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【第21話:やられた?】

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 ◆Side:双子の少女

 双子の姉妹、相楽サガラ美姫ミヒメ相楽サガラ桧七美ヒナミにとって、それは突然の出来事だった。

「あいたたた……い、いったい何なのよ……」

「いった~い……思いきり、お尻打っちゃったよ……」

「ばぅぅ……」

 突然のことに驚いて転んでしまい、身体を打ちつけた二人と一匹は、そこまで言葉を零してから周囲の異常に気が付いた。

「え……? なによこれ……」

「ちょ、ちょっと美姫、ここどこ……?」

 そこは、お日様のような暖かい光に包まれた何も無い世界。
 どこまでも続く地平線。
 地面は光の草のようなものが、風もないのにゆらゆらと揺れていた。

「ひひひひ桧七美!! わわわわ、私たち、もももももしかして死んじゃったのっ!?」

「ちょ、ちょっとぉ! そんな怖いこと言わないでよ!?」

 この時、桧七美の腕の中で、驚きと恐怖のあまりに身体を絞めつけられ、パズが「むぎゅ~」と目を回しているが、そんな事に気付く余裕は二人に無かった。

「どどどど、どうしよう!? どうしたら良い!?」

「ちょっと落ち着きなよ~。まずは状況をしっかり把握するのが先決だよ?」

 焦る美姫に対して意外と冷静な桧七美が、人差し指を立てて余裕の笑みを見せる。

「お、おぉぉ。桧七美って意外と冷静だよね! それで……どう?」

 どう? と聞かれて、改めて周囲を見回す桧七美。
 その場で一周ぐるりと回って辺りを確認する。

「・・・・・・」

 そして暫しの沈黙。

「・・・・・・・・・・・・」

 さらに沈黙。

「えへ♪ さっぱりわかんないね!」

 桧七美は意外と冷静だが、特別頭が切れるタイプでも無ければ、洞察力に優れているタイプでもなかった。

 そんなこんなで二人が慌てていると、突然どこかから眩しいほどの光が差し込んできた。

「「きゃぁ!?」」

 たまに双子らしくハモる二人。

『どうやら驚かせてしまったようですね。ですが、怖がる必要はありません。わたくしは「女神メイディア」。レムリアスを創造した神の一柱です』

 後光に照らされ現れたのは、異世界レムリアスの創造神の一柱。
 慈愛の女神メイディアだった。

「「え……きゃぁ!? やだぁーー!!」」

『いや。ですから、わたくしは……』

「「きゃぁーーー!! やーー!!」」

 女神メイディアは、荘厳なドレスに身を包み、人間とは別格の美しい容姿をしていたが……いかんせん、大きすぎた。

 普通の女子中学生が身の丈五メートルはある女性を見たら、驚くのは当然なのだが、レムリアスでは神は普通の人間の三倍の背丈があると伝わっているので、女神メイディアは、まさかここまで驚かれるとは思っていなかった。

『ちょ、ちょっと聞いて下さい。危害を加えるつまりはありませんから……』

 そこから逃亡劇の末、大人しくなったのは一〇分ほど後の事だった。

 ◆

「つまり、私たちが勇者候補で~……」

「……異世界の神様であるメイディア様に~……」

「「召喚されたって事ですよね?」」

 最後は声を揃えて首を左と右に傾げて尋ねる美姫と桧七美。

『はい。そう言う事ですね』

「「でも……私たちは元の世界に存在していると?」」

『はい。私は異世界のあなた方のヒトガタ・・・・を召喚しましたので、あなた達は既に元の世界のお二人とは別の存在となっています』

 女神メイディアが言う『ヒトガタ』とは、人を人たらしめているモノ。

 双子に対して行われた勇者召喚とは、つまり人そのものを召喚するのではなく、元の世界の存在を、その人としての定義を、こちらの世界の存在へとあてはめ、新たに創り上げた勇者創造とでも呼ぶべきものだった。

『あなたたちの世界の概念で言えば神の使徒と言った所でしょうか』

「あぁ、カミノシトねカミノシト……」

「美姫、絶対に『神の使徒』の意味わかってないよね?」

「う……よ、よくわかんないけど、つまり私たちはもう元の世界には帰れないって事だよね?」

「話を聞く限り、そんな感じみたいだね~……」

 そう言って言葉を途切れさせると、俯いてしまう桧七美。

「ひ、桧七美……私がついてるから何も心配なんていらないからね!」

『あなたたちには申し訳なく思っています。異世界での使徒として、そして勇者としての運命が嫌ならば、このまま記憶を消して転生す……』

「嫌なわけないです!! だって、夢にまで見た異世界召喚ですよ!? しかも、親にも迷惑かける事もなく、コッコの憂いもなく!!」

「な、なんか最後に鶏が登場した気がするわね……と言うか、桧七美は昔からラノベやアニメ大大大好きだったわね。心配して損したわ」

『異世界言語の技能がうまく訳せなくて、コッコの憂いがよくわかりませんが、構わないのですね? ミヒメさんも?』

 頑張れ異世界言語。

「両親と会えないのは寂しくなるけど、元々仕事でほとんど家にいなかったし、桧七美もパズもいるから大丈夫よ」

『そうですか。引き受けてくださり、ありがとうござ……パズとは何でしょう?』

 一瞬また異世界言語が上手く機能していないのかと心配になった女神メイディアだったが、

「ばぅわぅ♪」

 足元から聞こえる可愛らしい鳴き声に思考を中断する。

「あれ? もしかしてパズは予定に入って無かった?」

「ん~? 確かにアニメやラノベでも、勇者召喚で犬が呼ばれる事はないよね~?」

『・・・・・・』

「ん? 女神さま~?」

『・・・・・・・・・・・・』

「あれれ? パズ連れてるの不味かったです?」

 美しい美貌を少し歪ませ、目を見開いて硬直する女神メイディアに向けて、桧七美がパズの両脇を支えて良く見えるように掲げてみせた。

「ばぅ?」

 そして……やられた。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいい』

 何にやられたか?

『な! な! な! なんて可愛い生き物ですか!? こここここれは、犬の一種なのですか!? い、いえ、でも、犬と言えば厳つくて怖い感じの……』

 女神メイディアの管理する異世界レムリアスの犬と言えば、大きな魔物や獣しかおらず、このように小さい犬を見るのは初めてだった。

「ちょ、ちょっと女神さま落ち着いて!」

「あはは。女神さまがパズの可愛さにやられちゃった? 地球では最小の『チワワ』って言う犬種なんですよ~」

『ち、チワワと言うのですか……な、なんて可愛いらしい……』

 パズに首ったけの女神さまに苦笑いを浮かべる美姫と、パズの可愛さをわかって貰えて嬉しそうにする桧七美だったが、予定外の訪問という事に気付き、急にパズの事が心配になった。

「あ、あの!! 女神さま! パズも一緒で大丈夫なんですよね!?」

「だ、大丈夫ですよね……?」

『え? あ、そ、そうですね。えっと……』

「ばぅわぅ?」

『勿論大丈夫です!! わたくしに任せて下さい! 立派な勇者(犬)としての力を授けてあげますとも!!』

「え? 勇者かっこイヌって……」

「わぁい♪ パズも勇者だね♪」

 こうして美姫と桧七美は勇者として、パズは勇者(犬)として、異世界レムリアスの地へと旅立つことになったのだった。

「ばぅ?」

 それでいいのか? と言っている気がしますが、良いのでしょう。たぶん……。
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