白亜と浄暗の兎は夜に跳ぶ

イチ力ハチ力

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第八話 そこに転がる誰かの為に

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「マジで最高だったな」

「おう、日が出てくるまでもう少しあるべ。まだイッとくか?」

「当然よぉ」

 三人組の男があるアパート一室で、下卑た笑いを浮かべながら、自分たちで荒らした部屋を後にしようと、部屋のドアノブに手をかけた。

「奪い、犯し、殺す。絵に描いたような、絶望がここにはあったんだな。どうよ、相棒。これが、今この街で起きてしまったことだ」

 陽士郎の瞳に写り込む光景は、裕福とは言えずとも、精一杯生きてきた者であろう家族の終わりだった。一つ一つ、床に転がるソレは、二度と言葉を発することはない。だけれども、その瞳に遺るのは、幸せとは対極に位置する感情。

「おい」

「あぁ」

「……」

 部屋を出ようとしていた三人は、部屋から聞こえてきた言葉に振り返ると、廊下から陽士郎を確認することが出来た。狭いアパートだった為、ワンルームの部屋から出口までは一直線であり、三人もまた並んでいた。

 部屋に近かった男二人は、ナイフを取り出し構え、ドアに一番近かった男は、いつでも外に出られるように扉を開けようとしていた。

「悔しいなぁ、苦しいなぁ、悲しいなぁ。だから、ちゃんと報復してやるよ。なぁ?」

 くるりと男達に顔を向けた陽士郎の表情は、発した言葉とは裏腹に、とても愉快で楽しそうに嗤っていた。それはもう、屑と断言するに等しい男達の背中が寒くなるほどに、その顔は恐ろしかった。

 三人の行動は、二つに分かれた。臆せず殺しあうか、臆して逃げるか。狂気じみた顔をしていようが、目は虚で不健康そうなな青白い肌の陽士郎に対して、少なくとも人数で上回っていることと、陽士郎が丸腰であったこと。

 冷静に見れば、頭のおかしい奴が現れただけである。

 そしてそれは、本当のことであった。事実、陽士郎は正確にいえば、〝人〟ですらない。だからこそ、その考え方もまた狂っていると評されても、決して間違いではない。

「〝纏う光 鋭き刃と成り〟」

 陽士郎の両手の手刀部分だけに、光が収束し光の刃が形成される。

「こっちの方が、斬るには良いよな」

 五人の首からもう一つの心臓マジックコアを抉り出した時に作り出した光の爪ではなく、まさしく手刀と呼ぶに相応しい光の刃が手の側面に創り出された。

 薄暗い部屋の中でも、しっかりと輝く手刀は、三人に更なる警戒心を抱かせるには十分だった。そして、陽士郎は深く膝を曲げ、その姿はまるで力士の立ち会いの様であったが、そこから更に深く曲げ、より深く前傾になった様は、どちらかというと〝兎〟の様であった。

「外に出ろ! 外でるれぃ……?」

「お、やっぱり首根っこから刈れば、取りやすくて良いなぁ」

 三人からしたら、刹那と表現するに等しいで、玄関のドアの上部に陽士郎の足がめり込み、まるで蜘蛛男かのように佇んでいた。

「あ……あ……」
「は? はぁあああ!?」

 残る・・二人は、すぐさま状況を理解することが出来ない。

 どうして、連れの頭を自分達が見上げているのか。

 どうして、連れの首から抉り出したもう一つの心臓マジックコアを、そんなに旨そうに喰っているのか。

 鉄のドアは陽士郎の脚によりひしゃげてしまい、簡単に開かないことが一目で分かる状態であり、首から乱暴にもう一つの心臓マジックコアを抉り出された上に、無造作に放り投げられた光景を目の当たりにしたら、普通の者だったら、行動はほぼ変わらない。

「うわぁああああ!?」
「クソがぁあああ!?」

 パニックになって逃げるか、それともパニックになって向かってくるか。何れにせよ、その程度の者達であれば、結果は大差ない。

「ひぐぁ」
「嫌ぁひゃ」

 ナイフを振りかぶり向かってくるやからは、さらに鉄のドアが変形するほどの踏み込みを見せた陽士郎の手刀に首を落とされ、廊下に着地したと同時に、兎跳びで逃げた相手の首を刈る。

 ごとりと落ちる首を拾い上げ、首根っこからもう一つの心臓マジックコアを抉り出し、二つ同時に口にほう張る。

 そして、満足そうに嗤う。

 死因は、全て首を刈られたことによる即死。そして、全ての骸からもう一つの心臓マジックコアが抉り出されており、それ以外の外傷は殆どの骸からは確認されなかった。



「おい、灯地ひちの。コイツは、どういう事だと思う」

阿府あぶのさぁ。俺っちに分かるわけないっちゃねぇ」

 それぞれの地区の野良犬達を束ねる二人は、互いを地区名で呼び合っていた。互いの名前など、まるで興味がない為だ。

 猟犬からの指示は、地区の野良犬を束ねる者にだけ下される。それをこなせば、反逆の意思さえ認められなければ、法に触れることがあっても国に対し反逆の意思さえ確認できなければ、猟犬が粛清に現れることはない。

「砂戸は、ピエロの縄張りだったろ。それを俺ら野良犬が、餌場として良いのかって疑問は、猟犬からの指示を聞いた時にも思ったが……これは、ハメられたと考えて良いだろうな」

「まぁ、そう考えちゃっても仕方ないって感じやちゃね」

 〝阿府あぶの〟と呼ばれる優男は、眼鏡を指で掛け直しながら、首なしの死体を見下ろしながら呟き、〝灯地ひちの〟と呼ばれた酷く猫背の小柄な男もまた、同じようにそれを見下ろし答えた。

「さっき、紫乃のが殺されていたのが見つかってな」

「俺っちにも、連絡があったっちゃね」


 互いの配下の野良犬が紫乃地区に程近い場所で、きりに始末された雨村さめむらを見つけたということは、この砂戸地区を蹂躙し終わった事を意味していた。

「だが、紫乃のの首は繋がっていた」

「そうっちゃね」

「それで夜が明けるこのタイミングで、うちの野良犬どもが誰一人として、小屋に帰ってこないんだが」

「うちもっちゃね」

 今回は特に猟犬からの指令であった為、各地区の頭はこの異変に対して、連絡をとり落ち合っていた。奇妙な指令であったことは理解していた為、自分達は自身のは縄張りに近い場所で待機していたが、誰一人時間になっても帰らないことで、最終的に落ち合うことにしたのだった。

 そして二人は落ち合うまでの道中で、完全に臨戦体制に入っていた。何故なら、少し注意して路地裏や建物の窓に目を向ければ、紅く染まっていたのだから。

「いくら力を使うこともできない様なバカどもでも、こうなる前に俺に連絡の一つでも出来そうなものだが、それすら出来ない程に瞬殺されたってことかね」

「俺っちのところは、何人かは力をかじっているぐらいの奴はいっちゃね。それでも、このざまやちゃ」

 空はだいぶ明るくなり、空にはうっすらと月が見えた。

「んんぅ……あんた達は、誰かの報復対象かな?」

 身体のいたるところに返り血を浴びている陽士郎が、二人に話しかける。

 残す野良犬は、あと二匹。

「コイツは狂ってるな……〝戌型略式 槍〟」
「そうやっちゃね……〝戌型略式 拳〟」

 大通りの方から揚々と歩いてくる陽士郎に向かって、二人は猟犬より与えられし力を惜しげもなく解放した。

 それを見た陽士郎は立ちどまり、目を細めた。

「おっと、調子に乗りすぎたかな?」

 そして、深く膝を曲げると、全力で踏み込むと、迷いなく背を向ける形で跳んだ。

「は?」
「ちゃ?」

 そう、逃げたのである。それも、見事なまでの一目散である。
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