異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

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【第11話:(人)】

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 ボスのいなくなったボス部屋で一晩を明かしたオレ達は、迷宮脱出に向けて森型ダンジョンの出口に向かって歩いていた。

 寝る前にパズが、ボス部屋の周りを氷の結界で囲ったので少し寒かったが、おかげで安心してぐっすりと眠る事が出来た。

「しっかり寝て体力も回復したし、今日こそこのダンジョンからおさらばしよう」

 今回はウォリアードッグの四匹が案内役を買って出てくれているので大丈夫だろう。
 仮にも迷宮の主の元眷属だ。さすがに迷う事はないだろう。

 迷わないよな……?

「ばぅぅ~……」

 なんかジト目で見られている気がする。
 パズは今、オレの頭の上で「ぐだ~」ってなってるので、その姿は見えないけど……。

「ばぅ?」

「ん? これからどうするのかって?」

 パズに質問されて、あらためて考えてみた。

 まず、パズが迷宮の主である『カイザーウルフ』を倒してしまった件だが、これはすぐにどうこうなるものではない。

 ダンジョンは迷宮の主が倒されても、数年は魔物の沸きはあまり変わらず、一〇年ほど経ってから徐々に普通の森へと戻っていく。
 だから、今回オレ達が迷宮の主を倒したからと言って、すぐさまダンジョン化が解けるわけではない。

 そしてボス部屋には迷宮の主ではないが、通常のボスがわくようになる。
 だから、そのうちどこかのパーティーが通常のボスを倒して、迷宮の主を倒したと報告してくれるだろう。

 変な注目を浴びるのも嫌だし、迷宮の主の魔晶石も手に入れられなかったので、迷宮制覇の件は報告しないでおくか。
 絶対に話を信じない奴が証拠を出せとか言ってきて、揉めるのが目に見えている。

 うん。鵺の討伐と道中の魔物の戦果だけを報告する事にしよう。

 あと、もう今さら恨んだりギルドに訴えたりするつもりはないが、パーティーは正式に抜ける手続きをする。
 さすがにパーティーに戻って、あいつらと上手くやっていけるはずがないしな。

 暫くはパズとのんびりとダンジョンに通ったり、依頼をこなして、少しずつ冒険者ランクでも上げていこう。

 オレはこのあたりの考えをパズに話していった。

「そうだ。ちょっと気になっていたんだけど、パズは勇者召喚に巻き込まれたって言ってたが、この国で勇者召喚が行われたのか?」

 もしこの国が勇者召喚の儀式魔法を執り行っていたとすれば、この国に何らかの危機が迫っている事になる。
 そう考えると心配になってきたので、詳しく聞いてみる事にした。

 今はウォリアードッグたちが、道案内だけでなく、露払いもしてくれているので、暇だしな。
 魔晶石まで取り出してくれて、至れり尽くせりだ。

「ばぅぅ? ばぅわぅ!」

 しかし、パズから返ってきた答えは、思っていたのと少し違う答えだった。

「え? 勇者召喚って、この国が代々受け継いでいる異世界から勇者を召喚するって儀式魔法以外にもあるのか?」

 詳しく聞いてみると、パズはこの世界の名前を聞き忘れたとある神様の手によって行われた『勇者召喚』に巻き込まれたのだそうだ。召喚魔法ではないらしい。

 だけど勇者召喚と言えば、この世界では、この『パタ王国』で執り行う儀式魔法しか聞いた事が無かったので、まさか神様が執り行うものがあるとは思わなかった。

「ばぅ!!」

「えっ……国の勇者召喚って、神様が執り行う勇者召喚を真似た偽物なのかよ……」

 ここにきて、また驚きの事実。
 オレがこの世界で子供の頃から憧れていた、英雄譚の中の勇者は、儀式魔法によって呼び出された偽物の勇者だったらしい……。

「ばぅぅー!」

「職業クラスを無理やり『勇者』にして力を得ているって……」

 なんでも本当の勇者は、召喚された際に、様々な能力を付与された上で、職業クラスを『勇者』にして、この世界に送り出されるらしい。

 パズの場合は氷に関するある権能と呼ばれる能力を授かっているそうだ。

「え……という事は、パズ。お前の職業クラスも『勇者』なのか!?」

「ばぅわぅ!!」

「え……『勇者(犬)』って、無理やりだな……」

 初めてチワワを見た神様が、パズを大層気に入り、特別な職業クラスを創ってくれたそうだ。

 何やってるんだ神様……。

 まぁそれはともかく、職業クラス『勇者』には、前世の創作物でお馴染みの「異世界言語」「アイテムボックス」「ステータスアップ」などの基本能力詰め合わせが、ついているらしい。

 つまり、人の手によって召喚された勇者は、この勇者の基本能力詰め合わせだけで、パズの言う『権能』とかの神様に直接付与された力はないのだそうだ。

 ただ、それでも普通の職業クラスと比べれば、かなり凄い能力なのだろうけど。

「でも、それってこっちの世界の人間じゃぁダメなのか? 無理やり職業クラスを変えるとか?」

 わざわざ異世界から召喚した人間にそのような事をしなくてもと思ったのだが、神様でもない限り、一度ついた職業クラスは変えられないらしい。
 この世界で生まれた人間には必ず職業クラスが付与されているそうだし、だからわざわざ異世界人を召喚する事にしたようだ。

「ん? ちょっと待てよ……。パズの話の通りだとすると、神様が勇者召喚する時は、国ではなく、世界に危機が迫っている時って事にならないか?」

 この国が執り行う勇者召喚は、この国の上に立つ人間が、国が危機に陥ると判断した時に行うものだ。
 これはこれで大問題なのだが、神様が勇者召喚を行ったとなると、パズの話の通りだとすれば、世界に危機が迫っているという事になる。

「ばぅ~?」

「えぇぇ……まぁパズは確かに巻き込まれただけだし、責任はないんだろうけど……」

 それは一緒に呼び出された本物の『勇者(人)』がいるから、それに任せておけば良いと言うのはその通りかもしれないが、世界に迫っている危機と言うのが気になる。

 あっ、「(人)」はいらないのか……。
 思考が完全にパズに侵されているな……気をつけよう。

 しかし、本物の勇者か……いったいどんな奴なのだろう?

 前世では、ゲームやアニメ、小説を人並みに嗜んでいたし、この世界に生まれ変わってからの勇者への憧れもある。
 もし機会があるのなら、会ってみたいものだな。

「パズがこれだけ強いんだ。きっと人の勇者も凄いんだろうな」

「ばぅ~?」

 前世の記憶を得たからか、何かこう勇者という響きに憧れ以外にも強い興味がわき、思わずその姿を想像してしまう。

「「「「おん!」」」」

 そんな会話を続けていると、案内を務めてくれていた筋肉マッチョ犬……もといウォリアードッグの四匹が、森型ダンジョンの終わりを告げたのだった。
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