200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

文字の大きさ
128 / 165
第五章 彷徨編

彷徨ⅩⅨ 旅路の終着点

しおりを挟む
 エリフィーズにて。ガステイルとヴォリクスはパーシンの店を出て街を歩いていた。ガステイルは神妙な顔で黙り込み、ヴォリクスは彼の顔色を伺うように様子を見ていた。やがてガステイルが口を開く。

「……あのさ!!」
「なんだい?兄さん。」
「フラーヴが死ななきゃ、お前はずっとこのままで居られるんだろ?」
「まあ……うん。」
「だったら、俺が今から殿下に直談判して、こんな争いやめさせてくる。」

 そう言って街の外へ大股で向かうガステイル。ヴォリクスは慌ててその肩を掴み、制止する。

「ちょ、ダメだよ兄さん!」
「何がダメなんだ?こんな戦争に俺たちがもう付き合う理由なんてない。そんなことよりもお前と暮らす方が大事だろ。」
「違う……違うんだ兄さん。戦争の意義とかそういう話じゃないんだ。それに、意義というなら……アルエット殿下達にはできてしまっただろ?戦争を続けなければならない理由が。」
「……俺には関係ない。俺はお前を探すために殿下に同行したんだ。お前と再会できた以上、俺はもうこのままでいい。」

 死んだような目で投げやりになりながら語るガステイルの両肩を掴みながら、ヴォリクスは反論する。

「何言ってるんだ!そんな都合でアルエット殿下が今更止まるわけないだろ!!あの人たちには王都を復活させるって大義名分ができたんだ……今や、個人の意思で止めたりすることなんてできないんだよ!!」
「……」

 バツが悪そうに目を逸らすガステイル。ヴォリクスはその勢いのまま言葉を続けていく。

「それに、そもそもこの話は最初から兄さんとアルエット殿下の約束事じゃないんだよ?こんなところで投げだしてしまったら……兄さんだけじゃない、"エルフの族長は約束も守れずアルエット殿下にペテン師を遣わせた愚図だ"って族長まで悪く言われてしまうんだよ!」
「それは……」

 ダメだ、とガステイルは言いかけてやめる。それを口に出してしまえば、ヴォリクスを切り捨てることを肯定してしまうことになる……そう考え、ガステイルは話の方向を無理やり変えることにした。

「……だいたい、お前は魔王陣営のはずなのに、どうしてそんなに魔王を倒させたがるんだ。」
「それは……」

 ヴォリクスは目を見開き、悲しそうに俯く。何かを言おうと逡巡し、目をキョロキョロと動かしている。やがて唇を噛み締め、決心したかのような様子で、口を開く。

「それは……魔王の望みは人間の滅亡だけじゃない。エルフを含めた中立種族をも狙っているからだよ。」
「は……?」
「どうやら、魔王の因縁は人間だけじゃなくエルフにもあるらしいんだ。この間、フラーヴと二人でそんな話をしていたところを聞いたんだ……フラーヴは二つ返事、人間だけじゃなくエルフの手駒が増えると喜んでいたよ。」
「なんだよ、その因縁って……」
「そこまでは分からなかった……でも、これでハッキリしただろ。もう俺には関係ないって言えたりする状況じゃないって。」

 ヴォリクスはガステイルの肩を掴む手に力を込め、真剣な眼差しでガステイルを説得しようとする。しかし、ガステイルはそんなヴォリクスの手をパシと払うと、ヴォリクスに背を向けて呟く。

「はは……無理だって。あんな奴どうすればいいんだよ。俺たちが手も足も出なかったデステールがボッコボコにされてたんだぞ……あんなもん見ちまったら、刃向かう気なんてもう湧いて来なくなって……。」
「兄さん……」
「笑いたきゃ笑えよ。約束も守れない、兄のくせに弟一人も守れない、俺はそんな腑抜けなんだ。散々笑って、散々バカにしてくれればいいさ……もう一度魔王の目の前に立つことよりも、そっちの方がよっぽどマシなんだよ。」

 ガステイルは自嘲気味に笑いながら胸中を吐露する。ヴォリクスの反応はなかった。

「笑えよ。」

 ヴォリクスの反応はない。

「笑えって。」

 反応は、無い。

「笑えって言ってるだろ!!!」

 業を煮やしたガステイルは、目をかっぴらき怒鳴り散らしながらヴォリクスの方へと振り向いた。目を疑う光景が、そこには広がっていた。

「ヴォリクス……?」

 倒れ伏すヴォリクスだったものの土塊。何百年もの時を経て風化し倒れ崩れてしまった彫刻のように、その土は無数の円柱に分かれ崩れ去っていた。ガステイルの呼吸が浅く、激しくなる。自らの輪郭をぼやかすように、全身から脂汗が滲んでゆく。そのまま空気と同化できればどんなに楽だっただろうか……しかし、彼は世界に拒絶されてしまった。

「うっ……お、おええ……」

 ガステイルは嘔吐した。震えた足でゆっくりと土塊に向かって進むが、二三歩進んだところで足が動かなくなる。そのまま前につんのめるようにドサリと倒れる。その体勢のまま土塊に手を伸ばすが、指先すらも届かなかった。

「あ……あああ……」

 ガステイルの瞳から涙がとめどなく流れる。言葉を失った哀れなエルフは伸ばした手で必死に土塊を求め、何度も手で空をきる。拳を握ったり開いたりを必死に繰り返すが、彼の手は何も掴むことはできなかった。やがて腕からも力が抜け、地面に伏した手のひらは強く地面を握る。その間にも言葉にならない慟哭を、ガステイルは発し続けていた。

 ガステイルの心にまたひとつ、後悔が刻まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

処理中です...