断罪ざまあ展開により俺と嫌々結婚するはずの王子のうきうきわくわくが全く隠し切れていない件について

あさ田ぱん

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8.復興

 ルシアンが断罪前、最後に申請した灌漑工事の稟議…。あれはなんと、デュラク領のものだったのだ。あの時は確かに直轄地であったから合法ではあったので、稟議は通り支払いも行われた…。

 支払いを処理したのはこの俺。議会の議事録との整合性は確認したが、場所については今の今まで、すっかり忘れていた。まるで計った…いや、ルシアンが計った通りに今しがた王都よりその金が元官舎であり現、俺たちの邸に到着し、目の前に積み上げられたのだ。


「少し多めに稟議を出しておいてよかった。いまから必要なものを再度洗い出して、何に使うかもう一度検討しよう。」
「教会の、恵まれないものたちへの支援を優先しますか?」
「それも大切だが…それで救われる者はほんの一握り。それよりもまずはこの領のものたちを雇い、速やかに灌漑工事を行おう。給金を手にした者たちは街で飲み食い買い物をする。そうやって金を循環させた方がいい。」
「なるほど、では早速灌漑工事の見積もりをいたします。」
「私は地場の貴族たちに声をかけて働けるものを募る。それにレース編み職人と仕立て屋も探さねばならない!急ごう!」
 レース編みと仕立て屋?!それってまさか、この期に及んで…?!
「特にレース編みが全てにおいて最優先だ!型紙は私の心眼で再現可能だが、レース編みは難しい!たっぷり予算を割いてくれ!」
 やっぱり、恐れていた通り盗まれた下着のことを言っている!優秀な金庫番としては、そんなものに予算は割けません!そう俺が言うよりも先にルシアンは颯爽と邸を出ていった。


 ルシアンは早速、灌漑工事…水道と水車を作る工事を行なった。
 水道による計画的な水の供給…それは農地改革のために行われた。
「土地が痩せているのは、同一の作物を作り続けているからだ。地区ごとに、育てる物を変えよう。その時々の値入れも、備蓄や税を調整するなどして、価格を安定化させて…。」

 ルシアンは水車を農作物以外にも機械動力として使用することとし、突貫で鋳物製造工場を作った。
「もともと鉄を採掘していた町だから、鋳物を作る職人が多くいる。水の都…港もまあまあ近い。安い鉄を買って、加工する…。火力以外の動力も使って量産すれば利益は出るはずだ。鉱夫の再就職にもちょうどいい。」

 連日、邸には地場の貴族たちがやってきて、話し合いが持たれた。ルシアンは積極的に意見を聞き、現場も視察して回ったので、毎日、息つく暇もない多忙を極めた。
 俺もルシアンを陰ながら支えるべく、金庫番として事務的なことの一切を請け負った。


 そうして、あっという間に月日は過ぎ去った。



 ルシアンと俺は、二年経った今も、結婚式をあげていない。二年間、デュラク領の復興のため、それはもう必死で働いていて、それどころではなかったのだ。
 その甲斐あって今、領はかつて鉱山の街として栄えた頃の賑わいを取り戻しつつある。邸にも人を雇って事業も順調に拡大していた。

 俺たちの仲は良好だったものの、結婚前だからとルシアンは夜の夫夫生活を行わなかった。ごく稀にルシアンの暴れん棒の息子さんが眠れないと我儘を言って、俺の足の間に入ってくるくらいで…。寝室も別々で、想像以上に健全な生活を送っていた。そんな日々を過ごすうち時折り、ひょっとして、ルシアンの気持ちが冷めてしまったのかな、と不安に思うこともあった…。

 もう間も無くデュラク領に来て、三年目を迎える…そんなある日。ルシアンは新しく作ったと言う工場を見に行こうと俺を誘った

「新しい工場は、石を研磨して加工する工場だ。」
「石を?」
「そう、これだ。」

  ルシアンは俺に、石を取り出してみせた。表面は黒いが、割られた断面は美しく、赤い色をしている。

「ルシアン殿下、これは?」
「これは瑪瑙。美しいだろう?瑪瑙は高価な石ではないことから、長年ほったらかしになっていて、この辺りの川辺にゴロゴロしているんだ。」
 しかし、とルシアンは言いながら、俺を工場の中へと招き入れた。
「この領に目をつけたのは、この瑪瑙があったからだ。加工すれば…美しい。きっと、売れると思った。それに…。」
   ルシアンは見ていてくれ、と言って、持っていた瑪瑙石を削らせた。
「水車の動力で簡単に削れるように機械を作った。それで…。」

 ルシアンはポケットからゴソゴソと何かを取り出すと、指で摘んで俺の前に翳した。

「私が作ったんだ。以前購入したものは盗まれてしまったから…。」

  ルシアンが取り出したのは指輪だった。瑪瑙石を削って作ったらしい、赤い指輪。

「私の瞳も同じ赤。それに、運命の赤い糸…と言うだろう?お前の運命が、いつも私と共にあるように願いを込めた。」

 ルシアンは俺の指に、ゆっくりと指輪を嵌めた。それがあまりにぴったりと、吸い付くように指に入ったので俺は息するのも忘れそうになった。

「指の大きさ、ピッタリだ…。すごい…。」
「言ったろう?私は心眼の使い手だと。それも、写実主義のな?……いや、それより、感心するところがおかしいぞ!ジル!」
「だって…寝室もいつまでも別で…もう殿下は心変わりされたのかもしれないと…。まさか、こんな素晴らしいものをいただけるなんて…思っていなくて! 」
「寝室を別にしたのはこれを作るためでもあったが…そもそも毎日一緒に寝たら、我慢できなくなるだろう!それくらい気付け!鈍感なやつだ!」
 
 ルシアンは息も出来ないくらい、俺をきつく抱きしめた。

「ジル!結婚するぞ!」

 涙が止めどなく溢れ出て返事ができない。返事の代わりに、俺はルシアンを抱きしめ返す。俺の仕草に気が付いたルシアンが、俺に口づけて……。

 それと同時に工場にいた人たちからも、歓声と拍手が沸き起こった。
 二年前の断罪劇からは想像も出来ないほどの祝福のなか、俺たちはついに結婚することを決めた。
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