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生きる者
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「あれ? 魔王様、忘れ物?」
俺が家の扉を再び開けると、アリンが首を傾げながら尋ねてきた。
「大事なキングバジリスクの居場所を聞くのを、忘れていた。結局、どこにいるんだ?」
俺は意気揚々とアリンの家の玄関から外へと出た所で、行き先を聞いていないことに気づいて直ぐに戻ったのだ。
「私もお伝えするのを、忘れてました。お恥ずかしい……」
シリルが顔を赤くして申し訳なさそうにしていたが、アリンはクスクスと楽しそうに笑っていた。
「気にするな。思わず気分が盛り上がって、そのまま出て行った俺が阿呆なんだ。それで、何処なんだ?」
「キングバジリスクは、ここから東の森を抜けた荒野の岩山を縄張りとしています。でも、本当に大丈夫なのですか? 魔王様は、『生きて』いらっしゃるのですよね?」
「勿論そうだ。この肉体は俺の物であり、俺以外の物ではない。試す気は無いが、恐らく死ねばNPCと同じく『終わり』だろう。冒険者のように、復活の神殿にて『やり直す』事など出来ないだろうな」
「え!? じゃぁ、魔王様は私達と一緒なの!?」
「死ねば終わりという意味では、俺もNPCと一緒だな」
アリンは、俺もNPCと同じく死ねば終わりと聞いて、顔が見る見る青くなっていった。恐らく、冒険者と同じく復活の神殿で復活できると思っていたのだろう。
「てっきり、魔王様も復活の神殿で元に戻るかと思ってた……それなら、魔王様が石になったら、私たちと一緒でその場に固まっちゃって戻れないの!?」
「石になればな」
「そんな……ね、やっぱり一人ずつ時間かかっても治そう? そっちの方が安全だよ!」
「さっきも言っただろう。それだと、今回は助かっても、次また助かるとは限らん。それでは、生きては行けぬ」
俺は、アリンの目を見据えながら諭すように語りかけた。
「それに、いつか滅びゆく者達を見捨てて何が『魔王』だと言うんだ。その涙にかけて、必ずキングバジリスクを討伐し、牙を持ち帰ると約束する」
アリンの目からは、大粒の涙が流れていた。まだあって間も無い俺を心配して涙してくれるこの少女の優しさで、俺の心は温かくなった。
「絶対、帰ってきてくださいね……美味しいご飯をお母さんと一緒に作って、待ってますから! 早く帰ってこないと、冷めちゃうんですからね!」
アリンは涙を拭い、笑顔でそう俺に告げた。
「分かった、料理が冷める前に戻ってこよう。では、行ってくる」
「「行ってらっしゃい!」」
二人に送り出され、今度こそキングバジリスク討伐へと俺は向かったのだった。
「恐らくここがシリルが言っていた岩山だな。頂上付近から幾つかの、強い魔力を感じる」
俺は、目の前に聳え立つ岩山を見上げながら、先ずはこの場所を調べる事とした。
「『範囲指定』『目の前の岩山』『調査』『検索条件』『生命体』」
目の前の岩山には、魔力の塊を感じる事は出来るが、生命体がいるかどうかを確認するため、『調査』により調べる事にしたのだ。
「……やはり、『生命体』は『無し』か。この世界のモンスターは、やはりスキルに用いても『生命体』に区別されなかったな」
俺はその結果に、憂いを感じずにはいられなかった。『生きている』『NPC』が、『生きていない』『モンスター』により危機を与えられている。
「これはこれで、好都合だがな。料理が冷める前に帰れそうだ。さて、確か『キングバジリスクの左牙』はドロップ品というやつだったな」
そして俺は、魔力を解放した。
「作り物が、『生きている者』を脅かすんじゃねぇよ」
次の瞬間、目の前の岩山は消滅した。
「は?」
私は運営本部長から部員全員に届いた緊急連絡メールを見て、固まった。
『第三フィールド6番エリア「キングバジリスクの岩山」が、先程消滅する事案が発生した。原因は不明。部員は、各自担当プロジェクトへの影響を至急確認し報告する事。本件の対応担当は、笹本主査及び上井部員とする。二人は至急、運営本部第2会議室へ来る事』
「笹本先輩!」
「あぁ、恐らく奴さんだな。まさか、フィールドを破壊するたぁな」
私は黒羽本部長からの緊急メールを読むと、笹本先輩のデスクへと駆け寄った。笹本先輩は、私が駆け寄るタイミングで席を立ち、呼び出しを受けた会議室へと歩き出した。
「私は担当プロジェクトを未だもっていないので直ぐで良いですが、笹本先輩は大丈夫だったったんですか?」
「あぁ、俺は第三フィールドでの担当プロジェクトは、現在もっていなからな。黒羽本部長もその事を分かっているから、担当に付けたんだろ」
「まさか、黒羽本部長って部員全員の担当プロジェクトを、フィールド含めて詳細や進捗なんかも把握しているんですか?」
「それくらい仕事が出来るから、ここの本部長なんだよ」
そして私達は、黒羽本部長の待つ運営本部第二会議室の扉を開き、部屋の中へと足を踏み入れた。
「黒羽本部長、一体何が起きたんですか?」
「緊急メールの通りとしか、今の所は分かっていないな。先程、突然に第三フィールドのキングバジリスク生息地域『絶望の岩山』が文字通り消滅した。技術保全部から俺に緊急での報告が先程あったばかりでな。ただ技術保全部の報告では、外部からのハッキング等の痕跡はなかったそうだ」
笹本先輩が、会議室へと入るなりにコの字型に並べられていた机の椅子に腕を組んで座っていた黒羽本部長に質問していた。それに答える黒羽本部長の表情は硬く、二人は淡々と起きたトラブルに対する確認をしていた。私も気になった事に関して、黒羽本部長へと質問した。
「黒羽本部長、外部からのハッキング等による攻撃ではないとすると、どうやって地形のプログラムを変更する事が出来たと技術保全部は考えているのでしょうか?」
「技術保全部の見解だと、外部からの何かしらの侵入は認められなかった時点で、結論は一つらしい」
「一つですか?」
「あぁ、ゲーム内のプレイヤー又はNPC、若しくはモンスターが自力で岩山を吹き飛ばしたという事らしい」
「……冗談ではなく……ですよね?」
私は、黒羽本部長の言葉に冗談かと思うほどに衝撃を受けたが、黒羽本部長の表情の険しさを見て本気だと理解した。私が驚き固まっていると、笹本先輩が鋭い目を黒羽本部長に向けていた。
「プレイヤーは、特別に設定したフィールド以外はあの世界の物を破壊したり出来ない筈ですが、黒羽本部長はどうような見解を持っているんです?」
「笹本も、一緒の考えなんだろう? 恐らく不正ログインしてきた奴と関連がある気がしてならん。フィールドを破壊出来る可能性があるのは、NPCとモンスターだが、今回はモンスターが何かしらのエラーを起こしたという報告はない。モンスターの制御は今も完璧だそうだ。あとはNPCの可能性だが、そもそも彼らにそんな戦闘力はないからな」
「黒羽本部長がそう考えるという事は、今回も異常なステータスを検知したという事です?」
「あぁ、そうだ。計測不能の異常なステータス上昇が起きた直後に『絶望の岩山』が消失した事からも、間違いなく関連があると見て間違いないだろう」
二人がお互いに険しい顔をし、一瞬の静寂を訪れた時に私は二人に疑問を投げかける。
「その不正ログイン者が犯人だったとして、何故『絶望の岩山』を消失させたのでしょうか? 正直あそこは、初級エリアの中でもある意味で隠しステージの様な場所ですし、目立つのが目的だとしたらほぼ気付かれる事もなく終わっていくでしょうし」
「その通りだ。その為、二人には今回の件に関して犯人及び動機の調査をやってもらいたい。方法は笹本に一任する」
「分かりました。取り敢えずは、現地調査しかないでしょうね。こんな時は、全ての映像の記録が取れないシステムは、何とも後手に回りますね」
笹本先輩が、面倒くさそうな顔をしながら呟いていた。
「そこは仕方ないだろう。ゲーム内の世界は、ほとんど現実世界と同じ規模の広さだからな。現実と一緒で、記録用のシステムは主要都市や重要施設しか設置出来んからな。流石のうちの技術保全部でも、あの世界の全ての映像記録を保存するような真似は出来んよ」
「それは、そうなんですがね……分かりました。兎に角、上井とこの件に関しては当たります。丁度よいOJTになりそうですしね」
「いきなりハードなOJTになりそうな予感しかしません……」
私が自信なさげに呟くと、黒羽本部長はその呟きを聞くと先程までの険しい表情を崩し、微笑んだ。
「入社直後に、トラブル対応から初仕事が始まるとは運が良いんだぞ? 指導して貰える先輩がいるうちに、沢山トラブルに巻き込まれることだな。一人でプロジェクトを受け持った時は、その経験がモノを言うからな」
「それに、今回の責任担当者はあくまで俺だからな、上井は取り敢えずレベル上げだと思えよ」
「兎に角、頑張ります」
そして黒羽本部長は、今回の件についての方針が決まったら部内に向けて公文書を発行するようにと私に指示を出すと、会議室を出て行った。
「これから、どうしますか? 現地調査という事はログインするという事ですか?」
「まぁ、そうなるんだが……ログインは上井だけして貰おうか。俺は、こっちで別件のプロジェクトも進めなきゃならんし、ちょっと気になる事もあるしな」
「気になることですか? 今回の件についてですよね?」
笹本先輩は、会議室の椅子に座り背もたれに背中を預けながら、天井を仰ぎ見ていた。
「あぁ、何のためにこんな事をしたのかを調べてみようかとな」
「笹本先輩は、今回の件は愉快犯ではないと考えているんですか?」
「勘だがな」
天井を仰ぎ見ていた笹本先輩が、眼を瞑りながら短くそう答えた。
「そうですか。私は、今からログインすれば良いんですか?」
「なんだ、もうツッコミ入れてくれないのか?」
「笹本先輩がそう言ったのなら、それ以上に理由なんて出てこないのでしょう?」
私がそう告げると、笹本先輩は私に顔をむけて笑っていた。
「そらそうだ、勘に理由も何もない。社内でのログイン申請は分かっているか?」
「はい、社員研修時に教えてもらいましたから。上長承認が要りますが、射内統轄Mgr.は確か今朝から出張ですよね? 電話で承認貰えばいいですか?」
私の直属上長である射内統轄Mgr.は、今朝から出張で本社に出てきていなかった。
「いや、どうせあの人の事だから電話は中々繋がらないだろうし、メール返信も期待出来んからな。昨日のうちに上井の申請関連の承認権限を、俺が代行承認出来るようにして貰ってあるから、申請依頼の承認者の所には射内統轄Mgr.を選択して、代行承認者に俺を選択しておけ。一応繋がらんかもしれんが電話しておけよ。繋がればそのまま説明すれば良いし、駄目なら今回の件をメールで報告しておけ」
「分かりました。アバターは、そのまま使って良いんでしたよね?」
「あぁ、だが騒ぎになると面倒だから『白銀の天剣』だと、バレるなよ?」
「はい、『特殊運営設定』で初期装備に見た目を変えて、あとは髪の色を変えておけばバレないと思います。念の為に髪型も前髪をアップにして黒髪にしておけば、まず間違いなくバレないです。あっちは目元を見えないように設定してますから。笹本先輩とあの人以外は、見た事無い筈です」
そして私は『the Creation Online』に社内からログインした。
これまでの只のプレイヤーから、私は初めて神運営の一人としてゲームの世界に降り立った。
神運営に仇なす魔王を探す為に。
俺が家の扉を再び開けると、アリンが首を傾げながら尋ねてきた。
「大事なキングバジリスクの居場所を聞くのを、忘れていた。結局、どこにいるんだ?」
俺は意気揚々とアリンの家の玄関から外へと出た所で、行き先を聞いていないことに気づいて直ぐに戻ったのだ。
「私もお伝えするのを、忘れてました。お恥ずかしい……」
シリルが顔を赤くして申し訳なさそうにしていたが、アリンはクスクスと楽しそうに笑っていた。
「気にするな。思わず気分が盛り上がって、そのまま出て行った俺が阿呆なんだ。それで、何処なんだ?」
「キングバジリスクは、ここから東の森を抜けた荒野の岩山を縄張りとしています。でも、本当に大丈夫なのですか? 魔王様は、『生きて』いらっしゃるのですよね?」
「勿論そうだ。この肉体は俺の物であり、俺以外の物ではない。試す気は無いが、恐らく死ねばNPCと同じく『終わり』だろう。冒険者のように、復活の神殿にて『やり直す』事など出来ないだろうな」
「え!? じゃぁ、魔王様は私達と一緒なの!?」
「死ねば終わりという意味では、俺もNPCと一緒だな」
アリンは、俺もNPCと同じく死ねば終わりと聞いて、顔が見る見る青くなっていった。恐らく、冒険者と同じく復活の神殿で復活できると思っていたのだろう。
「てっきり、魔王様も復活の神殿で元に戻るかと思ってた……それなら、魔王様が石になったら、私たちと一緒でその場に固まっちゃって戻れないの!?」
「石になればな」
「そんな……ね、やっぱり一人ずつ時間かかっても治そう? そっちの方が安全だよ!」
「さっきも言っただろう。それだと、今回は助かっても、次また助かるとは限らん。それでは、生きては行けぬ」
俺は、アリンの目を見据えながら諭すように語りかけた。
「それに、いつか滅びゆく者達を見捨てて何が『魔王』だと言うんだ。その涙にかけて、必ずキングバジリスクを討伐し、牙を持ち帰ると約束する」
アリンの目からは、大粒の涙が流れていた。まだあって間も無い俺を心配して涙してくれるこの少女の優しさで、俺の心は温かくなった。
「絶対、帰ってきてくださいね……美味しいご飯をお母さんと一緒に作って、待ってますから! 早く帰ってこないと、冷めちゃうんですからね!」
アリンは涙を拭い、笑顔でそう俺に告げた。
「分かった、料理が冷める前に戻ってこよう。では、行ってくる」
「「行ってらっしゃい!」」
二人に送り出され、今度こそキングバジリスク討伐へと俺は向かったのだった。
「恐らくここがシリルが言っていた岩山だな。頂上付近から幾つかの、強い魔力を感じる」
俺は、目の前に聳え立つ岩山を見上げながら、先ずはこの場所を調べる事とした。
「『範囲指定』『目の前の岩山』『調査』『検索条件』『生命体』」
目の前の岩山には、魔力の塊を感じる事は出来るが、生命体がいるかどうかを確認するため、『調査』により調べる事にしたのだ。
「……やはり、『生命体』は『無し』か。この世界のモンスターは、やはりスキルに用いても『生命体』に区別されなかったな」
俺はその結果に、憂いを感じずにはいられなかった。『生きている』『NPC』が、『生きていない』『モンスター』により危機を与えられている。
「これはこれで、好都合だがな。料理が冷める前に帰れそうだ。さて、確か『キングバジリスクの左牙』はドロップ品というやつだったな」
そして俺は、魔力を解放した。
「作り物が、『生きている者』を脅かすんじゃねぇよ」
次の瞬間、目の前の岩山は消滅した。
「は?」
私は運営本部長から部員全員に届いた緊急連絡メールを見て、固まった。
『第三フィールド6番エリア「キングバジリスクの岩山」が、先程消滅する事案が発生した。原因は不明。部員は、各自担当プロジェクトへの影響を至急確認し報告する事。本件の対応担当は、笹本主査及び上井部員とする。二人は至急、運営本部第2会議室へ来る事』
「笹本先輩!」
「あぁ、恐らく奴さんだな。まさか、フィールドを破壊するたぁな」
私は黒羽本部長からの緊急メールを読むと、笹本先輩のデスクへと駆け寄った。笹本先輩は、私が駆け寄るタイミングで席を立ち、呼び出しを受けた会議室へと歩き出した。
「私は担当プロジェクトを未だもっていないので直ぐで良いですが、笹本先輩は大丈夫だったったんですか?」
「あぁ、俺は第三フィールドでの担当プロジェクトは、現在もっていなからな。黒羽本部長もその事を分かっているから、担当に付けたんだろ」
「まさか、黒羽本部長って部員全員の担当プロジェクトを、フィールド含めて詳細や進捗なんかも把握しているんですか?」
「それくらい仕事が出来るから、ここの本部長なんだよ」
そして私達は、黒羽本部長の待つ運営本部第二会議室の扉を開き、部屋の中へと足を踏み入れた。
「黒羽本部長、一体何が起きたんですか?」
「緊急メールの通りとしか、今の所は分かっていないな。先程、突然に第三フィールドのキングバジリスク生息地域『絶望の岩山』が文字通り消滅した。技術保全部から俺に緊急での報告が先程あったばかりでな。ただ技術保全部の報告では、外部からのハッキング等の痕跡はなかったそうだ」
笹本先輩が、会議室へと入るなりにコの字型に並べられていた机の椅子に腕を組んで座っていた黒羽本部長に質問していた。それに答える黒羽本部長の表情は硬く、二人は淡々と起きたトラブルに対する確認をしていた。私も気になった事に関して、黒羽本部長へと質問した。
「黒羽本部長、外部からのハッキング等による攻撃ではないとすると、どうやって地形のプログラムを変更する事が出来たと技術保全部は考えているのでしょうか?」
「技術保全部の見解だと、外部からの何かしらの侵入は認められなかった時点で、結論は一つらしい」
「一つですか?」
「あぁ、ゲーム内のプレイヤー又はNPC、若しくはモンスターが自力で岩山を吹き飛ばしたという事らしい」
「……冗談ではなく……ですよね?」
私は、黒羽本部長の言葉に冗談かと思うほどに衝撃を受けたが、黒羽本部長の表情の険しさを見て本気だと理解した。私が驚き固まっていると、笹本先輩が鋭い目を黒羽本部長に向けていた。
「プレイヤーは、特別に設定したフィールド以外はあの世界の物を破壊したり出来ない筈ですが、黒羽本部長はどうような見解を持っているんです?」
「笹本も、一緒の考えなんだろう? 恐らく不正ログインしてきた奴と関連がある気がしてならん。フィールドを破壊出来る可能性があるのは、NPCとモンスターだが、今回はモンスターが何かしらのエラーを起こしたという報告はない。モンスターの制御は今も完璧だそうだ。あとはNPCの可能性だが、そもそも彼らにそんな戦闘力はないからな」
「黒羽本部長がそう考えるという事は、今回も異常なステータスを検知したという事です?」
「あぁ、そうだ。計測不能の異常なステータス上昇が起きた直後に『絶望の岩山』が消失した事からも、間違いなく関連があると見て間違いないだろう」
二人がお互いに険しい顔をし、一瞬の静寂を訪れた時に私は二人に疑問を投げかける。
「その不正ログイン者が犯人だったとして、何故『絶望の岩山』を消失させたのでしょうか? 正直あそこは、初級エリアの中でもある意味で隠しステージの様な場所ですし、目立つのが目的だとしたらほぼ気付かれる事もなく終わっていくでしょうし」
「その通りだ。その為、二人には今回の件に関して犯人及び動機の調査をやってもらいたい。方法は笹本に一任する」
「分かりました。取り敢えずは、現地調査しかないでしょうね。こんな時は、全ての映像の記録が取れないシステムは、何とも後手に回りますね」
笹本先輩が、面倒くさそうな顔をしながら呟いていた。
「そこは仕方ないだろう。ゲーム内の世界は、ほとんど現実世界と同じ規模の広さだからな。現実と一緒で、記録用のシステムは主要都市や重要施設しか設置出来んからな。流石のうちの技術保全部でも、あの世界の全ての映像記録を保存するような真似は出来んよ」
「それは、そうなんですがね……分かりました。兎に角、上井とこの件に関しては当たります。丁度よいOJTになりそうですしね」
「いきなりハードなOJTになりそうな予感しかしません……」
私が自信なさげに呟くと、黒羽本部長はその呟きを聞くと先程までの険しい表情を崩し、微笑んだ。
「入社直後に、トラブル対応から初仕事が始まるとは運が良いんだぞ? 指導して貰える先輩がいるうちに、沢山トラブルに巻き込まれることだな。一人でプロジェクトを受け持った時は、その経験がモノを言うからな」
「それに、今回の責任担当者はあくまで俺だからな、上井は取り敢えずレベル上げだと思えよ」
「兎に角、頑張ります」
そして黒羽本部長は、今回の件についての方針が決まったら部内に向けて公文書を発行するようにと私に指示を出すと、会議室を出て行った。
「これから、どうしますか? 現地調査という事はログインするという事ですか?」
「まぁ、そうなるんだが……ログインは上井だけして貰おうか。俺は、こっちで別件のプロジェクトも進めなきゃならんし、ちょっと気になる事もあるしな」
「気になることですか? 今回の件についてですよね?」
笹本先輩は、会議室の椅子に座り背もたれに背中を預けながら、天井を仰ぎ見ていた。
「あぁ、何のためにこんな事をしたのかを調べてみようかとな」
「笹本先輩は、今回の件は愉快犯ではないと考えているんですか?」
「勘だがな」
天井を仰ぎ見ていた笹本先輩が、眼を瞑りながら短くそう答えた。
「そうですか。私は、今からログインすれば良いんですか?」
「なんだ、もうツッコミ入れてくれないのか?」
「笹本先輩がそう言ったのなら、それ以上に理由なんて出てこないのでしょう?」
私がそう告げると、笹本先輩は私に顔をむけて笑っていた。
「そらそうだ、勘に理由も何もない。社内でのログイン申請は分かっているか?」
「はい、社員研修時に教えてもらいましたから。上長承認が要りますが、射内統轄Mgr.は確か今朝から出張ですよね? 電話で承認貰えばいいですか?」
私の直属上長である射内統轄Mgr.は、今朝から出張で本社に出てきていなかった。
「いや、どうせあの人の事だから電話は中々繋がらないだろうし、メール返信も期待出来んからな。昨日のうちに上井の申請関連の承認権限を、俺が代行承認出来るようにして貰ってあるから、申請依頼の承認者の所には射内統轄Mgr.を選択して、代行承認者に俺を選択しておけ。一応繋がらんかもしれんが電話しておけよ。繋がればそのまま説明すれば良いし、駄目なら今回の件をメールで報告しておけ」
「分かりました。アバターは、そのまま使って良いんでしたよね?」
「あぁ、だが騒ぎになると面倒だから『白銀の天剣』だと、バレるなよ?」
「はい、『特殊運営設定』で初期装備に見た目を変えて、あとは髪の色を変えておけばバレないと思います。念の為に髪型も前髪をアップにして黒髪にしておけば、まず間違いなくバレないです。あっちは目元を見えないように設定してますから。笹本先輩とあの人以外は、見た事無い筈です」
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『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
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