふたたびお会い出来て光栄です」
「ははは、見事なものだ。しかし、そう畏まらなくていいし言葉遣いもここでは気にしなくて良い」
そして、これから友好な関係を結ぼうとしているのだからなどと言葉をつづけた。
しかし、こう言われたからといって、はいそうですかと従う事ができるわけもない。
前回は王族だけの食事という形だったし、オレもこの世界の礼儀などは知らないので出来るだけ当たり障りのない会話で誤魔化していたが、今回はそういうわけにもいかないだろう。
まぁ多少失礼な物言いになってしまった場合のことを考えて気を使ってくれたと考え、できるだけ丁寧に話すように心がけよう。
「ありがとうございます。それで今回は顔合わせと聞きましたが……」
今回オレが王城に訪れたのは、冒険者ギルド経由で呼び出しを受けたからだ。
いくら異邦人が貴族相当の扱いを受けていると言っても、さすがに国王様の呼び出しを断るわけにもいかない。
「まぁ座ってくれ。それで顔合わせの件だが……表向きはそうなのだが、うちの宰相がどうしても話に加わりたいというのでな。リセント」
国王様の斜め後ろで控えるように立っていた壮年の男性はこの国の宰相らしい。
宰相ってことは、この国で実質二番目に偉い人だったか?
まったく……次から次へと胃が痛くなるな。
「はっ。それではわたくしの方から話させて頂きますが、その前にいくつか質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、質問してくれてかまわない」
異邦人はこの世界ではかなり特別な存在と認識されており、国王様以外には特に下手に出る必要はないと言われている。
しかし、その階級制度から外れた異質な存在をよく思わない人たちも当然いる。
オレの言葉遣いに一層目つきが厳しくなった宰相もその類の人のようだ。
できるだけゲーム時代にNPCと接していたようなラフな言葉遣いにしているのだが、今目の前で話している相手は生身の人間だ。
立場に合わせた話し方をしたからと言って、どう反応し、どう感じるかはその人次第。
気を付ける事にしよう。
そう思うとちょっと緊張してきたな。
慣れるしかないのだろうが、戦闘はともかくこういうことはちょっと苦手だ。
「まず、先日の北の大森林の大規模な破壊について確認をさせていただきたい」
うん、避けて通る事のできない話だよな……。
「あれは……オレの召喚した魔物があらたな究極戦技を覚えたんだが、ちょっと試してみたら……ああなった」
「なっ!? ちょっと試してみただけ!? そんな馬鹿な!? あれほどの威力のなにか、相当な準備をしないとできるわけがない!!」
「そう言われてもな……」
「あはははは! 試してみたらああなったか!」
国王様の前には報告書のようなものが広げられ、そこには写実的に描かれた破壊後の森の絵がちらりと見えた。
「はい。まさかここまでの威力だとは思わず……」
「あはははは! そうかそうか」
「陛下! 笑い事ではありません!」
「あぁ、笑い事ではないぞ? リセントよ。お主こそこれがどういうことかわかっておるのか?」
さっきまでの少しふざけた態度から一変。
急に真面目な表情をみせて語り掛ける国王様のその姿に、宰相のリセントが怯む。
「と、おっしゃられますと……」
「リセントよ。お主、頭はいいのに常識にとらわれ過ぎておる。レスカは試し打ちをしたと言ったのだぞ? まさかここまでの威力だとは思わずとも」
「は、はい」
「つまり、たった一発の戦技でこの惨状を作り出したということだ」
あ……みすったかもしれない……。
オレは王城のとある一室にいた。
もちろんキューレも一緒だ。
ゾックとの話の様子から大丈夫だとは思っているが、危険分子と判断されて敵対的な行動をとられないとも限らない。
だから、あれからは特に身の安全には気を付けていた。
今はさすがに送還しているが、普段はキューレ以外にもヘルキャットを一匹呼び出し、常に周囲の警戒にあたらせている。
ああ見えてヘルキャットは捕食者として見破る能力が非常に高く、ゲーム時代からよくキューレと共に呼び出していた。
「しかし……またこの部屋に来ることになるとはな……」
以前ミンティスの件で王城に訪れた際には、もう二度と来ることはないかもしれないと思っていたのだが、またあまり間も明けずに来ることになってしまった。
今いる部屋。
それは、以前王城の来賓用の部屋に泊まった翌日に朝食をとったあの部屋だ。
そこでオレは待っていた。
誰を?
もちろんベルジール王国国王のバリアダ・フォン・ベルジール様をだ……。
などと、考えていたら来られたようだ。
廊下を歩いてこちらに向かってくる数人の気配を感じる。
そうそう。オレもこの世界に来てから、気配とかいうあいまいなものを感じる事ができるようになった。
まだ足音も何も聞こえないのにこちらに向かってくるのがわかるのだから不思議なものだ。
それから十数秒後。
ようやく部屋の扉が開かれた。
真ん中に国王様を据えて、その側には見覚えのない顔が並んでいる。
いかにも仕事ができそうな感じの壮年の男性と国王様の面影が見える若い男性だ。
他にも近衛騎士が護衛についていたが、今は部屋の外、扉の前で待っている。
「いや、待たせて悪い。こう見えていろいろ忙しい身でな。しかし、このように早くまた会うことになるとは思わなかったぞ」
こう見えてもなにも忙しそうに思うのだが、この世界の国王様がどんなことをしているか知らないからな。
オレは表情を真面目なものに切り替え立ち上がると、後ろに立つキューレと共に、ガンズに教えて貰った王国式の挨拶を披露する。
「お忙しい中、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。ふたたびお会い出来て光栄です」
「ははは、見事なものだ。しかし、そう畏まらなくていいし言葉遣いもここでは気にしなくて良い」
そして、これから友好な関係を結ぼうとしているのだからなどと言葉をつづけた。
しかし、こう言われたからといって、はいそうですかと従う事ができるわけもない。
前回は王族だけの食事という形だったし、オレもこの世界の礼儀などは知らないので出来るだけ当たり障りのない会話で誤魔化していたが、今回はそういうわけにもいかないだろう。
まぁ多少失礼な物言いになってしまった場合のことを考えて気を使ってくれたと考え、できるだけ丁寧に話すように心がけよう。
「ありがとうございます。それで今回は顔合わせと聞きましたが……」
今回オレが王城に訪れたのは、冒険者ギルド経由で呼び出しを受けたからだ。
いくら異邦人が貴族相当の扱いを受けていると言っても、さすがに国王様の呼び出しを断るわけにもいかない。
「まぁ座ってくれ。それで顔合わせの件だが……表向きはそうなのだが、うちの宰相がどうしても話に加わりたいというのでな。リセント」
国王様の斜め後ろで控えるように立っていた壮年の男性はこの国の宰相らしい。
宰相ってことは、この国で実質二番目に偉い人だったか?
まったく……次から次へと胃が痛くなるな。
「はっ。それではわたくしの方から話させて頂きますが、その前にいくつか質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、質問してくれてかまわない」
異邦人はこの世界ではかなり特別な存在と認識されており、国王様以外には特に下手に出る必要はないと言われている。
しかし、その階級制度から外れた異質な存在をよく思わない人たちも当然いる。
オレの言葉遣いに一層目つきが厳しくなった宰相もその類の人のようだ。
できるだけゲーム時代にNPCと接していたようなラフな言葉遣いにしているのだが、今目の前で話している相手は生身の人間だ。
立場に合わせた話し方をしたからと言って、どう反応し、どう感じるかはその人次第。
気を付ける事にしよう。
そう思うとちょっと緊張してきたな。
慣れるしかないのだろうが、戦闘はともかくこういうことはちょっと苦手だ。
「まず、先日の北の大森林の大規模な破壊について確認をさせていただきたい」
うん、避けて通る事のできない話だよな……。
「あれは……オレの召喚した魔物があらたな究極戦技を覚えたんだが、ちょっと試してみたら……ああなった」
「なっ!? ちょっと試してみただけ!? そんな馬鹿な!? あれほどの威力のなにか、相当な準備をしないとできるわけがない!!」
「そう言われてもな……」
「あはははは! 試してみたらああなったか!」
国王様の前には報告書のようなものが広げられ、そこには写実的に描かれた破壊後の森の絵がちらりと見えた。
「はい。まさかここまでの威力だとは思わず……」
「あはははは! そうかそうか」
「陛下! 笑い事ではありません!」
「あぁ、笑い事ではないぞ? リセントよ。お主こそこれがどういうことかわかっておるのか?」
さっきまでの少しふざけた態度から一変。
急に真面目な表情をみせて語り掛ける国王様のその姿に、宰相のリセントが怯む。
「と、おっしゃられますと……」
「リセントよ。お主、頭はいいのに常識にとらわれ過ぎておる。レスカは試し打ちをしたと言ったのだぞ? まさかここまでの威力だとは思わずとも」
「は、はい」
「つまり、たった一発の戦技でこの惨状を作り出したということだ」
あ……みすったかもしれない……。
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