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第六章 決戦編
エピローグ① 独白:ガステイル
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アルエット殿下が城の奥へと姿を消してから暫く経ち、俺たち三人はザイリェンに続く道を進んでいた。アムリスもルーグさんも会話一つなく黙々と歩き続けている……だが、魔王城で泣き崩れていた頃に比べれば、なんとか立ち上がり前に進んでいるだけいいのかもしれない。そう思いながら、足元の不安定な森を一歩一歩踏みしめて進んでいた。
あのとき俺はシイナに反発こそしたものの、その実……安心していた。アルエット殿下が魔王になり、あのおぞましい魔道具が止まってくれるならそれでもいいと思っていた。魔族と人族の接触を完全に封じる結界も合理的だとすら思っていた。だから……アムリス達の悲しみは分からないこともないが、俺は大義を優先したアルエット殿下の選択を肯定した。だが、俺はそのときからずっと……何かを間違えたような、そんなモヤモヤが晴れずに頭を悩ませている。
そんなことを考えながら二人のあとについて歩いていると、ルーグさんがふと足を止めました。
「うわっ……ルーグさん、どうしました?」
「……」
ルーグさんの顔を後ろから覗き込むようにしながら、俺は尋ねた。ルーグさんは変わらず黙ったまま眉を顰め歯を食いしばっています。アムリスもこちらの様子に気付いたようで足を止め、俺たちの方へ振り向く。そうして漸くルーグさんは口を開きました。
「……こんなの、アドネリア様にどう報告すればいいんだよ。魔王には勝ったけどアルエット様はジューデスに残って、俺たちに会えないように結界を張っただなんて……そんなことならいっそ、討ち死にだった方がマシなくらいじゃないか。」
「ルーグさん……」
そうか……確かにアドネリア殿下のことを考えると心が痛い。女王様や姉妹たちを殺され、なんとか王都奪還に成功した矢先に今度は姉代わりのアルエット殿下が失踪……身を裂くような思いであることは想像に難くない。今までのモヤモヤの正体はこれだったんだなと、俺は自分で納得していた。
「……とにかく、急いで戻りましょう。魔王の脅威は去ったと皆に早く伝えなきゃ。」
「アムリスの言う通りですよ、ルーグさん。どう伝えるかはザイリェンの馬車の中で改めて考えましょう。」
「……分かりました。」
ルーグさんは思いを押し殺すように呟いていました。そこからザイリェンまで、再び一言も話すことなく俺たちは歩いた。ザイリェンに到着した頃には日がすっかり落ちてしまっていた。土砂降りの雨も相まって視界とコンディションは最悪だと思った俺は、二人に提案した。
「なぁ、出発は明日にしないか?」
「さっき急がなきゃいけないって言ったと思うんだけど……」
「あぁ。だけどそれは魔王討伐の報せを届けるためだろう?ザイリェンにならあの魔道具があるじゃないか。」
「そうか……それなら先に、皆に報告ができるから……」
「その通り。二人とも思い詰めすぎだぜ……一旦休んで、少し落ち着こう。」
俺は二人に向けてそう提案した。ルーグさんはハッとした様子で俺の方を見、アムリスは下唇を噛み締めて少し俯いた。
「アムリス?」
「……報告は私一人で行くわ。二人は先に休んでてちょうだい。」
「えぇっ、今から!?」
俺はアムリスを止めようと手を伸ばしたが、アムリスはすぐに教会へと駆け出した。
「あぁ……行っちゃった。俺、嫌われたかなぁ。」
「ガステイル君、とりあえずここに来たときに使った宿に向かおうか。」
「あ、ああ!そうだね!」
俺はルーグさんに連れられて宿へと向かった。ルーグさんが一人にして欲しいと言ったので、一部屋余分にとってもらい、その部屋に予め質量構築魔法で小さくしておいたアムリスの荷物を置き、宿の主に鍵を預けておいた。それから俺は自分の部屋に戻り、荷物を取り出してシャワーを浴びベッドに寝転がる。そのままウトウトとまどろみ、眠りにつこうとしたその時、
「誰だ!?」
キィと小さく軋む音と共に部屋の扉が開く。覚醒した俺は扉の方へと顔を向ける。そこには寝間着姿のアムリスがそこに立っていた。
「アムリス……?そこで何やってるんだ?」
「ガステイル!?お……起きてたの?」
「い、いや……今から寝るところだったんだけど……」
「そう……だったら、そのままあっち向いて、私のことなんか気にしないで、寝てて。」
「お、おう……?」
俺はアムリスに言われるがまま寝返りを打ち、アムリスの様子を横目で窺おうとする。するとアムリスは、俺のベッドの布団をめくり中へと潜り込んできた。
「なっ!?アムリス、何やって……」
アムリスはそのまま俺の方へ寄ってくると、俺の背中にくっつくように抱きかかえてきた。アムリスに抱きしめられた俺の心臓は高鳴り、眠気は完全に吹き飛んでしまった。引き剥がそうにも暴れるわけにもいかず、悶々とした気分で時間が過ぎていく。俺はある点に思い至り、アムリスに尋ねた。
「……殿下の声のせいか?」
「違うわよ、バカ……一人でいたくないだけ。」
「……そっか。」
「……あのさ、ガステイルはアルエット様の告白、どう思った?」
「あれは……ルーグさんが可哀想だよ。あんなことされて未練が残らないわけないじゃないか。」
「そう……アルエット様もやっと素直になったんだねぇって私は思ったけど。」
「まぁ、殿下も拗らせてた挙句相手があんな鈍感レベル100じゃあねぇ……。そういう意味じゃルーグさんにはいい薬になったのかも。」
「……」
急に静かになるアムリス。拘束している腕の力が少し緩んだので、俺はアムリスが寝たのかと思い寝返りを打った。しかしアムリスは起きており、俺の目を見て微笑んだ。
「うわぁ!」
「ガステイル……襲ってくれないの?」
「はぁ!?な、何言って……」
「私なりに勇気出したんだけどな……そんなに魅力ない?」
「ち、ちがっ……。だいたい、お前が勝手に潜り込んで来たんだろ!」
「それで、どうなのよ。」
「バッ、馬鹿!今日はダメだ……明日は朝早いし、あんなことがあった後でそんな気分にはなれねえよ……。」
俺の言葉を聞いてアムリスは目を丸くする。俺はそのまま慌てて寝返りをして顔を背けながら、
「寝るぞ!」
そう言って会話を止めた。アムリスはそっとおでこを俺の背中に当て、
「ふふ……はい。」
そう呟いて、眠りに落ちたようだった。
俺はその後、一睡もできずに夜明けを迎え、すぐにザイリェンを発った。アムリスはぐっすり眠れたらしく、その日は一日中機嫌がいいように見えた。
あのとき俺はシイナに反発こそしたものの、その実……安心していた。アルエット殿下が魔王になり、あのおぞましい魔道具が止まってくれるならそれでもいいと思っていた。魔族と人族の接触を完全に封じる結界も合理的だとすら思っていた。だから……アムリス達の悲しみは分からないこともないが、俺は大義を優先したアルエット殿下の選択を肯定した。だが、俺はそのときからずっと……何かを間違えたような、そんなモヤモヤが晴れずに頭を悩ませている。
そんなことを考えながら二人のあとについて歩いていると、ルーグさんがふと足を止めました。
「うわっ……ルーグさん、どうしました?」
「……」
ルーグさんの顔を後ろから覗き込むようにしながら、俺は尋ねた。ルーグさんは変わらず黙ったまま眉を顰め歯を食いしばっています。アムリスもこちらの様子に気付いたようで足を止め、俺たちの方へ振り向く。そうして漸くルーグさんは口を開きました。
「……こんなの、アドネリア様にどう報告すればいいんだよ。魔王には勝ったけどアルエット様はジューデスに残って、俺たちに会えないように結界を張っただなんて……そんなことならいっそ、討ち死にだった方がマシなくらいじゃないか。」
「ルーグさん……」
そうか……確かにアドネリア殿下のことを考えると心が痛い。女王様や姉妹たちを殺され、なんとか王都奪還に成功した矢先に今度は姉代わりのアルエット殿下が失踪……身を裂くような思いであることは想像に難くない。今までのモヤモヤの正体はこれだったんだなと、俺は自分で納得していた。
「……とにかく、急いで戻りましょう。魔王の脅威は去ったと皆に早く伝えなきゃ。」
「アムリスの言う通りですよ、ルーグさん。どう伝えるかはザイリェンの馬車の中で改めて考えましょう。」
「……分かりました。」
ルーグさんは思いを押し殺すように呟いていました。そこからザイリェンまで、再び一言も話すことなく俺たちは歩いた。ザイリェンに到着した頃には日がすっかり落ちてしまっていた。土砂降りの雨も相まって視界とコンディションは最悪だと思った俺は、二人に提案した。
「なぁ、出発は明日にしないか?」
「さっき急がなきゃいけないって言ったと思うんだけど……」
「あぁ。だけどそれは魔王討伐の報せを届けるためだろう?ザイリェンにならあの魔道具があるじゃないか。」
「そうか……それなら先に、皆に報告ができるから……」
「その通り。二人とも思い詰めすぎだぜ……一旦休んで、少し落ち着こう。」
俺は二人に向けてそう提案した。ルーグさんはハッとした様子で俺の方を見、アムリスは下唇を噛み締めて少し俯いた。
「アムリス?」
「……報告は私一人で行くわ。二人は先に休んでてちょうだい。」
「えぇっ、今から!?」
俺はアムリスを止めようと手を伸ばしたが、アムリスはすぐに教会へと駆け出した。
「あぁ……行っちゃった。俺、嫌われたかなぁ。」
「ガステイル君、とりあえずここに来たときに使った宿に向かおうか。」
「あ、ああ!そうだね!」
俺はルーグさんに連れられて宿へと向かった。ルーグさんが一人にして欲しいと言ったので、一部屋余分にとってもらい、その部屋に予め質量構築魔法で小さくしておいたアムリスの荷物を置き、宿の主に鍵を預けておいた。それから俺は自分の部屋に戻り、荷物を取り出してシャワーを浴びベッドに寝転がる。そのままウトウトとまどろみ、眠りにつこうとしたその時、
「誰だ!?」
キィと小さく軋む音と共に部屋の扉が開く。覚醒した俺は扉の方へと顔を向ける。そこには寝間着姿のアムリスがそこに立っていた。
「アムリス……?そこで何やってるんだ?」
「ガステイル!?お……起きてたの?」
「い、いや……今から寝るところだったんだけど……」
「そう……だったら、そのままあっち向いて、私のことなんか気にしないで、寝てて。」
「お、おう……?」
俺はアムリスに言われるがまま寝返りを打ち、アムリスの様子を横目で窺おうとする。するとアムリスは、俺のベッドの布団をめくり中へと潜り込んできた。
「なっ!?アムリス、何やって……」
アムリスはそのまま俺の方へ寄ってくると、俺の背中にくっつくように抱きかかえてきた。アムリスに抱きしめられた俺の心臓は高鳴り、眠気は完全に吹き飛んでしまった。引き剥がそうにも暴れるわけにもいかず、悶々とした気分で時間が過ぎていく。俺はある点に思い至り、アムリスに尋ねた。
「……殿下の声のせいか?」
「違うわよ、バカ……一人でいたくないだけ。」
「……そっか。」
「……あのさ、ガステイルはアルエット様の告白、どう思った?」
「あれは……ルーグさんが可哀想だよ。あんなことされて未練が残らないわけないじゃないか。」
「そう……アルエット様もやっと素直になったんだねぇって私は思ったけど。」
「まぁ、殿下も拗らせてた挙句相手があんな鈍感レベル100じゃあねぇ……。そういう意味じゃルーグさんにはいい薬になったのかも。」
「……」
急に静かになるアムリス。拘束している腕の力が少し緩んだので、俺はアムリスが寝たのかと思い寝返りを打った。しかしアムリスは起きており、俺の目を見て微笑んだ。
「うわぁ!」
「ガステイル……襲ってくれないの?」
「はぁ!?な、何言って……」
「私なりに勇気出したんだけどな……そんなに魅力ない?」
「ち、ちがっ……。だいたい、お前が勝手に潜り込んで来たんだろ!」
「それで、どうなのよ。」
「バッ、馬鹿!今日はダメだ……明日は朝早いし、あんなことがあった後でそんな気分にはなれねえよ……。」
俺の言葉を聞いてアムリスは目を丸くする。俺はそのまま慌てて寝返りをして顔を背けながら、
「寝るぞ!」
そう言って会話を止めた。アムリスはそっとおでこを俺の背中に当て、
「ふふ……はい。」
そう呟いて、眠りに落ちたようだった。
俺はその後、一睡もできずに夜明けを迎え、すぐにザイリェンを発った。アムリスはぐっすり眠れたらしく、その日は一日中機嫌がいいように見えた。
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