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第45話 付き合ってあげる(5)
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光輝は奏汰のベッドをそっと抜け出すと自分の部屋に戻った。あれから奏汰はすぐに寝付いてしまった。疲れていたのだろう。さすがに朝まで一緒にいるわけにもいかない。誰かに光輝が奏汰の部屋から出てくるところを見られたら奏汰が困る。奏汰のことは充分困らせたので、もう困らせたくなかった。
部屋に戻ると、光輝以外の五人はぐうぐういびきをかいたり、寝言を言ったり腹をボリボリ掻きながら眠っていた。美意識が高くていつもいい匂いのする奏汰とはえらい違いだ。奏汰が女子からちやほやされるのも分かる。自分が女だったとしてもこんな奴らより奏汰がいい。
皆、同じ一年生だが、佐伯以外は名前もよく覚えていない。高校生の時に同性愛者だと噂の的になってから、友人関係を広げることに興味をなくしてしまった。
むさ苦しいなあと閉口しながら空いている布団に潜り込む。
「鳥羽…?」
隣から寝ぼけた声が聞こえてきた。佐伯だ。
「あ……起こした?…ごめん…」
「どこ行ってたの…?浅見さんのとこ?」
佐伯は周りを起こさないようにヒソヒソ声で話しかけてきた。
「まあ、そんなとこ」
うわあバレてら。と思いながらも光輝は平静を装った。同じく小さな声で話す。
「上手くいってるの?」
佐伯は目が覚めてきたのか、おずおずと聞いてきた。首を突っ込んでくるなよ、とイラッとする。佐伯には奏汰と付き合っていることは明言していない。だが、夏休み前に奏汰が一心不乱に光輝に告白してきた場面を目撃されている。
「……心配しなくていいよ」
光輝はそっけなく言った。あまり奏汰とのことを、いや自分の恋愛事情についてとやかく聞かれたくない。そもそも佐伯は迂闊なのだ。彼のせいで高校時代、周りに同性愛者だとバレた。それを根に持ってはいないが、なかったことにするのは無理だ。
「でも…」
佐伯は弱々しい声を出して食い下がる。心配なのだろう。佐伯が好奇心だけでこんなことを聞いてくる奴ではないことは光輝が一番わかっている。ずっとそうだった。高校三年生の時に、悪い意味で有名な同級生と光輝がつるみ出した時もこうだった。すごく心配していた。光輝が傷つくのが嫌なのだろう。でもそれは佐伯には無関係だ。そんな贖罪をしなくていいのに、と光輝は思う。
「高一の時、声かけてくれたことずっと嬉しかったって思ってる」
光輝はぼそっと呟いた。佐伯からわずかに息を呑むような音が聞こえた。
佐伯は高校一年と二年でクラスメイトだった。まだ慣れないクラスの中で適当にグループを組む授業があり、佐伯は光輝に声をかけてくれた。たまたま席が近かったからだろう。
人当たりがよい佐伯とそっけない光輝は正反対の性格だったが、それが互いに面白かった。
光輝は佐伯と出会った当初、今よりも周りに対してマイルドでもう少し明るかった。けれど、影を落とすようになったのは高二の終わりのある出来事がきっかけだ。
佐伯や他の人間から見ても光輝は綺麗な顔立ちをしていて、一部の女子から人気があった。しかし光輝は女っ気がまるでなく女にも興味を示さない。というより避けているようにさえ見えた。だから佐伯は良かれと思って聞いてしまった。
『もしかしてゲイ?』と。誰かに打ち明けたら楽になるんじゃないかという若さゆえの思い上がりがそこにはあった。高校二年の終わりの頃だった。
その時、怯えた顔で肯定してきた光輝の顔を佐伯はずっと忘れられない。その当時は本当に寄り添ってあげようと思ったのだ。
別の友人にそのことを光輝の名前を出さずに言ってしまった。悪気があったわけではもちろんない。「何か自分にできることあるかな」と前向きな気持ちで相談したのだ。今思えばひどい傲慢だったと思う。
友人は光輝のことだと勘づいたようだった。あっという間に光輝の噂は広まった。
怖かった。自分がアウティングをしてしまったこと。光輝に軽蔑されてしまうこと。勝手に光輝を悩める者にカテゴライズして、自分は救世主を気取りたかっただけだ。それを見透かされるのが怖かった。所詮は偽善だったのだと思い知ることが怖くて、彼を避けてしまった。
泣きながらたくさん謝ったけれど、今思うと謝るべきじゃなかった。そんなことをされたら光輝は許すしかなかったのだから。
「だからもういいよ」
光輝の言葉に佐伯ははっと我にかえる。高校時代に意識がトリップしていた。
「これからもよろしく。おやすみ」
そう言って光輝はごろんと佐伯に背を向けてしまった。
これからもよろしくってことはこれからも友達でいてくれるのだろうか。
「鳥羽、」
「眠い」
それ以上話しかけるなオーラを感じて、佐伯はもう何も言わなかった。
光輝もまた目を瞑りながら昔のことを思い返していた。
佐伯のせいで同性愛者だとバレたことよりも、佐伯から避けられたことの方が悲しかった。けれど、自分を嫌ってではないことは分かっていた。罪悪感に押し潰されて自分と関われなくなったのだ。それが分かる。だから気持ちのやりようがない。佐伯も今更都合良く、なかったことにしたいわけではないだろう。
けれど高校時代に好きだった人も奏汰にも佐伯がいなかったら多分出会えてないのだ。そういった意味では感謝してなくもない。そもそも、仲の良かった一、二年の時分は紛れもなく佐伯のおかげで高校生活は楽しくもあった。素朴で裏表もなく常識的で、普通に良い奴だった。
だから、例の件を差し引いても友達っぽい関係でいてやってもいいと思っている。
ああそうだ。今度思い切り惚気てやろうか、と思った。自分だって友人相手に惚気てみたい。そういうことに憧れていた。そう思うとこいつほどちょうどいい相手もいないじゃないか、と思う。きっと、顔を引き攣らせながらでも話を聞いてくれるだろう。
その顔を想像したら光輝は声を出して笑いそうになった。なんとか我慢をして再び目をつぶる。頭は興奮していたが、やはり体は疲れていたらしい。すぐに眠りの中に落ちていった。
部屋に戻ると、光輝以外の五人はぐうぐういびきをかいたり、寝言を言ったり腹をボリボリ掻きながら眠っていた。美意識が高くていつもいい匂いのする奏汰とはえらい違いだ。奏汰が女子からちやほやされるのも分かる。自分が女だったとしてもこんな奴らより奏汰がいい。
皆、同じ一年生だが、佐伯以外は名前もよく覚えていない。高校生の時に同性愛者だと噂の的になってから、友人関係を広げることに興味をなくしてしまった。
むさ苦しいなあと閉口しながら空いている布団に潜り込む。
「鳥羽…?」
隣から寝ぼけた声が聞こえてきた。佐伯だ。
「あ……起こした?…ごめん…」
「どこ行ってたの…?浅見さんのとこ?」
佐伯は周りを起こさないようにヒソヒソ声で話しかけてきた。
「まあ、そんなとこ」
うわあバレてら。と思いながらも光輝は平静を装った。同じく小さな声で話す。
「上手くいってるの?」
佐伯は目が覚めてきたのか、おずおずと聞いてきた。首を突っ込んでくるなよ、とイラッとする。佐伯には奏汰と付き合っていることは明言していない。だが、夏休み前に奏汰が一心不乱に光輝に告白してきた場面を目撃されている。
「……心配しなくていいよ」
光輝はそっけなく言った。あまり奏汰とのことを、いや自分の恋愛事情についてとやかく聞かれたくない。そもそも佐伯は迂闊なのだ。彼のせいで高校時代、周りに同性愛者だとバレた。それを根に持ってはいないが、なかったことにするのは無理だ。
「でも…」
佐伯は弱々しい声を出して食い下がる。心配なのだろう。佐伯が好奇心だけでこんなことを聞いてくる奴ではないことは光輝が一番わかっている。ずっとそうだった。高校三年生の時に、悪い意味で有名な同級生と光輝がつるみ出した時もこうだった。すごく心配していた。光輝が傷つくのが嫌なのだろう。でもそれは佐伯には無関係だ。そんな贖罪をしなくていいのに、と光輝は思う。
「高一の時、声かけてくれたことずっと嬉しかったって思ってる」
光輝はぼそっと呟いた。佐伯からわずかに息を呑むような音が聞こえた。
佐伯は高校一年と二年でクラスメイトだった。まだ慣れないクラスの中で適当にグループを組む授業があり、佐伯は光輝に声をかけてくれた。たまたま席が近かったからだろう。
人当たりがよい佐伯とそっけない光輝は正反対の性格だったが、それが互いに面白かった。
光輝は佐伯と出会った当初、今よりも周りに対してマイルドでもう少し明るかった。けれど、影を落とすようになったのは高二の終わりのある出来事がきっかけだ。
佐伯や他の人間から見ても光輝は綺麗な顔立ちをしていて、一部の女子から人気があった。しかし光輝は女っ気がまるでなく女にも興味を示さない。というより避けているようにさえ見えた。だから佐伯は良かれと思って聞いてしまった。
『もしかしてゲイ?』と。誰かに打ち明けたら楽になるんじゃないかという若さゆえの思い上がりがそこにはあった。高校二年の終わりの頃だった。
その時、怯えた顔で肯定してきた光輝の顔を佐伯はずっと忘れられない。その当時は本当に寄り添ってあげようと思ったのだ。
別の友人にそのことを光輝の名前を出さずに言ってしまった。悪気があったわけではもちろんない。「何か自分にできることあるかな」と前向きな気持ちで相談したのだ。今思えばひどい傲慢だったと思う。
友人は光輝のことだと勘づいたようだった。あっという間に光輝の噂は広まった。
怖かった。自分がアウティングをしてしまったこと。光輝に軽蔑されてしまうこと。勝手に光輝を悩める者にカテゴライズして、自分は救世主を気取りたかっただけだ。それを見透かされるのが怖かった。所詮は偽善だったのだと思い知ることが怖くて、彼を避けてしまった。
泣きながらたくさん謝ったけれど、今思うと謝るべきじゃなかった。そんなことをされたら光輝は許すしかなかったのだから。
「だからもういいよ」
光輝の言葉に佐伯ははっと我にかえる。高校時代に意識がトリップしていた。
「これからもよろしく。おやすみ」
そう言って光輝はごろんと佐伯に背を向けてしまった。
これからもよろしくってことはこれからも友達でいてくれるのだろうか。
「鳥羽、」
「眠い」
それ以上話しかけるなオーラを感じて、佐伯はもう何も言わなかった。
光輝もまた目を瞑りながら昔のことを思い返していた。
佐伯のせいで同性愛者だとバレたことよりも、佐伯から避けられたことの方が悲しかった。けれど、自分を嫌ってではないことは分かっていた。罪悪感に押し潰されて自分と関われなくなったのだ。それが分かる。だから気持ちのやりようがない。佐伯も今更都合良く、なかったことにしたいわけではないだろう。
けれど高校時代に好きだった人も奏汰にも佐伯がいなかったら多分出会えてないのだ。そういった意味では感謝してなくもない。そもそも、仲の良かった一、二年の時分は紛れもなく佐伯のおかげで高校生活は楽しくもあった。素朴で裏表もなく常識的で、普通に良い奴だった。
だから、例の件を差し引いても友達っぽい関係でいてやってもいいと思っている。
ああそうだ。今度思い切り惚気てやろうか、と思った。自分だって友人相手に惚気てみたい。そういうことに憧れていた。そう思うとこいつほどちょうどいい相手もいないじゃないか、と思う。きっと、顔を引き攣らせながらでも話を聞いてくれるだろう。
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