パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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3話 冤罪と理由と刺客

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 夕暮れ時、紅色の光が世界を照らしていた。
 大地全てが血に染まりゆくようだった。
 
 今もあの白龍はあそこにいるのだろうと脳裏に過った。もはや存在しない鎖につながれて。あそこで躯となるまでいるのだろう。

 ──憐れだった。

 俺ごときがそんな感情を抱くことは侮辱なのかもしれない。しかし、それでも。裏切られて今なお捕らわれている。俺の境遇と似通っていた。

『囚人諸君。点呼の時間だ』

 もう時間かと舌打ちして体を起こす。10分後までに持ち場にいないと連帯責任の罰則があるからだ。ここから俺の独房までは遠く離れているから、誰か看守の保護下に入らなければならない。身体を起こしたところで大きくせき込む。病弱な身体が呪わしい。

 一向に咳が収まらず身体をくの字に曲げて口を手で覆う。止まらない咳、ビシャと水気のある音がした、手を見てみれば紅いものが混じっていた。

「大丈夫か」

 と駆け寄ってきたのは見覚えのある顔、看守のゼクトだった。

「点呼は俺が確認しとく。とりあえず座ってろ」

「ありがとう」

 彼には以前から何度かこのような事態にお世話になっていて、感謝がつきなかった。しばらく腰を落ち着けているとようやく発作は治まった。

「飲むか」

 目の前に差し出されたのは安物のワインの瓶だ。

「ああ」

 感謝を告げて受け取ると、暗鬱とした気持ちを振り払いたくてグッと煽る。だが味もろくに感じなかった。虚しくなってワインをすぐに返す。

 ──もう自分は長くないのかもしれない。

 惨めだった。あらゆるものを顧みずにただ剣に生きて栄誉だけを求めてきた。その結果がこれだ。全てを失い地獄の釜の底で這いずっている。

「災難だな」

「何がだ?」

 投げかけられた言葉に対してその真意を問う。

「冤罪なんだろ」

「……ああ」

 強く肯定する。
 彼の真意は分からないにしても信じてくれる存在はありがたかった。

「実際何も心当たりはないのか? そんな目に合うような」

「わけが分からない。こんなことになるなんて全く思いもしなかった」

 ほほうとゼクトは息を吐いた。

 ようやく身体もましになった俺は立ち上がって服についた塵を払う。囚人の着るボロの服だから元より汚れている、虚しくなってすぐやめた。

「それは納得できないだろうな。こんなことになって本当に悔しいよな」

 ゼクトの口調が不意に奇妙な色を帯びた。

「同情するよ。心から」

 がくんと世界が揺らめいた、強い眩暈だった。確かなものを求めて手を伸ばす。同時に腹部を灼熱の痛みが襲った。突き立った短剣、抉れた腹から血が流れ出していた。

「悪いな。戦士の最期がこれで。いくら弱っててもまともに戦ったら勝ち目がなくてな。幸いここは監獄世界。死にぞこないが死んだって誰も疑わない。囚人同士のごたごたで片付くさ」

 刃は体内深くに侵入し、引き抜かれた。臓器を損傷し緩やかだが確実なる死を迎える傷口だ。手で強く圧迫する。

「助けを呼んでも無駄だぜ。今頃、点呼にかかりきりだ。近くには誰もいない」

 なんたる間抜け、なんたる愚かしさだ。ぎりりと激しく歯噛みする。
 まだお前は学習しないのか。人は裏切るということを。

「くっ……なぜだ……なぜ俺を狙う」

 心の底から知りたくて言った。理由なき死はこの上のない悲劇だった。

「あいつが俺を裏切ったのも、お前と関わっているのか」

「あいつってのはレギル・シルセスか。それともニース・ラディット?」

「まさかニースも」

「なんだ。気づいてなかったのか」

 あっさりと告げられて愕然とした。

「ニースにはちょっと大きな借金があってな。それをチャラにしてやるって言ったらすぐ転んだそうだ。お前に不利な証言をいくらでもしてくれた。お前はどうせもう何年も生きられない死にぞこないだ。最後に役立ってくれて友達やってて良かったっ言ってたぜ。あともう一人ロイス・サステナも快く協力してくれたぜ。ちゃんと有罪になるように動いてくれた」

 血がにじむほど拳を握りしめる。お前らそれでも人間か。だが彼の話が本当か嘘か、どこまでが真実でどこまでが虚構なのか、それはまだ分からないのだ。

「お前の作り話だという可能性もある」

 という問いに答えたのは全くの別人であった。

「それはないわよ」

「アリーチェ・リノン」

 そこにいたのは監獄に不似合いな高級なドレスや装飾で身を固めた美しい女だった。赤赤としたルージュを引いている。

 彼女はレギルのシルセス家に仕える女だ。レギルの側近として護衛を務めていた。英雄としては数えられていないが仲間として様々な面でサポートを受けていたことがあった。レギルとは極秘裏の愛人関係にあったと知っていた。

 彼女がいるということは、それはつまり。

「彼の話は本当」

 アリーチェはふふふと優雅に笑う。

「本当はこんなごみ溜め来たくなかったんだけどね。あんたの無様で確実な死を見届けて来いってレギル様がおっしゃるから。仕方なくね」

 真実だ、やはり全ては。怒りで上がりそうになる心拍数をなんとか整える、腹の傷を強く抑えて血の流れを最小限に、今は回復を待ち力を溜めるのだ。

「冥土の土産をくれてやるよ」

 ゼクトが取り出したのは映像を保存し、投影する記録媒体だ。かちっとスイッチを押すと空間に映像が浮かび上がった。髪の毛は短髪で細身だがよく鍛えられている。隙なく整えられた装い、育ちの良さそうな風貌だ。まさしくレギル・シルセスの姿だった。

 彼は映像の中でどうしても俺が知りたかった理由を語った。

『エル。俺はずっとお前が邪魔だった』

 なぜだ。これまで力を合わせて一緒に戦ってきたのに。

『家柄も身分も財力も容姿も、全て俺が上だった。魔術の才能は言うまでもない。だが剣だけ、剣だけはお前に勝てなかった。素質なら俺のほうが上だったが俺には持つものがあった、お前のように剣だけを考える馬鹿になれるような立場じゃなかったんだ。たった一つのものでもお前のような下民に劣っていることがあるのが俺は許せなかった』

 レギルはふうと大きく息を吐いた。

『分かってるだろ。エル。お前は足手まといだったんだよ。実戦じゃ俺たちが協力してやらなきゃ、剣が得意なだけなお前には何もできなかった。心底うんざりしてたんだよ。お前を助けてやるのは。俺達のおかげで残虐王を倒せたんだ。イリナ姫はお前に心酔してるが、本当は魔術を使えない出来損ないなんかいなくても倒せた相手だった』

 俺はそれを否定しない。仲間たちの助けがあったと知っているから。それに不満を感じたことはなかった。なのに、お前は違ったというのか。

『お前に何ができる。人殺しが得意なだけの平民。しかもギフトも忌み子ときた。そんな男を民が求める次世代の旗印になれるか? 英雄に相応しいか? いいや無理だね。イリナ姫と結婚してこの世界の支配者の側になるのは俺だ。真に英雄に相応しいのは俺だ。お前にはお似合いの相応しい身分をくれてやる』

 何も言えない俺の前でやつの言葉はただ続く。

『お前はもう用済みだ。薄汚く地を這いずって死んでいけ』

 言葉にも、瞳にも、一切の感情がこもっていなかった。
 それはまるで道端に落ちている石ころに向けるものだった。

『じゃあな。これでお別れだ』

 ぷつんと映像が途切れた。

「レギルのやつはひときわ精力的に動いてくれたぜ。裏切り防止用だってのにここまでペラペラしゃべってくれてまあ。どんだけ嫌われてたんだよ」

 ゼクトは面白そうに笑い声をあげる。

 血液を沸騰させるほどの強い憎しみの感情が噴出していた。それでも俺は爆発しなかった。口調だけは淡々としたまま彼に問いをぶつける。

「俺の何がいけなかったんだ。教えてくれ。これはいったい何なんだ!」

 レギルの理由は分かった。
 だがこの男の目的とはいったい。 

「残虐王を倒したところまでは良かった。……だが聞いたんだろう。彼から」

 彼の言っている意味が理解できなかった。俺は何も聞いた覚えはなかった。

「お前は知らなくていいことを知ってしまった」

 ゼクトの言葉の真意は計りかねた。いったいどういうことなのか。だがただ一つだけ分かった。あの裏切りも、俺が監獄世界に送られたことも、この男の企みも一本の線で繋がっているのだ。その理由は俺が何かを知ってしまったということだ。



 会話の終わる一瞬の膠着、その隙を逃さず傷口を押さえていた手に血を溜めて振り抜く。狙いはゼクトの顔面、結果を確かめる前に身を翻した。

「くそっ! 待て!」

 背後から鋭い声が届いた、だが止るわけがない。
 一心にある場所へと走って行った。
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