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20.帰宅
しおりを挟むコンラッドとにゃんにゃん♡すること複数回…。
いつのまにか眠ってしまっていたようで、朝、コンラッドの胸の中で目を覚ました。
あまりにも幸せで夢うつつだったが、布団を捲ると、身体にはにゃんにゃん♡の証がそこかしこにあった。腰は痺れ、肌には赤い鬱血痕がちっている。
夢じゃなかったぁ…!
興奮したからか、首元の鈴がちりんと鳴った。この鈴のせいで大変なことになったのだ。このまま、つけておくわけにもいかず、俺は仕方なく、その鈴を取って、枕元に置く。
「ノワール起きたのか…?」
物音に反応したらしいコンラッドはうっすらと目を開け、眠そうに瞼を擦っている。
どんな顔をしていいか分からず、俺は慌てて子猫に変身した。
「ん…?子猫になったのか…?」
コンラッドは子猫になった俺に、頬擦りしてキスする。
嬉しくてゴロゴロと喉を鳴らすと、部屋の扉が叩かれた。
コンラッドはしばらく無視していたが、あまりにも続くのでさっと服を羽織り、扉を開けた。
「コンラッド…!」
やって来たのは、聖女だった。
コンラッドを見た彼女は、驚いて目を丸くしている。
「おはようございます。聖女様…。昨日はありがとうございました」
「…もう、身体はいいのですか…?」
「ええ、すっかり」
「すっかり…?まさか、あんなに昨日、苦しんでいたのに…?」
聖女が訝しげに首を傾げると、後ろにいたお母様が部屋に入ってきて、俺を抱き上げた。
「私も本当に不思議だったの。でも、この子が来て、少しして様子を見に来たら、コンラッドは起き上がっていたの…!」
『少し』とは言い難い時間、俺たちはにゃんにゃんしていたが…。必死に医者を探していたお母様の体内時計は思いの外、ゆっくり進んでいたのだろう。
俺は興奮したお母様に両脇を掴まれ、足がプランとして、少し心もとない状態で聖女の前に掲げられた。
「……その猫、暗黒神の印がついていますね…」
「え…?」
お母様は俺のチャームを見て、しまった、という顔をした。光の女神の使徒である聖女のいる前で暗黒神の印を持つ俺を褒めてしまったのだ。まずい事を言ったと、すぐに悟ったらしい。
「まさか、お母様まで…、暗黒神に助けられたと言うのですか?」
聖女は眉に皺を寄せて、俺を睨みつける。
その様子に気がついたコンラッドが、お母様から俺を取り上げた。
「母上、滅多なことを言わないでください。その前に聖女様が浄化魔法をかけてくださった、その効果が遅れて現れたのですよ…!」
「そ、そうね…!そうだわ!私ったら、昨日から気が動転していて…。聖女様、本当にありがとうございます…」
「……」
慌ててコンラッドが場を収めようとお母様の言葉を取りなしたが、彼女の機嫌を損ねたらしい。無言で踵を返し、部屋を出て行ってしまった。
慌てて、コンラッドのお母様が後を追う。
コンラッドはそれを見送って、誰もいなくなると俺の頭を撫でた。
「…昨日、魔力切れまで治療してくれた聖女の手前、ああ言ったが、私が回復したのはお前のおかげだ。ノワール、ありがとう…」
「お礼なんて…」
俺を庇って怪我をしたのだから、助けるのは当然のこと…。それに、コンラッドと抱き合えて、本当に嬉しかった。
「俺こそありがとう」の代わりに「にゃあ」と、鳴くと、コンラッドは少し、真剣な顔をする。
「…事情は分からないが、あの子供達を育てているんだろう?私が手助けするから、ノワールはここにいろ」
「……」
コンラッド…。
嬉し過ぎる、申し出だった。
でも……。あの子達は『闇属性』かつ『黒目黒髪』なのだ…。
コンラッドは差別なく接してくれているが、他の人はそうではない。
やはり魔法が使えるようになるまでは、世間から隔離して俺の元で育てた方が、危険は少ない。
俺が静かに首を振ると、コンラッドは優しく頭を撫でてくれた。
「ノワールは成人とはいえ、十八歳。まだまだ子猫の部類だ。私を頼っていいんだぞ…?」
その言葉だけで嬉しくて、俺はコンラッドに頬擦りした。
ーー今日は不思議だ。
いつもなら朝になると魔力が弱まるのに、体の中に力が漲っている。
コンラッドが優しくしてくれたからだろうか…?
コンラッドに頬擦りしていると、こんこんと窓を叩く音がした。
「…アーケス!」
窓を叩いていたのは騎士団の伝令鳥である鵲のアーケスだった。コンラッドが窓を開けると、部屋の中に入り、俺に向かってびゅん、と飛んでくる。
「盛りのついた泥棒猫めがっ!団長に何をしたっ!?」
コンラッドとはナニ♡を、しっぽり♡したわけだが…。
怖い怖い!すっごい怒ってる…!
アーケスは飛びながら嘴で俺を攻撃しようとした。
「やめろ、アーケス!」
アーケスはピタリと動きを止めると、泣きそうな顔で、コンラッドの肩にとまった。嘴を頬につん、と擦り付けている。
「だって浮気したぁ~。わあーん!」
「伝令だな。ご苦労…」
二人の会話は噛み合わないままだったが、コンラッドはアーケスの足に巻かれた紙を取ると、読み上げた。
「……証拠不十分で、アドリア王太子殿下がビョルンを解放した…」
王太子殿下が、ビョルンを…?
何故かは分からないが、とにかく、ビョルンへの疑いが晴れて良かった…。
ビョルンは俺のせいで捕まったのだ。一度、謝罪をしなければ。
俺は開いている窓から、ぴょんっと外へ出た。
「ノワール…!気をつけていけ。ちゃんと戻ってこい!」
コンラッドの呼びかけにうなずいて、俺はビョルンの邸に向かった。
俺が邸に戻ると、ちょうどビョルンが釈放されて帰って来たところだった。
「ビョルン、良かった!解放されて…!あの、ご迷惑をお掛けして…」
「謝罪されても、バルちゃんは戻らない…。私はバルちゃんを探す。出て行ってくれ…!」
ビョルンは俺に冷たく告げた。
「孤児院は約束通り、好きにしろ」
ビョルンはそれだけ言うと、すぐに出て行ってしまった。
俺がビョルンを怒らせてしまったので、俺たちは邸を出て孤児院へ戻った。
孤児院へ到着するなり、子供達は不満を爆発させた。
「ビョルンの家を追い出されたの、ノワールのせいだよ!」
「そうだよ!だいたい今までどこ行ってたの?まさかまた、あの騎士団長のところ?鈴までつけられて探されて、飼われてるわけ?!」
「……」
ビョルンに追い出されたのは俺のせいだ。子供達の言うことは間違っていないから、反論できない。
俺が黙っていると、子供達は自分の部屋へ走って行ってしまった。
何故かついて来た前院長が、俺の肩を叩く。
「ほら、ここよりビョルンの家の方がずーっと日当たりもいいし立派で快適だったからさ。ずっとあそこに居たいと思っちまったんだよ…。でもそのうちまた、ここに慣れるさ」
…それは俺も、同じだった。
コンラッドのおひさまの匂いのする部屋が、大好きだ。だから子供達の気持ちは理解できる。さぞ、がっかりしただろう…。
今の俺に出来ることは金を稼いで、子供達が大人になるまで出来るだけ良い環境で過ごさせてやること、それだけだ。
「お前は一人でよく頑張ったよ」
「…急に、どうしたんですか?」
「いや本当に…。出て行っちまって、悪かったな…」
俺はずっと、院長が娼館で遊んでいるのを、見ていた。今更、見え透いた謝罪なんて、言われても信じられない。
たぶん、金がなくなったからここに居座ろうという魂胆だな?
「院長、ここにいるつもりなら、子供達に魔法を教えてもらえませんか?それと、夜、子供達を見ていてほしいんです」
「ん…?いいぞ!」
俺は早速、暗黒神のお守りを作った。
それと、この間燃やしてしまったリオのお守りの代わりに、少し大きめのルナちゃん像も作った。リオの家族、ダンゴムシもたくさん添えて…。
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