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番外編②
【ルイ視点】13.強いお父さん
「おいっ、そこで何してる!」
父さんの叫び声が聞こえて、アンジュ王子と遊んでいた僕は、呼び止めるのも聞かずに走り出した。
王城の廊下を走っていくと、大柄な男の前に立ち、華奢な女を庇う父さんの姿が見えた。
「Ωを襲うな!この卑怯者!」
「お前こそなんだ…!」
父さんは一歩も怯まず、毅然と、その男と対峙している。
「お前!オメガを襲うなんて、最低だぞ…っ!」
「黙れ!」
男は腕を振り上げ、父さんに殴り掛かろうとした。父さんは怯むことなく、その男の懐に飛び込むと股間を蹴り上げる。
「が、がは…っ!」
男は股間を押さえて崩れ落ちた。父さんの完全勝利…!
「父さん!」
「ルイ…?!」
「かっこよかったよ!」
父さんの元に駆け寄ると、父さんは笑顔で僕をギュッと抱きしめてくれる。
その後、アンジュ王子とそのお付きの騎士たちがやってきて、男は連れて行かれた。
襲われた女が、父さんに涙ながらにお礼を言うのを誇らしく見ていると、彼女は別れ際、胸の中にいる僕に向かって微笑んだ。
「お父さん、すっごくかっこいいね」
「……!」
そう、父さんはかっこいい…!
誰よりも強い、自慢の僕のお父さんなんだ…!
父さんは城で働いて、1人で僕を育てている。
僕は父さんが働く間、『アンジュ王子殿下』の子守りを任されていた。その日も剣の稽古をした後、夕方にアンジュ王子に連れられて父さんを迎えにいった。
すると、なぜか父さんは昨日の大柄の男に手を握られていた…。
「父さん、危ないっ!」
さっきまでアンジュ王子と稽古していた、紙を丸めた剣で、僕は男の背中を刺した。
「こ、こら、ルイ…!」
「お前が、ニコラの息子か…?」
その男はアンジュ王子のように、父を呼び捨てで呼んだ。
と、言うことは僕たちより身分が高い、『貴族』なのだろう。
僕は父さんの息子で強いから、貴族だからって男を怖がったりしないが、父さんは僕を抱きしめて、その男からさっと引き離した。
「息子はまだ小さいので、何も分かっていません…!」
「ニコラの子供なら、私の子供でもある。そんなに怯えることはない…」
僕は何も分かってないなんてことは無い!
アンジュの子守りだって、いつも立派にやっているし、第一、僕はこんな男の子供じゃ無い!
それなのに、『私の子供』…って、どういうこと?
「それは先ほどお断りしました」
「強がるな…。まあ、そんな所が良いのだが…」
「強がってなどいません」
「ニコラ、昨日のは事故で、私も不本意だった。力尽くで止めてくれて、感謝しているくらいだ。そんな勇ましいニコラに、私は惚れてしまった」
「……」
「私の妻になれ。そうすれば、城の下働きなどやめて、遊んで暮らせるぞ?」
私の妻になれ…?
父さんが、アイツの『妻』に…?
『妻』ってお母さんのことだろ?父さんはお父さんだから、『妻』になんかなれないはずだ。
僕がその男をきっと睨むと、男は不敵な笑みを浮かべ、去っていった。
僕の胸は、なんだかむかむかした。
なぜ、女の人を襲って『事故』だと許されるんだ?その男がしかも、父さんを『妻』に……?
訳がわからない…。
家に帰って、父さんがつくったおいしいご飯を食べても、お風呂で温まっても、そのむかむかが、いつまでも取れない。
ベッドに入って、背中をトントンされると、途端に涙が溢れた。
「ルイ…?」
「あいつ、だいっきらい…!父さん、あいつの『妻』になんか、ならないで…!」
ぐすぐすと鼻を啜ると、父さんは笑って、涙を拭ってくれる。
「ならないよ!」
「ぜったい…?」
「うん」
「本当に?」
「本当。ルイが大人になるまでは、誰とも結婚しない!絶対…!」
父さんは約束の指切りをしてくれた。
そして抱きしめられて、体も心も温かくなり、僕は安心して眠りについた。
その時は子供だったから『大人になったら結婚するつもりなのか』とまでは、思い至らなかった。
15歳になると、αだからという理由だけで王立学校へ入学することになってしまった。
入学後、初めての夏休み初日、同級生数人が自宅を訪ねてくることになった。
その前日に自慢したがりの伯爵家の息子が自宅に俺たちを招いたのが発端だ。
その男は、俺をバカにしたかったのだろう。ルイの家にも行ってみたいと言ったのだ。招かれておいて招かない訳にもいかず、渋々承諾して、翌日彼らは俺の家を訪れた。
多分、俺の出自をバカにするつもりで…。
しかし、意気揚々とやって来た彼らは、父によってすっかり毒気を抜かれてしまった。
「なあ、お前の父上は、その、本当に『父』なのか…?」
「え…?」
その頃には、父が父であり俺を産んだΩであると理解していたが、表立ってその話を他人にしたことはなかった。
それなのになぜ、こいつが気付いたのか、嫌な胸騒ぎがした。
「本当だけど、何?」
「そ、そうなんだ…。その、すごく華奢でかわいらしいから、Ωなのかなって思ったんだ」
父は俺を産んでから今まで、ヒートを起こしたことはない。チョーカーもいらないほどフェロモンも薄い。それなのに、なぜ気付いたのだろうか…?
「あ、俺も思った!」
「だろ…?甘い匂いがするし…」
こいつらαは、血のつながっている俺とは違い、敏感に父さんのフェロモンを嗅ぎ分けたらしい……。俺は同級生たちを見て、ぞっとした。
「そうだよ。だから、もう帰った方がいいよ。君たち貴族はさ、婚約者もいるんだろう?何かあったら大変だから」
俺はそう言うと、二度と奴らを家に呼ばなかった。
しかし、ただ一人。
ライアン・リファーだけは違った。彼は父の事を俺に何も尋ねなかった。
彼はアンジュ王子の従兄弟であり、陛下の孫でもある。下位であるが王位継承権を持っているだけあって、常に紳士的な態度をしていた。
ーーだからすっかり、気を許してしまったのだ。
兄のようだ、なんて、思ってしまっていた。
父さんの叫び声が聞こえて、アンジュ王子と遊んでいた僕は、呼び止めるのも聞かずに走り出した。
王城の廊下を走っていくと、大柄な男の前に立ち、華奢な女を庇う父さんの姿が見えた。
「Ωを襲うな!この卑怯者!」
「お前こそなんだ…!」
父さんは一歩も怯まず、毅然と、その男と対峙している。
「お前!オメガを襲うなんて、最低だぞ…っ!」
「黙れ!」
男は腕を振り上げ、父さんに殴り掛かろうとした。父さんは怯むことなく、その男の懐に飛び込むと股間を蹴り上げる。
「が、がは…っ!」
男は股間を押さえて崩れ落ちた。父さんの完全勝利…!
「父さん!」
「ルイ…?!」
「かっこよかったよ!」
父さんの元に駆け寄ると、父さんは笑顔で僕をギュッと抱きしめてくれる。
その後、アンジュ王子とそのお付きの騎士たちがやってきて、男は連れて行かれた。
襲われた女が、父さんに涙ながらにお礼を言うのを誇らしく見ていると、彼女は別れ際、胸の中にいる僕に向かって微笑んだ。
「お父さん、すっごくかっこいいね」
「……!」
そう、父さんはかっこいい…!
誰よりも強い、自慢の僕のお父さんなんだ…!
父さんは城で働いて、1人で僕を育てている。
僕は父さんが働く間、『アンジュ王子殿下』の子守りを任されていた。その日も剣の稽古をした後、夕方にアンジュ王子に連れられて父さんを迎えにいった。
すると、なぜか父さんは昨日の大柄の男に手を握られていた…。
「父さん、危ないっ!」
さっきまでアンジュ王子と稽古していた、紙を丸めた剣で、僕は男の背中を刺した。
「こ、こら、ルイ…!」
「お前が、ニコラの息子か…?」
その男はアンジュ王子のように、父を呼び捨てで呼んだ。
と、言うことは僕たちより身分が高い、『貴族』なのだろう。
僕は父さんの息子で強いから、貴族だからって男を怖がったりしないが、父さんは僕を抱きしめて、その男からさっと引き離した。
「息子はまだ小さいので、何も分かっていません…!」
「ニコラの子供なら、私の子供でもある。そんなに怯えることはない…」
僕は何も分かってないなんてことは無い!
アンジュの子守りだって、いつも立派にやっているし、第一、僕はこんな男の子供じゃ無い!
それなのに、『私の子供』…って、どういうこと?
「それは先ほどお断りしました」
「強がるな…。まあ、そんな所が良いのだが…」
「強がってなどいません」
「ニコラ、昨日のは事故で、私も不本意だった。力尽くで止めてくれて、感謝しているくらいだ。そんな勇ましいニコラに、私は惚れてしまった」
「……」
「私の妻になれ。そうすれば、城の下働きなどやめて、遊んで暮らせるぞ?」
私の妻になれ…?
父さんが、アイツの『妻』に…?
『妻』ってお母さんのことだろ?父さんはお父さんだから、『妻』になんかなれないはずだ。
僕がその男をきっと睨むと、男は不敵な笑みを浮かべ、去っていった。
僕の胸は、なんだかむかむかした。
なぜ、女の人を襲って『事故』だと許されるんだ?その男がしかも、父さんを『妻』に……?
訳がわからない…。
家に帰って、父さんがつくったおいしいご飯を食べても、お風呂で温まっても、そのむかむかが、いつまでも取れない。
ベッドに入って、背中をトントンされると、途端に涙が溢れた。
「ルイ…?」
「あいつ、だいっきらい…!父さん、あいつの『妻』になんか、ならないで…!」
ぐすぐすと鼻を啜ると、父さんは笑って、涙を拭ってくれる。
「ならないよ!」
「ぜったい…?」
「うん」
「本当に?」
「本当。ルイが大人になるまでは、誰とも結婚しない!絶対…!」
父さんは約束の指切りをしてくれた。
そして抱きしめられて、体も心も温かくなり、僕は安心して眠りについた。
その時は子供だったから『大人になったら結婚するつもりなのか』とまでは、思い至らなかった。
15歳になると、αだからという理由だけで王立学校へ入学することになってしまった。
入学後、初めての夏休み初日、同級生数人が自宅を訪ねてくることになった。
その前日に自慢したがりの伯爵家の息子が自宅に俺たちを招いたのが発端だ。
その男は、俺をバカにしたかったのだろう。ルイの家にも行ってみたいと言ったのだ。招かれておいて招かない訳にもいかず、渋々承諾して、翌日彼らは俺の家を訪れた。
多分、俺の出自をバカにするつもりで…。
しかし、意気揚々とやって来た彼らは、父によってすっかり毒気を抜かれてしまった。
「なあ、お前の父上は、その、本当に『父』なのか…?」
「え…?」
その頃には、父が父であり俺を産んだΩであると理解していたが、表立ってその話を他人にしたことはなかった。
それなのになぜ、こいつが気付いたのか、嫌な胸騒ぎがした。
「本当だけど、何?」
「そ、そうなんだ…。その、すごく華奢でかわいらしいから、Ωなのかなって思ったんだ」
父は俺を産んでから今まで、ヒートを起こしたことはない。チョーカーもいらないほどフェロモンも薄い。それなのに、なぜ気付いたのだろうか…?
「あ、俺も思った!」
「だろ…?甘い匂いがするし…」
こいつらαは、血のつながっている俺とは違い、敏感に父さんのフェロモンを嗅ぎ分けたらしい……。俺は同級生たちを見て、ぞっとした。
「そうだよ。だから、もう帰った方がいいよ。君たち貴族はさ、婚約者もいるんだろう?何かあったら大変だから」
俺はそう言うと、二度と奴らを家に呼ばなかった。
しかし、ただ一人。
ライアン・リファーだけは違った。彼は父の事を俺に何も尋ねなかった。
彼はアンジュ王子の従兄弟であり、陛下の孫でもある。下位であるが王位継承権を持っているだけあって、常に紳士的な態度をしていた。
ーーだからすっかり、気を許してしまったのだ。
兄のようだ、なんて、思ってしまっていた。
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