102 / 165
第四章 亡国編
亡国ⅩⅩⅠ 昼⑤〜デステール造反
しおりを挟む
「魔王……あれが……?」
ガステイルは絶句していた。小さな子供の女魔族という視覚情報が嘘だと訴える……しかし、それ以外の情報と直感がそれを許さなかった。魔王ネカルクはガステイルを歯牙にもかけない様子で、デステールに話しかける。
「ときに、デステールよ……此度はお見事であったのう。」
「……!!!」
魔王は取り繕った笑顔でデステールを労った。しかし目の奥はまるで笑っておらず、デステールの緊張感は一層強くなる。
「自ら潜入しフォーゲルシュタットの防衛を丸裸にし、邪魔な王女一行を自らの領地に幽閉、その隙に総攻撃を仕掛けるとは……ここまで鮮やかな戦はなかなか見られるものではない。」
「お、お褒めに預かり、光栄に存じます……。」
「まあ、そう恐縮するでない。まだ完全に陥落してないとはいえ、これほどの働きには余も褒美を用意してやろうと思っておったのじゃ。」
「は、はぁ……」
「それだけに……先程の話は残念じゃったのう。」
「……!!」
ネカルクの威圧感がさらに倍増する。デステールは目を見開き身構える。ネカルクはさらに大きく下卑た笑みを浮かべ言った。
「ここを占領した暁には、人魔共存の国を作り、やがて世界を統一する……これは、余に対する宣戦布告と受け取ってよいかのう?」
「くっ……は、ははっ、そんなことあるわけないじゃないですか。240年前拾ってくださった魔王様を裏切るなど、守賢将の名折れでございます。」
「そうじゃのう……余も、そう信じておる。じゃがな、やはり物証が欲しいのじゃ。余の野望のため忠誠を全うできるかという証拠がのう。じゃから、ほれ。」
ネカルクはそう言うと、懐から刃渡りの大きな刀を取り出し、デステールの足元へと投げた。デステールがそれを拾った瞬間、ネカルクは心底嬉しそうな笑顔で命令を下した。
「そこで死にかけておるお前の妹を殺せ。そうすればお前の忠誠を認めてやる。」
「なっ……」
デステールは絶句し、刀を持つ手を震わせながら固まってしまう。進退窮まり呼吸が荒くなるデステールを、魔王ネカルクは悪い笑顔でけしかける。
「できぬなら、余はお前を殺さなければならなくなるのう。有能な部下が減るのは余も嫌じゃ、とっとと殺してくりゃれ。」
「デステール!!待て……お前、それだけはダメだろうが!!!」
デステールはゆっくりとアルエットの身体の方へと歩みを進める。ガステイルも身体を引きずりながらアルエットの元へ進むが、間に合うはずもなくデステールは剣を振りかぶった。
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
しかし、その剣が振り下ろされることはなかった。デステールは剣を振りかぶったまま
「ククク……ハーッハッハッハッ!!」
と突如として高笑いをあげる。
「どうしたデステール?おかしくなったかの?」
「おかしくなんかなってねえよタコ。最初からお前に忠誠なんぞ持ち合わせてなかったんだよ。そう思うと随分とお前が滑稽に見えてな。」
「ほほう、余に向かってタコとな……それが何を意味するか分からぬお主じゃなかろうに。」
「……無論だ。妹を手にかけるくらいなら叛逆を選ぶぜ。覚悟しやがれ、魔王!!」
デステールはネカルクに啖呵を切ると、剣を構えて猛スピードで突撃する。魔王の顔から笑みが消え、剣の間合いに入りデステールが勢いよく振り下ろした瞬間、
「がふっ……」
魔王の白い髪が凄まじい速さで伸び、デステールに突き刺さった。デステールは剣を落とし、傷を押さえてよろめく。
「うぐ……がはぁっ……」
「失望したぞデステール。じゃが、240年もよくもってくれたと思うべきじゃろうか……」
ネカルクはそう呟くと、髪を束ね八本の触手のようにしてデステールに追い打ちをかける。その一方的な蹂躙を、ガステイルは棒立ちで見つめるしかなかった。
「う……嘘だろ、あのデステールがここまで……」
やがて触手がゆっくりと引いていくと、全身血まみれでボロボロになったデステールが立っていた。剣を地面に突き刺し肩で息をしているデステールから興味を失ったネカルクは、ようやくガステイルに視線を向けた。
「さて……仕置きはこれまでとして、余自らがこの不届き者達を処理せねばのう。」
ネカルクは触手をもたげ、ゆっくりとガステイル達に狙いを定める。ほどなくして放たれる触手に、絶体絶命のガステイルは目をぎゅっと閉じる。しかし、触手は見えない壁に阻害され、途中で止まってしまう。ガステイルが辺りを見回すと、満身創痍のデステールが右手をかざし結界を展開していた。
「何ッ……デステール!!」
「ハァッ、ハァッ……」
ネカルクは怒りを露わにして息も絶え絶えのデステールを睨みつける。しかしすぐに些事と断じたネカルクはそのまま触手に力を込めあっさりと破壊してしまう。その瞬間、アルエット、ルーグ、アムリス、ガステイルの姿が消えてしまった。
「なんだと……」
「ハッハッハッ……お、お前は必ず、ムキになって物理攻撃に拘ると思ってたぜ……だから、張らせてもらったのさ……物理攻撃であっさり壊れる魔法障壁を、瞬間移動の自壊効果のオマケ付きでな。」
「貴様ァ!!!調子に乗るんじゃないぞッ!!!!」
「そうだ……その通り、お前はこの挑発に乗ってもう一度僕を物理攻撃でチリにするはずだ……だから」
先程とは比べ物にならない速さで唸る触手がデステールを襲う。デステールに触れるコンマ数秒前、小さくパリンと何かが割れた音がする。その瞬間、デステールの姿もはるか彼方へと消えてしまった。
「チッ……小癪なやつ、必ず見つけだして……」
怒りに任せ王座の間をぐるぐると見渡しながら呟くネカルク。すると、城門の方向から轟音が響く。ネカルクは急ぎバルコニーに飛び出して様子を確認する。
「……王都陥落、じゃのう。」
城門及びその周囲の城壁は破壊され、なだれ込む魔族によって人間たちは踏み潰されていた。ネカルクは逃した者たちのことなど気にかけることなく、拳を力強く握りしめた。
ガステイルは絶句していた。小さな子供の女魔族という視覚情報が嘘だと訴える……しかし、それ以外の情報と直感がそれを許さなかった。魔王ネカルクはガステイルを歯牙にもかけない様子で、デステールに話しかける。
「ときに、デステールよ……此度はお見事であったのう。」
「……!!!」
魔王は取り繕った笑顔でデステールを労った。しかし目の奥はまるで笑っておらず、デステールの緊張感は一層強くなる。
「自ら潜入しフォーゲルシュタットの防衛を丸裸にし、邪魔な王女一行を自らの領地に幽閉、その隙に総攻撃を仕掛けるとは……ここまで鮮やかな戦はなかなか見られるものではない。」
「お、お褒めに預かり、光栄に存じます……。」
「まあ、そう恐縮するでない。まだ完全に陥落してないとはいえ、これほどの働きには余も褒美を用意してやろうと思っておったのじゃ。」
「は、はぁ……」
「それだけに……先程の話は残念じゃったのう。」
「……!!」
ネカルクの威圧感がさらに倍増する。デステールは目を見開き身構える。ネカルクはさらに大きく下卑た笑みを浮かべ言った。
「ここを占領した暁には、人魔共存の国を作り、やがて世界を統一する……これは、余に対する宣戦布告と受け取ってよいかのう?」
「くっ……は、ははっ、そんなことあるわけないじゃないですか。240年前拾ってくださった魔王様を裏切るなど、守賢将の名折れでございます。」
「そうじゃのう……余も、そう信じておる。じゃがな、やはり物証が欲しいのじゃ。余の野望のため忠誠を全うできるかという証拠がのう。じゃから、ほれ。」
ネカルクはそう言うと、懐から刃渡りの大きな刀を取り出し、デステールの足元へと投げた。デステールがそれを拾った瞬間、ネカルクは心底嬉しそうな笑顔で命令を下した。
「そこで死にかけておるお前の妹を殺せ。そうすればお前の忠誠を認めてやる。」
「なっ……」
デステールは絶句し、刀を持つ手を震わせながら固まってしまう。進退窮まり呼吸が荒くなるデステールを、魔王ネカルクは悪い笑顔でけしかける。
「できぬなら、余はお前を殺さなければならなくなるのう。有能な部下が減るのは余も嫌じゃ、とっとと殺してくりゃれ。」
「デステール!!待て……お前、それだけはダメだろうが!!!」
デステールはゆっくりとアルエットの身体の方へと歩みを進める。ガステイルも身体を引きずりながらアルエットの元へ進むが、間に合うはずもなくデステールは剣を振りかぶった。
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
しかし、その剣が振り下ろされることはなかった。デステールは剣を振りかぶったまま
「ククク……ハーッハッハッハッ!!」
と突如として高笑いをあげる。
「どうしたデステール?おかしくなったかの?」
「おかしくなんかなってねえよタコ。最初からお前に忠誠なんぞ持ち合わせてなかったんだよ。そう思うと随分とお前が滑稽に見えてな。」
「ほほう、余に向かってタコとな……それが何を意味するか分からぬお主じゃなかろうに。」
「……無論だ。妹を手にかけるくらいなら叛逆を選ぶぜ。覚悟しやがれ、魔王!!」
デステールはネカルクに啖呵を切ると、剣を構えて猛スピードで突撃する。魔王の顔から笑みが消え、剣の間合いに入りデステールが勢いよく振り下ろした瞬間、
「がふっ……」
魔王の白い髪が凄まじい速さで伸び、デステールに突き刺さった。デステールは剣を落とし、傷を押さえてよろめく。
「うぐ……がはぁっ……」
「失望したぞデステール。じゃが、240年もよくもってくれたと思うべきじゃろうか……」
ネカルクはそう呟くと、髪を束ね八本の触手のようにしてデステールに追い打ちをかける。その一方的な蹂躙を、ガステイルは棒立ちで見つめるしかなかった。
「う……嘘だろ、あのデステールがここまで……」
やがて触手がゆっくりと引いていくと、全身血まみれでボロボロになったデステールが立っていた。剣を地面に突き刺し肩で息をしているデステールから興味を失ったネカルクは、ようやくガステイルに視線を向けた。
「さて……仕置きはこれまでとして、余自らがこの不届き者達を処理せねばのう。」
ネカルクは触手をもたげ、ゆっくりとガステイル達に狙いを定める。ほどなくして放たれる触手に、絶体絶命のガステイルは目をぎゅっと閉じる。しかし、触手は見えない壁に阻害され、途中で止まってしまう。ガステイルが辺りを見回すと、満身創痍のデステールが右手をかざし結界を展開していた。
「何ッ……デステール!!」
「ハァッ、ハァッ……」
ネカルクは怒りを露わにして息も絶え絶えのデステールを睨みつける。しかしすぐに些事と断じたネカルクはそのまま触手に力を込めあっさりと破壊してしまう。その瞬間、アルエット、ルーグ、アムリス、ガステイルの姿が消えてしまった。
「なんだと……」
「ハッハッハッ……お、お前は必ず、ムキになって物理攻撃に拘ると思ってたぜ……だから、張らせてもらったのさ……物理攻撃であっさり壊れる魔法障壁を、瞬間移動の自壊効果のオマケ付きでな。」
「貴様ァ!!!調子に乗るんじゃないぞッ!!!!」
「そうだ……その通り、お前はこの挑発に乗ってもう一度僕を物理攻撃でチリにするはずだ……だから」
先程とは比べ物にならない速さで唸る触手がデステールを襲う。デステールに触れるコンマ数秒前、小さくパリンと何かが割れた音がする。その瞬間、デステールの姿もはるか彼方へと消えてしまった。
「チッ……小癪なやつ、必ず見つけだして……」
怒りに任せ王座の間をぐるぐると見渡しながら呟くネカルク。すると、城門の方向から轟音が響く。ネカルクは急ぎバルコニーに飛び出して様子を確認する。
「……王都陥落、じゃのう。」
城門及びその周囲の城壁は破壊され、なだれ込む魔族によって人間たちは踏み潰されていた。ネカルクは逃した者たちのことなど気にかけることなく、拳を力強く握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった!
スキルスキル〜何かな何かな〜
ネットスーパー……?
これチートでしょ!?
当たりだよね!?
なになに……
注文できるのは、食材と調味料だけ?
完成品は?
カップ麺は?
え、私料理できないんだけど。
──詰みじゃん。
と思ったら、追放された料理人に拾われました。
素材しか買えない転移JK
追放された料理人
完成品ゼロ
便利アイテムなし
あるのは、調味料。
焼くだけなのに泣く。
塩で革命。
ソースで敗北。
そしてなぜかペンギンもいる。
今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる