異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

文字の大きさ
33 / 45

【第33話:ゲン】

しおりを挟む
 遺跡型ダンジョン『ルテカ』に通い始めてから五日が過ぎていた。

 レベル上げを目的とした攻略はいたって順調で、ミヒメとヒナミの二人はレベルをある程度あげる事に成功している。
 まだ高ランク冒険者と比べるとかなり低いレベルのようだが、職業クラス『勇者』の強力な補正のお陰か、もうその辺りの冒険者には負けない強さを手に入れていた。

 また、二人のように詳細なレベルなどがわからないオレも、感覚的な話ではあるが、確かに身体能力ステータスがあがっている事を実感していた。

 そして今オレたちの目の前には、小さなコロシアムのような建物が見えている。
 ここは、ダンジョン最深部である所謂ボス部屋と言われる空間だった。

「本当に挑戦するのか? オレたちの目的はレベルをあげて強くなる事なんだから、無理にボスに挑む必要もないんだぞ?」

 ここのダンジョンは既に攻略されているので、ボス部屋で待ち受けているのは『迷宮の主』ではなく通常のボスなのだが、それでもここまで倒してきたゴブリンやその亜種たちとは別格の強さを誇っているはずだ。

「ここまで来て何言ってるのよ?」

「強い敵とも戦っておかなくちゃ、いざって時に足元を掬われる~とか宿で話してたのは誰かな~?」

 う……宿で晩御飯を食べている時に「冒険者の心得とかないの?」とか聞かれて、つい知ったかぶりしてそんな事を言った気がする……。
 まぁ本当に冒険者として上を目指すのなら必要な事ではあるのだが、蒸し返されるとちょっと恥ずかしい。

 まぁ二人とも勇者なわけだし、これから格上や同格の敵とも戦う事が間違いなく訪れるだろう。
 その時、今のように準備万端で挑めるとは限らない。

 そう考えると、このタイミングで強い敵と戦っておくのも悪くないか。

「そうだな。強い敵との戦いも経験しておく必要もあるし、挑んでみるか」

「そうこなくっちゃ!」

「ここのボスは……」

 ミヒメが喜び、ヒナミがギルドで聞いたボスの情報を確認しようとしたその時だった。

「「「「がぅ!!」」」」

 オレたちから少し離れた場所で待機していたウォリアードッグたちが、突然、声をあげて駆け寄ってきた。

「えっ!? い、いったい何よ!?」

「わわっ⁉」

 見た目筋肉アレな四匹の魔物が突然駆け寄ってきたら、何事かとちょっとビビるのは当然か。
 しかし、今はそんなどうでも良い事に納得している場合ではない。

 職業クラス『獣使い』の能力で、その声が警戒を示している事がわかったオレは、ミヒメとヒナミの二人にもそれを伝える。

「気をつけろ! 何か来るぞ!」

「え? え? だから、いったい何よ!?」

「わわっ!? どうしたの?」

 オレが突然告げた警告に一瞬怯えた声をあげた二人だったが、すぐさま武器を構えて態勢を整えた。
 どうやら、この五日間の経験は無駄じゃなかったようだ。

「「「「がうぅぅ!」」」」

 ウォリアードッグたちの警戒の声が一層大きくなったその時、そこに現れたのは……魔物などではなく、三人の男たちだった。

「あれ~……ゲンさん、なんかもう警戒されちゃってるみたいだよ?」

「ゲン、こいつら俺たちの情報掴んでるじゃねぇのか?」

「おい、お前ら……名前を呼ぶなと言っておいただろうが……」

 パッと見は冒険者の恰好をしているが……あきらかにおかしい。

「お前たちはいったい何者だ?」

「え~? もしかしてバレてなかった? じゃぁ、冒険者ってことで!」

 揶揄うようにそう返した男の装備は、見るからに安物の新品だ。
 そしてそれは、その男だけではなく、三人が三人ともだ。

 そう。だから、確かに冒険者には見える。
 見えるのだが……その姿はまさしく駆け出し冒険者のそれだ。

 街で初心者向けに売っている安物の革鎧に、安物の丈夫な服。
 しかも、見るからに新品に見える。

「そんなまっさらな駆け出し冒険者装備で、たった三人で最深部にこれるって、あきらかに不自然だろ」

 いくらここが低ランク向けのダンジョンとは言え、ボス部屋前の最深部まで、装備に傷一つ付けることなく辿り着く事が出来るというのは、あまりにも不自然だ。

 まぁ、オレたちもここまで全く攻撃は喰らわずに来たのだが、ミヒメとヒナミは勇者だし、オレはパズと主従契約を結んだことにより身体能力ステータスを大きく向上させた上で、『トロリアの森』でレベルもそれなりにあげてから挑んでいる。

 そんな特殊なパーティーでもない限り、駆け出し冒険者の三人パーティーが、ここまで無傷で辿り着くなどありえなかった。

「そもそも、さっきからのその言動を聞いていて、疑わない馬鹿はいないだろう……」

「あらら。ゲン、やっぱダメみたいだぞ?」

「そもそも、冒険者風に見せようとか言いながら、ゲンが予算ケチるからじゃねぇのか?」

「だからお前ら、名前を呼ぶなと言っているんだ……」

 やはり例の教団からの刺客か何かか?
 こいつら、言動はふざけているが隙がない。かなりの手練れだ。

 それにしてもこのタイミングか……ボス部屋に挟まれる形になってしまって、逃げ場がないな。

「ゲンと言うのか。お前たちはいったい何者だ? オレたちに何の用だ?」

 こっちはウォリアードッグたちも含めて臨戦態勢を取っているというのに、武器すら手に取っていないので、さすがにいきなり斬りかかるわけにもいかず、まずは誰何した。

「あ、ゲン、名前覚えられちゃったみたいだぞ?」

「ゲン、責任取れよ?」

「お前らな……」

 会話だけを聞いているとゲンと呼ばれている奴以外は、全く緊張感もなく、本当にふざけているとしか思えなかったのだが……。

「ゲン、そうイラつくなよ? どうせ…………殺すんだからさ」

 その言葉を切っ掛けに、戦いは秒読み段階へと移行したのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...