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第五章 彷徨編
彷徨ⅩⅣ 四天王筆頭
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ケイレス村、跡地。しばらく二枚の板を見つめていたアルエットであったが、やがてゆっくりと立ち上がりクニシロの方へと振り向き言った。
「クニシロ、今日はありがとうね。」
「アルエット様……いいえ、私の方こそ、ありがとうございます。」
「……え?」
「私がここに来た目的は、その板の回収なんです。お父様が定期的にここに訪れているのも……それを探すためだったんです。」
「なるほどね。それじゃ……」
アルエットはそう言い、デステールの名が刻まれた木の板の方を差し出しながらクニシロに微笑みかける。
「これ、貴女に渡しておくわ。デステールによろしくね。」
「……いえ、やはりこちらはアルエット様が持っておいてください。」
クニシロはアルエットの差し出した手を右手で制し、首を振って言った。そしてさらに言葉を続ける。
「実は私も、今お父様がどこにいらっしゃるのか分からないんです。ですから……それなら、アルエット様の方に持っていて欲しいかなと私は思いました。」
「……分かったわ。貴女がそういうなら私が預かっておくよ。」
アルエットはそう言うと、木の板2枚を懐にしまい込んだ。暫く二人は黙って座っていたが、やがてアルエットはクニシロに尋ねる。
「そういえばさっき、クニシロが"思います"って言ってたけど、貴女たちってどれくらい感情を持っているの?」
「基本的な人型結界刻印装置は人間たちほどの感情を持ちえていません。ですがぁ、私だけは扱う結界の種類の関係で他の皆より感情が豊かに設定されているんですぅ。」
「そう。それならやっぱり、尚更辛かったんでしょうね……グレニアドールの件は。」
クニシロはアルエットの言葉にきょとんと目を丸くする。
「え、えぇ……まあ。そういう意味でも、アルエット様の言葉には助けられました。もうあんなお父様は見たくないですから……。」
「デステールを見たの?」
「はい……あの日グレニアドール近くの森で、傷を負い一人で歩いている姿をお見かけしました。」
「着いていかなかったのかい?」
「……というより、着いていけませんでした。何者も近寄らせないというオーラがすごくて……それに、私は私の仕事をやらなければならなかったので。」
「なるほどね……。」
アルエットはそう言うと、ゆっくり立ち上がって伸びをする。そして満面の笑みでクニシロの方へと向きながら、
「そろそろ、帰りましょうか。」
と手を差し出し告げた。クニシロは困惑を隠せないといった様子で、アルエットに尋ねる。
「え……?帰るって、どこにでしょうか?」
「決まってるでしょ、人間領によ!まあ……まずはザイリェンになるのかな。」
「わ、私も着いていってよろしいんですか?」
「この状況でNOって答えたら、いくらなんでも性格悪すぎでしょう?」
「……ふふ、それもそうですねぇ。」
クニシロの表情もアルエットにつられるまま笑顔になり、アルエットの手を取り言った。そうして二人はケイレスの跡地から外へ出ようとした瞬間、
「随分と、仲睦まじいことでございますねぇ。」
と、低い声が響く。アルエットは慌ててクニシロを庇うような態勢を取りながら辺りを見回すと、村の入り口からカツカツと靴音を立てながら歩いて来る男がいた。全身を黒いスーツのような服に身を包み、鋭い眼光と立派な髭がその風貌に威圧感を加えている。クニシロはその男を見るなり、驚きの声をあげながら叫んだ。
「貴方は……フラーヴ卿!?」
「フラーヴだって!?」
アルエットにもフラーヴという名は聞き覚えがあった。それもそのはず、フラーヴとは魔族四天王の最後の一人でありその格は四天王筆頭であると書物に記載があったからだ。フラーヴは短剣を抜いて戦闘態勢になるアルエットを横目に、辺り一面を首だけぐるりと回しながら見回し、
「フム……」
と呟いた。
「うげっ……なんだありゃ……」
アルエットはフラーヴの首の動きに嫌悪感を示しながら、警戒を緩めずに見つめる。フラーヴはアルエットの様子を気にしないまま、独りごちる。
「なるほど……この場所を選ぶとはなかなか、目の付け所が違いますねぇ。この"種"の量は実に素晴らしい。」
「"種"ってなんだよ……」
「……ああ、これは失敬。申し遅れました。私はフラーヴ……魔族四天王が筆頭、鴟鴞爵フラーヴ・アルノルディーでございます。アルエット・フォーゲル殿下、お見知り置きを。」
「鴟鴞爵……なるほど、さっきの首の動きはフクロウの特性ってことか。」
「ご明察。流石はアルエット・フォーゲル殿下、博識ですね。」
「御託はいいわ。とにかく、種ってどういう意味か教えなさい。」
アルエットの言葉に、フラーヴはニヤリと不気味に微笑む。
「種の意味が知りたい……ですか、それなら話は早いです。」
フラーヴがそう呟いた瞬間、スーツのように見えていた彼の大きな翼がバサリと広がった。大柄だが華奢なフラーヴの身体が姿を現し、両手で持っていた杖でトントンと地面を叩いた。すると、
「なっ……これは!」
地面から無数の腕が生えたと思うと、腕は地面を掴みその先にある胴体を引きずり出していく。あっという間に無数のアンデッド達がアルエットを囲んでいく。彼らは全て、翼を有していた。フラーヴは驚愕するアルエットに言葉を続ける。
「これが、種でございます。死霊術は私の得意な魔法でして、大量の死体が埋まり魂が充満しているこの地はまさに私の独壇場でございます。それに……ここならば、240年前に死に損なった貴女の墓場としても相応しいでしょう、アルエット殿下?」
「……は?」
フラーヴの言葉に、アルエットの中で何かがプツンと切れた。アルエットの魔力が身体を包み、妖羽化『昏き救済の破壊者』が姿を現す。無数のアンデッド達の奥にいるフラーヴを睨みつけながら、アルエットは叫ぶ。
「許さない……死者を冒涜し、生命へ敬意のかけらもないその態度。貴方は……貴方だけは絶対に、私が殺します!!」
フラーヴはその様子を鼻で笑い、余裕の表情でアルエットを見下ろしていた。
「クニシロ、今日はありがとうね。」
「アルエット様……いいえ、私の方こそ、ありがとうございます。」
「……え?」
「私がここに来た目的は、その板の回収なんです。お父様が定期的にここに訪れているのも……それを探すためだったんです。」
「なるほどね。それじゃ……」
アルエットはそう言い、デステールの名が刻まれた木の板の方を差し出しながらクニシロに微笑みかける。
「これ、貴女に渡しておくわ。デステールによろしくね。」
「……いえ、やはりこちらはアルエット様が持っておいてください。」
クニシロはアルエットの差し出した手を右手で制し、首を振って言った。そしてさらに言葉を続ける。
「実は私も、今お父様がどこにいらっしゃるのか分からないんです。ですから……それなら、アルエット様の方に持っていて欲しいかなと私は思いました。」
「……分かったわ。貴女がそういうなら私が預かっておくよ。」
アルエットはそう言うと、木の板2枚を懐にしまい込んだ。暫く二人は黙って座っていたが、やがてアルエットはクニシロに尋ねる。
「そういえばさっき、クニシロが"思います"って言ってたけど、貴女たちってどれくらい感情を持っているの?」
「基本的な人型結界刻印装置は人間たちほどの感情を持ちえていません。ですがぁ、私だけは扱う結界の種類の関係で他の皆より感情が豊かに設定されているんですぅ。」
「そう。それならやっぱり、尚更辛かったんでしょうね……グレニアドールの件は。」
クニシロはアルエットの言葉にきょとんと目を丸くする。
「え、えぇ……まあ。そういう意味でも、アルエット様の言葉には助けられました。もうあんなお父様は見たくないですから……。」
「デステールを見たの?」
「はい……あの日グレニアドール近くの森で、傷を負い一人で歩いている姿をお見かけしました。」
「着いていかなかったのかい?」
「……というより、着いていけませんでした。何者も近寄らせないというオーラがすごくて……それに、私は私の仕事をやらなければならなかったので。」
「なるほどね……。」
アルエットはそう言うと、ゆっくり立ち上がって伸びをする。そして満面の笑みでクニシロの方へと向きながら、
「そろそろ、帰りましょうか。」
と手を差し出し告げた。クニシロは困惑を隠せないといった様子で、アルエットに尋ねる。
「え……?帰るって、どこにでしょうか?」
「決まってるでしょ、人間領によ!まあ……まずはザイリェンになるのかな。」
「わ、私も着いていってよろしいんですか?」
「この状況でNOって答えたら、いくらなんでも性格悪すぎでしょう?」
「……ふふ、それもそうですねぇ。」
クニシロの表情もアルエットにつられるまま笑顔になり、アルエットの手を取り言った。そうして二人はケイレスの跡地から外へ出ようとした瞬間、
「随分と、仲睦まじいことでございますねぇ。」
と、低い声が響く。アルエットは慌ててクニシロを庇うような態勢を取りながら辺りを見回すと、村の入り口からカツカツと靴音を立てながら歩いて来る男がいた。全身を黒いスーツのような服に身を包み、鋭い眼光と立派な髭がその風貌に威圧感を加えている。クニシロはその男を見るなり、驚きの声をあげながら叫んだ。
「貴方は……フラーヴ卿!?」
「フラーヴだって!?」
アルエットにもフラーヴという名は聞き覚えがあった。それもそのはず、フラーヴとは魔族四天王の最後の一人でありその格は四天王筆頭であると書物に記載があったからだ。フラーヴは短剣を抜いて戦闘態勢になるアルエットを横目に、辺り一面を首だけぐるりと回しながら見回し、
「フム……」
と呟いた。
「うげっ……なんだありゃ……」
アルエットはフラーヴの首の動きに嫌悪感を示しながら、警戒を緩めずに見つめる。フラーヴはアルエットの様子を気にしないまま、独りごちる。
「なるほど……この場所を選ぶとはなかなか、目の付け所が違いますねぇ。この"種"の量は実に素晴らしい。」
「"種"ってなんだよ……」
「……ああ、これは失敬。申し遅れました。私はフラーヴ……魔族四天王が筆頭、鴟鴞爵フラーヴ・アルノルディーでございます。アルエット・フォーゲル殿下、お見知り置きを。」
「鴟鴞爵……なるほど、さっきの首の動きはフクロウの特性ってことか。」
「ご明察。流石はアルエット・フォーゲル殿下、博識ですね。」
「御託はいいわ。とにかく、種ってどういう意味か教えなさい。」
アルエットの言葉に、フラーヴはニヤリと不気味に微笑む。
「種の意味が知りたい……ですか、それなら話は早いです。」
フラーヴがそう呟いた瞬間、スーツのように見えていた彼の大きな翼がバサリと広がった。大柄だが華奢なフラーヴの身体が姿を現し、両手で持っていた杖でトントンと地面を叩いた。すると、
「なっ……これは!」
地面から無数の腕が生えたと思うと、腕は地面を掴みその先にある胴体を引きずり出していく。あっという間に無数のアンデッド達がアルエットを囲んでいく。彼らは全て、翼を有していた。フラーヴは驚愕するアルエットに言葉を続ける。
「これが、種でございます。死霊術は私の得意な魔法でして、大量の死体が埋まり魂が充満しているこの地はまさに私の独壇場でございます。それに……ここならば、240年前に死に損なった貴女の墓場としても相応しいでしょう、アルエット殿下?」
「……は?」
フラーヴの言葉に、アルエットの中で何かがプツンと切れた。アルエットの魔力が身体を包み、妖羽化『昏き救済の破壊者』が姿を現す。無数のアンデッド達の奥にいるフラーヴを睨みつけながら、アルエットは叫ぶ。
「許さない……死者を冒涜し、生命へ敬意のかけらもないその態度。貴方は……貴方だけは絶対に、私が殺します!!」
フラーヴはその様子を鼻で笑い、余裕の表情でアルエットを見下ろしていた。
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