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第三章 箱庭編
箱庭ⅩⅣ 再臨する伝承
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ルーグはシャガラに剣を向け、目を逸らさぬようにしながら少しずつ、厨房があった場所に近付く。
(とにかく、あの店員を探して逃げさせなきゃ。)
ルーグが厨房のある方へ目配せしたその瞬間、
「ウオオオオ!!」
シャガラが雄叫びをあげながら右腕を叩きつける。ルーグも上手く反応しバックステップをして避ける。舞い上がった土煙が晴れ、シャガラの右腕の下に広がるクレーターに、ルーグは息を呑む。
「こいつは……一撃でも貰っちまうとまずいな……ん?」
ルーグはぐにぃと何かを踏んだ感触を覚える。辺りを見回すと自分が厨房のあった場所に辿り着いていることを確認する。そして、ルーグは足元に目線を送ると
「うわぁ!」
そこには、店員の顔をしたよくできた人形が転がっていた。右腕はちぎれ、胸元には折れた建材が突き刺さっていた。その他にも小さな損傷が多数あり、どの傷口からも血ではなく大量の綿が吹きこぼれていた。
「まさか、俺たちは今まで人形でできた街にいたというのか……。」
壊れた人形に目をやり呟くルーグに、シャガラの左腕が唸り襲いかかる。
「チィッ!」
ルーグは高く飛び上がり回避する。しかしシャガラの目はルーグをしっかり捉えており、右腕に力を溜めルーグに打ち込んだ。
「しまっ……!」
ルーグは慌てて大剣で防御するが、防ぎきれず二軒の小屋を貫き飛ばされた。小屋はガラガラと音を立てて崩れ、ルーグはその下敷きになる。シャガラはカタカタと高笑いし、トドメを刺すべくルーグを飛ばした元へ全てを潰しながら進んでいく。再び右の拳を握り力を込めたその瞬間、
「ガァ!?」
手の甲に一文字に切られた傷跡から、勢いよく血が吹き出す。シャガラが怯んだその隙に、ルーグが瓦礫を登り再びシャガラと対峙した。
「間に合ったようだな……『伝説想起』」
ルーグの大剣が眩い光を放つ。シャガラはその光を見るなり顔を歪ませ、激怒するような声をあげる。
「はは、怒ってら。まあ、それもそうか。あんたら竜族にとっては憎き仇敵……グランベオ・ユールゲンの剣そのものだからな。」
額から流れる血も意に介さず、ルーグは剣をシャガラに突き付ける。
「生憎、俺は魔法は使えねえが……ユールゲンの血にはこの魔法が刻みつけられてんだ。神代の先祖様の力を顕現させる、竜殺しの秘法がね。さあ、第2ラウンドは……こっちからいこうか。」
ルーグはそう吐き捨て、シャガラに突撃した。
「あれが……シャガラ君?」
アルエット達はドニオの家を出て、ガニオの街の方角で暴れているシャガラの姿を見ていた。かなり距離があるはずのギェーラからもしっかりと見えるシャガラの体躯に、一行は息を呑む。
「……行かなきゃ。」
アルエットは震える拳を握りしめ、無理やり吐き出したようなか細い声で言葉を紡ぐ。怯えているのは誰の目にも明らかであった。ガステイルはアルエットの腕を掴み、
「やめてください!死にに行くつもりですか!」
アルエットを諌める。アルエットはその腕を払いながら反論する。
「離して!あの子は人に危害を加えた……五年前も、たった今も!人に害する魔族は……竜族も、退治しなきゃいけないのよ!」
「ドニオさんの話を聞いてなかったんですか!あそこにいるのは全て人形なんです。シャガラ君はガニオで人形相手に消耗させておけばいずれ疲れ果て眠ります。その間にドニオさんがもう一度ガニオを修復すれば、他の竜族と同じように彼をその地に縛り付けることができるんです!犠牲になる町民はもう居ないんですよ!」
「五年前の罪はどうするつもりなのよ!それにガニオからあの子が出ないという保証もない。人間に危害を与え、今後も与える可能性がある存在は……私が殺さなくちゃいけないのよ!」
「待ってください!あれ……なんだか変な動きじゃないですか?」
二人の言い争いをアムリスが制し、シャガラを指さして言い放った。
「本当だ……小さな何かと争っている?」
「争っている……じゃと?」
不意に、ドニオが三人の中に割って入る。そして髭を擦りながら何かを思案し、呟いた。
「ガニオの人形には戦闘のアルゴリズムは入れとらん。シャガラを暴れさせて消耗させるためのサンドバッグに過ぎぬし、何より竜族なんぞに刃向かえる戦闘力など用意できんからのう。」
「それじゃ、あれはまさか……」
「相手は間違いなく、生身の生き物じゃろうて。」
ドニオの言葉にアルエットは顔面蒼白になり、凄まじい速さで駆け出した。
「あっ……」
再び制止しようとしたガステイルの腕は空を切り、アルエットの姿はもう見えなくなっていた。
「はぁ、俺たちも行かなきゃダメですよね……これ。」
「まあ、そうですね……。アルエット様と恐らくルーグさんも戦ってるってことでしょうから。」
アムリスとガステイルがガニオに向かって進もうとしたその時、
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
後方から響くドニオの叫び声。アムリスとガステイルが振り向くと、そこには修道服を着た女が一人。ドニオの腕を掴み肩を地面に押し付けて組み伏せている。
「うふふ、ドニオさぁん。お久しぶりねぇ。」
「まさか……クリステラ・バートリー!?」
「あらぁ?わたくし、貴方とどこかで会ったのかしらぁ?それとも、そっちの田舎娘の方?」
「……」
アムリスは答えを返すことなく、クリステラを睨み続けている。クリステラはビクビクと体をくねらせながら続ける。
「あはぁん。さっきから怖いわぁ。同じ教会の人間なんだからぁ、もっと仲良くしよ?」
「……貴女のことを、同じ教会の人間だと思ったことは一度もありません。」
アムリスが冷たく言い放つと、クリステラは体を大きくビクンと跳ねさせる。そして興奮状態のまま
「あん、振られちゃったわぁん。でも今日はそんなことをしに来たんじゃないのよ。」
と胸元から小さな水晶を取り出す。それを見たドニオが
「ヒィィィ!!」
と取り乱し始め、抜け出そうともがき始める。しかしクリステラはビクともせず、ニコニコとした笑顔で続ける。
「今日は、徴収のお時間ですよぉ。年貢の納め時ですね、ギェーラの人形師サマ♡」
クリステラはかわいこぶった口調で、いたずらっぽくドニオに告げる。しかしその異様な威圧感に、場にいる誰もが動くことができなかった。
(とにかく、あの店員を探して逃げさせなきゃ。)
ルーグが厨房のある方へ目配せしたその瞬間、
「ウオオオオ!!」
シャガラが雄叫びをあげながら右腕を叩きつける。ルーグも上手く反応しバックステップをして避ける。舞い上がった土煙が晴れ、シャガラの右腕の下に広がるクレーターに、ルーグは息を呑む。
「こいつは……一撃でも貰っちまうとまずいな……ん?」
ルーグはぐにぃと何かを踏んだ感触を覚える。辺りを見回すと自分が厨房のあった場所に辿り着いていることを確認する。そして、ルーグは足元に目線を送ると
「うわぁ!」
そこには、店員の顔をしたよくできた人形が転がっていた。右腕はちぎれ、胸元には折れた建材が突き刺さっていた。その他にも小さな損傷が多数あり、どの傷口からも血ではなく大量の綿が吹きこぼれていた。
「まさか、俺たちは今まで人形でできた街にいたというのか……。」
壊れた人形に目をやり呟くルーグに、シャガラの左腕が唸り襲いかかる。
「チィッ!」
ルーグは高く飛び上がり回避する。しかしシャガラの目はルーグをしっかり捉えており、右腕に力を溜めルーグに打ち込んだ。
「しまっ……!」
ルーグは慌てて大剣で防御するが、防ぎきれず二軒の小屋を貫き飛ばされた。小屋はガラガラと音を立てて崩れ、ルーグはその下敷きになる。シャガラはカタカタと高笑いし、トドメを刺すべくルーグを飛ばした元へ全てを潰しながら進んでいく。再び右の拳を握り力を込めたその瞬間、
「ガァ!?」
手の甲に一文字に切られた傷跡から、勢いよく血が吹き出す。シャガラが怯んだその隙に、ルーグが瓦礫を登り再びシャガラと対峙した。
「間に合ったようだな……『伝説想起』」
ルーグの大剣が眩い光を放つ。シャガラはその光を見るなり顔を歪ませ、激怒するような声をあげる。
「はは、怒ってら。まあ、それもそうか。あんたら竜族にとっては憎き仇敵……グランベオ・ユールゲンの剣そのものだからな。」
額から流れる血も意に介さず、ルーグは剣をシャガラに突き付ける。
「生憎、俺は魔法は使えねえが……ユールゲンの血にはこの魔法が刻みつけられてんだ。神代の先祖様の力を顕現させる、竜殺しの秘法がね。さあ、第2ラウンドは……こっちからいこうか。」
ルーグはそう吐き捨て、シャガラに突撃した。
「あれが……シャガラ君?」
アルエット達はドニオの家を出て、ガニオの街の方角で暴れているシャガラの姿を見ていた。かなり距離があるはずのギェーラからもしっかりと見えるシャガラの体躯に、一行は息を呑む。
「……行かなきゃ。」
アルエットは震える拳を握りしめ、無理やり吐き出したようなか細い声で言葉を紡ぐ。怯えているのは誰の目にも明らかであった。ガステイルはアルエットの腕を掴み、
「やめてください!死にに行くつもりですか!」
アルエットを諌める。アルエットはその腕を払いながら反論する。
「離して!あの子は人に危害を加えた……五年前も、たった今も!人に害する魔族は……竜族も、退治しなきゃいけないのよ!」
「ドニオさんの話を聞いてなかったんですか!あそこにいるのは全て人形なんです。シャガラ君はガニオで人形相手に消耗させておけばいずれ疲れ果て眠ります。その間にドニオさんがもう一度ガニオを修復すれば、他の竜族と同じように彼をその地に縛り付けることができるんです!犠牲になる町民はもう居ないんですよ!」
「五年前の罪はどうするつもりなのよ!それにガニオからあの子が出ないという保証もない。人間に危害を与え、今後も与える可能性がある存在は……私が殺さなくちゃいけないのよ!」
「待ってください!あれ……なんだか変な動きじゃないですか?」
二人の言い争いをアムリスが制し、シャガラを指さして言い放った。
「本当だ……小さな何かと争っている?」
「争っている……じゃと?」
不意に、ドニオが三人の中に割って入る。そして髭を擦りながら何かを思案し、呟いた。
「ガニオの人形には戦闘のアルゴリズムは入れとらん。シャガラを暴れさせて消耗させるためのサンドバッグに過ぎぬし、何より竜族なんぞに刃向かえる戦闘力など用意できんからのう。」
「それじゃ、あれはまさか……」
「相手は間違いなく、生身の生き物じゃろうて。」
ドニオの言葉にアルエットは顔面蒼白になり、凄まじい速さで駆け出した。
「あっ……」
再び制止しようとしたガステイルの腕は空を切り、アルエットの姿はもう見えなくなっていた。
「はぁ、俺たちも行かなきゃダメですよね……これ。」
「まあ、そうですね……。アルエット様と恐らくルーグさんも戦ってるってことでしょうから。」
アムリスとガステイルがガニオに向かって進もうとしたその時、
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
後方から響くドニオの叫び声。アムリスとガステイルが振り向くと、そこには修道服を着た女が一人。ドニオの腕を掴み肩を地面に押し付けて組み伏せている。
「うふふ、ドニオさぁん。お久しぶりねぇ。」
「まさか……クリステラ・バートリー!?」
「あらぁ?わたくし、貴方とどこかで会ったのかしらぁ?それとも、そっちの田舎娘の方?」
「……」
アムリスは答えを返すことなく、クリステラを睨み続けている。クリステラはビクビクと体をくねらせながら続ける。
「あはぁん。さっきから怖いわぁ。同じ教会の人間なんだからぁ、もっと仲良くしよ?」
「……貴女のことを、同じ教会の人間だと思ったことは一度もありません。」
アムリスが冷たく言い放つと、クリステラは体を大きくビクンと跳ねさせる。そして興奮状態のまま
「あん、振られちゃったわぁん。でも今日はそんなことをしに来たんじゃないのよ。」
と胸元から小さな水晶を取り出す。それを見たドニオが
「ヒィィィ!!」
と取り乱し始め、抜け出そうともがき始める。しかしクリステラはビクともせず、ニコニコとした笑顔で続ける。
「今日は、徴収のお時間ですよぉ。年貢の納め時ですね、ギェーラの人形師サマ♡」
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