神運営と魔王様〜ゲームのバグは魔王様!? ここが何処であろうと、我は魔王なのである!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
32 / 40

居心地

しおりを挟む
「サンゴ、一つ聞いていいか?」

「何?」

「何故に俺は、床に座らされているんだ? しかも、村の者が全員急用を思い出したとかで、家を出て行ったのだが、恐らく実際はサンゴの顔が怖く……」

「あぁ?」

「いや、何でもない」

 俺は、目の前で腕を組みながら物凄い怒気と気迫を身に纏ったサンゴに、見下ろされていた。



 シリルとアリン親娘の家で目覚めたあとに、フレンドメールに『サンゴ』からのメールが来ていたため、返信出来なかった謝罪を含め先ほどまで寝ていた事や、まだ元の世界に帰るつもりはない事を送っておいた。

 すぐ様にサンゴから返信があり、何処にいるかと聞かれた為にハスレ村にいると伝えたのだ。その結果が、この有様である。俺がサンゴに返信してから、さほど時間が経つ前に勢いよく家の扉が開けられた。俺自身としては、こちらに向かってくる戦闘の初心者とは思えないほどに気迫を纏う者が近づいているのを感じていたが、他の村民たちは気づかなかったらしく一様にサンゴに気迫に呑まれていた。

 『魔王様? 少しお話しいいかしら。良いわよね? えぇ、良いはずだわ。だから先ずは、そこの床に正座しなさい。え? 正座が何かって? なるほどなるほど、私をおちょくっているのね? 良い度胸ね、流石は魔王を名乗るだけあるわ』

 俺は、芯から冷える程の凍える目線を向けられながら、他の者達に助けを求めようと目線を向けた。しかし、彼らは全員が急用を思い出したと呟きながら家を出て行った。シリルでさえ、何故か庭の水やりに行くと言い出しアリンもすぐ様に手伝うと言って出て行ってしまった。その為、自分の記憶と知識を総動員して『正座』を試みようとした。

 しかし、いくら頭で考えても『正座』がどんものかを導く事が出来なかった。サンゴが口にしたという事は、恐らく冒険者であれば知っている筈の事なのだろう。こんな時にソラがいてくれればと思ったが、むしろサンゴの横で同じように俺を見下ろしているソラを幻視したため、その甘い考えを放棄した。

 その為、俺は頭で分からないならと思考を放棄し、今の現状を魂に問いかけ本能に身を任せた。


 怒れる女性を前にして自分が何をしないと行けないのか

 知識ではなく本能で悟るのだ

 今、自分が為すべき事を!

 
 そして、俺は心を空っぽにして思うがままに身体を動かしたのだ。


「別に『土下座』までしろとは言ってないわ。返答次第でさせるけど、まだ・・だけ・・上げていて良いわよ。正座は良いと言うまで崩さないように」

 どうやら、俺の本能は間違っていなかったらしい。しかし、その後にサンゴから俺がメールの返信をしなかった事のお叱りを、長々と受けることになったのだった。



「何故、自分が説教を受けているのか分からないという顔ね。本当に誰かさんと一緒で、頭を叩きたくなるわね。アイテムバックにスリッパなかったかしら」

 サンゴは何やら腰につけていたバックに手を入れ何かを探そうとしていたが、嫌な予感しかしなかった為、話を戻そうとした。

「傷を負ってしまってな、回復するまで気を失っていたようなんだ。わざとサンゴのメールを返さなかった訳ではないぞ」

「確かに腕を失って、身体を貫通するような傷を実際に負ったとしたら、そんなぐらいじゃ済まないでしょうけど。ここはゲームの世界なのよ? そもそも何でそんな事が起きるのよ」

「ん? 傷を負ったとは言ったが、そこまで詳細に何故『サンゴ』が知っているんだ?」

 俺がバーサーカークイーンホーネットから庇ったのは、の『サンゴ』ではなかった。今のように革鎧ではなく、白銀に輝く鎧を着ており髪の色もそれに合わせるかのような銀色だった。

「……か……」

「か?」

「か……勘よ……そうよ、勘よ! 女の勘よ! 何よ? 文句でもあるの?」

 自分の失態に気付いたのだろうサンゴは、耳まで顔を真っ赤にしていた。普段は頭が回るくせに興奮すると途端にすぐ頭が回らなくなるのは、昔から変わっていないのだなと思わず微笑んだ。

「……正座してる癖に上から目線で、何を微笑んでいるのよ?」

「はは、あまりにも変わってな……変わってない? 何を……俺は笑っていたんだ?」

「質問を質問で返さないでくれる? 知らないわよ、そんな事。一週間も雲隠れしていた件は取り敢えず置いておくわ。それで、腕と腹から何で血が出てたのよ。それにこのゲームで身体の欠損何て事も起きないはずよ」

 この間の白銀の冒険者と自分が同一人物だという前提でサンゴは話しているが、一応偽装はしていると言うのに良いのかと思い、若干憐れみの目線を向けそうになった。しかし碌な事になりそうにないので、そこは気付かない振りをする事にした。

「何故と言われても、俺は『生きている』のだから、傷付けば血ぐらいでるし腕や腹とて噛みちぎられたり、刺されたりしたら欠損ぐらいおきるだろう」

「だから、そんなプログラムなんて設定されてないって言っているでしょ。設定にないものが、起きる筈がないから聞いているのでしょう? で、結局そんな起きる筈のない事が起きたという事は、貴方が何かをした・・・・・という事なんじゃないの?」

「何かとは?」

「不正にアバターを改造していたりしていないでしょうね」

 サンゴは、無意識に全身を若干強張らせていた。そして、目は不安を表すように揺れていた。神運営の眷属として来ているのだろうが、あまりに神とは程遠い感情の揺れに俺は彼女に興味が湧いた。恐らく彼女は、俺が冒険者が口にしていた『不正』を働いているか調査しているのだろう。

 調査対象である俺に直接聞いてくる辺りは、正直心配になるほどに真っ直ぐだが、そもそも俺は自分を改造したりもしていない為、『不正』は全くしていない。俺はすこし逡巡した後、口を開いた。

スターテイン始まりの街でも、俺の事をそう呼ぶ者が大勢いたらしいな。だが、一部の者を除いては、既にそんな話はないらしいじゃないか」

「何よ、やっぱり一週間も寝てたとか言う割に、スターテイン始まりの街の様子を知っているんじゃない」

 サンゴが非難めいた目を向けてきたので、スターテイン始まりの街の情報はさっき村人から教えてもらったと付け加えた。

「村民NPCが、冒険者の噂話をわざわざ話した?」

 サンゴは俺の言葉に訝しげな表情を見せていた。

「何も不思議な事は無いだろう。彼らも俺と同じく『生きている』んだ。それくらいの事は関わりがあれば教えてくれもするだろう」

「『生きている』って錯覚・・するくらいに、確かにこのゲームのNPCを動かすAIプログラムは凄いし、聞けばクエストの事とか教えてくれたりするけど……ある意味NPCとは全く関係無いチートの噂話をわざわざ当人に教えにくるものなの?」

 声は明らかに大きかったが、焦点が俺を見ていない事から独り言なのだろう。ブツブツと独り言を続けて喋っているが、完全に声の大きさは誰かに話しかけているようだった。

「相変わらずだな」

「え? 何が?」

「……何がだろうな?」

「やっぱりおちょくってんの?」

 サンゴは半眼で俺を睨みていたが、俺は内心ではこの奇妙な感覚に驚いていた。自然に口に出る言葉に、不思議と違和感はなかった。そして、このサンゴといる空間は俺を何故だか安心させていた。相手は神運営の眷属であり、かつ相手の機嫌も悪いというのに、俺自身は悪い気はしていなかった。

「そんな事はないさ。ただな」

「ただ?」

「居心地が良くてな」

「このNPCの家が、そんなに好みなの?」

 サンゴは部屋を見渡したが、全く理解出来ないと言った様子だった。

「まぁ、そんな所だ。所で今日は、何するつもりでここへ来たんだ?」

「え?……あぁ! えっと、そうね……どうしよう、取り敢えず出てきただけだった……」

「おいおい……なら、サンゴがこの間行こうとしていた『レベル上げに効率が良い所』に行ってはどうだ?」

「そうね! 私も今そう言おうとしていた所だったのよ、ふふふ」

 サンゴは、無理矢理に笑顔を作っていたがあまりに滑稽で笑いを堪えることが出来なかった。

「ははは、分かった分かった。なら、その場所へと案内してくるか」

「ちょっ! 何笑ってるのよ! 本当なんだから!」

「はいはい、ほら行くぞ」

 何処か懐かしく感じるやり取りに、益々大笑いしそうになるのを噛み殺しながら、サンゴと家を出たのだった。



「笹本先輩、今から『魔王様』を連れて『モンスター性能試験空間』に向かいます」

「『分った。使用申請は俺が出しておくから、そのまま向かってくれ』」

 そして、私は魔王様の検証を行うべく運営が使用する事が出来る特別仕様の空間へと案内しようとしたのだった。


「野郎共! チート野郎がいやがったぞ!」


「あぁ? どいつもこいつも証拠がまだないって言ってるのに……程度が知れるわよ」

 私はどこぞの鬱陶しい『勇者』が、ギルドマスターをしているギルドのメンバーに対して剣を抜いたのだ。

「……サンゴよ、どんどん短気になってないか?」

 私は、魔王様の言葉をスルー無視して、私達を囲む輩に向かって駆け出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

ダンジョンで死んだらペットの黒猫に魂を飲み込まれちゃった結果世界最強になりあがった俺の話

TB
ファンタジー
ダンジョンと呼ばれる不思議な地下構造体が、この世界に現れて1年。 自衛隊員だった俺は一般探索者をかばい、二階級特進した。 みんなが俺の葬式で涙を流してくれている姿を、霊体の俺は「へぇ、初めて死んでみたけどちゃんと意識ってあるんだな……」って思いながら眺めてた。 その時視線を感じる…… 「げ……こいつ俺に気付いてる」 俺の飼い猫だった。 次の瞬間、飛び上がったそいつは、俺を丸のみにしやがった。 そこから始まる、俺とダンジョンの物語。 この作品はあくまでもフィクションで登場する国や都市も仮想的な存在です!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...