無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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一章

8.ジークの涙

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 人間が病気の時、治療院に行くとは説明していなかったから、ジークは娼館で気を失った俺を昨日の宿屋に連れて帰ったようだ。

 俺が目を覚ますとジークは心配そうに、俺の胸に手を当てながら顔を覗き込んでいる。

 夜も明けず、ベッドサイドの灯りが一つしかついていない室内は薄暗かったが、ジークの瞳は爛と輝いていた。

 俺がその瞳を見つめると、ジークは顔を歪める。
 
 それもそのはず。胸のあざが更に広がっていて、麻痺のせいで痛みは感じないが、身体を動かせない。

 俺、やっぱり……もう…?

「エリオ…俺のせいだ。俺の体液は人間にとって毒だったのを忘れていた… 」

 そっか…凄く、甘くて美味しかったけど…。ひょっとして、猛毒って甘いのか?
 ジークは真剣な顔で俺を見つめる。

「エリオ…大丈夫だ。死んでも、一緒にいよう。お前から大量の毛が生えたとしても、俺はお前が好きだ。ちゃんと梳かして整えて、エリオの形にしてやるよ」

 何だよそれ…!

 ひょっとして、ジークは人が死んだら、ジークの母親みたいに『怨念』になるとでも思ってるのか?と、言うことは、ジークの母親も魔物ではなく元は人だったということ?
 でも俺は怨念になるほど、この世に未練がない。いつも自分の運命は受け入れて、仕方ないと飲み込んできたから。

「じ、ジーク…俺は怨念にはならないよ?」

  ジークに期待だけさせて、がっかりさせるのも申し訳ない。なんとか声を絞り出して伝えると、ジークは目を見開いた。

「じゃあ、心臓が止まったら?」
「さよならだ…」
「さよならって…」

  ジークの問いかけに、答えようとしたができない。せめて、『お前のせいじゃない』って言いたかったけど、言えそうにない。

「教えてくれよ…」

  ジークの質問にも、やはり答えられなかった。

「…このまま『さよなら』したらもう、エリオと話せないってこと…?」

 …そうだよ。俺はなんとか、頷いた。

「……エリオ、そんなのいやだ。いやだ…!」

 ジークの目から大粒の涙が溢れ落ちた。すごく、綺麗な涙だった。透明だけど、ジークの瞳の金が反射したのか溶け出しているのか、キラキラと輝いている。

 夜空に煌めく星みたいに、金色の瞳から溢れた涙は次々と俺の胸に落ちた。ジークは不思議な男だ。百年以上生きていると言うのに、素直だし、こんなにポロポロ泣いて…。
 子供のように、泣きすぎだろう。このままだと、涙が流れ過ぎて、川になるかもしれない…。

「な…かないで…」

 なんとか声を絞り出して、手を伸ばしジークの頬に触れる。

 その時、いつもとは違う感情が込み上げるのを感じた。今まで何でも、仕方ないと受け入れて、諦めてきた。昨日だって、いや、今、ついさっきまで、このまま逝ったら幸せなんじゃ無いかとさえ考えていた…。

 でも……この終わり方だけは、受け入れられそうにない。ジーク、お前を悲しませたくない。お前の心に傷を作りたくない…。

 俺はこの世に、どうしても受け入れられないこと、諦められないことがあるということを、たった今、知った。怨念になんてなれないと思っていたけど、俄然、なれる気がして来るから不思議だ。

「ジーク…」

 俺たちは見つめ合い、どちらからともなく、触れるだけの口付けをした。
 少しずつ、意識が遠のく……。

 今際の際、俺は確信していた。多分、俺は怨念になるはずだ。間違いない…!

 ーー良かった……そうすれば、ジークの望む通り、死んでも一緒にいられる…。


***



 次に目を覚ませばきっと、俺は怨念になっていると思っていた。

 しかし、怨念にはなっておらず、教会の治癒院のベッドの上で思いのほか元気に目を覚ました。身体も動かせるし、かなり広範囲に広がっていた痣も、完全に消えてはいないものの目に見えて小さくなっている。一体、何故…?

 それに、昨日俺を抱きしめて泣いていたはずのジークが、ここにはいない。ほっとしたような、がっかりしたような…。
 いや、やっぱりいなくてよかった。あんなに泣いて、口付けまでしたのに、元気になっちゃってさ!ちょっと、いやかなり恥ずかしいんだけど…!ジークにどんな顔して会えば良いのか、分からない…。

 それにしても、何故元気になったんだ?昨日は確かに、身体も動かせないし、痣も酷く広がって瀕死の状態だったはずなのに。

 昨日のことは夢ってことはないよね?まさか、そんな…。

 それに俺、なんでここに?

「エリオ!良かった!気がついたんだな…!」
「ジーク!それに…、ロザリー様!」

 俺がベッドの上で身悶えていると、ジークとロザリーが部屋に入って来た。

「エリオ、本当にすまない…!俺、分かっていなかったんだ。『人間の死』が……」
「ジーク、仕方ないよ。お前のせいじゃないし、それにレオのせいでもない!だから気に病まないでくれ…。それだけは言わないと逝けないって思ってた」

 ジークは駆け寄ってきて、俺をぎゅと抱きしめる。

「エリオを昨日、ジークフリートが連れて来たのよ。先日見た時より回復していたから驚いたわ」

 ロザリーはニコリと微笑んだ。その笑顔に嘘はないように見えた。

「ありがとうジーク。運んでくれて」
「だって約束を破ると、針を千本飲まされるんだろう…?それは困るから」

 ジークは眉を寄せている。

 おまじない、言葉のままに受け取っていたらしい。俺よりずっと、ジークの方が、かわいいじゃないか…。俺は思わずジークを抱きしめ返した。ジークはそんな俺の髪を優しく撫でる。

「エリオ、ロザリーが言うには、お前の症状は少し良くなっていて、今すぐどうこうと言うことではないらしい。だからこの間に、俺は怨念ははおやのところに行ってくる。レオがアイツから生まれたのは確かだ。だから…」
「で、でもお前の母親は、お前が真っ二つに…!」
「アイツは『怨念』だから…、燃やさない限り切ってもつながる」

 なるほど、…怨念だから見えてはいるけど、実体は無いんだな?それであの時、切っても大丈夫だといったのか。

「でも、無理しないでくれよ…。俺は…」

 俺はいいんだ、と言おうとして、口をつぐんだ。本当にこのままでいいのか?昨日、あんなに後悔したのに…。 
 ロザリーがいつのまにか、俺のベッドの側まで来ていた。ロザリーも、俺の顔を優しく覗き込む。

「昨日、ジークフリートから話は聞いたわ。エリオ、彼に調べてもらいましょう?瘴気を身体から取り除く方法を」

 ロザリーの問いかけに、俺は静かに頷いた。

 それを見たジークは手を握り、俺の額に自分の額を押しあてる。目を瞑って祈るような姿は、美しいを通り越して神々しい。
 ジークはゆっくりと目を開けて、俺の目を見ると囁いた。

「本当はもっと早く俺が母親と決着をつけていれば良かったんだ。それをお前に頼ったから、こんなことに…」
「そんな…」
「でも、もう逃げない。エリオ、俺と生きよう。そのために、俺は行く」
「じゃあ、俺も行く。でないとまた、ジークが迷いの森から出られなくなる」
「あいつは、エリオに危害を加えるかもしれないから、エリオはここにいてくれ。俺は大丈夫。エリオの匂いを覚えてる」

 俺の匂い…?しかも俺が歩いてから、かなりの日数がたってるけど。俺の心配を察したジークは少し笑った。

「遠くにいても、エリオの方角が分かる。大丈夫だから。念の為レオを置いていく。エリオを守らせる」

 ベッドの隅にいたレオも、こくこくと頷く。そうしてると本当に、飼い犬のようだ。、

「……わかった。待ってる」
「待っていて。絶対、エリオを死なせたりしない。…もし、エリオが怨念になったら……毛が邪魔して昨日の続きも出来なくなってしまうだろ?」
「え…!?」

  ジークの真の目的は、えっちなことするためなのか…?!魔物っていっても結局、男なのか…?俺が赤くなるとジークは唇にちゅっと口付けた。

「行ってくる!」

 ジークは先日、俺たちが出ていった方法で…、二階のベランダから飛び出していった。慌てて追いかけたが、もう、姿は見えない。

  ジーク、俺…、もう諦めなくて良い?お前と過ごせる、未来を…。

 バルコニーからジークが消えた方向を見つめていると、ロザリーが隣で遠慮がちに、咳払いした。ロザリーは俺たちの関係に気がついたようだ。

「私は好き合う二人の邪魔はしないわ…」

 そう言ったロザリーの頬は少し赤くなっている。もう一度、咳払いすると、真剣な顔をした。

「エリオ、聞いて。私も瘴気について調べたのよ。…瘴気の源、竜について」

 ロザリーは眉を寄せ、表情を曇らせた。その顔を見ただけで結果はおおよそ予測がついたのだが、俺はロザリーの答えを待った。

「なかったわ…。正式な国の文書として、竜の記述が残されていないの。まるで抜け落ちたかのように…」
「もともと竜なんて、存在していなかったのでしょうか?」
「こんなに…伝承が残っているのに…?教会が祀っている水神は、確かに竜なのよ…!?」

 瘴気を撒き散らすに至った竜の記述が、何故残っていない…?
 俺たちは、顔を見合わせた。

「アートルムにないなら、アルバスにはあるかもしれません。アルバスの方がより、竜に近い、北側にある」
「私もその可能性を考えたわ…」

  ロザリーも、俺の意見に同意した。それなら…。俺はバルコニーから部屋に戻り、上着を掴んだ。

「待ってエリオ!まさかあなたそんな体で、アルバスへ向かうつもり?!」
「ロザリー様…!俺はもう、諦めたく無いのです!自分の、未来を…!」
「エリオ…!」

  ロザリーは俺のところまで走って来た。俺の肩を掴むと、涙をこぼした。

「……いつの日か脅威になると知りながら私はずっと瘴気問題に目を瞑って来た。でも…私も、エヴァルトと…、この国の未来を諦めない。私も行くわ、エヴァルトを追う…!」

  そうか、エヴァルトはもう、出発してしまったのか。……ロザリーがいてくれるなら心強い。俺は一も二もなく頷いた。

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