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第十話 愛があれば、しなくても・2*
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※ハル視点です。
夕が俺の服を脱がせる。
キスをする。
手を這わす。
唇が色々な場所に降ってくる。
最初こそ驚いてぽかんとしてしまったが、夕に襲われてる!?と思ったらあっさり勃ってしまった。夕が必死に俺を求めて、俺にキスをして、俺の体を一生懸命触ってる光景は今まで見てきた夕の中で1番エロかったし、正直めちゃくちゃ良かった。
果たしてどこまで続けるのだろう。それは分からなかったが俺は夕の勝手にさせようと思った。夕が俺の体に色々している間、俺は夕に指一本も触らなかった。意地悪だとは思ったけど、夕が1人で何をしてどこまでできるのかを見てみたかった。
俺は夕としている時は、いつも無理に付き合わせてる罪悪感を感じていたし、ごめんねとか無理してないかなとかそういう事を常に考えてた。正直に言うと夕との性行為に没頭できたことがないのだ。今は夕が勝手にやっているのだから、俺は悪いと感じなくていいという免罪符が俺の気持ちを悪い方に大きくしていた。
夕は俺を試してるのかもしれない。俺がもういいよ無理しないでって言うの待ってるかもしれない。
昔の俺だったら迷わずそう言ってた。でも今はできるものならやってみれば?という気持ちになってしまっていた。
俺は今、どうしても夕に対して優しくすることができなかった。もう期待するのも焦らされるのも疲れてしまっていた。
それでも別れを切り出さなかったのは、やっぱり夕がすきだからだ。セックス抜きにしても夕と一緒にいたい。だけど性欲と折り合いがつかない。という状態だった。
だから夕と接触するのを避けていたのに、空気を読まずに仕掛けてきたのは夕なのだから、俺は何も気を揉む必要はないだろう。
若干潔癖症の節がある夕は絶対にシャワーを浴びないと触るのはおろか口をつけるなんてことしなかったのに、俺のを取り出すとそのまま躊躇いもせずに口に突っ込んだ。
「あ、っ」
夕の口内の生温かさを感じたそこはあっという間に硬くなってしまった。久しぶりだったのもある。夕はしばらく舌を這わせていたけど、おもむろに
「ゴム貸して」
と言ってきた。俺は言われるがままにコンドームの箱をがさごそ探って一つ渡した。夕はお菓子の小袋でも開けるかのように両手で慎重に開けた。なんだかボーロでも食べようとする子供みたいだった。
中身を取り出すとぎこちない手つきで俺に付けようとするが上手くいかないようだった。夕は自分でゴムを触ったことすらないのだ。そう思うと、本当に俺は今まで一方的に夕と事に及んでいたのだなと痛感する。
「ふっ、反対だよ、それ」
俺は思わず笑ってしまった。顔を赤らめて気まずそうしている夕を見るとやっぱり可愛い。今すぐぎゅーっとしてあげたくなった。
だが、それで満足されてもう止めようとなるのは嫌だったので可哀想だけどハグはしなかった。もちろん、夕がそんなこすい性格でないのは分かっている。俺の方が心が狭くなってるだけだ。
俺が頑なに触らないせいかさっきから夕の方が焦れているのが伝わってくる。でも夕は触ってとかハグしてとか言わなかったし求めても来なかった。その様子が健気でいじらしくて俺やっぱり夕が好きだ。夕が可愛い。と再確認する。
夕のこの捨て身の作戦(?)の目的が俺と触れ合うことなら、だいぶ俺に効いてる事になる。俺は少しだけ手伝って自分にゴムをかぶせた。夕はこのあとどうするんだろう。と内心ワクワク見ていた。
俺の予想ではいざ挿れるとなったら怖気づくかなと思っていた。でも、ここまで夕が必死になってくれるなら、まあできなくてもいいかと思っていた。俺の欲求は解消されなくても夕がこんなふうに俺を求めてくれる姿を見せてくれただけでも進展な気がした。とりあえずここ最近モヤモヤしていた胸が晴れた。
「ねぇ、ちょっと座って」
夕は一旦俺から離れると俺を壁に背をつけて座らせた。
「え」
それから俺の上に膝立ちで跨る。
「この体勢で挿れていい?」
「これで?難しくない?」
「自分でペース調整した方がまだ怖くないから」
「だったらまだ後ろ向きのが挿れやすいと思うよ」
「…それだと…ううん、なんでもいいでしょ。それ貸して」
夕が指差したところにはいつぞやに買い込んで使われていないローションが俺の保湿剤とかスプレーとかと一緒に並んでた。本当に自分で挿れる気なのだろうか。夕はこれまたたどたどしい手つきでローションを手に取ると下着の中に手を突っ込んでお尻のあたりに塗り込んでいた。
ばつの悪そうな恥ずかしそうな顔で後ろを触る夕を目の前で見てドキドキする。めちゃくちゃ良い光景すぎて一生見てたい…と思わず口に出しそうだった。
夕は、次に俺の方にもローションをそろっと塗った。それだけでイってしまいそうなほど俺は張りつめていた。
「興奮してる…?」
夕がちらっと上目遣いで俺を見てくる。あざとい。
「…う、うん、してる…」
「よかった…」
夕は下着を脱がずにそっとずらして「はーーー」と大きく息を吐くと自分の後ろに俺のものをぴとっとあてがった。さすがに俺も心配になってくる。大丈夫かな?
「いきなりいれたら痛いよ..?」
「一応自分で慣らしたから」
「え、自分で!?」
「うん」
俺が帰宅する前に自分で自分の後ろをほぐしていたということだろうか。俺はその想像をして緩みそうに口元を必死にとどめた。ここで笑ったりからかったり変な事を言ったら夕は即やめてしまうだろう。そんな妄想をしてるうちに夕はそろっと腰を下ろした。
「う……」
夕が呻き声を漏らす。先端が飲み込まれていく。さすがに俺は夕の腰のあたりを支えてあげた。男同士で対面座位をする時は挿れる側が支えてバランスをとらないと難しい。
俺が夕の腰に手を回すと夕も俺にしがみついた。その手が冷え切っている。緊張しているのだろう。心なしか顔色も悪い。
「夕、大丈夫…?」
「ん…だいじょぶ……ちょっと待ってて」
先っぽが飲み込まれたくらいでそれ以上進まない。俺は夕の尾てい骨のあたりをそっとさすった。
「は…ハル…やっと触ってくれたね…」
「え?」
「うれしい……」
夕が俺の頭を抱えながらしんみりとつぶやいた。俺はその瞬間なんだか泣きそうになってしまった。夕は俺に少しでも触れて欲しくてこんな事をしてるのか、と思ったら可哀想になってしまった。
俺は変に拗ねて意地の悪い態度を取って夕をめちゃくちゃ傷つけた。自分も傷ついていたから当然だと思って。
あまりにも最低過ぎる。でもどうしていいか分からなくなっていたのも事実だ。だけど、そんな事より夕に無理をさせて追い詰めた事を謝りたくなった。
「夕、ごめんね。もうやめよう」
「なんで?ちゃんと今日は絶対最後までするからちょっと待ってて」
「もういいよ。俺すごく嬉しかったから」
「大丈夫だから、ちゃんと支えてて」
俺の言葉はかえって夕を焦らせてしまったのか、夕はさらに腰を落としてきた。
「ん、うぅ……」
夕が苦しそうに顔を歪ませる。髪の毛の生え際に汗が滲んでいる。なんだかセックスをしているというより苦行にでも付き合っている気分だ。
「はぁー、はぁー」
夕は大きく息を吸って吐き出していた。俺は背中をさすってやる。
「夕、もういいよ。痛いんでしょ」
しかし夕は首を振る。眉を寄せて苦しそうな顔をする。
「夕、顔色悪くなってる」
「うん……」
夕はうんと言いながらさらにグイグイ挿れようとする。ほぐし方が甘いのか、なんだか俺の方まで痛くなってきた…。
「大丈夫?もう止める?」
「い、いいから、黙ってて」
「……」
俺が声をかけると余計に意固地になってしまうので、仕方がないから黙ることにした。
「~~~っ、いた…ぁっ……」
夕が勢いに任せてズンっと腰を落とす。夕の顔が苦痛に歪む。奥歯を噛み締めて痛みに耐えている。夕の冷たい指先が痛いくらい皮膚に食い込む。
俺は夕のその痛々しい様子を見て、全く興奮できず、それどころか
「あれ…抜けちゃったんだけど…」
「ごめん…」
萎えた。
その日から、俺は夕としようとしてもできなくなってしまった。
「何作ってるの?」
学校から帰ってきた夕が部屋着に着替えて下から上がってきた。夕は後ろから抱きついてくる。
「今日は餃子ー」
俺は餃子のタネを皮で包んではバットの上に並べていった。自分でもいうのもなんだが、なかなかの出来だ。
「餃子って作れるの?」
「作れるよ、どういうこと?ってか作った事なかったっけ?」
「今まで冷凍の餃子かと思ってた…」
「マジ?そんなに上手い?」
「すごい…プロ?」
夕はお世辞とかおべっかとかが苦手なので本心で褒めてくれているのだろう。夕に褒められるのは嬉しい。
俺たちは穏やかに暮らしていた。性的な事を一切しなくなって1ヶ月以上が経った。夕としようとしても全く勃たなくなってしまったのだ。それでも夕と暮らすのはとても楽しかったし、幸せだった。
口でしようか?と何度か言ってくれたが断り続けていたらそれすらもなくなったが俺はホッとしていた。このままでも良い気がする。夕が望んでいた生活になってるならこのままでも全然良い気がする。確かにセックスが全てじゃないなと思った。
ただ俺にとってセックスは愛情表現の延長線上にあるもので、なんとなくセックスができない事よりも夕にすきだと伝えきれていない事がなんだか悔しかった。まあ、それは俺の自己満足の話なのだけど。
「あ、あっ、あっハル、だめ」
「だめ?何がだめなの?」
「あぁ、そこ、そこダメ、イク、ハル、イっちゃ..う」
「いいよ、いっぱいイッて」
「あ、あっっ」
という妄想を俺はたびたびしていた。夕とはできなくなってしまったが、夕に対して勃たなくなってしまっただけで、もちろん溜まるので一人で抜いていた。俺の妄想なのだから当たり前だが、妄想の中の夕はいつもめちゃくちゃエロかった。
俺は妄想の夕とセックスした痕跡をティッシュで拭き取って何重にもして丸めて捨てる。
虚しいなあ。夕が同じ空間にいるのに何やってんだろ。と正気に戻る瞬間が1番嫌だった。
夕とセックスがしたい。楽しくセックスがしたい。でも夕を苦しめたくない。夕を苦しめるくらいならしなくていい。夕と楽しく暮らせればいい。
本当はしたいけど。本当は夕と一緒に気持ちよくなりたいけど。一緒に気持ち良いことができたらめちゃくちゃ楽しいのだろう。
でもいい。夕が痛がったり辛い方が嫌だ。夕が楽しくないなら俺も楽しくないし。
だけど、本当は。
本当は?
本当は夕を抱きたい?
違う。
本当に夕が嫌がることはしたくない。
でも本当は?
本当は?
全部本当。
全部本当なんだよ。
夕がすき。
だから繋がりたい。
夕がすき。
だから嫌なことはしたくない。
全部、本当なんだよ。
「もうよく分かんねー」
タイムスリップしたいなあ。一気に60年くらい。そしたら性欲なんか消えてしまって夕とただ一緒にいるのが楽しいと思えるんだろうな。早く夕とのセックスを完全に諦められればいいのに。
セックスなんてしなくても、愛し合っていると感じる事ができたらいいのにね。
夕が俺の服を脱がせる。
キスをする。
手を這わす。
唇が色々な場所に降ってくる。
最初こそ驚いてぽかんとしてしまったが、夕に襲われてる!?と思ったらあっさり勃ってしまった。夕が必死に俺を求めて、俺にキスをして、俺の体を一生懸命触ってる光景は今まで見てきた夕の中で1番エロかったし、正直めちゃくちゃ良かった。
果たしてどこまで続けるのだろう。それは分からなかったが俺は夕の勝手にさせようと思った。夕が俺の体に色々している間、俺は夕に指一本も触らなかった。意地悪だとは思ったけど、夕が1人で何をしてどこまでできるのかを見てみたかった。
俺は夕としている時は、いつも無理に付き合わせてる罪悪感を感じていたし、ごめんねとか無理してないかなとかそういう事を常に考えてた。正直に言うと夕との性行為に没頭できたことがないのだ。今は夕が勝手にやっているのだから、俺は悪いと感じなくていいという免罪符が俺の気持ちを悪い方に大きくしていた。
夕は俺を試してるのかもしれない。俺がもういいよ無理しないでって言うの待ってるかもしれない。
昔の俺だったら迷わずそう言ってた。でも今はできるものならやってみれば?という気持ちになってしまっていた。
俺は今、どうしても夕に対して優しくすることができなかった。もう期待するのも焦らされるのも疲れてしまっていた。
それでも別れを切り出さなかったのは、やっぱり夕がすきだからだ。セックス抜きにしても夕と一緒にいたい。だけど性欲と折り合いがつかない。という状態だった。
だから夕と接触するのを避けていたのに、空気を読まずに仕掛けてきたのは夕なのだから、俺は何も気を揉む必要はないだろう。
若干潔癖症の節がある夕は絶対にシャワーを浴びないと触るのはおろか口をつけるなんてことしなかったのに、俺のを取り出すとそのまま躊躇いもせずに口に突っ込んだ。
「あ、っ」
夕の口内の生温かさを感じたそこはあっという間に硬くなってしまった。久しぶりだったのもある。夕はしばらく舌を這わせていたけど、おもむろに
「ゴム貸して」
と言ってきた。俺は言われるがままにコンドームの箱をがさごそ探って一つ渡した。夕はお菓子の小袋でも開けるかのように両手で慎重に開けた。なんだかボーロでも食べようとする子供みたいだった。
中身を取り出すとぎこちない手つきで俺に付けようとするが上手くいかないようだった。夕は自分でゴムを触ったことすらないのだ。そう思うと、本当に俺は今まで一方的に夕と事に及んでいたのだなと痛感する。
「ふっ、反対だよ、それ」
俺は思わず笑ってしまった。顔を赤らめて気まずそうしている夕を見るとやっぱり可愛い。今すぐぎゅーっとしてあげたくなった。
だが、それで満足されてもう止めようとなるのは嫌だったので可哀想だけどハグはしなかった。もちろん、夕がそんなこすい性格でないのは分かっている。俺の方が心が狭くなってるだけだ。
俺が頑なに触らないせいかさっきから夕の方が焦れているのが伝わってくる。でも夕は触ってとかハグしてとか言わなかったし求めても来なかった。その様子が健気でいじらしくて俺やっぱり夕が好きだ。夕が可愛い。と再確認する。
夕のこの捨て身の作戦(?)の目的が俺と触れ合うことなら、だいぶ俺に効いてる事になる。俺は少しだけ手伝って自分にゴムをかぶせた。夕はこのあとどうするんだろう。と内心ワクワク見ていた。
俺の予想ではいざ挿れるとなったら怖気づくかなと思っていた。でも、ここまで夕が必死になってくれるなら、まあできなくてもいいかと思っていた。俺の欲求は解消されなくても夕がこんなふうに俺を求めてくれる姿を見せてくれただけでも進展な気がした。とりあえずここ最近モヤモヤしていた胸が晴れた。
「ねぇ、ちょっと座って」
夕は一旦俺から離れると俺を壁に背をつけて座らせた。
「え」
それから俺の上に膝立ちで跨る。
「この体勢で挿れていい?」
「これで?難しくない?」
「自分でペース調整した方がまだ怖くないから」
「だったらまだ後ろ向きのが挿れやすいと思うよ」
「…それだと…ううん、なんでもいいでしょ。それ貸して」
夕が指差したところにはいつぞやに買い込んで使われていないローションが俺の保湿剤とかスプレーとかと一緒に並んでた。本当に自分で挿れる気なのだろうか。夕はこれまたたどたどしい手つきでローションを手に取ると下着の中に手を突っ込んでお尻のあたりに塗り込んでいた。
ばつの悪そうな恥ずかしそうな顔で後ろを触る夕を目の前で見てドキドキする。めちゃくちゃ良い光景すぎて一生見てたい…と思わず口に出しそうだった。
夕は、次に俺の方にもローションをそろっと塗った。それだけでイってしまいそうなほど俺は張りつめていた。
「興奮してる…?」
夕がちらっと上目遣いで俺を見てくる。あざとい。
「…う、うん、してる…」
「よかった…」
夕は下着を脱がずにそっとずらして「はーーー」と大きく息を吐くと自分の後ろに俺のものをぴとっとあてがった。さすがに俺も心配になってくる。大丈夫かな?
「いきなりいれたら痛いよ..?」
「一応自分で慣らしたから」
「え、自分で!?」
「うん」
俺が帰宅する前に自分で自分の後ろをほぐしていたということだろうか。俺はその想像をして緩みそうに口元を必死にとどめた。ここで笑ったりからかったり変な事を言ったら夕は即やめてしまうだろう。そんな妄想をしてるうちに夕はそろっと腰を下ろした。
「う……」
夕が呻き声を漏らす。先端が飲み込まれていく。さすがに俺は夕の腰のあたりを支えてあげた。男同士で対面座位をする時は挿れる側が支えてバランスをとらないと難しい。
俺が夕の腰に手を回すと夕も俺にしがみついた。その手が冷え切っている。緊張しているのだろう。心なしか顔色も悪い。
「夕、大丈夫…?」
「ん…だいじょぶ……ちょっと待ってて」
先っぽが飲み込まれたくらいでそれ以上進まない。俺は夕の尾てい骨のあたりをそっとさすった。
「は…ハル…やっと触ってくれたね…」
「え?」
「うれしい……」
夕が俺の頭を抱えながらしんみりとつぶやいた。俺はその瞬間なんだか泣きそうになってしまった。夕は俺に少しでも触れて欲しくてこんな事をしてるのか、と思ったら可哀想になってしまった。
俺は変に拗ねて意地の悪い態度を取って夕をめちゃくちゃ傷つけた。自分も傷ついていたから当然だと思って。
あまりにも最低過ぎる。でもどうしていいか分からなくなっていたのも事実だ。だけど、そんな事より夕に無理をさせて追い詰めた事を謝りたくなった。
「夕、ごめんね。もうやめよう」
「なんで?ちゃんと今日は絶対最後までするからちょっと待ってて」
「もういいよ。俺すごく嬉しかったから」
「大丈夫だから、ちゃんと支えてて」
俺の言葉はかえって夕を焦らせてしまったのか、夕はさらに腰を落としてきた。
「ん、うぅ……」
夕が苦しそうに顔を歪ませる。髪の毛の生え際に汗が滲んでいる。なんだかセックスをしているというより苦行にでも付き合っている気分だ。
「はぁー、はぁー」
夕は大きく息を吸って吐き出していた。俺は背中をさすってやる。
「夕、もういいよ。痛いんでしょ」
しかし夕は首を振る。眉を寄せて苦しそうな顔をする。
「夕、顔色悪くなってる」
「うん……」
夕はうんと言いながらさらにグイグイ挿れようとする。ほぐし方が甘いのか、なんだか俺の方まで痛くなってきた…。
「大丈夫?もう止める?」
「い、いいから、黙ってて」
「……」
俺が声をかけると余計に意固地になってしまうので、仕方がないから黙ることにした。
「~~~っ、いた…ぁっ……」
夕が勢いに任せてズンっと腰を落とす。夕の顔が苦痛に歪む。奥歯を噛み締めて痛みに耐えている。夕の冷たい指先が痛いくらい皮膚に食い込む。
俺は夕のその痛々しい様子を見て、全く興奮できず、それどころか
「あれ…抜けちゃったんだけど…」
「ごめん…」
萎えた。
その日から、俺は夕としようとしてもできなくなってしまった。
「何作ってるの?」
学校から帰ってきた夕が部屋着に着替えて下から上がってきた。夕は後ろから抱きついてくる。
「今日は餃子ー」
俺は餃子のタネを皮で包んではバットの上に並べていった。自分でもいうのもなんだが、なかなかの出来だ。
「餃子って作れるの?」
「作れるよ、どういうこと?ってか作った事なかったっけ?」
「今まで冷凍の餃子かと思ってた…」
「マジ?そんなに上手い?」
「すごい…プロ?」
夕はお世辞とかおべっかとかが苦手なので本心で褒めてくれているのだろう。夕に褒められるのは嬉しい。
俺たちは穏やかに暮らしていた。性的な事を一切しなくなって1ヶ月以上が経った。夕としようとしても全く勃たなくなってしまったのだ。それでも夕と暮らすのはとても楽しかったし、幸せだった。
口でしようか?と何度か言ってくれたが断り続けていたらそれすらもなくなったが俺はホッとしていた。このままでも良い気がする。夕が望んでいた生活になってるならこのままでも全然良い気がする。確かにセックスが全てじゃないなと思った。
ただ俺にとってセックスは愛情表現の延長線上にあるもので、なんとなくセックスができない事よりも夕にすきだと伝えきれていない事がなんだか悔しかった。まあ、それは俺の自己満足の話なのだけど。
「あ、あっ、あっハル、だめ」
「だめ?何がだめなの?」
「あぁ、そこ、そこダメ、イク、ハル、イっちゃ..う」
「いいよ、いっぱいイッて」
「あ、あっっ」
という妄想を俺はたびたびしていた。夕とはできなくなってしまったが、夕に対して勃たなくなってしまっただけで、もちろん溜まるので一人で抜いていた。俺の妄想なのだから当たり前だが、妄想の中の夕はいつもめちゃくちゃエロかった。
俺は妄想の夕とセックスした痕跡をティッシュで拭き取って何重にもして丸めて捨てる。
虚しいなあ。夕が同じ空間にいるのに何やってんだろ。と正気に戻る瞬間が1番嫌だった。
夕とセックスがしたい。楽しくセックスがしたい。でも夕を苦しめたくない。夕を苦しめるくらいならしなくていい。夕と楽しく暮らせればいい。
本当はしたいけど。本当は夕と一緒に気持ちよくなりたいけど。一緒に気持ち良いことができたらめちゃくちゃ楽しいのだろう。
でもいい。夕が痛がったり辛い方が嫌だ。夕が楽しくないなら俺も楽しくないし。
だけど、本当は。
本当は?
本当は夕を抱きたい?
違う。
本当に夕が嫌がることはしたくない。
でも本当は?
本当は?
全部本当。
全部本当なんだよ。
夕がすき。
だから繋がりたい。
夕がすき。
だから嫌なことはしたくない。
全部、本当なんだよ。
「もうよく分かんねー」
タイムスリップしたいなあ。一気に60年くらい。そしたら性欲なんか消えてしまって夕とただ一緒にいるのが楽しいと思えるんだろうな。早く夕とのセックスを完全に諦められればいいのに。
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