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二章

10 【悪霊side】

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 そっと窓を覗き込むと、見目のいい少年と少女が仲良く談笑している姿が見えた。
 これで展開が完全に変わった。
ここから吉と出るか凶とでるか。
 ゲームでは冷え切っていた関係だった2人。確か、カインは婚約者の王女の横暴さに心を閉ざし、女性が苦手な寡黙な騎士となる。その氷の様な心を優しく溶かすのがヒロインーー

『ジル子』

「誰がジル子だ。

 それはお前が勝手に付けたゲームのヒロインの名前だろう。
 オリジナル公式は『アンナ』だ。
 実際にアンナという名前で容姿も【ヒロイン】と合致している少女が確認出来ている。おそらく彼女がそうだろうな。」

 ジル子…じゃない、ジル坊がムスッとした表情で言い返す。
 普段クリスティーナに見せている王子様フェイスは見る影もない。

「父上が急に体調を崩されて、丸一日寝込まれていた事があったそうだ。」

『あらあら。それは大変だったね。夏バテだよ、きっと。』

 ジル坊がジトっとした目を向けた。
「しらばっくれるな。お前の仕業だろう。
 ーーなにより、これが証拠だ。」

 光の魔力で黒モヤを払われた。
足先からワンピースの裾辺りまで黒い影の様な漆黒に蝕まれている。これは黒モヤとは違う。魂のだ。

「現世のものに干渉すると魂が穢れる。干渉するためのエネルギーは生者の生気か、死者の魂の取り込み。だか、どちらの方法も魂を汚す…だったよな。」

 そう。
 厄介な事に、他者から力を吸い取るのも、吸い取った力を使うのも、代償がつく。魂が穢れるのだ。ただ存在するだけでも力は
 魂の穢れが進んで行くと、自我がなくなっていく。生者を恨み、呪い、害するだけの化け物になる。
 元の世界でも成り果てた者を見た事があるが、おぞましく悲しい姿をしていた。
 私も遅かれ早かれそうなるだろう。

『心配してくれてるの?
でも時間の問題でしょ。
いつかは化けもんになるんだから。』

 でも私は
 化け物になったら光の魔力保持者であるジル坊が処分してくれるだろう。

『あとは頼んだよ、ジル坊。
ちゃんと殺してね?』

 あ、もう死んでるんだったとふわりと笑って、トントンっと心臓の辺りを指で叩く。ジル坊が眉根を寄せた。

「お前が憎いよ。」
 そこには完璧な王子様ではなく、今にも泣き出しそうな少年がいた。
 私は触れる事の出来ない手で、彼の頭を撫でた。
 


 
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