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【第9話:思ってたのと違う】

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「いったい何が起こったんだ……?」

 違う意味で何が起こったんだと思った事は何度かあったが、今回ばかりは本当に何が起こったのかわからなかった。

 カイザーウルフが、キラキラと光る何かと交差した瞬間、その巨体が崩れ去るように霧散したのだ。

「ばうっ!」

「うわぁぁ!?」

 理解が追い付かず、思わず考え込んでいると、いつの間にか足元にやってきたパズが、驚かすのを成功してしてやったりといった顔でこちらを見上げていた。

 ちっちゃな胸を張って自慢げにしている気がする……。

 周りを見ると、さっきまでオレに猛攻をかけていた筋肉マッチョな四匹が、お腹を向けて服従のポーズをしているし、先にパズに今のは何だったのか聞いてみる事にした。

「あ、あれは、何をやったんだ? 倒したんだよな?」

「ばぅ~? ばぅわぅ~?」

 え~? 教えて欲しい~? だと……。
 なんでこいつ、こんな人間味に溢れてるんだ……。

「お、教えてくれ……もったいぶらずにさ」

 ペジーはもっと普通にチワワっぽい可愛さに溢れていたんだがな~。

 そんな事を考えていると、突然、指に噛みつかれた!

「あいたたた!?」

 絶妙にちょっと痛い程度の力加減、これも甘噛みと言うのか? そんな噛み方なのにオレの右手の人差し指に噛みついて落ちないようにぶら下がっている器用さはなんだ……。

「いててて!? お前はスッポンかっ!?」

 腕をぶんぶん振っても絶妙な噛み加減で離れない……。
 というか、こいつペジーと比べられたことを怒ってるんだろうか?

「わ、悪かったって! パズはパズだよなっ!」

 オレがそう言って謝ると、今度は呆気なく離してくれた。

「ばぅ!」

「そ、そうか、何となく感情みたいなものを読み取れるのか……。いや、今回のは本当にオレが悪かった。すまない」

 傍から見たらチワワに誠心誠意謝る変な奴に見えるかもしれないが、本気で悪いと思ったのだ。

「ばうばう」

 うんうん。許してやる。と言ってくれた。

「悪かったな……それで、さっきのは結局何だったんだ?」

「ばぅ~♪」

 どうしようかな~♪ だと……。

「ばぅ?」

「あぁあぁ! 聞きたいから、さっさと教えてくれ!」

 この後、パズからさっきいったい何が起こったのかを聞かせて貰うまで、五分ほどかかった。

 ◆

「す、凄いな……絶対零度を超える冷気って……」

 異世界だからこその力と言うべきか。

 さっきのキラキラ光って見えたものは特殊な氷の結晶で、莫大な魔力を込める事で、物に触れた瞬間、それを絶対零度を遥かに超える冷気で完全に凍らせてしまう恐ろしい魔法らしい。

 その上で、一粒一粒が魔力によって途轍もない質量と硬度を持っているらしく、正面からぶつかるだけでも凄まじい破壊力があるそうだ。

 しかし、絶対零度の絶対の立場がないな……これも異世界ファンタジーという事なのだろうけど……。
 そもそも前世の常識や科学など通用しない世界なのだから、あまり深く考えても意味はないか。

 とにかくカイザーウルフは、そんな極大魔法とでも呼べる魔法を正面から喰らったので、一瞬で全身を凍らされたあげく、無数の氷の結晶に貫かれ、粉微塵に破壊されたという事だった。

「ばぅぅ……」

 ただ、そのせいで失敗したと何故か反省するパズ。

「何言ってるんだ。鵺の時は足手纏いにならないために止めを譲って貰ったが、パズが倒したんだから、止めもパズが刺せばいいんだよ」

「ばぅぅ?」

「ははは。ボスの魔晶石なんて持ってったら大騒ぎになるだけだし、お金はもうここまでの戦いだけでも、当面遊べるほどは稼いだし、そっちも気にするな」

 普通、魔晶石は相当な硬度を誇っており、稀に割れる事はあっても、欠片も残らないなんて聞いた事もない。
 だけど、さすがにさっきのパズの極大魔法の前には、呆気なく砕け散ったようだ。

「まぁそれは良いんだが……どうするべきか……」

 オレ達の周りには、未だにお腹を見せ、服従のポーズを決めているウォリアードッグたちがいる。
 パズがいれば倒してしまうことは簡単だろうが、ここまで屈服されると、魔物とは言え、さすがにちょっと殺すのは忍びない……。

「オレの職業クラスじゃぁ、魔物とは契約できないしなぁ」

 パズにオレの職業クラス『獣使い』について聞いてみたが、やはり見た目や名前は犬でも、魔物であるウォリアードッグとは主従契約は結べなかった。

 かと言って、人を襲う魔物、しかもホブゴブリンよりも遥かに強い魔物を、このまま放置していくのは冒険者規定に反する。

 冒険者規定には、
『魔物を確実に倒す機会があるならば、魔物に手心を加えてはならない』
 とあるのだ。

 だから、どうしたものかと悩んでいると、

「ばぅわぅ!」

 パズがとんでもない事を言い出した。

「え……? パズの舎弟にするだって?」

「ばぅ♪」

 パズはこの世界の分類上は、獣であり、動物なのだが、格が霊獣並みに高いらしく、眷属を持つことができるらしい。

「霊獣並みの格って……勇者どころじゃないだろ……」

 前世の創作物の話ではなく、この世界にも勇者召喚というものが存在しており、この国でも、過去に国難を乗り越えるため、莫大な供物と儀式魔法によって、勇者が呼び出されたことがあるらしいのだが、ここまで規格外なものではなかったはずだ。

「ばぅぅ?」

「あ、いや……そんな上目遣いでお願いされてもだな……」

 そもそも、チワワのくせに三白眼で目つきが悪いので、上目遣いの効果が薄いのだが……あ、指をじっと見られているので、これ以上は考えないでおこう……。

「ちなみに眷属にしたとして、こいつらの面倒はどうするんだ?」

「ばぅ!」

「え? 眷属って普段は消しておくことができるのか?」

 そう言えば、カイザーウルフも何か特殊な咆哮をあげて、突然こいつらを呼び出していたことを思い出す。

「ん~……眷属にしたら勝手に人を襲わないようにできるか?」

 その後、いくつか質問をしてみたが、こいつらをパズの眷属にしても問題なさそうだったので許可を出す事にした。

「それで、眷属化ってどうやるんだ?」

 オレがそう尋ねると、パズはウォリアードッグの元へと歩いていき、鼻をかぷっと噛んで回った。

「……なんか思ってたのと違う……」

 眷属化の手順が、思ってたのとはだいぶん違ったが、こうして四匹の眷属が仲間に加わったのだった。
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