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俺はストーカーじゃない

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 俺は成瀬を見なかったことにして、真剣にパンを選ぶ。ここで下手に気づかれて、ストーカー認定でもされたらことだ。

 フランスパンを食うきでいたのに、クロワッサンに目移りした。最近ではロカボ流行りで、ロカボのクロワッサンまでおいてある。

 おいしいのだろうかとふと興味がわいてそれを取ろうとすると、横から手がひゅんと伸びてかっさらわれた。最後の一袋だ。ちらりと視線をむけると目が合った。
「え? 成瀬」

「げっ、シャツイン」
 舌打ちしそうな勢いで俺から飛びのく。

「は? 横からクロワッサン奪い取る女子って何なの?」
 呆れてものが言えないという言葉もあるが、実際はその逆だった。

「う、うるさいなあ。このクロワッサンはわたしが先に取ったから私のなの。ってか、オタクにダイエットは必要ないっしょ!」
「ひどいな。その偏見。だいたい成瀬、今そこの総菜コーナーにいたじゃないか」

「え! きもっ、あんたストーカー?」

「やめろ。ありえねえ」
 俺は当初予定していたとおり、フランスパンをカゴに入れる。

 このままストーカーの嫌疑をかけられるのは不愉快なので、俺は成瀬を再び見ることなくそのままレジに向かう。

 買い忘れはないよな?
 
 するとなぜか成瀬がついてくる。

「ねえ、ちょっと、挽き肉買っているってことは、夜ご飯はハンバーグ? あんた晩御飯も作っているの?」

「おい、なんでついてくるんだよ」
 いつの間にかおなじレジに並んでいる。

「別について来てないよ。ただ、部活で使う食材も入っているのかなって」
「成瀬にかんけいないだろ」

「あんたねえ。成瀬、成瀬って、慣れなれしいのよ」
「そりゃ悪かった。隣のレジに並べよ、インフルエンサー。同じ学校の奴に一緒にいるところ見つかったらどうするんだよ」

 そういうと慌てて成瀬は去っていた。
 何なんだ。あいつ。

 人このことをストーカー扱いしたがる割には、向こうから寄ってくる。

 甚だ迷惑な奴だ。
 


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