君とは付き合いたくない!

風崎なをき/次作は四月くらい

文字の大きさ
45 / 50

第45話 付き合ってあげる(5)

しおりを挟む
 光輝は奏汰のベッドをそっと抜け出すと自分の部屋に戻った。あれから奏汰はすぐに寝付いてしまった。疲れていたのだろう。さすがに朝まで一緒にいるわけにもいかない。誰かに光輝が奏汰の部屋から出てくるところを見られたら奏汰が困る。奏汰のことは充分困らせたので、もう困らせたくなかった。
 部屋に戻ると、光輝以外の五人はぐうぐういびきをかいたり、寝言を言ったり腹をボリボリ掻きながら眠っていた。美意識が高くていつもいい匂いのする奏汰とはえらい違いだ。奏汰が女子からちやほやされるのも分かる。自分が女だったとしてもこんな奴らより奏汰がいい。  
 皆、同じ一年生だが、佐伯以外は名前もよく覚えていない。高校生の時に同性愛者だと噂の的になってから、友人関係を広げることに興味をなくしてしまった。
 むさ苦しいなあと閉口しながら空いている布団に潜り込む。
「鳥羽…?」
 隣から寝ぼけた声が聞こえてきた。佐伯だ。
「あ……起こした?…ごめん…」
「どこ行ってたの…?浅見さんのとこ?」
 佐伯は周りを起こさないようにヒソヒソ声で話しかけてきた。
「まあ、そんなとこ」
 うわあバレてら。と思いながらも光輝は平静を装った。同じく小さな声で話す。
「上手くいってるの?」
 佐伯は目が覚めてきたのか、おずおずと聞いてきた。首を突っ込んでくるなよ、とイラッとする。佐伯には奏汰と付き合っていることは明言していない。だが、夏休み前に奏汰が一心不乱に光輝に告白してきた場面を目撃されている。
「……心配しなくていいよ」
 光輝はそっけなく言った。あまり奏汰とのことを、いや自分の恋愛事情についてとやかく聞かれたくない。そもそも佐伯は迂闊なのだ。彼のせいで高校時代、周りに同性愛者だとバレた。それを根に持ってはいないが、なかったことにするのは無理だ。
「でも…」
 佐伯は弱々しい声を出して食い下がる。心配なのだろう。佐伯が好奇心だけでこんなことを聞いてくる奴ではないことは光輝が一番わかっている。ずっとそうだった。高校三年生の時に、悪い意味で有名な同級生と光輝がつるみ出した時もこうだった。すごく心配していた。光輝が傷つくのが嫌なのだろう。でもそれは佐伯には無関係だ。そんな贖罪をしなくていいのに、と光輝は思う。

「高一の時、声かけてくれたことずっと嬉しかったって思ってる」
 光輝はぼそっと呟いた。佐伯からわずかに息を呑むような音が聞こえた。

 佐伯は高校一年と二年でクラスメイトだった。まだ慣れないクラスの中で適当にグループを組む授業があり、佐伯は光輝に声をかけてくれた。たまたま席が近かったからだろう。
 人当たりがよい佐伯とそっけない光輝は正反対の性格だったが、それが互いに面白かった。
 光輝は佐伯と出会った当初、今よりも周りに対してマイルドでもう少し明るかった。けれど、影を落とすようになったのは高二の終わりのある出来事がきっかけだ。
 佐伯や他の人間から見ても光輝は綺麗な顔立ちをしていて、一部の女子から人気があった。しかし光輝は女っ気がまるでなく女にも興味を示さない。というより避けているようにさえ見えた。だから佐伯は良かれと思って聞いてしまった。
『もしかしてゲイ?』と。誰かに打ち明けたら楽になるんじゃないかという若さゆえの思い上がりがそこにはあった。高校二年の終わりの頃だった。
 その時、怯えた顔で肯定してきた光輝の顔を佐伯はずっと忘れられない。その当時は本当に寄り添ってあげようと思ったのだ。
 別の友人にそのことを光輝の名前を出さずに言ってしまった。悪気があったわけではもちろんない。「何か自分にできることあるかな」と前向きな気持ちで相談したのだ。今思えばひどい傲慢だったと思う。
 友人は光輝のことだと勘づいたようだった。あっという間に光輝の噂は広まった。
 怖かった。自分がアウティングをしてしまったこと。光輝に軽蔑されてしまうこと。勝手に光輝を悩める者にカテゴライズして、自分は救世主を気取りたかっただけだ。それを見透かされるのが怖かった。所詮は偽善だったのだと思い知ることが怖くて、彼を避けてしまった。
 泣きながらたくさん謝ったけれど、今思うと謝るべきじゃなかった。そんなことをされたら光輝は許すしかなかったのだから。
 
「だからもういいよ」
 光輝の言葉に佐伯ははっと我にかえる。高校時代に意識がトリップしていた。
「これからもよろしく。おやすみ」
 そう言って光輝はごろんと佐伯に背を向けてしまった。
 これからもよろしくってことはこれからも友達でいてくれるのだろうか。
「鳥羽、」
「眠い」
 それ以上話しかけるなオーラを感じて、佐伯はもう何も言わなかった。

 光輝もまた目を瞑りながら昔のことを思い返していた。
 佐伯のせいで同性愛者だとバレたことよりも、佐伯から避けられたことの方が悲しかった。けれど、自分を嫌ってではないことは分かっていた。罪悪感に押し潰されて自分と関われなくなったのだ。それが分かる。だから気持ちのやりようがない。佐伯も今更都合良く、なかったことにしたいわけではないだろう。
 けれど高校時代に好きだった人も奏汰にも佐伯がいなかったら多分出会えてないのだ。そういった意味では感謝してなくもない。そもそも、仲の良かった一、二年の時分は紛れもなく佐伯のおかげで高校生活は楽しくもあった。素朴で裏表もなく常識的で、普通に良い奴だった。
 だから、例の件を差し引いても友達っぽい関係でいてやってもいいと思っている。
 ああそうだ。今度思い切り惚気てやろうか、と思った。自分だって友人相手に惚気てみたい。そういうことに憧れていた。そう思うとこいつほどちょうどいい相手もいないじゃないか、と思う。きっと、顔を引き攣らせながらでも話を聞いてくれるだろう。
 その顔を想像したら光輝は声を出して笑いそうになった。なんとか我慢をして再び目をつぶる。頭は興奮していたが、やはり体は疲れていたらしい。すぐに眠りの中に落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...