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第一章

第47話 違和感

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 さっきは透明化したピクシーバードだったから見つからなくて当然だったが、アダマンタイトナイトの集団が入口近くに突然出現したのにおかしくないか?

「キューレ、なにか召喚されたか?」

 さすがにもう何か召喚されているはずだ。
 そう思い尋ねたのだが……。

「いいえ。それがまだ……」

「なに? まだなにも現れていないのか?」

「祭壇が輝きだしたあと、そこから何も変化がありません」

「そうか……」

 なんだ……いくらなんでも遅すぎる。

 これが単にゲームと違い現実では時間がかかるとか、三〇〇年経つ間に時間がかかるような変化があったとかならいいんだが……さっきからこの胸騒ぎはなんだ。

 ゲームでは一度祭壇が輝きだすと、攻撃して破壊しても、儀式をおこなっているビアゾの奴らを倒しても、召喚を止める事はできなかった。

 だからおそらく、もう召喚自体を阻止する事はできないだろう。
 それならば今焦って介入するよりも、こちらも態勢を整えて挑む方が最善か。

 それにこれだけ時間がかかっているという事は、魔物にせよ魔神の眷属にせよ、召喚されるものはかなり強いかもしれない。
 なにが出てくるかわからないうちに祭壇の間にいくのは悪手だ。

「どうせもう召喚は阻止できないんだ。直接対決に入る前に態勢を整え、できれば召喚された魔物を確認してから仕掛けよう」

 ん~しかしどうする……?

 リナシーの妹たちを先に救出したいところだが、囚われている牢は儀式の間を経由しないと辿り着けない。

 とりあえず、今アジトに潜入しているこちらの戦力を整理しようか。

 まず、二つの入口付近にそれぞれ九体ずつのアダマンタイトナイト。
 そしてそれとは別に、牢で妹たちを守っているアダマンタイトナイトが一体。

 最後に、儀式を監視させているピクシーバードが一羽だ。

 この一羽は残しておく。
 召喚された魔物、もしくは魔神の眷属を確認して、アダマンタイトナイトで荷が重そうな相手だった場合にユニット交換でキューレに向かってもらうためだ。

 その場合オレの護衛が少し手薄になるが、今オレは王都一の高級宿の部屋の中にいるわけだし、ヘルキャットが一匹いれば十分安全は確保できるだろう。

 これから取る行動を整理していると、突然キューレが大きな声をあげた。

「主さま! 現れました!! 人型……魔神の眷属です!」

「ちっ……一番厄介なパターンだな」

 この世界に来てから出会う人も魔物も、ゲームで戦ってきた相手と比べると数段弱いのだが、今は人の命がかかっている。

 リナシーの妹たちももちろんだが、オレがここで下手をうてば王都の人たちにも大きな被害がでることが容易に想像できる。より慎重になるべきだ。

 だから確実に制圧できるユニットを送り込む。

 そして街中で周りの被害を押さえつつ戦うのであれば、やはりキューレが最善手だろう。

「キューレ、行ってくれるか?」

「もちろんです!」

 ユニットの中で一番長く一緒の時間を過ごし、一番信頼している相手だ。
 その返事を聞くだけでキューレなら大丈夫だという安堵を覚える。

「魔神の眷属を叩きのめし、すぐさまこの世界から退場してもらうことにしよう!」

「おまかせください! 必ずご期待にこたえてみせます!」

 キューレにはあらかじめビアゾの奴らは生け捕りにしたいという話はしているが、召喚した眷属は別だ。

 どうせ眷属は不死だ。
 この世界で殺しても時間が経てば復活する。

 だから遠慮する必要はまったくない!

「アダマンタイトナイトもそろそろ儀式の間に到着する! 準備はいいか?」

「はい! いつでも飛ばしてください!」

 ユニット交換を実行すれば、キューレは儀式の間のすぐそばに転送される。

 だから二つの入口近くに待機させていたアダマンタイトナイトたちは、召喚されたのが眷属とわかった段階ですでに儀式の間に向かわせていた。

「ではいくぞ! ユニット交換!」

 キューレは他のユニットと違って完全な自我があるので、口に出してコマンドを実行するタイミングを教えてやる。

【コマンド:ユニット交換】

 コマンドを実行した瞬間、キューレのいた場所に透明化したピクシーバードが現れた。

 つまりキューレは、もう儀式の間に通じる通路にいることになる。
 そして透明化の能力をもっていないキューレが突然現れれば……。

『なっ!? なんだお前は!? なにものだ!?』

 ユニット交換を実行した直後にピクシーバードを送還して召喚を解除し、ユニットビューはもうキューレの視界に切り替えている。もちろん音声も。

『油断するな! 少女だが武装している! 殺せ!!』

 そこには、突然現れた戦乙女美少女に驚き狼狽える魔神信仰ビアゾの奴らの姿が映し出されていた。

『司祭さま!! 騎士の集団がこちらに向かっています!!』

 アダマンタイトナイトが見つかったか。
 まぁあの巨体で鎧をガチャガチャ鳴らして移動していればすぐに見つかって当然なのだが。

 しかし、これでもうビアゾの奴らは完全に逃げ道を塞がれたはずだ。

「これで奴らはもうお終いだ」

 あとは制圧するのを待てば……そう思ったのだが、ユニットビューに見えた魔神の眷属の姿に違和感を覚えた。

「なんだ……この姿はまるで……はっ!? ネームプレートが表示されている!? やはりプレイヤーじゃないか!?」

「え? レスカ様? いったいどうされたのですか?」

 リナシーがオレの様子がおかしいことに気付いて尋ねてくるが、答える余裕がなかった。

「いったいどういうことだ!? なぜ魔神信仰ビアゾ奴らの儀式でプレイヤーが召喚されるんだ!? ……ん!? アラートだと!? 今度はなんなんだよ!?」

 ただでさえ混乱しているというのに、今度は視界の隅でアラートが表示されているのに気付いた。

 王都の外に残していたピクシーバードからか?

 オレはピクシーバードに、一定レベル以上の脅威を発見すればアラートを表示するように設定していた。

 おそらくその条件にひっかかる何かが起こったか、現れたのだろう。
 すぐにそう理解して、素早くそのピクシーバードのユニットビューに切り替えたのだが……。

「な……なんだこの魔物の大群は……」

 そこには、まるで北の大森林そのものが動き出したかと見まがうような、数えきれないほどの魔物が映し出されていたのだった。
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