猫の首に鈴をつけたい騎士団長とおひさま浴びてヘソ天で寝たい闇の教祖

あさ田ぱん

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24.招待状

「まだ、完全に目覚められてはいないのですね…。分かりました…」

 バルドラースは表情を変えることなく、黙って蛇に変身した。

 金色の目で、心の中に語りかけてくる。

『私はいつも、貴方のお側におります』

 蛇になったバルドラースは俺の腕に巻き付くと、一瞬で金のブレスレットに変化した。黄金の瞳だけがきょろりと動いている。

 かわいいものは好きだが、爬虫類とか虫は好きじゃないんだ…!こわいーっ!

「…外れない!」

 外そうとしたが、外れない…!仕方なく俺は、ブレスレットをしたまま、孤児院に帰ることにした。
 
 



 孤児院に戻っても、バルドラースに言われたことが脳裏をよぎって、どんな顔をして子供達や院長に会えばいいのか分からなかった。

 門の前を行ったり来たりしている間に夕方になってしまったのだが、日が暮れたにもかかわらず、部屋に明かりがつかない。

 おかしい…!

「カイ、リオ、クレイ?ついでに、院長~!おーい?」

 慌てて中に入り、部屋を探すが人の気配がない。

「……」

 誰もいない室内を歩いていると、胸の中にバルドラースの言葉が反響する。

『ビョルンが貴方を暗黒神オルドだと知ったのは、孤児院の子供達に聞いたからですよ』

 あれは、悪気はなかったはずだ。

 虫取りをしたり遊んでもらって、ビョルンに好意を持ったから、話したに過ぎない。
 
 ーーでは…、今ここに、子供たちがいない理由は…?

「にゃーん」

 いつもは飾り棚で置物のように寝ている猫のルナちゃんが珍しく、俺を迎えに廊下を歩いてきた。

「どうしたんだ…?」
「にゃあー」

 ルナちゃんを抱き上げて、飾り棚のところへ行ってみると、いつもと変わらず、俺が作った猫の置物とダンゴムシがあった。

「とくに、何も変わったことはないみたいだけど…。うん…?」

 俺は自分が作った、力作のダンゴムシを摘まみ上げた。すると…、木彫りのダンゴムシが突然、蠢き始めた。

「ひいいいい!ほほほほ、本物になってるぅぅーーっ!」

 しかも本物のダンゴムシを素手で掴んじゃったぁーーっ!うわぁぁん!

 ダンゴムシがいるからルナちゃんが棚の上に乗らなかったんだな?!

 近くにあった箒でダンゴムシを床に落とし、ルナちゃんを棚に置き、手を洗った。

「まだ、手にうっすら小さい足がうごうごした感触が残ってるぅ…」

 なんだって、こんな悪戯を…。

『俺の作ったダンゴムシが気に入らなかった。それに先日木彫りの像を焼かれた、仕返しだ』

 ーーそれは、そうかもしれないが…。あくまでこれは『悪戯』だろう…?

『本当に、悪戯なのだろうか…』

 ーー現にここに子供達の姿は、ない。

 俺は浮かんでくる言葉を振り払うように頭を振った。手を洗い終えた後、もう一度飾り棚の前へ向かう。

 
 ダンゴムシがいたそばに、一通の手紙が置いてあることに気が付いた。

 手紙の表には、暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖様へと書かれている。

 急いで封を開け、手紙を読んだ。

 親愛なる、暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖様。子供達は預かった。返してほしくば、明日、王城で開かれる夜会に来られたし。

「な…?!」

一体誰が、こんなものを…?!

 それに、なぜ、夜会なのだ…?

 何にせよ、子供たちがさらわれたのだ。行かないという選択肢はないが…。夜会に暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖を呼びつける、理由とは…?

 背筋がぞくりとした。考えたくないのに、心の中から、誰かが語りかけてくる。

『これは罠じゃないのか…?元々あいつらは、俺を売ったのだから』

 ーー違う…。俺を売ったのが子供達なら、ダンゴムシは置いていかなかったはずだ。ダンゴムシはリオの家族なんだから、置いていかない。

『でもダンゴムシのことを家族だと言っていたくせに、悪戯の道具にした。結局、家族じゃなかったんじゃないか?ダンゴムシも、俺も…』
 
 ーークレイは、本当の家族に会いたくて家出をした。他の二人も、ひょっとして、俺を家族とは思っていないのか…?

「くそ…っ!」

 きっと、こんな事を考えてしまうのはバルドラースのブレスレットのせいだ…!

 しばらく格闘したが、ブレスレットは外せなかった。

 仕方なくブレスレットをしたまま眠り、翌日、日が落ちると同時に子猫に変身して、孤児院を出た。

 


 猫になればブレスレットは外れるかと思ったが、一緒に小さくなり、前足に巻きついている。

『走りにくいし、迷惑なんだけどっ!』

 バルドラースはチラリとこちらを見ただけで無反応だ。

 バルドラースと争っても仕方ない。俺は子供達を取り戻すため王城へと急ぐ。

 王城の正門へ続く道には、すでに長い馬車の列ができていた。

 どの馬車も装飾が見事で、金細工や家紋が月明かりにきらめいている。馬車を引く馬たちも立派で、その様子からも、今夜の夜会がいかに華やかなものかがうかがえた。

 しかし列の進みが遅く、いらだった御者が兵士に文句を言い始めた。

「我が主人は、今日、王太子殿下と聖女様より直々に招待を受けております。ですから、優先で通していただけないでしょうか?」
「凶悪犯の暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖が捕まっていないので、入城に際して魔封じの術をかけることになっています。それで、皆様、平等にお待ちいただいております」

 兵士はまるで暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖のせいだと言わんばかりの態度だった。

 すると、その御者の主人と思われる男が馬車から降りてきた。

 その男は……!

「おい、私を先に通してくれ!今日は我が娘も主役の一人なのだぞ!」

 成金趣味の華美な服に身を包んだその男は、つい先日会った、誘拐された娘の父親だった。

 それに…。
 その時は地味な服を着ていて気が付かなかったのだが、その男はエミリアから暗黒神オルドのお守りを買った男でもあった。

「今夜の王太子殿下と聖女様のご成婚発表とともに、私の娘はコンラッド・ハーケンベルク騎士団長との婚約を発表するのだ!」
「え…っ?!」
「知らないのか?早く上官に聞いてまいれっ!」
「は、はい…。お待ちください!」

 コンラッドと、婚約?!こいつの娘が…どうして?!
 
 兵士は慌てて確認に行くと、またすぐに戻ってきた。そして、あの男の馬車は、列を外れて入り口へと進んでいく。

 つまり、あの男の言っていることは本当だったということか。

『すると、コンラッドがあの招待状を置いた可能性もあるのではないか…?俺をはめて捕まえ、助けた娘と結ばれる…』

 ーー違う、コンラッドは俺を信じると言ってくれた…!

 必死に、心の声にふたをして、門の方へ向かうと、人々の噂話が聞こえてきた。

「何なんだ、あの男。家紋もない、一般市民の成金だろう?あんな奴と由緒正しいハーケンベルク家が、何故、婚約を?」
「貧しく卑しい身分の男なのだが、やつの娘が暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖に捕まって、教祖を捕縛するのに一役買ったらしい。それで報奨金に加えてハーケンベルク家との婚約まで手に入れたようだ」
「なんと…!しかしまだ、暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖は捕まっていないだろう?」
「私も噂でしか知らないが、捕まえる、めどが立ったということなのだろう…」

 なんだ、その話は。それは、おかしい…!

 暗黒神教団オルド・テネブラルム教祖の正体を聖女に話したのはビョルンであってあの男ではない。しかもまだ、俺が捕まっていないうちに、娘の父親が報奨金を得ただと…?

 そもそもあの男は、娘が見つかる以前にエミリアから金貨を三枚も出して暗黒神オルドのお守りを買っている。
 娘が見つかる前のあの時点で、なぜ身分の低い、貧しいはずの男がそんな大金を持っていたのだ?

 それにお守りを買った目的も、性病の予防と避妊だったはず。娘を誘拐された父親が、そんな派手な遊び方をするものなのか…?

 男はついに、王城の門の前まで到着した。

 俺はあの男を追うことにしたが、王城へ入る前に魔封じの術がかけられるから、猫の姿のまま入ることは出来ない。

 このまま魔法を解くと裸になってしまう。

 服を着替える場所を探して…キョロキョロあたりを見回すと、バルドラースが話しかけてきた。

『ご心配召されるな。貴方に相応しい装いをご用意しましょう』

 バルドラースの言葉に頷き、魔法を解くと、俺の体はたちまち、美しい衣に包まれた。

 漆黒のローブは、天の川のように細かな銀糸で星を描き、肩には黒曜石の装飾が輝いている。長い裾が揺れると、闇に煌めく星が花弁のようにきらきらと舞う…。

 門に向かって歩いていくと、辺りは静まり返った。

 門番の兵士は、頬を染め、ただ茫然と立ち尽くしている。

 入り口で魔封じの術をかけられた男は、俺を見て目を見開いた。

「あ、あの…!貴方様は…」
「……」
「…申し訳ありません。高貴な方に、お名前を伺うなんて…!でもあまりに美しいので…、つい…」

 男は勝手に誤解をして、媚びるように俺に擦り寄ってきた。そして、にやけた顔で囁く。

「私は王城に個室を用意されています。そこで、貴方を歓待させていただきたい」
「しかし、今夜は奥様や、お嬢様がいらっしゃるでしょう?」
「娘と妻は、別の用があり、入城してからは別行動ですから、ご安心を…!貴方と今夜、過ごせるのなら、なんでも好きな物を贈ります…!」
「……好きなものを、何でも?」
「ええ。今の私に、手に入れられないものはありません!」

 なぜ、そんなに自信があるのだ…?

 やはり、おかしい…。

 そういえばコンラッドも、以前この男を調べていると、言っていた。

 ……もっと探れば、何かわかるかもしれない…。俺が犯人でないと、証明できれば…。
 
 ――希望が、出てきた…!

 単純かもしれないが、少し心が明るくなる。


 そして、俺は男に促され、王城の門をくぐった。
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