パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

文字の大きさ
8 / 114

8話 謎の来訪者

しおりを挟む
 掃除しようにもどこから手を付けていいのか分からず、まずはハタキを見つけ出し、ところどころにある蜘蛛の巣を払う。汚れきった絨毯も処分したほうがいい、室内や通路の端から転がして丸めていく。

 結構な大荷物になったそれを引きずって外に出した。使い物にならない家具を同様に外に運び出し、箒で床を掃いてゆく。何日もかかりそうな状態だった。

 無心に作業している中でも邪念は紛れる。
 アステールは無事だろうか。日記にも詳細は書いてなかった。

 まさか俺のためにもう一度人間に捕まる選択を選んだとでも言うのだろうか。かつて残虐王は亜人をも支配下に置いていた。すると彼女の扱いはどうなるのか。乱暴なことはされていないだろうか。

 はやる心を感じる。だが今俺にできることは休むことだ、今は忘れるしかあるまい。
 その時、俺の思考を切り裂く物音が。
 ギイ──と扉の軋む音が聞こえた。

「誰かいるのか」

 屋敷の入り口から女性のものらしき声が。
 
 しまった。完全なる計算違いだ。これほど荒れ果てた館に来訪者がいるとは。休息がてら暇つぶしに掃除をしていたのがあだになった。人がいるのは一目瞭然となっている。

 咄嗟に物陰に身を隠してぎりぎりから観察する。

 来訪者は美麗な少女だった。太陽の光のように白いセミロングの金髪は美しく、陶磁器のようになめらかな肌、意思の強そうな瞳は蒼色で、小さな唇は薄桃色だった。側頭部に角が生えていることから亜人であることが分かる。民族衣装なのかワンピース系の衣服を着用し、武装はしていない。旅行者にしては荷物が少なく軽装だ。盗賊にしては華やか。

 さて、それではあり得る選択肢はどうなるか、近くの村娘でも迷い込んだか、それともこの屋敷の関係者か。彼女はこの世界の先住民だ。少なくとも人間とは対立しているはずだった。

 どうする、思考は乱れる。
 その間も少女は一歩一歩辺りを警戒しつつも歩みを進めた。
 俺のいるところは袋小路になっている。もはや見つかるのも時間の問題だ。

「そこの人」

 最も悪いのは近距離での不意の遭遇から戦いになることだ。そのため、あえてこちらから存在を明かす。呼びかけると女性は警戒を顕にして足を止めた。 

「すまない。驚かせる気はなかった。怪しいものじゃない。すぐに出ていくから」

「姿も見せないで怪しいものじゃないとは面白いことを言う」

 少し迷うが仕方あるまい、女性の前に姿をさらす。すると彼女は驚きを顕にして目を見開いて、しばし固まった。そして予想外にも一目散に俺のもとへと駆け寄ってきた。

「エル!」

 飛び込んで来たその身を咄嗟に抱き止める。少しばかり甘い香りと全身で感じる柔からな感触。相手の心臓の鼓動が伝わると思えるほど強く密着していた。

「会いたかった」

 まるで生き別れた恋人に向けるような言葉だった。
 何かの策略かと疑念が走る、だが一連の動作になんの害意も感じなかった。
 そして何よりも、俺の名を呼んだ。

「誰だ?」
 
 俺の胸元に埋めていた顔を少女が上げる。互いに吐息がかかる距離で見つめ合う。瞳は蒼空を想起させるサファイアの色で涙で潤んでいる、手に触れたプラチナの髪は柔らかく金糸のようだった。まだ17前後の美しい少女だ、知り合いだった覚えはなかった。

「私だ」

 さも分かって当然という名乗りだった。間近で目と目が合う。理知的だが、どこか寂しそうな光をたたえる瞳、それはいつか見たことがあった。

「私だ。アステールだ」

 ようやく理解が訪れて。

「はい?」

 予想外すぎる名前に固まるしかなかった。



 アステールは銀の杯になみなみと葡萄酒を注いだ。どこからともなく取り出したのだ。渡されたそれを受け取って、乾杯と彼女の持つ杯と合わせる。

「その姿はどうしたわけだ」

 人間の女性とほぼ変わらない姿形をしていた。違いは側頭部から龍の角が生えていることぐらいか。誰かがその名を語っていると言われたほうが信じられる。

「これは龍人の時の身体だ」

「龍人?」

「龍人は人間形態で生まれて、龍に変身する力を持つ。そして精霊の力を蓄えると進化して完全なる龍、ハイドラゴンという種になるのだ。瀕死のお前を生かすために命の大半を分け与えた、そのせいで力の殆どを失い、生命活動を維持するために体を再構成して、ここまで縮めなければならなかった。きっと元に戻るためには長くかかるだろうな」

「ありがとう。君のおかげで助かった」 

 謝罪しようとして、感謝を告げるべきと考えてそうした。

「よい。むしろ助けてもらったのは私のほうだ」

 気にするなとアステールは微笑んだ。

「もう目を覚まさないと思って心配していたぞ。エルが眠ってからというものずっと毎見舞いに来ていた。悪かった。起きた時は一緒にいなくて。不安だっただろう」

「別にガキじゃないんだ。一人で大丈夫だ」

 相手はかなり気安い雰囲気を出しているが、俺にとってはほぼ初対面だ。こうも親しげに世話を焼かれるのも奇妙な気分になる。

「ところで毎日って言ったな、俺は何日眠ってた」

「3年だ」

「3……」

 ある程度は覚悟していたがまさか3年とは。まったくあの憎き野郎たちを3年ものさばらせていたのかと思うと腸が煮えくり返る思いだった。生き延びたと分かった途端に安らかだった気持ちは吹き飛んで、また怒涛のごとき感情がやってきていた。

「ところで君、なんか性格変わってないか?」

「思考や価値観はだいぶ龍人の時に戻ったな。長らく龍として生きていたから、生まれ変わったような気分だ」

 彼女が変わったのか、ただ単に俺の見る目が変わったのか。その両者だろう。

「本題に入ろうか」

 俺は話しを進める。旧交を温めるのも十分だ。

「ここはどこなんだ」

「亜人の拠点の郊外にある隠れ家だ。あの方は秘密主義者だった。眠る場所は本当に信頼できるものにしか教えなかった」

「先住民の支配圏に人間がいても大丈夫なのか」

「大丈夫も何も。貴方は我らの王だ。正確にはその身体は、だが」

 残虐王は先住民も支配下に置いていたはずだ。しかしそれが恐怖による支配であった場合、反旗を翻されることも十分にあり得る。彼があんな戦いを起こした目的などははっきりとはしていないのだ。

「我々は先住民……亜人と言っていいか。その呼び名は好きじゃない」

「分かった。すまなかった」

 俺は了承と短い謝罪を告げた。

「亜人の中では穏健派のグループだ。基本的に人間と争い合わない方針でいる」

「穏健派なのか。君が」

「争う気がないだけで、もちろん嫌ってはいる。当然のことだ」

 本来アステールの立場であれば憎しみはあって当然だ。それでも争うのをよしとしないのは合理的な判断ということだ。それほど人間を恐れてもいるのだろう。

「今東は酷い状況だ。人間にとっても、亜人にとっても。人族が互いに弱い者に首輪をかけて、家畜のように扱っている。我らは彼らとたもとを分かち、西へと逃れた」

 アステールは重苦しいため息を付いた。

「貴方はもう二度と目覚めぬと思われていた。このことが知れればきっとみんなが戦争を望むだろう。貴方をリーダーとしてもう一度あの戦いの続きを」

 人間を相手取って戦う。そんなことできるわけがない。
 そこで疑念が宿る──本当にそうだろうかと。

 俺の仲間にはろくなやつらがいなかった。本当に人間は守るべきほど素晴らしい生き物なのか。破滅的な衝動が心に巣食おうとしていた。

「今はゆっくり身体を休めたほうがいい。貴方が目覚めたことはしばらく伏せておこう」

 アステールは気遣うように俺の肩に手を置いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...