よく分からない。だけど…

いなば

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しどろもどろになりながら、村瀬は少年と会話をしている。少年の名はなんだかんだで、まだ聞いてない。と、いうかはぐらかされた?気がしないでもない。
だが、ぐいぐいくる少年との会話で精一杯の村瀬は、自分の問いかけの答えが返ってきていないことに気がついていないようだ。

俺の存在が薄くなり始めた頃、村瀬が俺の腕を肩で小突いた。

「おい!いたぞ!」
村瀬が視線で場所を示してくれる。その先には昨日の胸板が…いや、胸板の印象が強くて…昨日の男性が歩いていた。
ホームを歩きどこの入口付近に立ち止まるかわからない。ドキドキしながらその様子を見守る。見守る必要も無いんだが声をかけるタイミング?とか勇気?とか、ほらなんて声かける?とか頭の中でぐるぐる考えているうちに、どんどん近寄ってきていた。

「こ、こっちくるぞ」
なぜか村瀬も一緒になって緊張しているのか俺の腕をきゅっと掴む。少年が不服そうにしているが俺もそれどころではない。
「な、なんて声を…」
「そんなの、昨日はどうも!とかじゃないっすか?」
「えぇえ、昨日助けていただいた俺です?」
「ツルかよ!」
ぶふぉっと少年が吹き出して笑った。
「村瀬さんツッコミのほうなんですか!可愛すぎます!」
少年がケラケラと笑っている。
混乱しているうちに、胸板が俺たちを通り過ぎたところで立ち止まった。

「…さすがに、覚えられてはないよなぁ」
少しだけ、目が合うとかに期待していたんだけどなぁ。
そしたら
「あ!昨日はどうも!」みたいな感じでいけたのに。いや、たぶんいけなかったけど…

「今日はやめとくか?」
「でも、日を置くともっと忘れられちゃいません?」
村瀬と少年が、微動だにしなくなった俺に問いかける。
村瀬の優しさも有り難いけど、少年の言ってることも最もだ…

じりっとつま先を胸板に向けたその時、胸板が走り出した。

そして何故か、俺は追いかけ走っている。

「え!?」
村瀬が驚いている声が後ろから聞こえる。
俺だって訳が分からない!標的が動き出したから、つい追いかけてしまっているという説明しかできない。

そして走るの速!!

後半、ゼェゼェと息を切らしながらも追いかけて、現在立ち止まっている胸板の背中を見て息を整え中。背中も広い…

「昨日のやつだろ」

胸板が俺に背中を向けたまま声を荒らげた。

「はい!」
そんな追いかけられるの、嫌だった!?そりゃ嫌だよな?!
ビクビクと答えた…

「え!?」

胸板は驚いた顔で振り向いた。
その時に、ようやく胸板の向こう側に誰か居ることに気づいた。胸板は誰かを追いかけていたのだ。

「しつこいな!」
向こう側のやつが、ヒステリックに叫ぶ
「そいつが、色気振り撒いてるのが悪いんだろ!!!」

「「は?」」
いつの間にか追いついていた村瀬とハモった。

「ああ。昨日の痴漢野郎っすね」
息が上がってしまっている俺と村瀬とは違い、涼しい顔した少年が、状況を判断した。

「色気云々は置いといて魅力的な人という点では同意する。だからといって、お前にとってはちょっと触ってみたかっただけかもしれんが触られた方は一生を棒に振るかもしれないんだぞ!」

胸板が激怒している。騒ぎに気づいて駅員が近寄ってきた。少年が対応してくれている。
少年の説明を聞き終わると駅員が、場所を変えようと提案し、男と胸板が誘導されていく。

お、俺は…?

おずおずと後を着いて歩き出すと胸板が、俺を見て首を振った。来なくていいという合図のようだ。

「まあ、例えばですけど自分なら村瀬さんが仮に痴漢されてたとしたら、犯人と同席させたくはないっす。」
少年が頷きながら、その様子を見て言った。
「なるほど…」
村瀬が、あのマッチョ良い奴やん…と関心すると少年がムッとした。
「村瀬さん聞いてました?今、自分ならっていう例え話ですよ!?」
「わ、わかってるよ!!お前も良い奴だな!?」
村瀬が、あわてて言った。少年は満足そうだ。

「全部かっこすぎないか??正義感、優しさ、見た目」

「惚れてるね~」
「ですねー」
ニヤニヤと2人に茶化されてしまったが、本気でそう思っている。

こんなこと同じ男としてできるか分からない。

「先に帰ってて…俺、あの人待ってみるし」
俺が言うと、村瀬がじゃあ一緒に待とうか?と言ってくれたが、少年に「デートですね!気を利かせて下さりありがとうございます!頑張ります!さあ、行きましょう!」
と、引きずられるように連れていかれた。
少年は、きっとこちらに気を使ってくれた。村瀬はきっと嫌な顔せず待っててくれるし、素で何も思わず一緒にいてくれる。だが。。。だが、恥ずかしすぎるだろ…!胸板と話している時の俺どうなってるかわからん!!ただでさえ、変わり果てた俺の姿を村瀬は見ているのに…!

正直、これが恋なのか分からないままなんだが、こんな感情は今まで持ったことがない訳で…ただ、初めて持ったこの感情に舞い上がっただけとも考えられる。落ち着け自分。とりあえず、落ち着こうか自分。
ホームで待っていれば、電車に乗るためにきっともどってくるはずだし、とかなんとかぐるぐる考えているうちに、胸板がホームに戻ってきた。…のだが、

すーはー。と何度も深呼吸をした。
しすぎて、気持ち悪くなった頃だった。
タイミングの悪さよ…

「あれ?」

気持ち悪くなり、ホームの椅子に前屈みに座ってしまっていた俺に、胸板が声をかけてくれた。

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