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11.バルちゃん
「おい。そこで何をしている!」
何って…。お守り売ろうとしたら欠品していて、仕方ないから単価は落ちるが祈祷で日銭を稼いでいるんですが?!
振り返ると、コンラッドが聖女と共に馬上にいた。……どうやら、天国から地上へ舞い戻ったらしい。
「ちゃんと順番に並んでもらっていますっ!」
「そういう問題じゃない!」
「金額は先に提示して、お釣りもちゃんと渡していますっ!」
料金を後から言うと揉めるんだ。先に金額提示するのは商売の基本だから!基本に忠実で誠実な商売やってますけど?!
「だからそうじゃないっ!女神像を焼いた、大罪人が居ると報告を受けたが、ノ……、暗黒神の教祖、お前なのか…?」
『ノル』って言いかけてる!
やっぱり俺だってばれてたぁ…!
「私の気持ちはあの場で言ったとおりだ」
コンラッドは腰の剣を抜き、聖女を残して馬を降りた。
「まずは、罪を償え」
「ひいい!」
剣を振り上げられ、恐ろしくて震えた。俺に瘴気は無効だが、物理攻撃は効くんだ!そんな危険なもの、向けるなよ~!
「暗黒神の教祖様は、我らの救世主だ!」
「そうだ!騎士団なんか立つ事もできなかったのに、教祖様は闇竜を一撃で倒したんだぞ!」
「以前、聖女が見捨てた子どもも、教祖様がお助けくださった!」
最後に叫んだのは、クレイと一緒に助けた子供の親たちだった。
しかしあの時は、聖女も魔力切れまで浄化を頑張ったんだから、その言い方は良くない!
ほら…!
馬の上の聖女がめちゃくちゃ冷たい顔で俺を睨んでる!こここ、こわい~!
「暗黒神教祖様を守れ!」
「教祖様、お逃げください!」
「暗黒神!」
「暗黒神!」
市民達は、コンラッドの前に壁を作り、俺を守ってくれた。
市民の圧倒的な支持を受けて、俺はコンラッドから逃れた。念のため建物の陰に入り、服を脱いで子猫の姿になってから、子供達が待つ方向へ走る。
しばらく走ると、後ろから大きな、馬の蹄の音が聞こえた。
振り返ると、その馬に乗っていたのはコンラッドと聖女だった。
まさか、コンラッドが、俺を追って?
コンラッドは馬を降り、聖女に手を差し出している。子猫の俺に気付いたそぶりはない。ほっとしたような、がっかりしたような…。
コンラッドの様子が気になり、隠れながら近付き二人の会話を盗み聞く。
「教会から、迎えの馬車が参りましたので、聖女様、こちらへ」
「…今夜は帰りたくない。実は教会の、古くから伝わる女神像が盗まれたの。盗人に簡単に侵入されるようなところ、危ないじゃない」
「…では、王太子殿下にご相談を」
「それが出来るなら、こんな騒ぎになっていないでしょう?」
ひょっとして最後に俺が焼いた薪は、『古くから伝わる女神像』だったのか…?それで、闇竜が復活してしまった、とか?
すると、学校で芋焼いてた、あいつらは一体…?!
「……」
「ねえ。昔みたいに、コンラッドの家に泊まりたいわ。いいでしょう?幼なじみなんだし…」
「聖女様、貴方は王太子殿下の婚約者でいらっしゃいます。男の家に泊まるなど論外です」
「王太子の婚約者になったのは、私が血統や魔力量から聖女に選出されたからです。でも先日も、先ほども、私は瘴気を祓えなかった。このままだと、聖女の地位も婚約も、どうなることか…」
現聖女の婚約者は王太子殿下だと聞いていたが、話が繋がった。聖女はコンラッドと婚約破棄した後、王太子殿下と婚約したんだ…。
聖女はコンラッドの手を取った。そして、小鳥が羽をたたむようにふわりとコンラッドの胸に舞い降りる。
「コンラッド、私の立場は日増しに悪くなっているわ…。幼なじみの貴方まで、冷たいことを言わないで頂戴」
「……」
幼馴染み…。
お母様が『幼馴染みに振られてしまった』と言っていたことがあったが、それはコンラッドが聖女のことを好きで、婚約までしていたが振られた、という意味…?
でも、聖女が王太子と婚約したのは彼女が聖女に選ばれたからだ。それを『振られた』と言うのは、どこか違和感がある。
もし彼女が聖女でなくなれば、障害はなくなる。その時、二人はまた婚約者に戻るのだろうか?
――コンラッドは眉を寄せ、唇を噛んでいる。
俺に求婚した時は、だらしない顔をしていたのに、そんな真剣な顔、するんだ…?
俺と、結ばれようって言ったのは、一時の気の迷い?
少しの間じっとしていたが、コンラッドは静かに聖女を引き離した。
「コンラッド…」
「聖女様、参りましょう」
二人は手を取りあい、迎えの馬車が停まっているらしい、反対側へ歩いて行く。
俺はその後姿を見ていられず、走り出した。
もしも、二人が結婚したとしても、猫になればコンラッドの側に、いられる。
ー―しかし、二人が共に夜を過ごしたベッドで、俺は眠ることが出来るのか…?
「ノワールっ!」
更に通りを走って行くと、子供たちに追いついた。クレイが俺に気付いて、抱き上げる。
「大丈夫だったの?」
「もちろん!あのくらい朝飯前だっ!」
実際、闇竜より先ほどの、コンラッドと聖女のやり取りを見た方がダメージが大きかった。
「でも、これからどこに行く…?孤児院は…」
「家賃を払いに行くっ!」
心配そうに聞くカイに、俺は少し過剰に元気に返事をした。
****
昼間家主の家へ行き、夕方コンラッドを天国へ送り、夜、闇竜をやっつけ、また、孤児院の家主の邸へ戻って来た。既に夜更け。全員かなりへとへとだった。
結構金は稼いだ…。もちろん全額ではないが、とりあえずこれを渡して、残りは待ってもらうよう交渉しよう!
夜中だが仕方ない!突撃ーっ!
「こんばんは~」
外から呼びかけると、乱暴に、邸の門が開いて人が飛び出してきた。
「もう、こんな家で働けないっ!」
出て来たのは、朝訪ねた時に対応してくれた使用人だった。
「あ、あのお…」
「ん…?あんた、家賃滞納している、孤児院の…?」
「ええ、全額ではありませんがお金を用意して参りました!旦那様に、取次をお願いします」
「…私はもう、ここをやめますから、取次はできませんね!」
使用人は、いらいらとした口調で俺に怒鳴った。
「やめるとは…?」
「以前の旦那様は大変お優しい方でした。その恩義があり働いていましたが、今の旦那様にはついていけません!人間より、蛇を大切にするんですから!」
人間よりも、蛇を大切にしている…?それで、孤児院の家賃も請求してきたってことなのか?
「すると、屋敷には蛇がいるのですか?」
「ええ。無駄だと思いますが、勝手に入って交渉してください!奥の部屋にいると思いますから」
使用人は怒って、本当に出て行ってしまった。
「蛇がいるらしいから、三人は玄関で待っていてくれ。すぐ戻る!」
子供達を玄関ホールに残し、俺だけ屋敷の廊下を通り、奥の部屋へ向かう。
蛇ってどのくらいの大きさなんだろう?それに、飼っているのは一匹?
ここで引き下がるわけにもいかず、俺は慎重に屋敷の中を進む。まだ、今のところは豪華な、ちょっとだけ成金趣味の家にすぎないが、どんな蛇がいるのだろうか…?
廊下を進んでいくと、奥の部屋から誰かがすすり泣く声が聞こえた。
「バルちゃん、どうしたんだい!?新鮮な鼠を、蛙と蜥蜴で和えたんだよ?絶対美味しいはずだよ?!」
ね…、鼠を蛙と蜥蜴で和えた?!そんなもの、美味しくはねぇだろ!
と、心の中で突っ込みつつ、声がする部屋の扉を叩いた。
「…誰だ?」
「孤児院の院長をしている、ノワールと申します」
「…十年以上家賃を滞納しておいて、今更何の用だ?」
「全額ではありませんが、お金を持ってきました。あとは分割払いでお願いします!」
「分割には応じられない。全額払え…、さもなくば立ち退け、以上だ」
ひょっとして一回踏み倒そうとしたことバレてる…?!なんて鋭いんだ!しかも全然、聞く耳持たない感じだし、あの使用人が言ってた通り血も涙もない~!
「そ、そこを何とか…」
「くどい。私は忙しいんだ!出てってくれ!」
「……」
扉を開けてもくれない…。これは、本当に難しそうだ。
俺は疲れていたし出直そうと思い、扉から離れ帰ろうとした。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ…!」
少し廊下を歩いたところで、突然呼び止められた。そして、扉がばたんと開く。
「君…っ!来てくれ!」
「は…?でも…俺、家賃がちり積でとんでもない額になっていて全額は払えないです」
「それは分割でいいっ!来てくれっ!」
「え、分割でいいんですか…?!」
「分割でいいから早く来てくれっ!バルちゃんが、お前を呼んでいるんだっ!!」
バルちゃん?なんだそれは…?っていうか、この、家主の男、どこかで見た気がする…。
いや、そんなことより…、俺は、家賃の交渉をしに来たんだ!いまこそ交渉の時…、負けるな俺っ!
「分割も、生活費があるんで、少額にして欲しいんですけど」
「分かった!払えるだけでいい!」
「月によっては、そもそもの家賃が厳しくて」
「分かった!減額する!」
「どのくらい下がります?子供が三人いて、あまり働けなくて」
「だーっ!もういい!家賃はもういいからっ!」
「え?家賃いらないの?本当に払わなくていいんですか?それ、ちゃんと契約書にしてもらっていいですか?ちょっと今、人が信じられなくて」
コンラッドのことがあって、今、軽く人間不信なんだ。思い出したらちょっと頭に来たっ!『私の気持ちはあの場で言ったとおりだ♡』とかいってその後聖女といい雰囲気醸し出してたっ!
「わかった、わかったから!契約書は書く!だから早く来てくれ!」
え?本当に書いてくれるの?
ららら、ラッキー!なんだかよくわからないが、家賃問題解消ーーっ!
喜び勇んで、俺を呼んでいるらしい『バルちゃん』に会うため、部屋に足を踏み入れた。
ーーそこにいたのは………。
「ひいいい!」
そこにいたのは真っ黒くて小さな「蛇」だった。
バルちゃんは、柔らかそうなクッションに身を横たえたまま、細く舌を出している。その舌先からは、黒いドロドロとした物が流れ出ていた。それが床に落ちると、じゅう…と音を立てて消える…。
濁った金色の、虚ろな目が、こちらをチラリと見た。鳴き声を上げたいのか、鱗で覆われた腹はゆるやかに上下するものの、かなり弱々しく、音にはならない。
蛇っていうか……。
不・気・味!
「こここ、これは一体?!」
「この子はバルドグラース、『バルちゃん』だっ!」
「バルちゃん?!」
何って…。お守り売ろうとしたら欠品していて、仕方ないから単価は落ちるが祈祷で日銭を稼いでいるんですが?!
振り返ると、コンラッドが聖女と共に馬上にいた。……どうやら、天国から地上へ舞い戻ったらしい。
「ちゃんと順番に並んでもらっていますっ!」
「そういう問題じゃない!」
「金額は先に提示して、お釣りもちゃんと渡していますっ!」
料金を後から言うと揉めるんだ。先に金額提示するのは商売の基本だから!基本に忠実で誠実な商売やってますけど?!
「だからそうじゃないっ!女神像を焼いた、大罪人が居ると報告を受けたが、ノ……、暗黒神の教祖、お前なのか…?」
『ノル』って言いかけてる!
やっぱり俺だってばれてたぁ…!
「私の気持ちはあの場で言ったとおりだ」
コンラッドは腰の剣を抜き、聖女を残して馬を降りた。
「まずは、罪を償え」
「ひいい!」
剣を振り上げられ、恐ろしくて震えた。俺に瘴気は無効だが、物理攻撃は効くんだ!そんな危険なもの、向けるなよ~!
「暗黒神の教祖様は、我らの救世主だ!」
「そうだ!騎士団なんか立つ事もできなかったのに、教祖様は闇竜を一撃で倒したんだぞ!」
「以前、聖女が見捨てた子どもも、教祖様がお助けくださった!」
最後に叫んだのは、クレイと一緒に助けた子供の親たちだった。
しかしあの時は、聖女も魔力切れまで浄化を頑張ったんだから、その言い方は良くない!
ほら…!
馬の上の聖女がめちゃくちゃ冷たい顔で俺を睨んでる!こここ、こわい~!
「暗黒神教祖様を守れ!」
「教祖様、お逃げください!」
「暗黒神!」
「暗黒神!」
市民達は、コンラッドの前に壁を作り、俺を守ってくれた。
市民の圧倒的な支持を受けて、俺はコンラッドから逃れた。念のため建物の陰に入り、服を脱いで子猫の姿になってから、子供達が待つ方向へ走る。
しばらく走ると、後ろから大きな、馬の蹄の音が聞こえた。
振り返ると、その馬に乗っていたのはコンラッドと聖女だった。
まさか、コンラッドが、俺を追って?
コンラッドは馬を降り、聖女に手を差し出している。子猫の俺に気付いたそぶりはない。ほっとしたような、がっかりしたような…。
コンラッドの様子が気になり、隠れながら近付き二人の会話を盗み聞く。
「教会から、迎えの馬車が参りましたので、聖女様、こちらへ」
「…今夜は帰りたくない。実は教会の、古くから伝わる女神像が盗まれたの。盗人に簡単に侵入されるようなところ、危ないじゃない」
「…では、王太子殿下にご相談を」
「それが出来るなら、こんな騒ぎになっていないでしょう?」
ひょっとして最後に俺が焼いた薪は、『古くから伝わる女神像』だったのか…?それで、闇竜が復活してしまった、とか?
すると、学校で芋焼いてた、あいつらは一体…?!
「……」
「ねえ。昔みたいに、コンラッドの家に泊まりたいわ。いいでしょう?幼なじみなんだし…」
「聖女様、貴方は王太子殿下の婚約者でいらっしゃいます。男の家に泊まるなど論外です」
「王太子の婚約者になったのは、私が血統や魔力量から聖女に選出されたからです。でも先日も、先ほども、私は瘴気を祓えなかった。このままだと、聖女の地位も婚約も、どうなることか…」
現聖女の婚約者は王太子殿下だと聞いていたが、話が繋がった。聖女はコンラッドと婚約破棄した後、王太子殿下と婚約したんだ…。
聖女はコンラッドの手を取った。そして、小鳥が羽をたたむようにふわりとコンラッドの胸に舞い降りる。
「コンラッド、私の立場は日増しに悪くなっているわ…。幼なじみの貴方まで、冷たいことを言わないで頂戴」
「……」
幼馴染み…。
お母様が『幼馴染みに振られてしまった』と言っていたことがあったが、それはコンラッドが聖女のことを好きで、婚約までしていたが振られた、という意味…?
でも、聖女が王太子と婚約したのは彼女が聖女に選ばれたからだ。それを『振られた』と言うのは、どこか違和感がある。
もし彼女が聖女でなくなれば、障害はなくなる。その時、二人はまた婚約者に戻るのだろうか?
――コンラッドは眉を寄せ、唇を噛んでいる。
俺に求婚した時は、だらしない顔をしていたのに、そんな真剣な顔、するんだ…?
俺と、結ばれようって言ったのは、一時の気の迷い?
少しの間じっとしていたが、コンラッドは静かに聖女を引き離した。
「コンラッド…」
「聖女様、参りましょう」
二人は手を取りあい、迎えの馬車が停まっているらしい、反対側へ歩いて行く。
俺はその後姿を見ていられず、走り出した。
もしも、二人が結婚したとしても、猫になればコンラッドの側に、いられる。
ー―しかし、二人が共に夜を過ごしたベッドで、俺は眠ることが出来るのか…?
「ノワールっ!」
更に通りを走って行くと、子供たちに追いついた。クレイが俺に気付いて、抱き上げる。
「大丈夫だったの?」
「もちろん!あのくらい朝飯前だっ!」
実際、闇竜より先ほどの、コンラッドと聖女のやり取りを見た方がダメージが大きかった。
「でも、これからどこに行く…?孤児院は…」
「家賃を払いに行くっ!」
心配そうに聞くカイに、俺は少し過剰に元気に返事をした。
****
昼間家主の家へ行き、夕方コンラッドを天国へ送り、夜、闇竜をやっつけ、また、孤児院の家主の邸へ戻って来た。既に夜更け。全員かなりへとへとだった。
結構金は稼いだ…。もちろん全額ではないが、とりあえずこれを渡して、残りは待ってもらうよう交渉しよう!
夜中だが仕方ない!突撃ーっ!
「こんばんは~」
外から呼びかけると、乱暴に、邸の門が開いて人が飛び出してきた。
「もう、こんな家で働けないっ!」
出て来たのは、朝訪ねた時に対応してくれた使用人だった。
「あ、あのお…」
「ん…?あんた、家賃滞納している、孤児院の…?」
「ええ、全額ではありませんがお金を用意して参りました!旦那様に、取次をお願いします」
「…私はもう、ここをやめますから、取次はできませんね!」
使用人は、いらいらとした口調で俺に怒鳴った。
「やめるとは…?」
「以前の旦那様は大変お優しい方でした。その恩義があり働いていましたが、今の旦那様にはついていけません!人間より、蛇を大切にするんですから!」
人間よりも、蛇を大切にしている…?それで、孤児院の家賃も請求してきたってことなのか?
「すると、屋敷には蛇がいるのですか?」
「ええ。無駄だと思いますが、勝手に入って交渉してください!奥の部屋にいると思いますから」
使用人は怒って、本当に出て行ってしまった。
「蛇がいるらしいから、三人は玄関で待っていてくれ。すぐ戻る!」
子供達を玄関ホールに残し、俺だけ屋敷の廊下を通り、奥の部屋へ向かう。
蛇ってどのくらいの大きさなんだろう?それに、飼っているのは一匹?
ここで引き下がるわけにもいかず、俺は慎重に屋敷の中を進む。まだ、今のところは豪華な、ちょっとだけ成金趣味の家にすぎないが、どんな蛇がいるのだろうか…?
廊下を進んでいくと、奥の部屋から誰かがすすり泣く声が聞こえた。
「バルちゃん、どうしたんだい!?新鮮な鼠を、蛙と蜥蜴で和えたんだよ?絶対美味しいはずだよ?!」
ね…、鼠を蛙と蜥蜴で和えた?!そんなもの、美味しくはねぇだろ!
と、心の中で突っ込みつつ、声がする部屋の扉を叩いた。
「…誰だ?」
「孤児院の院長をしている、ノワールと申します」
「…十年以上家賃を滞納しておいて、今更何の用だ?」
「全額ではありませんが、お金を持ってきました。あとは分割払いでお願いします!」
「分割には応じられない。全額払え…、さもなくば立ち退け、以上だ」
ひょっとして一回踏み倒そうとしたことバレてる…?!なんて鋭いんだ!しかも全然、聞く耳持たない感じだし、あの使用人が言ってた通り血も涙もない~!
「そ、そこを何とか…」
「くどい。私は忙しいんだ!出てってくれ!」
「……」
扉を開けてもくれない…。これは、本当に難しそうだ。
俺は疲れていたし出直そうと思い、扉から離れ帰ろうとした。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ…!」
少し廊下を歩いたところで、突然呼び止められた。そして、扉がばたんと開く。
「君…っ!来てくれ!」
「は…?でも…俺、家賃がちり積でとんでもない額になっていて全額は払えないです」
「それは分割でいいっ!来てくれっ!」
「え、分割でいいんですか…?!」
「分割でいいから早く来てくれっ!バルちゃんが、お前を呼んでいるんだっ!!」
バルちゃん?なんだそれは…?っていうか、この、家主の男、どこかで見た気がする…。
いや、そんなことより…、俺は、家賃の交渉をしに来たんだ!いまこそ交渉の時…、負けるな俺っ!
「分割も、生活費があるんで、少額にして欲しいんですけど」
「分かった!払えるだけでいい!」
「月によっては、そもそもの家賃が厳しくて」
「分かった!減額する!」
「どのくらい下がります?子供が三人いて、あまり働けなくて」
「だーっ!もういい!家賃はもういいからっ!」
「え?家賃いらないの?本当に払わなくていいんですか?それ、ちゃんと契約書にしてもらっていいですか?ちょっと今、人が信じられなくて」
コンラッドのことがあって、今、軽く人間不信なんだ。思い出したらちょっと頭に来たっ!『私の気持ちはあの場で言ったとおりだ♡』とかいってその後聖女といい雰囲気醸し出してたっ!
「わかった、わかったから!契約書は書く!だから早く来てくれ!」
え?本当に書いてくれるの?
ららら、ラッキー!なんだかよくわからないが、家賃問題解消ーーっ!
喜び勇んで、俺を呼んでいるらしい『バルちゃん』に会うため、部屋に足を踏み入れた。
ーーそこにいたのは………。
「ひいいい!」
そこにいたのは真っ黒くて小さな「蛇」だった。
バルちゃんは、柔らかそうなクッションに身を横たえたまま、細く舌を出している。その舌先からは、黒いドロドロとした物が流れ出ていた。それが床に落ちると、じゅう…と音を立てて消える…。
濁った金色の、虚ろな目が、こちらをチラリと見た。鳴き声を上げたいのか、鱗で覆われた腹はゆるやかに上下するものの、かなり弱々しく、音にはならない。
蛇っていうか……。
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