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第六章 決戦編
決戦ⅩⅢ 届かぬ母、拒絶する子①
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695年前、ジューデスの魔王城にて一人の少年が魔法の本を読みふけっていた。見た目は10歳前後ながら既に眉目麗しいと言って差し支えないほど整った顔立ちの少年は、難しそうに眉を歪めながら文章を声に出し本を読み進めていく。
「ふむ……時空操作の魔法かぁ。なになに?『この魔法は魔力の性質が極めて聖か闇に近い者でないと習得できない』……はは、まあ僕には関係のない話だね。」
廊下を隔てた先にある書庫から好きなだけ引っ張り出してきた本を積み、自室に引きこもりながら読んでいた少年――フレンヴェルは自嘲気味に笑いながらページをめくっていく。その瞳は憂いと後ろめたさに満ちていた。好きな読書も徐々にただ文字を目で追っていく作業になっていき、フレンヴェルは勢いよく本を閉じた。その瞬間、
「フレンヴェルはおるかのう?」
「うぇ、母さん!」
ガチャリと部屋の扉が開き、魔王ネカルクが姿を現した。フレンヴェルは迷惑そうな顔で彼女を出迎える。
「なんじゃ、そんな顔してからに……。ほれ、稽古の時間じゃ。」
ネカルクは木剣をフレンヴェルに向けて差し出す。フレンヴェルはより一層迷惑そうな顔をし、それを受け取った。
「嫌だぁー、ずっと魔法の本読んでたいよぉ、母さん。」
「ダメじゃ。お主は余の跡を継がなければならんのじゃ。魔法が使えぬ分、剣術と体術は身につけておかねばならんぞ。」
「そんなこと言ったって、別に僕だって好きで魔法が使えないわけじゃないし……」
フレンヴェルは思わずそう愚痴を口走った。フレンヴェルはその言葉にハッと口を押さえ、慌ててネカルクの方を見る。だがネカルクは眉ひとつ崩すことなく、
「現に魔法が使えないんだから、体術を頑張るしかないだろう。ほら、さっさと立ちなさい。」
と言いズカズカと部屋へ入り込むと、嫌がるフレンヴェルの腕を掴み引きずって外に出した。
魔王城の廊下。木剣を握りしめて並んで歩いていた親子へ通りすがる魔族が頭を下げながらすれ違っていく。
「魔王様、ご苦労さまです。」
「魔王様直々に坊ちゃんの稽古ですか?精が出ますね。」
「今日は一本取れるといいですなぁ、坊ちゃん。」
そのような声が飛び交っていく中、
「おいおい、魔力なし野郎に何しても時間の無駄だろ……」
「二人目拵えた方がまだ有意義だな。」
「あのボンボンに継がせるくらいなら、かつての魔王様みたいに俺たちの誰かが実力で奪い取った方がマシだろうよ。」
「恥だ恥。魔族の恥さらしめ。」
それに混ざるように、だが確かに聞こえるフレンヴェルへの悪口。特異体質のせいとはいえ魔法も使えず戦えない世継ぎに価値はないとばかりに浴びせられる誹謗に、フレンヴェルは眉を顰め俯く。ネカルクはフレンヴェルのその様子を横目で見ながら口を開く。
「気にするなとは言わん。許容範囲は皆違うのが当たり前だからのう。だが……せめて前は向いておけ。胸を張れ。自分自身が生きていくことに自信を持たねば、初めからお前の後ろに着いてくる者はおらんぞ。」
フレンヴェルはその言葉を聞き、前歯をギリギリと食いしばって気力を振り絞り顔を上げる。口角を下げへの字型に無理やり押さえつけられる口と反ってしまうほど張った胸に意識を集中した結果、それまでよりも彼に届く悪口が減ったような気がした。そしてようやく、彼は右手の異変に気付いた。
「母さん。」
「なんじゃ?」
「さっき、僕、母さんにすごく失礼なこと言ったかもって……」
「そうかのう……もう忘れたよ。生憎、年寄りなもんでね。」
「……ははっ、何それ。まだ300歳超えたばかりじゃん。」
フレンヴェルはクスリと笑った。その瞬間、フレンヴェルの右手を掴んでいたネカルクの手の震えも止まっていた。
魔王城の中庭、稽古の組手が終わりフレンヴェルは大の字に倒れ込みのびてしまっていた。ネカルクはフレンヴェルの分の木剣も拾い、少しだけ水を飲みフレンヴェルに呼びかける。
「もういい加減立つんじゃ、一人で部屋まで帰れるのか?」
「うぐぅ……」
ネカルクはまるで動かないフレンヴェルに呆れて肩を竦め、やれやれといった表情でフレンヴェルを軽々と担いだ。ネカルクの額には汗一つ流れておらず、間近でその顔を見たフレンヴェルはショックに打ちのめされた。そのまま中庭を出ようとした矢先、
「失礼します、魔王様……」
と中庭の出入り口から一人の魔族が現れる。そのまま近寄りネカルクに耳打ちする。ネカルクはすぐに神妙な面持ちになり、
「分かった。フレンヴェルを置いたらすぐ向かう。」
そう言い、魔族を下がらせた。そしてすぐにフレンヴェルに向けて、
「人間がそこまで来とるらしいのでな、ちょっと急ぐかのう……ちゃんと捕まっておるんじゃぞ。」
と言うと、魔王城内部を凄まじいスピードで駆け上がっていった。あっという間に四階のフレンヴェルの部屋へと到着し、フレンヴェルを椅子へ座らせると、
「それじゃ、片付けて来るから。」
そう言って、勢いよく部屋を出ていった。フレンヴェルは急な展開に戸惑いつつも、
「くそっ、僕は……僕はっ!どこまでも足でまといでしかないじゃないかっ!!!」
ふつふつと沸き上がる怒りに任せ、手元にあったテーブルをドンと殴っていた。
「ふむ……時空操作の魔法かぁ。なになに?『この魔法は魔力の性質が極めて聖か闇に近い者でないと習得できない』……はは、まあ僕には関係のない話だね。」
廊下を隔てた先にある書庫から好きなだけ引っ張り出してきた本を積み、自室に引きこもりながら読んでいた少年――フレンヴェルは自嘲気味に笑いながらページをめくっていく。その瞳は憂いと後ろめたさに満ちていた。好きな読書も徐々にただ文字を目で追っていく作業になっていき、フレンヴェルは勢いよく本を閉じた。その瞬間、
「フレンヴェルはおるかのう?」
「うぇ、母さん!」
ガチャリと部屋の扉が開き、魔王ネカルクが姿を現した。フレンヴェルは迷惑そうな顔で彼女を出迎える。
「なんじゃ、そんな顔してからに……。ほれ、稽古の時間じゃ。」
ネカルクは木剣をフレンヴェルに向けて差し出す。フレンヴェルはより一層迷惑そうな顔をし、それを受け取った。
「嫌だぁー、ずっと魔法の本読んでたいよぉ、母さん。」
「ダメじゃ。お主は余の跡を継がなければならんのじゃ。魔法が使えぬ分、剣術と体術は身につけておかねばならんぞ。」
「そんなこと言ったって、別に僕だって好きで魔法が使えないわけじゃないし……」
フレンヴェルは思わずそう愚痴を口走った。フレンヴェルはその言葉にハッと口を押さえ、慌ててネカルクの方を見る。だがネカルクは眉ひとつ崩すことなく、
「現に魔法が使えないんだから、体術を頑張るしかないだろう。ほら、さっさと立ちなさい。」
と言いズカズカと部屋へ入り込むと、嫌がるフレンヴェルの腕を掴み引きずって外に出した。
魔王城の廊下。木剣を握りしめて並んで歩いていた親子へ通りすがる魔族が頭を下げながらすれ違っていく。
「魔王様、ご苦労さまです。」
「魔王様直々に坊ちゃんの稽古ですか?精が出ますね。」
「今日は一本取れるといいですなぁ、坊ちゃん。」
そのような声が飛び交っていく中、
「おいおい、魔力なし野郎に何しても時間の無駄だろ……」
「二人目拵えた方がまだ有意義だな。」
「あのボンボンに継がせるくらいなら、かつての魔王様みたいに俺たちの誰かが実力で奪い取った方がマシだろうよ。」
「恥だ恥。魔族の恥さらしめ。」
それに混ざるように、だが確かに聞こえるフレンヴェルへの悪口。特異体質のせいとはいえ魔法も使えず戦えない世継ぎに価値はないとばかりに浴びせられる誹謗に、フレンヴェルは眉を顰め俯く。ネカルクはフレンヴェルのその様子を横目で見ながら口を開く。
「気にするなとは言わん。許容範囲は皆違うのが当たり前だからのう。だが……せめて前は向いておけ。胸を張れ。自分自身が生きていくことに自信を持たねば、初めからお前の後ろに着いてくる者はおらんぞ。」
フレンヴェルはその言葉を聞き、前歯をギリギリと食いしばって気力を振り絞り顔を上げる。口角を下げへの字型に無理やり押さえつけられる口と反ってしまうほど張った胸に意識を集中した結果、それまでよりも彼に届く悪口が減ったような気がした。そしてようやく、彼は右手の異変に気付いた。
「母さん。」
「なんじゃ?」
「さっき、僕、母さんにすごく失礼なこと言ったかもって……」
「そうかのう……もう忘れたよ。生憎、年寄りなもんでね。」
「……ははっ、何それ。まだ300歳超えたばかりじゃん。」
フレンヴェルはクスリと笑った。その瞬間、フレンヴェルの右手を掴んでいたネカルクの手の震えも止まっていた。
魔王城の中庭、稽古の組手が終わりフレンヴェルは大の字に倒れ込みのびてしまっていた。ネカルクはフレンヴェルの分の木剣も拾い、少しだけ水を飲みフレンヴェルに呼びかける。
「もういい加減立つんじゃ、一人で部屋まで帰れるのか?」
「うぐぅ……」
ネカルクはまるで動かないフレンヴェルに呆れて肩を竦め、やれやれといった表情でフレンヴェルを軽々と担いだ。ネカルクの額には汗一つ流れておらず、間近でその顔を見たフレンヴェルはショックに打ちのめされた。そのまま中庭を出ようとした矢先、
「失礼します、魔王様……」
と中庭の出入り口から一人の魔族が現れる。そのまま近寄りネカルクに耳打ちする。ネカルクはすぐに神妙な面持ちになり、
「分かった。フレンヴェルを置いたらすぐ向かう。」
そう言い、魔族を下がらせた。そしてすぐにフレンヴェルに向けて、
「人間がそこまで来とるらしいのでな、ちょっと急ぐかのう……ちゃんと捕まっておるんじゃぞ。」
と言うと、魔王城内部を凄まじいスピードで駆け上がっていった。あっという間に四階のフレンヴェルの部屋へと到着し、フレンヴェルを椅子へ座らせると、
「それじゃ、片付けて来るから。」
そう言って、勢いよく部屋を出ていった。フレンヴェルは急な展開に戸惑いつつも、
「くそっ、僕は……僕はっ!どこまでも足でまといでしかないじゃないかっ!!!」
ふつふつと沸き上がる怒りに任せ、手元にあったテーブルをドンと殴っていた。
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