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【第16話:お人好し】
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「おい……てめぇ、わざとか?」
凄んだ男の声に、以前のオレだったら多少ビビってしまったかもしれない。
でも、今はダンジョンで多くの敵を倒して身体能力が大幅にアップしたし、何よりもオレの側にはパズがいる。
これほど心強い相棒はいない。
まぁ弱いままだったとしても、放っておけない状況ではあるが。
「なんのことですか? オレはこの宿に泊まろうとやってきた、ただの客に過ぎませんよ? あと、腹が減っていたのでありがたく譲って貰っただけです」
オレが目の笑ってない笑みを向け、平然とそう答えてやると、男の方が少し怯んだ。
何故か男が怯んだのを見てパズが得意げだが、たぶん、テーブルの上に飛び乗って、必死にメンチを切っているパズに怯んだのではないと思うぞ?
しかし、男は腹立たし気にこちらを睨むだけで、それ以上は何もしてこなかった。
恐らく、オレが冒険者だからだろう。
安物でボロボロながらも、いや、そこまで使い込んでいる革鎧だからこそ、曲がりなりにも冒険者なのだろうとすぐにわかったはずだ。
そして、この世界では魔物を倒す事によって身体能力が大きく向上するため、柄が悪いだけの連中など冒険者の相手ではない。
こいつらが冒険者崩れとかなら話は別だが、とてもそのようには見えなかった。
「……おい。行くぞ!」
やがて男はオレから視線を切ると、仲間の男に声をかけ、そのまま出ていった。
「ふぅ……」
実際にやり合えば、恐らく負けないだろう。
でも、勝てるとわかっていても、やはりちょっと怖かったので緊張した。
ホッとして大きく息を吐きだすぐらいは許して欲しい。
「あ、あの~……」
すると、どうしたら良いのかわからず立ち尽くしていた、この宿の女将だと思われる女性が、話しかけてきた。
「あ、はい?」
「すみません。お見苦しい所をお見せしてしまって……ありがとうございます」
「いえ。オレはお腹が空いていただけですから」
何だか少し照れくさくなって、そう言って誤魔化していると、
「お兄さん、ありがとう!!」
さっき案内してくれた子が椅子越しに抱きついてきた。
「ははは。良いって。それより、犬を連れて入ってしまって、すみません。外で待たせておいた方が良いかな?」
「いいえ! 気にしないで、そのまま食べてってください! リズ、この人があなたが案内してきた人だよね?」
「うん! 名前はパズって言うんだよ!」
いや……そこはオレの名前を言って欲しかったな……。
「そうかい。……あの、宜しかったら家で泊っていってください。その、お察しのように少し揉めている状況なので、パズさんがまだここに泊まりたければですが……」
どうやらパズって言うのが、オレの名前だと勘違いしたようだ……。
「えっと……パズさん、泊まりたいかって聞かれてるぞ?」
「ばぅぅ?」
「あっ!? ごめんなさい!? 私ったら!?」
なかなかお茶目な女将さんのようだ。
まだ二十代半ばだろうか? ちょっと天然の入った愛嬌のある人だった。
「ははは。気にしないでください。オレはユウトって言います」
「ゆ、ユウトさんですね。私はリズの母で、この宿『赤い狐亭』の女将を務めさせて頂いている『ダリアナ』と申します」
「はい。でも、良いのですか? オレはパズと……この犬と一緒に泊まれる宿を探していたんですが?」
まぁ、好意は嬉しいが、無理に泊まらせて貰うのも悪いし、パズと一緒だと確認しておかないとな。
「はい! もちろんご一緒でかまいません! あの、この子にさっき聞いた時は、単に犬が一緒だとしか聞いてなかったもので……」
そして、恥ずかしそうに「こんな小さな行儀の良い子なら問題ありません」と、快く承諾してくれた。
ガラの悪い冒険者にマーキングする以外は行儀は良いだろうし、オレもありがたくこの宿に泊まらせて貰う事にした。
あ……後でテーブルを拭いとかないとな……。
◆
拭き掃除と食事を終えたあと、オレはさっきのチンピラ風の男の事を尋ねてみる事にした。
あいつらのせいで他に客もおらず、既に昼もだいぶん過ぎていたので、話をするぐらいは迷惑ではないだろう。
「実は……夫が隣町との行商をしているのですが、先日、ある荷物の運搬をお願いされまして。それで、夫は小遣い稼ぎになると気軽に受けたのですが……」
「運搬依頼ですか」
「はい。それが……夫が言うにはその依頼人に騙されたらしく、荷物が盗まれたと言いがかりを受けているそうです」
詳しく話を聞いてみると、ダリアナの夫は隣町専門で商売をしている行商人らしいのだが、宿に泊まった人物から荷物の運搬依頼を受けたものの、実際に荷物を届けようとしたら、いつの間にか中身が消えていたらしい。
しかし、隣街には馬車で半日で着くので途中で野営するわけでもなく、人と接触したこともなかったので、荷物の中身だけ取られるなんて考えられないそうだ。
箱の中身も依頼時に確認をしたそうなのだが……。
「あの人ったら、割れ物だから自分で梱包するというその依頼人に任せてしまったらしくて……」
「荷物を届けたら、商品が無くなっていたと?」
「はい。その場で夫の手で梱包を解かせたらしいです」
そして、今まで人の良さそうだった依頼人が態度を急変する。
荷物を紛失したのだから賠償をしろと、ここの宿の立ち退きを要求してきたそうだ。
どこにでもあるようなランプの魔道具で家の立ち退きとか、完全に言い掛かりだな。
「夫は弁償しようとしたのですが、急に、アレは代々家に伝わる家宝のランプの魔道具だから、せめてお店の権利でも譲って貰えないと釣り合わないと」
「どんなランプですか……」
この世界レムリアスには、魔法の力で動く魔道具と言われる多くの道具が存在するが、ランプの魔道具などは安く売られている。
もちろん魔道具の中には特殊な効果を持っており、恐ろしいほどの値が付くものも存在するが、ダリアナの夫が見たものは、普通に街中で売られている物と同じ見た目だったそうだ。
「もちろん夫は宿の権利など譲れないと断ったのですが、今度はあの人たちが毎日のように来るようになって……」
程度の低いやり方だが、チンピラ風の男が店に来て嫌がらせをするようになったことから、宿に来るお客は激減し、先の一件から強くも出れず、ほとほと困っているようだ。
力尽くで何かを強いてきているのなら話は単純なのだが、直接的な被害を受けておらず、話を聞いてみたものの、オレも良い案が浮かばなかった。
「ばぅ?」
「ん? 荷物の外箱は残ってるのかって?」
「え? 運ぶように頼まれた荷物ですか? たしか、空の箱なんているかって突き返されたとか言ってたので、たぶん残っているとは思いますが……」
「ばぅ!」
「えっと、その箱って見せて頂く事はできますか?」
ダリアの夫は、念のためにその荷物をどこかに落としていないか、隣町までの道を探しにいっているらしいが、箱は置いていっているはずだからと、奥から持ってきてもらった。
いや、旦那さん、この状況で道に荷物は落ちていないと思います……夫婦揃ってお人好しなんだろうな……。
「これですが……」
それは一辺三〇センチメートルほどの木箱だった。
オレはその木箱を受け取ると、パズの前に置いてやる。
「これで良かったのか?」
パズはオレの言葉にも答えず、珍しく真剣な顔で匂いを嗅ぎ始めた。
そして、ひとしきり匂いを嗅いだパズは、満足気な表情を浮かべると、目つきの悪い三白眼をオレに向けて、一吠えした。
「ばぅ!」
「え? そんな事ができるのか? 凄いじゃないか!」
「ばぅわぅ♪」
オレとパズが二人で盛り上がってるのを見て、不思議そうにしているリズとダリアだったが、オレの次の言葉を信じられないような顔で見つめていた。
「ちょっと明日、パズと一緒に黒幕のところから、その荷物を取り返してこようと思います」
凄んだ男の声に、以前のオレだったら多少ビビってしまったかもしれない。
でも、今はダンジョンで多くの敵を倒して身体能力が大幅にアップしたし、何よりもオレの側にはパズがいる。
これほど心強い相棒はいない。
まぁ弱いままだったとしても、放っておけない状況ではあるが。
「なんのことですか? オレはこの宿に泊まろうとやってきた、ただの客に過ぎませんよ? あと、腹が減っていたのでありがたく譲って貰っただけです」
オレが目の笑ってない笑みを向け、平然とそう答えてやると、男の方が少し怯んだ。
何故か男が怯んだのを見てパズが得意げだが、たぶん、テーブルの上に飛び乗って、必死にメンチを切っているパズに怯んだのではないと思うぞ?
しかし、男は腹立たし気にこちらを睨むだけで、それ以上は何もしてこなかった。
恐らく、オレが冒険者だからだろう。
安物でボロボロながらも、いや、そこまで使い込んでいる革鎧だからこそ、曲がりなりにも冒険者なのだろうとすぐにわかったはずだ。
そして、この世界では魔物を倒す事によって身体能力が大きく向上するため、柄が悪いだけの連中など冒険者の相手ではない。
こいつらが冒険者崩れとかなら話は別だが、とてもそのようには見えなかった。
「……おい。行くぞ!」
やがて男はオレから視線を切ると、仲間の男に声をかけ、そのまま出ていった。
「ふぅ……」
実際にやり合えば、恐らく負けないだろう。
でも、勝てるとわかっていても、やはりちょっと怖かったので緊張した。
ホッとして大きく息を吐きだすぐらいは許して欲しい。
「あ、あの~……」
すると、どうしたら良いのかわからず立ち尽くしていた、この宿の女将だと思われる女性が、話しかけてきた。
「あ、はい?」
「すみません。お見苦しい所をお見せしてしまって……ありがとうございます」
「いえ。オレはお腹が空いていただけですから」
何だか少し照れくさくなって、そう言って誤魔化していると、
「お兄さん、ありがとう!!」
さっき案内してくれた子が椅子越しに抱きついてきた。
「ははは。良いって。それより、犬を連れて入ってしまって、すみません。外で待たせておいた方が良いかな?」
「いいえ! 気にしないで、そのまま食べてってください! リズ、この人があなたが案内してきた人だよね?」
「うん! 名前はパズって言うんだよ!」
いや……そこはオレの名前を言って欲しかったな……。
「そうかい。……あの、宜しかったら家で泊っていってください。その、お察しのように少し揉めている状況なので、パズさんがまだここに泊まりたければですが……」
どうやらパズって言うのが、オレの名前だと勘違いしたようだ……。
「えっと……パズさん、泊まりたいかって聞かれてるぞ?」
「ばぅぅ?」
「あっ!? ごめんなさい!? 私ったら!?」
なかなかお茶目な女将さんのようだ。
まだ二十代半ばだろうか? ちょっと天然の入った愛嬌のある人だった。
「ははは。気にしないでください。オレはユウトって言います」
「ゆ、ユウトさんですね。私はリズの母で、この宿『赤い狐亭』の女将を務めさせて頂いている『ダリアナ』と申します」
「はい。でも、良いのですか? オレはパズと……この犬と一緒に泊まれる宿を探していたんですが?」
まぁ、好意は嬉しいが、無理に泊まらせて貰うのも悪いし、パズと一緒だと確認しておかないとな。
「はい! もちろんご一緒でかまいません! あの、この子にさっき聞いた時は、単に犬が一緒だとしか聞いてなかったもので……」
そして、恥ずかしそうに「こんな小さな行儀の良い子なら問題ありません」と、快く承諾してくれた。
ガラの悪い冒険者にマーキングする以外は行儀は良いだろうし、オレもありがたくこの宿に泊まらせて貰う事にした。
あ……後でテーブルを拭いとかないとな……。
◆
拭き掃除と食事を終えたあと、オレはさっきのチンピラ風の男の事を尋ねてみる事にした。
あいつらのせいで他に客もおらず、既に昼もだいぶん過ぎていたので、話をするぐらいは迷惑ではないだろう。
「実は……夫が隣町との行商をしているのですが、先日、ある荷物の運搬をお願いされまして。それで、夫は小遣い稼ぎになると気軽に受けたのですが……」
「運搬依頼ですか」
「はい。それが……夫が言うにはその依頼人に騙されたらしく、荷物が盗まれたと言いがかりを受けているそうです」
詳しく話を聞いてみると、ダリアナの夫は隣町専門で商売をしている行商人らしいのだが、宿に泊まった人物から荷物の運搬依頼を受けたものの、実際に荷物を届けようとしたら、いつの間にか中身が消えていたらしい。
しかし、隣街には馬車で半日で着くので途中で野営するわけでもなく、人と接触したこともなかったので、荷物の中身だけ取られるなんて考えられないそうだ。
箱の中身も依頼時に確認をしたそうなのだが……。
「あの人ったら、割れ物だから自分で梱包するというその依頼人に任せてしまったらしくて……」
「荷物を届けたら、商品が無くなっていたと?」
「はい。その場で夫の手で梱包を解かせたらしいです」
そして、今まで人の良さそうだった依頼人が態度を急変する。
荷物を紛失したのだから賠償をしろと、ここの宿の立ち退きを要求してきたそうだ。
どこにでもあるようなランプの魔道具で家の立ち退きとか、完全に言い掛かりだな。
「夫は弁償しようとしたのですが、急に、アレは代々家に伝わる家宝のランプの魔道具だから、せめてお店の権利でも譲って貰えないと釣り合わないと」
「どんなランプですか……」
この世界レムリアスには、魔法の力で動く魔道具と言われる多くの道具が存在するが、ランプの魔道具などは安く売られている。
もちろん魔道具の中には特殊な効果を持っており、恐ろしいほどの値が付くものも存在するが、ダリアナの夫が見たものは、普通に街中で売られている物と同じ見た目だったそうだ。
「もちろん夫は宿の権利など譲れないと断ったのですが、今度はあの人たちが毎日のように来るようになって……」
程度の低いやり方だが、チンピラ風の男が店に来て嫌がらせをするようになったことから、宿に来るお客は激減し、先の一件から強くも出れず、ほとほと困っているようだ。
力尽くで何かを強いてきているのなら話は単純なのだが、直接的な被害を受けておらず、話を聞いてみたものの、オレも良い案が浮かばなかった。
「ばぅ?」
「ん? 荷物の外箱は残ってるのかって?」
「え? 運ぶように頼まれた荷物ですか? たしか、空の箱なんているかって突き返されたとか言ってたので、たぶん残っているとは思いますが……」
「ばぅ!」
「えっと、その箱って見せて頂く事はできますか?」
ダリアの夫は、念のためにその荷物をどこかに落としていないか、隣町までの道を探しにいっているらしいが、箱は置いていっているはずだからと、奥から持ってきてもらった。
いや、旦那さん、この状況で道に荷物は落ちていないと思います……夫婦揃ってお人好しなんだろうな……。
「これですが……」
それは一辺三〇センチメートルほどの木箱だった。
オレはその木箱を受け取ると、パズの前に置いてやる。
「これで良かったのか?」
パズはオレの言葉にも答えず、珍しく真剣な顔で匂いを嗅ぎ始めた。
そして、ひとしきり匂いを嗅いだパズは、満足気な表情を浮かべると、目つきの悪い三白眼をオレに向けて、一吠えした。
「ばぅ!」
「え? そんな事ができるのか? 凄いじゃないか!」
「ばぅわぅ♪」
オレとパズが二人で盛り上がってるのを見て、不思議そうにしているリズとダリアだったが、オレの次の言葉を信じられないような顔で見つめていた。
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