200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

文字の大きさ
148 / 165
第六章 決戦編

決戦ⅩⅤ 届かぬ母、拒絶する子③

しおりを挟む
 次の日、フレンヴェルは本を抱え城の医務室のベッドで眠るネカルクの元へと駆けて行った。頭に包帯をぐるぐる巻きにしていたネカルクはゆっくりと上体を起こし、本を抱えたフレンヴェルへと視線を下ろす。

「……どうしたんだい?フレンヴェル。」
「母さん。僕でもできること……いや、僕がするべきことがようやく分かったんだ。ここを見て欲しい!」

 フレンヴェルは昨晩魅入られるように読んでいた頁を開いた。ネカルクは上体を乗り出すように本を覗き込む。フレンヴェルは本の上の文字を指さしながら、ネカルクに説明する。

「これは……?」
武器変化アモルフォーゼの魔導書だ。魔力を体外に放出できない僕じゃ使うことができない、クラウディに伝わる秘術……とある一つの手段を除いて。」
「まさか、お前は……」
「自分自身を対象にすれば、魔力は体内で完結する!これなら、僕もみんなを守れる!!」
「……ッ!!」

 ネカルクは勢いよくフレンヴェルの手から魔導書を奪う。なすがまま魔導書から手を離してしまったフレンヴェルは呆然とネカルクを見上げていた。ネカルクは静かに、しかしフレンヴェルをしっかりと睨み見下ろしていた。

「愚か者!お前がそんなことを背負う必要はない!そこまで余も落ちぶれてないわ!!」
「違う!背負うとかそんなんじゃない!僕はもう嫌なんだ……毎日のように人間と争い、傷を負って帰ってくる母さんを見ているだけの日々はッ!!だから、背負うんじゃない!せめて隣で、貴女を守る盾になりたいんだ!!」
「そんなものは要らん!!バーゼルも死に、せめてあなただけでも生き続けていて欲しいって気持ちが……どうして分かってくれないのじゃ!!」
「だったらせめて、僕に心配させないでよ!!魔王の力で人間なんて軽く捻って、こんな大怪我もすることなく……いつもの稽古みたいに、余裕ばっか振り向いて帰ってきてよッ!!!!」

 フレンヴェルの瞳には涙が浮かんでいた。その必死の形相にネカルクは思わず言葉に詰まってしまう。しばらく逡巡のあまり顔が七変化するネカルク、やがて眉を顰めながらフレンヴェルを真っ直ぐ射抜くように見つめ、口を開いた。

「だいたい、元に戻れるかどうか……それどころか、そんなことをしてお前の命が無事で済む保証なんぞどこにもないじゃないか。」
「そこは大丈夫。武器になった僕を持って『導を解いて』と唱えれば元に戻れるから。」
「だからって、今ここでやる理由は……」
「ぶっつけ本番じゃ、間に合わないことだってある……昨日みたいに。」

 ネカルクはその言葉に思わず顔を背け、正面へと向き直し両肘をついて手のひらにおでこを乗せた姿勢をとる。しばらくもごもごと口元を動かしていたが、やがて一つ大きく息を吐いた。

「それで、どうすればいいのよ?」
「母さんは僕にきっかけの魔力を流し込んでくれればいい。そうすれば僕が残りを何とかしてみせるから。」

 ネカルクは黙って下唇を噛み締めたまま、左手をそっとフレンヴェルの頭部へと乗せ、魔力を少し集中させ送り込んだ。フレンヴェルは微笑みながらお礼を飛ばし、目を閉じ魔力を体内で循環させながら準備を整えていく。


「700年経って、改めてこの時のことを考えて気付いたことなんだが……この時の母さんは本当に心が参っていたんだと思う。目の前で夫のバーゼルに死なれ、息子には余計な心配をかけているとカミングアウトされ、無理やり僕の口車に押し切られる形で流されてしまった。普段なら一笑に付していたはずの子供の戯言に耳を傾けてしまった……全てが、タイミングが悪すぎた。全身に魔力が漲る感覚のまま、僕は感情のまま張り叫んだ。」
「導け、『武器変化アモルフォーゼ』ッ!!」

 フレンヴェルの言葉と共に、その体から眩い光が八方に放たれる。ネカルクと医務室の魔族たちはその様子に慌てふためく。

「なんだこれは……なんでお前の身体からこんなものが!?」
「せ、聖の魔力だ!痛ぇ!!」
「どういうことだ!?どうなってるんだよ!!」

 フレンヴェルから放たれた純粋な聖の魔力は、光となって周囲の魔族たちを貫いていく。ネカルクも思わず防御姿勢を取る。

「ただの聖の魔力じゃない……ここまで純粋な聖の魔力は初めて見る。まさか……魔力を放出できないのは特異体質なんかじゃなく、魔族の血を引いた自身の体を傷つけないための防衛本能……!?」

 フレンヴェルを包む光が晴れ、剣と化したフレンヴェルが姿を現した。華美な装飾も相まって神々しい気配に満ちたその姿は、魔王の息子の成れの果てとは到底信じられないほど聖の魔力に満ちていた。ネカルクは慌ててベッドから飛び降り、フレンヴェルの柄へと手を伸ばし、掴もうとした。しかしフレンヴェルに触れたその指先から、ネカルクの右手が音を立てて蒸発した。

「掴……めない……」

 迸る純粋な聖の魔力は、魔族の体組織を焼いてしまう。ネカルクは焼けていく右手の指先を呆然と見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...