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二章

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「そんなっ!1年に一度しか会えないなんて…。それでも一途に思い続ける恋人達…。なんてロマンチックなの!『タナバタ』!」

『…ロマンチックねぇ…。給食に七夕ゼリーが出るぜ、やっほいくらいの認識しか無かった過去の自分がちょっと恥ずかしくなったわ…。』

 世間ではとある恋愛小説が流行っている。
 私も取り寄せて読んで見たのだけれど、はまってしまったのよね。主人公は身分の低い女性なのだが、高貴な殿方と恋に落ち、さまざまな障害を乗り越えて結ばれる。波瀾万丈のラブロマンスである。
それ以来様々な恋愛小説を読み漁っているのだ。

 悪霊の元いた世界にもそういったおとぎ話はあったのかと聞いたところ、丁度この時期にされていたらしい『タナバタ』という催しの話を聞いたのだ。
切なく純粋な恋が絡むイベントでお願い事まで叶えてくれるらしい。

 七夕ゼリーとかやらを思い出して遠い目になっている悪霊は無視して、短冊に書く願いを考える。

 自分の望みねぇ。
考えてみると難しいわね。
わたくしには皆が羨む様な美貌も高貴な身分も既に持っているもの。
あっ。

「胸がときめく様な恋をしてみたいわね…。」

 そう!ある日運命の殿方が現れて、熱く燃え上がる愛を知るのよ!そして2人は逢瀬を重ねーーー

『あれ?クリスティーナって婚約者いなかったけ?』

 残念ながら釣り合う家柄ってだけの政略的な婚約よ。
婚約者としてお互い定期的に会う様にしているが、甘い空間はそこにはない。
会う度にやたら突っかかってくるし、仏頂面をよく険しくしているからあまり良い印象は持たれてないだろう。
 小さいころは、どこから取ってきたのか野菜や果物を口の中に突っ込まれる等、よく分からない事をされていた。
 同じ年頃の子と挨拶を交わしていると、鋭い眼光をさらに鋭くさせて睨みつけられた事もあった。粗相をしてないか見張っていたのだろう。眼光だけで串刺しにされた気分だった。

 婚約者の赤い髪の少年を思い出し、ため息をつく。
叶わないだろう夢だろうが、願うくらいはいいだろう。


【一途で素敵な運命の恋人と身分差を乗り越えラブラブになれますように

ついでに、悪霊が成仏しますように】


 私の脳内では、昨日読んだ令嬢と執事の身分差ラブロマンス小説が再生されている。イケナイ関係って素敵よね!
 悪霊が『あんたまだ13歳くらいでしょ、最近の若い女の子っておませだよなぁ…。というか、私の扱い雑じゃない??』とか騒いでいたが無視をして、短冊をくくりつける場所を探す。
 竹は取り寄せてないため、手が届く適当な木の枝に括り付けた。

「そういえば私の婚約者、午後から来るから見れるわよ?」

『えっ、そうなの?じゃあ、おめかししなくちゃねえ。』

 なにやらニマニマしている悪霊が気持ち悪かったので、お兄様特製★光の魔力入りお浄めの塩(お仕置き用)をバッと振りかけると『ぎゃっ!!』と悲鳴が上がった。ざまぁみなさい!静電気の様に少しビリッとするらしい。

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