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7.デュラク領へ
断罪からの一連の出来事は俺と結婚するためだったと白状したルシアンは、改めて俺に言った。
「人の良いお前のことだ。アナスタシアに悪いことをしたと思っているかもしれないが…。ジルが気に病む必要はない。」
ルシアンは、弟のエリックが立太子を目論み、アナスタシアに接近してシモン公爵家を取り込もうとした動きを察知し、今回の断罪劇を思いついたのだとか。
「アナスタシアはエリックに口説かれてすぐ靡いていたから、俺のことは渡りに船だったはず。それと名誉のために言っておくが、レベッカを襲った暴漢を雇ったのはエリックだ。」
なるほど…、エリックの企てに乗っかった、ということか。でもそれで廃嫡なんて、失うものが多すぎないか?
「いや、王太子はエリックでもなれるが、ジルの夫はたった一人しかなれない。だからこれはまたとない好機だと思って乗っかったのだ。陛下も実質国政を執り行う私や金庫番のお前を内心では邪魔だと思っていたからな。想定通りに事は進んだ。」
俺のことも、陛下が?!俺はちょっと細かい会計係に過ぎないのだが…そんな俺を、邪魔だと思っていたなんて。俺は少し、王族が怖くなった。
そんな俺に気付いたのか、ルシアンは俺に向かって微笑んだ。
「お前と結ばれたくてしたこととはいえ…ジルには怖い思いをさせてしまったな。本当にすまない…。散々、色々画策した後で信じてもらえないかも知れないが、その、無理やりするつもりはない。ジルの気持ちが俺に向くのをじっくり待つつもりだから……。」
ルシアンは俺に「ジルは鈍い」と言ったが、どうやらルシアンもちょっと鈍感らしい。だって『罰』のための結婚だと言われて嫌な気持ちになっていたのは俺がルシアンを好きだからだ。それに気が付かない、なんて…。
俺は可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
「ジル!私の気持ちを笑うな!」
「す、すみません…!殿下が急に可愛らしくなってしまって…。」
「そうだろう?」
俺が笑うと、ルシアンも満面の笑顔で俺を抱きしめた。もう一度、口付ける…。角度を変えて、ルシアンが俺の唇を舐めた、その時……。
「ルシアン殿下~っ!お楽しみのところ、申し訳ありません…!」
「いや、まだまだこれからって時だぞ?!」
ルシアンと俺が振り返ると、御者二人は馬を一頭だけ連れてやって来た。二人とも、服が乱れてボロボロだ。
「どうしたんだ?!その格好は…!?」
「実は、殿下がジルベール様を追って飛び出して行った後、物取りに遭ってしまいまして…!私たちでは全く敵わず、馬車ごと荷物を奪われてしまいました!」
「な、何だって…!?」
ルシアンはみるみる顔色が悪くなっていく。
「お前たち、腕も立つと言っていたではないか…!あの中には大切な…ジルの正装に私考案の透け透けのレースのいやらしい夜着と下着が、全部入っていたんだぞ?!私の夢の初夜が…!お前たちどう責任を取るつもりだっ!!」
ちょ……御者にまで何てこというんだ!ルシアンのあまりの剣幕に御者も涙目になっている。俺は慌ててルシアンを止めに入った。
「ルシアン殿下、命には代えられません!無事で良かったではありませんか…。」
俺がルシアンを宥めると、ルシアンは「それはそうだ…」と渋々引き下がった。その後の「型紙があるからまた作れるだろうか…ついでにもっと大胆に布面積を減らして…」というルシアンの呟きは、聞かなかったことにした。
馬車がなくなってしまったので、俺たちは御者と別れて唯一残った馬に乗ってデュラク領へ向かうことにした。手持ちの僅かな金を除いて旅費も荷物も全て盗まれてしまったから、御者の給金を先払いしていた事には救われた。
ルシアンが楽しみにしていたセーデルでの結婚式もお預け…。教会で結婚式だけなら、金がなくても引き受けてくれそうな気もしたのだが、ルシアンが断固拒否したのだ。なぜなら…。
「ジルの正装姿を目に焼き付けてからの初夜が私の夢なんだ!ジルとの初夜は今生で一回しか無いのだぞ?!」
と、言って譲らなかった。今生でって、来世でも結ばれるつもり?それに、心眼の使い手なんだから、心の眼で見たら良いのに…。でも、そんなに楽しみにしてもらえているということは嬉しくもあったので、ルシアンに従う事にした。
セーデルを立つ前に、ルシアンと俺は教会に行った。
ルシアンは教会に、『お守り』を返すのだと言う。その為に、少し早めに教会に来たかったらしい。ルシアンのお守りは俺が貰ったものと同じだったが、無惨にも破かれた跡がある。
「それは教会に返してしまわれるのですか?」
「そうだ。これは願掛けの札で願いが叶ったら礼を言って返すものなのだ。」
「願い?」
たしか悪運を退けるものだったはずだが…。
「ジルと上手くいくように…願いを書いてもらったのだ。一度振られた時に頭に来て破いたのだが、念の為取っておいて良かった!」
「では、私の分も返した方が…。」
俺が内ポケットからお守りの札を取り出すと、ルシアンはそれを取り上げて俺の内ポケットに戻した。
「これはまだ叶っていないから、そのまま持っていてくれ!」
「婚約までしたのに?これには何と書いてあるのですか?!」
「ごくごく健全な内容だ。」
…絶対健全な内容じゃない!しかもこれ、『書いてもらった』って言ったけど…。何となく教会の神父たちがニヤニヤしてる気がする…!は、早くここを出た方がいい!それだけはわかった…。金を盗まれて新しいお守りを買う金がなかったから、なんとか新しい願掛けは回避できた…。
最後にルシアンが俺に見せたいと言っていた、入江に夕焼けが沈む景色を一緒に見ることにした。
水面に映る、城や街並みがオレンジに染まる…。余りの神秘的な光景に俺たちは感極まってまた、口付けた。
セーデルから更に二日掛けてイチャイチャ二人乗りを楽しんだり野営したりしながら、鉱山の町…今は閉山されているため、『石ころの町』と呼ばれているデュラク領に到着した。
「想像以上に荒れ果てているな。」
馬で領都…と呼ぶには憚られるような街を見ながら、ルシアンはため息を吐いた。
ルシアンをより落胆させたのは、デュラク領の教会の光景だった。閉山の後、不景気が長く続いたため家を無くした者たちが雨風を凌ぐため教会に大勢集まっていたのだ。
まさかそこで、華燭の典などあげられるわけはなく…結婚式は断念せざるを得なかった。
ルシアンが用意した俺たちの住まいは、以前官舎として使われていた邸だった。官舎といいながら官吏は居らず、全く機能していない様子。
「大丈夫だ!準備は万全。すぐに解決して、結婚式をあげよう!」
「し、しかし…どのように?!もう直轄地では無いのですからフランクールの金は当てになりません。殿下の私財は国庫の金を使い込んだ罪で凍結されているし…!」
「私の使い込みの罪は陛下のでっち上げだ。私は合法的に、ここに金を送っている。安心しろ、ジル!」
ルシアンはニヤリと笑った。それは断罪された日と同じ、実に、不敵な笑みだった。
「ジル、手伝ってくれ。」
ルシアンの問いに、俺は一も二もなく頷いた。
「人の良いお前のことだ。アナスタシアに悪いことをしたと思っているかもしれないが…。ジルが気に病む必要はない。」
ルシアンは、弟のエリックが立太子を目論み、アナスタシアに接近してシモン公爵家を取り込もうとした動きを察知し、今回の断罪劇を思いついたのだとか。
「アナスタシアはエリックに口説かれてすぐ靡いていたから、俺のことは渡りに船だったはず。それと名誉のために言っておくが、レベッカを襲った暴漢を雇ったのはエリックだ。」
なるほど…、エリックの企てに乗っかった、ということか。でもそれで廃嫡なんて、失うものが多すぎないか?
「いや、王太子はエリックでもなれるが、ジルの夫はたった一人しかなれない。だからこれはまたとない好機だと思って乗っかったのだ。陛下も実質国政を執り行う私や金庫番のお前を内心では邪魔だと思っていたからな。想定通りに事は進んだ。」
俺のことも、陛下が?!俺はちょっと細かい会計係に過ぎないのだが…そんな俺を、邪魔だと思っていたなんて。俺は少し、王族が怖くなった。
そんな俺に気付いたのか、ルシアンは俺に向かって微笑んだ。
「お前と結ばれたくてしたこととはいえ…ジルには怖い思いをさせてしまったな。本当にすまない…。散々、色々画策した後で信じてもらえないかも知れないが、その、無理やりするつもりはない。ジルの気持ちが俺に向くのをじっくり待つつもりだから……。」
ルシアンは俺に「ジルは鈍い」と言ったが、どうやらルシアンもちょっと鈍感らしい。だって『罰』のための結婚だと言われて嫌な気持ちになっていたのは俺がルシアンを好きだからだ。それに気が付かない、なんて…。
俺は可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
「ジル!私の気持ちを笑うな!」
「す、すみません…!殿下が急に可愛らしくなってしまって…。」
「そうだろう?」
俺が笑うと、ルシアンも満面の笑顔で俺を抱きしめた。もう一度、口付ける…。角度を変えて、ルシアンが俺の唇を舐めた、その時……。
「ルシアン殿下~っ!お楽しみのところ、申し訳ありません…!」
「いや、まだまだこれからって時だぞ?!」
ルシアンと俺が振り返ると、御者二人は馬を一頭だけ連れてやって来た。二人とも、服が乱れてボロボロだ。
「どうしたんだ?!その格好は…!?」
「実は、殿下がジルベール様を追って飛び出して行った後、物取りに遭ってしまいまして…!私たちでは全く敵わず、馬車ごと荷物を奪われてしまいました!」
「な、何だって…!?」
ルシアンはみるみる顔色が悪くなっていく。
「お前たち、腕も立つと言っていたではないか…!あの中には大切な…ジルの正装に私考案の透け透けのレースのいやらしい夜着と下着が、全部入っていたんだぞ?!私の夢の初夜が…!お前たちどう責任を取るつもりだっ!!」
ちょ……御者にまで何てこというんだ!ルシアンのあまりの剣幕に御者も涙目になっている。俺は慌ててルシアンを止めに入った。
「ルシアン殿下、命には代えられません!無事で良かったではありませんか…。」
俺がルシアンを宥めると、ルシアンは「それはそうだ…」と渋々引き下がった。その後の「型紙があるからまた作れるだろうか…ついでにもっと大胆に布面積を減らして…」というルシアンの呟きは、聞かなかったことにした。
馬車がなくなってしまったので、俺たちは御者と別れて唯一残った馬に乗ってデュラク領へ向かうことにした。手持ちの僅かな金を除いて旅費も荷物も全て盗まれてしまったから、御者の給金を先払いしていた事には救われた。
ルシアンが楽しみにしていたセーデルでの結婚式もお預け…。教会で結婚式だけなら、金がなくても引き受けてくれそうな気もしたのだが、ルシアンが断固拒否したのだ。なぜなら…。
「ジルの正装姿を目に焼き付けてからの初夜が私の夢なんだ!ジルとの初夜は今生で一回しか無いのだぞ?!」
と、言って譲らなかった。今生でって、来世でも結ばれるつもり?それに、心眼の使い手なんだから、心の眼で見たら良いのに…。でも、そんなに楽しみにしてもらえているということは嬉しくもあったので、ルシアンに従う事にした。
セーデルを立つ前に、ルシアンと俺は教会に行った。
ルシアンは教会に、『お守り』を返すのだと言う。その為に、少し早めに教会に来たかったらしい。ルシアンのお守りは俺が貰ったものと同じだったが、無惨にも破かれた跡がある。
「それは教会に返してしまわれるのですか?」
「そうだ。これは願掛けの札で願いが叶ったら礼を言って返すものなのだ。」
「願い?」
たしか悪運を退けるものだったはずだが…。
「ジルと上手くいくように…願いを書いてもらったのだ。一度振られた時に頭に来て破いたのだが、念の為取っておいて良かった!」
「では、私の分も返した方が…。」
俺が内ポケットからお守りの札を取り出すと、ルシアンはそれを取り上げて俺の内ポケットに戻した。
「これはまだ叶っていないから、そのまま持っていてくれ!」
「婚約までしたのに?これには何と書いてあるのですか?!」
「ごくごく健全な内容だ。」
…絶対健全な内容じゃない!しかもこれ、『書いてもらった』って言ったけど…。何となく教会の神父たちがニヤニヤしてる気がする…!は、早くここを出た方がいい!それだけはわかった…。金を盗まれて新しいお守りを買う金がなかったから、なんとか新しい願掛けは回避できた…。
最後にルシアンが俺に見せたいと言っていた、入江に夕焼けが沈む景色を一緒に見ることにした。
水面に映る、城や街並みがオレンジに染まる…。余りの神秘的な光景に俺たちは感極まってまた、口付けた。
セーデルから更に二日掛けてイチャイチャ二人乗りを楽しんだり野営したりしながら、鉱山の町…今は閉山されているため、『石ころの町』と呼ばれているデュラク領に到着した。
「想像以上に荒れ果てているな。」
馬で領都…と呼ぶには憚られるような街を見ながら、ルシアンはため息を吐いた。
ルシアンをより落胆させたのは、デュラク領の教会の光景だった。閉山の後、不景気が長く続いたため家を無くした者たちが雨風を凌ぐため教会に大勢集まっていたのだ。
まさかそこで、華燭の典などあげられるわけはなく…結婚式は断念せざるを得なかった。
ルシアンが用意した俺たちの住まいは、以前官舎として使われていた邸だった。官舎といいながら官吏は居らず、全く機能していない様子。
「大丈夫だ!準備は万全。すぐに解決して、結婚式をあげよう!」
「し、しかし…どのように?!もう直轄地では無いのですからフランクールの金は当てになりません。殿下の私財は国庫の金を使い込んだ罪で凍結されているし…!」
「私の使い込みの罪は陛下のでっち上げだ。私は合法的に、ここに金を送っている。安心しろ、ジル!」
ルシアンはニヤリと笑った。それは断罪された日と同じ、実に、不敵な笑みだった。
「ジル、手伝ってくれ。」
ルシアンの問いに、俺は一も二もなく頷いた。
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