庭には。

いなば

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「母さん…」
庭には息子がいた。
若い女性に支えられ庭の見える窓まで歩いてきたはずが、息子の姿が見えた途端自然と立場が逆転していた。

「…」
若い女性は何も発語せず息子を食い入るように見つめている。
女が窓を開けようとした時、
「お前…生きていたのか」
息子の後ろから出てきた若い青年が女性に声をかけた。

「あ、開けないで!」
若い女性が必死の懇願をした。
その様子に驚き窓を開けようとした女の手は止まった。

「逃げて!その人から離れて!!」

「は?お前黙れよ!話をしよう!」

自体が把握できていない息子に向かって必死に呼びかける若い女性の姿に女は怯みながら1歩後ずさりし、玄関へ駆け出した。玄関から庭に回るのだ。

これまで風貌で人を見ることは無かった。だが、あの女性の鬼気迫る感じから危ない男だと思った。
息子を助けにいかなければ。そう身体が勝手に動いてから脳が司令を出していた。

女性と男性は窓越しに言い合いをしている。今のうちに息子をあいつから離れさせなければ。

庭に辿り着き息子の名を呼んだ。
息子は驚いた顔で女を見た。

「母さん!」
息子が女に駆け寄る。
その姿を見て若い女性は苦しそうな顔をした。

その瞬間、青年がもっていたシャベルで窓を叩きわった。けたたましい音がした。

女が全身で息子の身体を抱きしめながら悲鳴をあげた。
若い女性は破片を浴び、その場で座り込んでいた。だが視線は青年に向けている。

「私は生きていたわ。この家のお婆さんに助けられたのよ!」

「じゃあ、もう1回死ぬか?」
青年が女性に手を出そうとしたとき
玄関から義母が入ってきた

「あんた…これは…一体?」
義母が若い女性と青年と交互に見た

「あんたが、この女を助けたのか?いらない事をしてくれたな」
「助けたくて助けたんじゃないよ!ただ生きてただけさ。こっちとしても死んでくれてりゃ良かったんだけどね。あんたが、その女殺し損ねたのかい?まったく、あんたがしっかり殺しといてくれないから、ほら、こんな厄介なことになったじゃないか!」
義母が状況を読めているのか読めていないのか誰にもわからないが悪者と悪者の喧嘩になっている。

「とりあえず窓は弁償してちょうだいよ!」

義母がお得意のヒステリックな声で叫ぶ。
青年は女性の横を通り過ぎ義母の前に立ち無言でシャベルを振り下ろした。
祖母が倒れている。

今度は女性が悲鳴をあげた。
ヒステリックな声を聞くだけで拒絶反応がでていた女と息子は、知らず安堵感に似たものがあった。

「うるせえババアもついでに死んどけ」

「なんでよ!私、誰にも言ってないじゃない!言うつもりもないから帰って!」
女性が涙を流して訴えた

「俺はお前を殺したつもりだったんだ。首を絞めてこの家の食器棚に隠した。翌日、ちゃんと死んでるか確認しに来たらなんと人が生活を始めてた。なんの違和感もなくな。俺の恐怖がわかるか?いつ殺人がばれるのか?殺人じゃなくても暴行の方もだ!やっとついた仕事、見つけた仲間にも捕まったとなるとバカにされるし芋づる式で見つかるのを避けて俺から離れていく」

「知らないわよ!だから誰にも言わないって言ってるじゃないの」

「じゃあ、なんでここにいるんだよ!」

「産んだのよ…あの棚の中で、目を覚ましたら真っ暗だった…狭いところにいた。臨月に入ろうとしていた時期だった。あんたに会えた、お腹の大きな私を見てあなたは私に堕ろせって言った。嫌だって答えた。堕ろせっていうなら全部警察に言う。あんたの仲間も一緒にって。あんたに更生して欲しい気持ちもまだあの頃はあった。子供かあなたかどちらかは守りたかった。なのに、あんたはわたしごとこの子を殺そうとしたの。許せないわ。怒りやら悲しみやら押し寄せた時お腹がキュゥゥっと、はってきて大丈夫大丈夫って言われた気がした。時間が経つことにそれはそれは痛くて怖くて、おそらく最後の波でわたしは失神したのよ。気がついたら病院にいた」

女が息子を見ると息子は女性の姿をしっかりと見つめていた。

「あのお婆さんが、育てられないならその子を育ててやるって言ってくれたの。色々、根回し的なこともしてくれて…それで定期的に様子を聞きにお宅に伺っていたんだけど日に日に、息子への対応が良くないものなんじゃないかって思って、わたしも安定してきたので引き取りたいとお願いしていて…そしたら出ていったって…もう関係ないから家に来るなって。息子のことはもう知らないよって。それで、こちらにお伺いすることにして、来てみたら…」

「説明なげーよ!俺に関係ない」

「あんたの子よ?!」

「知らねーよ!狭い施設になんかいたからお前とは運命見たいなきがしてたけど、出てみりゃそんなことは無かった!いろんな女と会った!若気の至りだよ!お前への気持ちなんて。」

女性が話している間に青年は女性の真横に立っていた。
既に祖母の血がついたシャベルを、女性の頭上に掲げている。
女性が青年を睨みつけた。

「なんだよ?」
青年が振り下ろそうとしたその時、女性はいきなり立ち上がった。

傍から観れば青年の胸元に女性が飛び込んだようにも見えた。

だが女性が離れると同時に青年は力が抜けたように膝をつき前のめりに倒れた

女性の手には、べったりとちがついていた
青年の喉には割れた窓の破片

「わたしたちのせいで、こんな事に巻き込んで本当にすみませんでした…」
女性が泣きじゃくる。顔中に青年の血液がのばされていき悪魔のような見た目になった。

物音と叫び声をきいた近所の女性が様子を見に来たが
血だらけの祖母、青年、泣きじゃくる血塗れの若い女性、しっかりと息子を抱き締めている女。
声も出さず後ずさりをして、すぐに出ていった。

「妊娠…独りで出産まで…不安だったわよね」
女が、ぽつりと声をかけた。
そして、ポケットからケータイを取りだした。
「もしもし。近くにいるのは分かってるの。仕事してないでしょ?あんたの母親もここにいるから、気持ち悪い行為中でもないでしょうよ。さっさと帰ってきて」
これまで、見たことの無い母の姿に息子は解放された腕の中から出てきて驚いた顔で見ている。
電話ごしの旦那も、へっ?えっ?などと間抜けな声を出していた。

「警察に電話するのかと思った」
息子が言った。
「どうせ、さっきの近所のひとが呼んだわよ」
女はすっきりした表情をしている。
「すみません…お婆さん…大丈夫かしら」
「大丈夫よ。大丈夫じゃなくても大丈夫よ」
女性がちらりと祖母を見やるが女は軽く一瞥しただけで笑って言った。
「悪魔のような女だね」
祖母が苦しげに声を出した。
「ほらね」
女は、残念と言わんばかりにため息を吐いた。

この中での悪魔は一体誰なのだろう。

祖母以外の全員がふと考えた。

「母さん!?あれ?あんた!なぜここに?この人は?」
旦那が帰宅してきた。

「ほんと、すぐそこのパチ屋にいたのね。」女が鼻で笑った。

「説明は面倒だから警察にでもききなさいよ。わたしは、この家から出ていきます。もう話もしたくないの。ただ、ひとつだけ言いたいことがあったから、わざわざ呼び出したの」

「お前、どうしたんだよ」
しどろもどろになりながら旦那が言う

「もう、媚びる必要なんてないわ。この生活を守る意味が何も無くなったの。離婚よ。この子には実のお母さんがいる。わたしは用無しでしょ。そして、あなたには子種がないの。結果も出た。そこの婆さんいきつけの医師にきいてごらんなさいよ。あんたが毎日せっせと婆さんが呼んだ雌たちに頑張って腰振ったところで意味が無いのよ。と、言うか気づいてるでしょ。こんだけ誰にもタネ漬けできないんだから。私よりも劣等遺伝子ね」
女は笑っていた。
「あんたのせいもあるかもしれないじゃない」
祖母が苦しげに声をはる。
「残念ね。私は妊娠できるの。証明されたわ。」
女はお腹を優しく撫でた。
「は…?まさか不倫…!慰謝料を…」
「いいわよ。払うわよ。それはそうと、あなたが種無しだって広まるかもしれないわね。そしたら再婚なんてできるのかしら。見栄っ張りのお義母さまだもの、そこは上手く隠して相手をお探しになるんじゃないのかしら?いい歳して離婚された、独身です。仕事もしてません。じゃメンツがたちませんものね」

若い女性と息子が会話から置いてけぼりの中、警察が到着した。
見るからに人を殺したような姿の女性が連れていかれた。女性は言い訳もせず、控えめに息子に視線をやってから連れていかれた。

救急車も呼ばれ祖母と青年が運ばれていく。

そして、あとから残る3人も事情を聞かれるべく警察へと向かった。
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