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5.Dead or Alive
しおりを挟む渦に入りその瘴気に触れた途端、黒霧は引力に引き寄せられるように俺の身体へと吸い込まれていく…。闇の魔力が瘴気を吸収し、それが自分の中で、魔力となって還元されるのを、確かに感じた。
俺は過去、孤児院の中で最も強大な闇魔力を保有している。そのため、瘴気でさえ闇魔力によって吸収してしまうのだ。
エミリアが俺が作るお守りが効くと言っていたのは、この作用なのかもしれない…。
瘴気を消すため辺りを踏みしめながら進んでいくと、沢山の机が並んだ部屋の隅で子供が四人、倒れていた。
「クレイ…っ!」
クレイが、小さな子供たちを三人、抱きしめている。クレイは闇属性。比較的、一番耐性があったのだろう。
俺はクレイをぎゅっと、抱きしめた。
「うう…、あ、ノワー…ル…?」
「クレイ、偉かったな!もう大丈夫だ!孤児院に帰ろう…」
「……うん…」
クレイが意識を取り戻す頃には、瘴気はすっかり消え去っていた。他の子供達の顔色もだいぶ良くなっている。
俺はまだぐったりしている子を、一人一人確認した。
「呼吸も落ち着いているから大丈夫そうだ。お前のおかげだよ、クレイ。みんなを守ってくれたんだろ?」
俺が問いかけると、クレイはきょとんとした顔をして、返事をしない。一体どうした?
「ねえ、ノワール…」
「うん?クレイ、どうした…?」
「ん~と…」
「クレイはまだ四歳だから、ママとパパが恋しくなったって、全然おかしくないんだぞ。悲しい時はカイや、俺にいっぱい甘えていいんだぞ?」
「う、うん……」
うん…?
やっぱり四歳だから、まだまだ自分の言いたい事を、言葉で伝えるのが難しいのだろう。
クレイの返事をまっていると、名前を呼ぶ声と、人がバタバタと走ってくる音が聞こえた。コンラッドを殴ってしまったし、顔を見られるとまずい…!
俺はマジックバックから、暗黒神の仮面を取り出し、さっと被った。
「マリー!」
「ルイズ!」
「サラ!」
教室に飛び込んで来たのは、子供達の男親だった。全員、目に涙を溜めている。
「子ども達は無事です!」
感動の再会のはずが…、父親たちは俺を見て驚いたのだろう、目を丸くした。そして、子供達と俺を交互に見ると、明らかに挙動不審になっている。
あ、この闇竜の仮面、怖かった…?それに、クレイも俺も黒目、黒髪だ。
俺はマジックバックからお守りを取り出すと、三人に手渡す。
「もう顔色は良いし、大丈夫だとは思いますが、これ暗黒神のお守りです。瘴気とか病気に効きますから、しばらく持っていてください」
怖がらせて申し訳ない。俺はそのまま、クレイを連れて出口へ向かう。
「わ…っ!」
部屋を出たところで、出会い頭に誰かとぶつかった。
甘い香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
ーーコンラッドだ!
至近距離で仮面越しに目が合った…。
コンラッドも驚いて、目を丸くしている。
思わず胸に飛び込んでしまいそうになったのだが、今俺は子猫じゃないし、コンラッドは、暗黒神を誘拐犯だと疑っている事を思い出した。
クレイを抱っこして、一目散に逃げ出す。
「おおおおいっ!まてーっ!」
「来るなー!」
コンラッドが物凄い形相で追いかけてくる!な、何なんだぁー?!
「暗黒神の教祖!にゃん玉…じゃない、にん玉出したままで、帰るつもりかっ?!」
にゃん玉じゃなくて、にん玉…?
にん…?
え゛っ?!
あ、あぁーー?!
まさか…、さっきの男親達が、目を丸くしていたのも、クレイが何だか口ごもっていたのも、俺が猫から人間になった時、服を着るのを忘れたからなのか…?!
しかも、まっ裸の上に、暗黒神の、古の竜のいかつい仮面だけ被っちゃってる…!頭隠して尻かくさず!完全な、変態っ!!!!
「お嫁…、じゃなくて、お婿に行けないぃぃ!」
「じゃ、私のところにくれば良いだろう…?!」
「え?!」
暗黒神を婿に…?
俺たちの間に流れた、瘴気以上に変な空気をかき消すように、騎士団の兵士たちが数人、やって来た。
「な、なんで裸なんだ…!?変態?!」
「こ、この仮面、暗黒神の教祖だ!捕まえろっ!」
「ここに子どもがいると聞いて攫いに来たな?!暗黒神の教祖は誘拐犯だ!捕らえろー!」
「ちちちちち、違いますっ!」
兵士達は俺に気付くと襲い掛かってくる。
「ひいいーっ!」
****
クレイを抱っこして、俺はその場から何とか逃げ切った。
誘拐犯どころか、危うく変態仮面の汚名まで着せられるところだった。危なかった…。
「疲れた…」
ミサであらぬ疑いを掛けられ、コンラッドとにゃんにゃんの後、クレイの家出騒動...。
魔力もいっぱい使ったし、すっごい疲れたぁ~。またコンラッドの家でお風呂に入って、おひさまの匂いがするふかふかのベッドでへそ天でむにゃむにゃしたい…。
しかし、子育てに有給休暇などない。
「リオがおもちゃとった~」
「クレイばっかり遊んでるからじゃん!」
「二人ともうるさい!」
「「カイがいじめるぅ~!ノワール!!」」
「おー、よしよし…」
俺が年下のリオとクレイを抱き寄せると、年上のカイは嫌そうな顔をした。
「最近、二人ともおもちゃにも絵本にも飽きちゃったんだよ。全然、新しいのないし…。僕も読むの苦痛」
「そ、そっか…」
何か買ってやりたいが、先立つものがない。先日、街の子供たちに売り物のお守りをタダであげてしまったのと、あれ以来夜出かけられなくなり、収入が途絶えてしまったのだ。
エミリアならお守りを昼間でも買ってくれるだろう。新しいものを作って売りに行けばいいのだが、昼は家事・育児に忙しく、夜は子供たちと眠ってしまって何もできていない。
「ノワール、手紙来てたよ」
「手紙…?」
カイから手渡された手紙はここの家賃の支払い通知だった。形式上毎月くるが、払ったことはない。払えと言われても金がないから黙ってやり過ごしている。
俺は手紙を屑籠に入れて、立ち上がった。
――つまり、今、全員が健やかに過ごすために必要なものは、お金だ!!
「カイ、夜には戻るから、二人の面倒を頼んでいいか?お守り作って売ってだと、時間がかかる。一気に金を稼いでくる!」
「…いいけど、でも、そんなこと出来るの?大丈夫!?」
「大丈夫だ。ギルドへ行ってくる!」
俺は髪色と目の色を亜麻色に変えると、貧民街を出て、王都の街のギルドへ向かった。
「あのー、一夜にして億万長者になれる依頼はありませんか?」
「ありますよ?」
「え?!あるんですかあ?!」
「Sランク向けですが、これです」
銀縁眼鏡の、無表情のギルド職員のおじさんはスッと依頼書を俺に差し出した。
「暗黒神教団の教祖の確保。生死問わず」
「生死問わず?!」
なななな、なんてこった!これじゃ俺、Sランク冒険者たちに狙われて殺される…っ!超、ピーンチ!
これは、見なかったことにしよう…。
俺は、依頼書をおじさんへスッと押し返し、少し、質問を変えてみる。
「あの、俺、今日登録したばかりなんですけど。それで一番割のいい仕事はありますか?」
「それですと、こちらですね」
また無表情のおじさんは一片の迷いもなくスッと依頼書を俺に差し出した。
「黒ハチワレ白靴下子猫の『ノワール』の捕獲。生死問わず」
「生死問わず?!」
殺すなよ~!こんなに可愛いくていたいけな子猫ちゃんなんだぞ?!やさしくふんわり、大切につかまえてくれよお~!
こんなひでえ依頼する奴は、どこのどいつなんだ?!
「あ、あのー、この依頼をうけて、つかまった猫はどうなるのですか?」
「さあ、そこまでは伺っておりません」
「こ、殺されちゃう、なんてことは…」
「知りません。ただ…」
「ただ?」
「該当する猫を何匹かお見せしたのですが、違うけどかわいいと仰って、定額の依頼料をお支払いになり連れていかれました」
…その偽ノワールたちを『かわいい』と連れて行く人なら、依頼人はいい人、なのかもしれない…!
俺はその依頼書を握りしめた。
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