哀歌-aika-【R-18】

鷹山みわ

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密着

密着-1-

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髪まで潮の香りがする。鼻歌を歌いながらシャワーで余分な海水を洗った。
あの時。足を下半身にあてた時、確かに膨張していた。
頬がまた緩んでしまう。
自分がこんなに体を求める女になるとは思わなかった。
……いや、あの世界にいた自分が仮初めだったのかもしれない。
兆候はあった。嫉妬深くて彼を困らせてしまったのも、苦しむのが嫌で逃げようと優しい世界に縋ったのも、本能が裏で操っていたからだ。今の自分が本当の私なんだ。
「剛史さん」
彼の名前を呼ぶだけで体が疼く。
シャワーを体にあてながら鏡を見つめる。
映る自分の体に沢山咲いている赤い花。思ったより数が多くて息を呑む。
消えそうな部分の近くに別の花、残すために彼が何度も唇を繋げていたのか。
「……」
恐る恐る背中を鏡に向ける。腹部や胸以上に花びらが舞っていた。
赤い花が満開に咲いている。何度も刻まれるように付けられた彼の証。しばらくは残り続けるだろう。
多分、最期の瞬間まで残っている。彼のものだったと、残して死ぬ事ができる。

――どうしよう

シャワーを止めて体をぎゅっと抱いた。顔が赤くなる。じわりと熱を帯びる。
視線をバスタブに向けた。湯船は張りっぱなしで髪の毛や垢が浮かんでいる。もうぬるくなっている。
昨日だったか一昨日だったか、この中で体を合わせた。
互いに濡れながら、剛史にタイルの壁に組み敷かれながら入れられて……

綺麗だ……そしてすごく嫌らしい……

悩ましげな声が耳に来る。耳たぶを噛まれた瞬間がフラッシュバックする。
体が熱くて堪らない。おかしくなる。

体を濡らしたまま、胡桃は慌てて浴室のドアを開けた。
もう一秒たりとも待てなかった。

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