猫の首に鈴をつけたい騎士団長とおひさま浴びてヘソ天で寝たい闇の教祖

あさ田ぱん

文字の大きさ
3 / 35

2.猫にまたたび

暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖と言うのはお前か?」
「え…?」

 そこに立っていたのは、晴れわたる空を思わせる、澄みきった深い碧眼を持つ美しい男だった。

 この国に多い亜麻色の髪は、月明かりを受けてほのかに輝き、やわらかな波のように揺れている。

 深い青の生地に精緻な金刺繍を施した豪奢な衣装の上からも、鍛え上げられた体の逞しさが透けて見えた。腰には威厳を放つ、長剣が下がっている。

 その美しい男を先頭に、揃いの服を着た男達が、ずらりと俺を取り囲んでいた。

 彼らは、一体、何者だ…?

「私は王宮第二騎士団、団長のコンラッド・ハーケンベルクだ。お前だな?街で女子供を拐かし、奴隷として売っているという、あやしげな教団の教祖というのは…!」
「ふぇ?!」

 街で女子供を拐かし、奴隷として売っている?!

 そんな事、した覚えがないし、するわけが無いんだが?!

 王宮第二騎士団から詰問される俺の周りには、いつの間にか人だかりができていた。

「ちょっと、お待ちください!」

  やって来たのは娼館の女主人、エミリアだった。

「彼はお守りを売っているだけです。ギルドの許可証もあります!」

 え?!そんなもの取った覚えないけど…。まさか、エミリアが、ギルドに商売の許可を取ってくれていた?!

「そんなことは知っている。しかし許可を得ているのは娼館で、この男では無いだろう」
「私が依頼しているのですから、同じことです」
「それにこいつの罪は、そんなことでは無いぞ」
「彼は誘拐など致しません!この娼館が病に侵された時、教会でさえ私たちを見捨てたのに、それを救ったのは彼です。その方が、女子供を拐かすなどあり得ません!」

  ……ん?

 なんか、全然知らない話が出てきた。俺は祈祷や、お守りを売っていただけで、病気を治したりはしていないけど…。

「とにかく一度、城まで来てもらおう。弁明ならそこでするがいい」
「…王家の犬は話が通じないようね!教祖様!お逃げください!」
「我が国の神は、ルミニア王国教会の神、ただ一人…!暗黒神教団オルド・テネブラルムに入信することは、罪だぞ!」
暗黒神オルドは宗派の一つに過ぎません。それを、罪ですって?では、疫病が流行した時、この地を見捨てた国に罪はないと?」

 エミリア、つよおおお!

 エミリアは騎士団長コンラッドを睨みつけ、俺の前に庇うように立った。

「教祖様、さあ!早くお逃げください…!」
「で、でも!」
「捕まってはいけません、教祖様は!」

  …そうだ。もし俺が捕まったら、子供達が…。

 あくまで疑われているのは俺。エミリアを置いて行っても、彼女は酷い目には遭わないはず。

 俺は頷いて、駆け出した。

「チッ!」

 振り返ると、エミリアが捕えられていた。

 エミリアは関係ないはずだが…。そこまでする?!あの人、こわい~っ!

 俺は必死に走って裏路地へ逃げ込んだ。服を脱いで、マジックバッグにしまう。

「お、お前ッ、何をしている?!」
「ひいっ!」

   いつの間にか、先ほどの騎士団長、コンラッドに追いつかれていた。

   み、見られてしまったぁーー!しかも俺、真っ裸まっぱ

「ななな、何で裸なんだっ?!」
「ははは、裸を見られた!お嫁…、じゃなくて、お婿に行けないぃぃぃ!」
「じゃ、私のところにくれば…?!」
我が身よ変われコルプスムータ!っ、……えっ?!」
    
 闇の力が身体を包んで、一瞬のうちに子猫になる。

 コンラッドは、長身で視線が高いから、一気に小さくなった俺を見失ったようだ。

 その隙に素早く、物陰に隠れる。

暗黒神オルドの教祖め…。何て、可愛らしくて、可憐な男なんだ…。思わず求婚してしまった…」

   コンラッドはキリッと凛々しい顔を上気させ、ため息混じりにつぶやいた。

 可愛い…?黒目黒髪で、姿を見られると不気味だと言われていた、俺が、可愛い?白靴下子猫の姿じゃなくて、人間の姿の、俺が『可愛い?!』しかも俺、男だけど…。

 可愛い?!

 この国は、同性同士も結婚できる。でもまさか、求婚までされるなんて…!

 ちょっとだけ、胸がきゅんと鳴った。



 ドキドキしながらコンラッドを見つめていると、首の後ろを手で掴まれ、持ち上げられてしまった!

「コンラッド団長~!こんなところにかわいい猫ちゃんがいましたぁ!」

 コンラッドに気を取られ油断、していた…!

 そのせいで後ろから来た、コンラッドの仲間達に気が付かなかったのだ。


「何だそりゃ、かーわい~、ねこちゃん♡♡♡…じゃ、ねえよ!教祖はどこだ?!」
「団長が追って行ったはずじゃないですか?」
 「うるせえ!」
「逃げられたんですね?」

   立派な服を着ている割に、乱暴な言葉遣いのコンラッドは、首を乱暴に掴んでいた男から、優しい手つきで俺を取り上げると、地面に下ろした。

「痛かったろ?いっていいぞ」
「えー?逃しちゃうんですか?ヤツの使い魔だったりしませんか?」
「ばか、使い魔はもっとおどろおどろしい。見てみろ!白い靴下なんか履いて…毛もモフモフだ♡それに首輪つけてるだろ。『ノワール』って書いてある。どう見ても飼い猫だ」

   使い魔どころか、教祖、本人なのだが…。

 それより、うっかりしていた!!!

 自分のものには名前を書きましょうと、いつも孤児院で教えているから、つい、チャームに名前を書いていた…!あああ、なんて事だ、名前バレしてしまった…!

「ノワール、それにしてもかわいいな…」
 
 コンラッドは頬をだらしなく緩めて『ノワール』と呼んだ。
 
 俺の名前を聞いても、猫の名前としか思っていないようだ。よく考えれば、こんな高貴そうな男が、貧民街でこっそり暮らしている、俺の名を知るはずがない。

 少しホッとした俺の頭をすり、と、コンラッドが撫でると、彼の手首からふわりとちょっと甘くてスパイシーな香りがした。

 な、何だこれは…?!

 俺は思わず、コンラッドの手に自分からすりすりと頬擦りした。

「ちょ…!すりすりしてる!モッフモフで、かーわいー♡♡♡なんだなんだ、この野郎!」
「あはは。それ、団長が汗臭いからですよ。猫って人間の汗の匂い好きですから。団長、何日風呂入ってないんですか?」
「まだ六日だ」
「ちょ…っ、くさぁー!!」

 六日も風呂に入ってない?それで、こんなに甘くていい匂いをさせるなんて、何なんだこの男は?!

 しかも、手首でこれだ。これがもし、脇の下や、股の間だったら……!

 想像しただけで、腹の奥がきゅんとなって、目眩がした。体の力がみるみる抜けていく。

 俺はぽすんと、コンラッドの手の中に倒れ込んだ。

「お、おいっ!ノワール、どうしたッ?!」
「余りに強い匂いで酔っぱらったんじゃないですか?ほら、涎垂らしてる!人間の汗って猫のフェロモンと似てるらしいから、猫にまたたびやったみたいな感じじゃないですかね?」
「よかった、息はあるな…」
「全く…、猫を気絶させるなんて、前代未聞ですよ。ほら、教祖にも逃げられたことだし、ここの調査は私たちに任せて、早く帰って風呂に入ってください!」
「……じゃあ、頼んだ。娼館のエミリアには見張りをつけろ」

 エミリアに見張りを…?俺のせいで、困ったことになった…。

 しかし、頭がぼんやりして、力が入らない。俺はコンラッドの手のひらの上で、気を失ってしまった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。