無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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三章

26.鍵

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「ジーク!待てよ!」

 力の限り叫んだが、返事は無かった。直後、風が巻き上がり、ジークが空に浮かんだのが見えた。

 行ってしまった……。
 
 早く、何とかして追いかけないと…。壁をよじ登ろうとしたが、思いのほか高く、乗り越えることが出来ない。
 何度目かの失敗をして息を切らしていると、指輪をしていないことに気がついた。少し緩んでいたから、暴れた時に落としてしまったのだろうか…?

 地面を探していると、馬の蹄の音が聞こえた。

「エリオ~?!」

 声の主はクリスティーナだ。まさか、身重の身体で…!?

「クリスティーナ様?!身重の身体で…馬に乗ってきたのですか?!こんな山道を?!」
「この森は庭みたいなものよ。それにね、お腹の子、安定期に入ったようなの。振動が伝わらないように魔法もかけているから大丈夫。器用なのよ、私」
「それにしても…、なぜそんな無茶をしてここに?」
「あの後、セルジュも川へ向かったの。ひょっとして、怪我人が出るかもしれないから、私も追いかけて来たんだけど…。途中で竜の巣に物凄い力を感じて、こちらで戦うつもりなのかと、方向を変えたってわけ」
「ジークも、ここにはいません。川へ向かいました…」
「そのようね…」

   クリスティーナは川へ向かうつもりなのか、馬に鞭を打った。

「クリスティーナ様!私も連れていってください!」
「竜王様はエリオを危険な目に合わせたくないから閉じこめたのではなくて?それを私が出してしまったら、どんな目に合うか、考えただけでも恐ろしいわ…!それにこの馬は1人乗り!」
「あの、クリスティーナ様、私がなぜ閉じ込められていると分かったのですか…?」

   俺は以前、竜の門を開けている。それなのになぜ、閉じ込められていると分かったのだ…?
 やはり、竜の番は血筋だけではなく、前世で竜を助けていないとなれないものなのか…?

「だってこの扉、鍵がかかっているもの!すっごい頑丈そうなやつ!」
「え?!」

   結界がはってあって、ジークの番いでないから開けられないのかと思ったけど…、まさかの物理的な力?!

「クリスティーナ様!その鍵、壊してください!」
「ええ?!それは無理よ!私の魔法は治癒専門だもの…。でも、鍵穴があるわね」
「鍵……?」
「不思議な形だから、普通の鍵じゃ無いのかもね…?丸い、輪みたい。ちょっと歪な気もするわ」
「丸い輪……?」

 ジークのやつ、鍵を渡さないなんて…。鍵がなければ、一度出たら中に戻れないじゃないか!

 それとも、後で渡すつもりだった? 

 丸い、少し歪な、鍵…。

 考え込んでいると、ふと手の甲に何かが触れた。

「わあっ!!」
「エリオっ!?なに?!大丈夫?!」

 思わず大声を出してしまった。手の甲には小さく鼠くらいの大きさのふさふさした真っ黒な生き物がキョロリと丸い目で俺を見ていた。いやこれ、生き物じゃない!

「まだ『怨念』がいた!」
「『怨念』?!ちょっとぉ、大丈夫?!」

 その怨念は俺の手の甲に乗って、少し不安そうに震えている。そして小さく「ジュリアス…」と呟いた。

 ああ、これ…、ファーヴの怨念だ。俺の不安な心に引き寄せられてしまったのだろう、ファーヴの『怨念』。

 ファーヴの遺恨心残りはやはりジュリアスだったんだな。彼を愛して、心配する気持ち…。

「お前、なんだかかわいいな…」

 怨念なんて恐ろしいはずなのに、どこか可愛らしいのは元々が『愛』だからだろうか。同じくファーヴを思う怨念のレオも、口はちょっと裂けているけど犬みたいに可愛いかった。

 川で洗ったら瘴気が薄くなって、ふわふわになったんだ。その後も一旦、川の水で力が弱まり、川に流されてしまった。

 そう言えば、ジークも川の水で瘴気は薄まると言っていたじゃないか。なぜそんな重要なこと、忘れていたんだ…!

 フェリクス川はもともと竜の涙でできている。以前も、瀕死の俺に落ちたジークの涙。ジークの涙を浴びた時、痣が広がるどころか俺は完全ではないが回復した。

 その後はジークの体液全般を避けていたけれど……。

 ――奇しくも、ジュリアスはフェリクス川へ向かった。

 もしかして…。もしかすると、ジュリアスを救えるかも知れない!川の水や、ジークの涙で瘴気を薄めれば、浄化の剣が使えるくらいには小さくできるかもしれない。

 まずはジークに話さなければ…。その為にもここを出ないと!でも、どうやって…?!
 
「エリオ、大丈夫なの?!」
「大丈夫です。それよりジュリアス殿下をお救い出来るかもしれません!早くジークに伝えなければ…!」
「……私が言って、聞いてくれるかしら…?極限状態だと難しいかもしれないわ…」
「俺が行きます。ここから出ないと…!」

  でも、鍵が無い…。やはり、クリスティーナに行ってもらうしか無いだろうか…。俺が俯くと、ファーヴの怨念が俺の指に嵌められた、結婚指輪の跡に触れた。

 ジークが作った、少し歪な金の指輪……。

「クリスティーナ様、か、鍵穴は丸いのですよね?!それって、指輪の形だったり…しますか?!」
「指輪…?そういえば、そのくらいかも知れないわ。女ものにしては少し大きいかもしれないけど…」

 ジーク…!俺が外から入れるように、鍵は指輪にしてくれていたのか…?!
 それなのに、俺、指輪を落としてしまった!

「クリスティーナ様!鍵は俺の指輪です!外に落としてしまって…。そのあたりにありませんか?!」
「本当?!まって探すわね……!」

 クリスティーナが、地面を探してくれているようだが、なかなか見つからない。

  すると、ファーヴの怨念が、門をするりと出ていった。

「あっ、ファーヴ様が…!」
「きゃあー!」

 ファーヴの怨念は扉の隙間からドロドロになって出ていった。『怨念』は実体ではない、思念だ。溢れるように出ていける。

「きゃあッ!何よ、これえ…?!」
「クリスティーナ様、それは悪いものではありません!」
「き、気味が悪い…!…あ、な、何か合図してる!?」

  クリスティーナはしばらくきゃあきゃあと騒いでいたが、ファーヴが示す場所から何かを見つけたらしい。


「エリオ、指輪があったわ!鍵穴に嵌めてみるわね!」

  クリスティーナが指輪を鍵穴に嵌めると、かちゃりと金属音が鳴る。

  鍵が開く軽快な音と共に扉はふわりと開いた。

「開いた……!」
「開いたわ……!」

 信じられない気持ちで、俺達は数秒見つめ合った。クリスティーナの目は涙で濡れている。


「馬、お借りしても?」
「ええ。馬には身体魔法を掛けてあるから、千里を駆けるわ。行って!」

  クリスティーナは俺に再び指輪を渡した。元あった場所に指輪を嵌めると俺は馬に跨る。

「私ね、ここは貴方が開けるためだけに、つくられたんだと思うの。だから、絶対帰って来て…!二人で、運命なんて、乗り越えて見せて…!」

 俺はクリスティーナに頷いて、直ぐに走り出した。
 
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