200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第二章 遺恨編

章末閑話3 従者の決断

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 ラムディア及びネオワイズ盗賊団の襲撃があった次の日、アムリスとルーグはこれまで通りゼーレンと剣の稽古をしていた。アルエットとガステイルはそれを遠くから見ながら、魔法の支援のイメージトレーニングをしている。昨日の稽古とは違い、ゼーレンにも焦りの表情が生まれる。

「ルーグさんもアムリスさんも、動きが良くなっていますね。」

 ガステイルが口を開く。アルエットは目を細め、

「ええ。アムリスの速さでゼーレンの動きを制限しつつルーグの一撃をサポートし、ルーグが力で押さえ込んだところを今度はアムリスが狩るというパターンが成立しているね。」
「はは、これじゃ俺たちの出る幕がないですね。」
「いやいや、そんなこともない。あくまでこれは相手の実力がゼーレン級で一人だった時だからこその戦術だ。周囲に雑魚が多数いる場合など情報があの三人で解決しない場合は、私たちにも出番はある。」
「……」

 ガステイルは俯く。アルエットはその様子を不思議に思い、ガステイルに向き直る。

「どうかしたのか?」
「……ええ、まあ。実は、弟に会えたんですよ。」
「本当か!良かったじゃないか!」

 アルエットはガステイルの肩を掴み、自分のことのように喜んでいる。

(本当にあの時の記憶が無いのか……)
「それで、弟君はどこにいたのだ?エリフィーズか?」
「昨日の、あのラムディアという魔族に仕えていました。」

 アルエットはガステイルの言葉を聞き、神妙な表情になる。

「そうか……。それで、ガステイルはどうするつもりなんだい?」
「どう、とは?」
「このまま私に着いてきて、弟君と戦うつもりなのかい?」
「無論です。」
「え?」

 ガステイルの即答に、アルエットは拍子抜けする。

「いやいや、君の旅の目的だったんじゃないのかい?それをこんなあっさり曲げてしまって……」
「曲げたわけじゃありませんよ。むしろ魔王を倒せば弟……ヴォリクスと共にこっちで暮らすことができるんですから、余計気合いが入りましたよ。」

 アルエットはガステイルを暫くじっと見つめ、

「……まぁ、それなら改めてよろしくね。ガステイル。」

 微笑みながらそう手を差し出した。ガステイルもそれに応じ、ガシリとアルエットの手を強く握る。そこへ、

「のわぁぁぁ!」

 と、ルーグが飛ばされてきた。アルエットは慌ててゼーレンの方を見ると、ゼーレンが木剣を抜きルーグに打ち込んだようであった。アムリスはゼーレンの足元で目を回しながらへたりと座り込んでいる。

「ちっくしょう、相変わらず底が見えねえぜ。」
「うふふ、この数日で私に剣を抜かせただけ立派よ、二人とも。特にルーグちゃん、あなた、昨日何か掴んだわね?」
「……盗賊団の攻撃をいなしながら、二対一でどう攻められると困るか考えていました。何か変わったとすればそれだと思います。」

 ゼーレンは目を丸くし、口元を釣り上げる。

「うふふ、男子三日会わざれば刮目して見よとは言うけど、一日でここまで伸びる子を拝めるなんてね……」
「ふっ、まだ褒めるには早いんじゃないですか?」

 ルーグはそう言って、ゼーレンに突進する。

「上等ね。アタシを楽しませて頂戴!」

 木剣が交差し、再び打ち合いが始まった。


 小屋から少し歩いた先にある、ゼーレンが所有する大浴場にて。ルーグは服を脱ぎ男湯の扉をガラガラと開けた。

「あいててて……」

 生傷と痣をあちこちに作り、シャワーに向かうルーグ。露天風呂の風が滲みる。そこへ

「ルーグちゃん!!」
「いっ!!!」

 ゼーレンが脱衣所から入り、ルーグの元へ行きお尻を叩いた。ルーグは悶絶する。

「師匠、やめてくださいよ……。昼間あんたにどれだけシバかれたと思ってるんですか。」
「うふふ、ごめんねぇ。ついついテンション上がっちゃってねぇ。」
「全く、何をイチャイチャしてるんですか。」

 ゼーレンの背後からガステイルが姿を現す。

「何って、スキンシップは大事よぉ。ガステイルちゃんも、ほら!」

 ゼーレンはそう言ってガステイルに近寄ろうとする。しかしガステイルは

「それ以上近付かないでください。」

 と質量構築魔法を展開し、ゼーレンを拒絶する。

「あはは、冗談よ。」

 ゼーレンはそう言って、三人はそれぞれシャワーを浴びた。
 シャワーを終えて湯船に浸かった三人。露天風呂の風とお湯が、疲労と傷に滲みいる。

「至福ね……」
「そうですね。」

 三人は揃って、息をふうと吐いた。立ち昇る湯気が作る朧月夜が、世界を優しく包んでいる。暫し場を沈黙が支配したが、ゼーレンが話を切り出す。

「ルーグちゃんは、今後どうするつもりなのよ。」
「質問の意味が分からないんですが……」
「貴方も見たでしょう。あの姿の話よ。」

 ゼーレンは目を閉じ、真剣な顔をしてルーグに向き直り続けた。

「アタシも見たことがあるから分かるけど、あれは間違いなく妖羽化ヴァンデルンの変化。つまり、アルエット殿下の正体は魔族……及びそれに準ずる者であるのは間違いないわ。」

 ルーグはゼーレンを見向きもせず、俯いて考えている。

「母親はヴェクトリア女王だし、素性の分からない父親の血に何かあるんでしょうね。いずれにしても、ルーグちゃんは殿下のあの姿を見て今まで通りの旅が続けられるの?」
「それは、問題ないですけど。」

 ゼーレンはきょとんと目を丸くする。

「随分、あっさりと即答するのね。」
「約束したんですよ、死ぬまでお仕えするって。それに、たとえお嬢が魔族でも今までの28年間がひっくり返るわけではありませんから……。まあ、貴方達やお嬢にとっては取るに足らないような時間かもしれないですが。」

 ゼーレンとガステイルは顔を見合わせ、ルーグに笑顔を向ける。

「なかなか見せつけてくれますね、ルーグさん」
「もう、こっちが照れちゃうじゃない!」
「な、なんですか急に」
「まあでも、あの姿は同士討ちの危険性がありますし、殿下には内緒にしておきましょう。」
「俺もそれで構いません。アムリスさんにも……。」
「アムリスちゃんには、ガステイルちゃんが言えばいいんじゃなぁい?」

 ゼーレンは下世話な笑顔をガステイルに向ける。ガステイルは顔を真っ赤にしながら、

「なっ、何を言っているんですか!ほらルーグさんもなんとか言ってやってくださいよ!」
「ん?ガステイル君が言いたいなら……」

 何も知らないルーグが、頭を掻きながら言った。

「んもおお!なんで察してくれないんだよ!!」
「ルーグちゃん、ナイスよぉ!」
「あんたは黙っててください!!」

 ガステイルはそう言って、ゼーレンにくってかかる。そんなこんなでじゃれあっていると、薄い壁の向こうから

「うわぁ!すごいですよアルエット様!露天風呂です!!」
「そうだね。アムリスは露天風呂初めて?」
「はい!」

 と、女性陣の会話が響いてきた。ガステイルとゼーレンはそれを聞き大人しくなる。

「……そろそろ、あがりましょうか。」

 ルーグの提案に、ガステイルとゼーレンは頷き、三人とも湯船から出る。その瞬間、

「アムリスって……随分着痩せするのね。」
「え、まあ、はい。」
「いいなぁ……」

 壁の向こうから聞こえてくる会話に、ガステイルの足がピタリと止まった。ルーグは呆れた笑みを浮かべる。

「……まだ、残っとくか?」
「いえ、結構です。」

 ガステイルは名残惜しそうに吐き捨てた。
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