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童話パロ:シンデレラ
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「なんでまたあなたがここにいるんですか?」
あの舞踏会での顛末から半年程度の月日が流れていた。
あれから無事に家に帰りつき、以前どおりの忙しいけれどそこそこ満ち足りた生活を送っていた。
だが、変わった点もある。
それは目の前の光景だ。
出先から帰って一番最初に目にしたのは勝手に人の家の冷蔵庫を漁る見知った男の姿。
「ああ!しかも人ん家の冷蔵庫勝手に開けて中のもの食べないでくださいよ!」
「今さらだろう?」
お忍び用の平民のような質素ななりが全く似合っていない王子はプリンのカップを片手にスプーンを器用に口にしたまましゃべる。
その姿ははまるで一国の王子に見えない。
あの日以来お忍びで我が家を訪れるようになったこの男の姿はだんだん見慣れつつある自分がなんだか恐ろしく感じている、今日この頃だ。
持っていたカバンをリビングのソファにおいて、周囲を見渡すが王子以外の家族の姿が見えない。
「何でいるんですか!確か利音お姉さまがいたはずですけど!」
利音お姉さまはなぜか彼を毛嫌いしている。
なぜか初対面で敵認識したらしく「妹は渡さない」と意味不明な宣戦布告をして彼が家に来ようとするとそれを阻止してくれるのだ。
今日は彼女が家にいるため来ないと思っていたのだが。
「…あ、ああ。あれなら魔王がどっか連れてったぜ」
その何度聞いたかしれない言葉にあたしは頭が痛くなった。
利音お姉さまがいるときによく使われる手だが、利音お姉さまが家にいる時に限って、この王子は魔王を伴ってわざわざ我が家に来るのだ。
王子は敵認識だが、魔王は恋人な利音お姉さまだけに魔王は邪険にできないらしく彼の手に伴われ外出してしまうのだ。
そうなれば、留守番と称してこの王子は家に入りこむ。
そこにあたしが返ればそのままなし崩しで一緒にいる羽目になるのだ。
まあ、彼の忙しいらしいのでそう頻繁ではないのだが、それでも普段は女子しかいない家に勝手に男が入るのはいかがなものかと思うのだが。
「嘘をつかないでください!どうせ、また緑水様に頼んで連れ出してもらったんでしょ!」
「いいじゃないか。別にお互い合意の上だし。疾しいことなど何もない」
そういいつつ、勝手に取り出しているプリン二つ目を口に入れて、にやりと笑われた。
「それにプリンが用意されているってことはお前も俺が来るのを待ってたんじゃないのか?」
言われて答えに詰まる。
「べ、別に王子が来るとわかっていたから作っていたわけじゃ…」
「へえ、俺以外これ食べる人間いるのかよ?」
そういいながら、突然口にプリンを救ったスプーンを突っ込まれる。
甘いバニラの風味が口の中に広がり一種おいしいが、すぐに甘すぎる味が口の中に広がる。
「…甘い」
「…そうか?俺はこのくらいのが好みだけどな。お前の作るのが一番うまい」
満面の笑みで口に含んでいるその姿を見れば、まあ作った身としてはまんざらでもない。
あの時高圧洗浄機の圧力でベランダから吹っ飛んだあたしは三回から投げ出されたあたしはしかし地面に激突する前に魔法で救われた。
あの磁場を発生させた呪文使いの魔法使いの仕業らしいが、一度も姿を見せなかった。
だが、その場で気を失った。あたしを王子がそのまま自室に運んだらしい。
その時にあたしのポケットに入っていた、プリンを見つけ食べたらしい。
…正直この話は引くけどね。
何で勝手に人ポケットに入ってたもの食べるのかな?
しかも生ものだよ?
毒だったらどうすんの?
この人王子だって自覚ある?
いやそもそも大人として、人としてどうなのそれ?
しかしどうも「プリンに化合物が入っていたら瞬時に見分けがつくし腐っていたらわかる」とかわけのわからない技能を持っているらしく今のところあたったことはないらしい。
っていうかそれってプリン限定の能力ってどうなわけ?
とりあえず、その時食べた味がどうやら好みの味だったらしく、しかもあたしが作ったものだと知ると、会うたびにねだられるようになった。
いつ来るかわからないため、来たら作ってやることを繰り返していたものの、出来上がるまでに時間がかかるうえに帰るまでに冷えていないものを食べさせることを何度か繰り返したあと。来そうな日は前日に作りおくようになってしまった。
そもそも何でこんなことになっちゃんてんだろ?
おかしいな。
あの時家に帰ったら、二度と会うつもりはなかったのに。
「何難しい顔してる?」
その声に視線を向ければ、王子はどうやら三つ目のプリンに手を付けていた。
「……体壊しますよ?一度にそんなに食べたら」
「ここに来る時くらいしか食べないんだから問題ない。
…まあ、お前が毎日俺のそばでいつでも作ってくれんなら個数制限してもいいけど」
「…冗談じゃないです。あたしはあなたのプリン職人じゃないです」
「そういいつつお前は作るんだよな」
そういいつつ笑いながら、再び救ったプリンを口に突っ込まれる。
仕方なく口に含んでプルプル甘すぎるそれを嚥下する
あんまりあたしはプリン好きじゃないんだけど、どうも小鳥に餌をやるかのごときこれが最近の彼のお気に入りらしい。
基本プリンは他人には渡さない主義の彼なのだが、なぜあたしにこんなことをしてくるのやら。
いわく「分けたらおいしいじゃないか」らしい。
まあ、確かに、他人と分け合うのは料理をおいしくするとは言うけど、これはどうなんだろう。
しかも同じスプーンを共用するのも衛生上どうかと思うし。
「…今更じゃないか。どうせそれ以上のことやってんだし」
いつの間に近寄られたのか、背後から抱き寄せられた。
耳元で囁かれ、一瞬体温が上がる。
「…王子。いきなりはやめてくださいって言ってるでしょ?」
抗議の声をあげれば、なぜか憮然とされた。
「…二人きりの時は名前で呼べって言ってるだろ?」
「ちょっ、王子!やめ…」
カプリと耳を食まれる。
ふちを甘噛みされればむずむずとした感覚が這い上がる。
「………名前」
つくづくこの人って思うんだけど口に何か含んでいてもきれいに発音するよな。
無駄なことを考えつつ、名前を言うまでやめる気のない王子にあたしは白旗を上げた。
「…と…透…さま」
「…よろしい。目標は呼び捨てだけどな」
冗談ではない。
さすがに一国の王子を呼び捨てにできるか!
「よしよし。素直なお前にはご褒美あげなくちゃな?」
「え?…ちょ、何、押し倒して…、ぎゃあ!しかもご褒美って。結局やめないんじゃないですか」
いつの間にか運ばれたソファの上でのしかかられながら、暴れるが相手はびくともしない。
「お前もう少し色気なる悲鳴あげられないのか?…それに、俺は一度もやめるなんて言ってない」
「堂々と言うことですか!ちょ、そもそもここリビング!」
じたばたしているが、全く力は緩む気配はない。
はーなーせー!
「…大丈夫。今日、家のやつらは帰らないしらしい」
「何であなたがそんなこと知ってんですか!」
「…なあ、お前はいつになったら俺の求婚を受けてくれるんだ?」
「っ!……」
どこか苦しそうな声音に体がぎくりと凍りつく。
数か月前に告げられた告白がよみがえり、胸が苦しくなった。
あの時より、確かにこの人を好きになっているのは自分でもわかる。
しかし、未だあたしに覚悟ができていない。
だが、この人の妻というあまりに大きな役目にあたしは未だ自分がそこにあれるのか自信がないままだった。
「なあ、このまま子供でもできればお前は俺のものになってくれるのか?」
「…そんなことしたら、子供つれてあなたの前から姿消します」
腹を布越しに触れられくずぐったさに我慢しながらにらむと、なぜか一瞬変な顔をされた後で吹き出された。
なぜ笑われたのかわからないあたしは呆然とし次いで憮然する。
「何がおかしいんですか」
「いや、普通はこんなこと言うと死んでやるとかいうかな、と思ってさ」
「死にませんよ。生きたくても生きられなかった人をたくさん知ってますから」
先王時代を知っているからこそ、意地でも生きなければと思う。
あの時たまたまあたしは運よくこの人に出会って命をつなげたけどそうでなかった人間も数多く見てきたのだ。
「…そうか」
この話についてはそれ以上王子の口から何か漏れることはなかった。
ただあたしを抱きしめたまま肩口に顔を埋めた彼の顔は見えない。
何か落ち込んでいるのか、過去を思い出しているのか。悔いているのか。
図体の大きな子供に抱き着かれているような気分になって、あたしはそっとその背に手を回しよしよしと撫でてやる。
この人は大きなものを抱えてここにいる。
しかも誰も変わってやることのできない役目だ。
それはここ半年彼と再会して、その仕事を注意してみればなんと責任の大きく苦しいものか。
あたしだったらとてもではないが耐えられそうにない。
改めてこの人のすごさを思い知らされる気分だった。
同時にこの人のためにできることをしてやりたいという気持ちも自分の中に感じていた。
本当は撫でるより抱きしめるより、もっと彼が喜ぶことを知っている。
けれどそれは簡単に言っていい問題じゃない。
これはあたしたちだけの問題ではないのだ。
たまに彼が王子でなければと思うこともある。
ただの平民で何のしがらみのない人ならすぐに一緒に慣れたのだろうかと。
でもそれはきっと彼じゃない。
苦しみながらももがきながらも前に進もうとするこの人をあたしは…。
「…て、ぎゃあ!か、勝手にことを進めないでくださいよ!リビングだってば!」
いつの間にか脱がされかけた服を必死で死守し、腕で王子を押し返す。
「っち」
「舌打ちしない!」
な、なんか。城下にかかわるようになったからか、この人少し上品さが欠け始めているような気がする。
王子付き侍女頭の妙さんあたりならヘタれるくらいならそのほうがましとか言いそうだけど。
その時、暴れていたせいかソファから何かがどさりと落ちる音がした。
「ん?なんだ…これっ!」
落ちたものに驚いていう王子の様子にいったいなんなんだと視線だけやってその正体にあたしは青ざめた。
「そ、それは…!」
慌てて落ちたものを隠そうとするが、ばっちり見られているのでもはや隠しようもなく、代わりにそれを見て呆然としている王子の体を押しのけあたしは自室に逃げ出した。
「え?あ、ちょっと待て!」
待つか!
脱兎のごとく階段を上がり、部屋に飛び込む。
しかし、鍵を閉める直前に捕まって、部屋に踏み込まれた。
踏み込まれた瞬間、一冊の本を突き付けられた。
「これはなんだ?」
「ほ、本かな?」
しどろもどろになれば不敵に笑われた。
ううう、なんか厚顔不遜の俺様モードになったか?これは。
「へえ、何の本だ?」
「な、何の本かな?わからないし」
「わからないのか?自分のものなのに?じゃあ、当ててやろうか。これは文官登用試験用の参考書だな?」
当ててやろうとか言いながら、はっきりと言い切った王子の言葉にあたしは青くなる。
くうう、秘密にしておいたのに、なんてこと!
まさか今日来るなんて思わなかったから油断した!
思わず悔しさに唸っていると、どこか落ちた声が聞こえた。
「…お前、昔みたいに文官目指してるのか?」
ここまでバレてしまえば今更秘密にしても意味はないだろう。
あたしはしぶしぶ頷いた。
「何で俺に言わない?」
「うう、だって。受かるかわからないし。受かってから言って驚かせたかったんだもん」
「…っ、だもんってお前、それ…反則だろ」
なぜか顔を赤くしている王子に秘密がばれてあたしはそれどころでない。
「だって王妃とか言われてもやれるかわかんないし、自信ないし…。
…でも、もし文官の試験に受かるだけの能力があるんだったら、少しは自信持ってるかなって…。」
「…それは王妃がだめで文官になりたいってことか?」
「違う!ただ、今のままじゃ、無学なままじゃあなたの隣にいてもお荷物になるだけだと思うから」
…周りは気にしないって言ってくれるけど、でも全員が納得しているわけじゃない。
なにより一番自信がないのはあたしだ。
あたしは勉強を怠けてきた。かつてより落ちた学力はなかなか戻らない。
国家の情勢や計算、歴史に至るまで幅の広い勉強は大変だが、有意義でもあった。
知ることは楽しい。だが試験となると苦しい。
期間は限られているし、覚えることが多すぎて目が回りそうだった。
けれどその苦しさを越えなければ、あたしは自信を持てない。
だから頑張りたかった。
「覚悟を決めるために自信がほしい。貴方のそばにいるための覚悟。…お飾りじゃなくちゃんと対等にあなたと同じものを見るための覚悟を」
「…つまりは俺のため?」
あたしは首を振った。
「これはあたしのため。だってあなたと並びたいのはあたしの夢だから。妥協したくな…っん」
最後まで言わせてもらえず、唇を奪われた。
そのまま角度を変えられ深く長く口づけられた。
何度もされて大分息継ぎの仕方を覚えたものの、さすがに長すぎて頭が呆としてきたときになって、ようやく唇が離される。
それから強く抱き込まれた。
「…お前ってホント俺を煽るのが得意だよな?」
そんなつもりはないと言いたかったが、もはやそんな気力もなく王子の体に寄り掛かる。
そうしているとゆっくりと王子の指があたしの髪を梳いてくれる。
その気持ちよさに身をゆだねてゆっくりと呼吸を整えていると不意に聞かれた。
「…で誰に教わってるんだ?」
どこか固い口調に少し疑問を覚えたが、まだ働かない頭はそれを無視して、ぼんやり答えた。
「…ん?…だれって…」
「勉強だよ。…カバン持って帰ってきたんだったら誰かに教わってるんだろ?
塾…なんとお前いかないだろ?」
塾とは文官試験に受かるために受験生が通う勉強施設だ。
だがそこすらなかなか入るのに倍率があるほど人気で、また多額のお金もかかるためあたしは使っていなかった。
「うん、行ってないね。…えっと主にお城の人とかに…」
ここ半年で王子とそういう仲になってから、ほとんど顔パスで王城に入れるようになったため、主に図書室で勉強していたのだ。
先王時代と違って図書室は一般に開放されてる。
あそこで勉強していると、いろいろな人が教えてくれるし、お金もかからないし一石二鳥だった。
「具体的に誰だ?」
「んー。真田さん…」
真田さんは女性初の文官登用試験に受かった才女だ。
もともと名門の貴族の出で、美人でスタイルもよく切符の良い姉御肌で、よく勉強しているあたしに声をかけてくれる。
「…あいつか」
真田さんの名前に珍しく王子の声に嫌悪の色混じる。
どうにもこの二人は仲が悪いらしく、嫌味の応酬をしているのをよく見る。
真田さんも王子相手に一歩も引かず、二人が一緒にいると背後に虎と竜とか犬と猿とかが見える気がすると誰かが噂してたな。
これであと一人を交えて幼馴染というから不思議だ。
「…まああいつだけなら」
「あとは…宮廷魔術師の人とか、魔王様とか…双子伯爵とか…」
「……なんだと?」
「双子は邪魔するだけだけど、宮廷魔術師の人は軽いけど結構わかりやすいし、魔王陛下もお姉さまがいたら機嫌よく教えてくれるし…って。王子。苦しい…」
突然強められた抱擁に顔をしかめていると、なぜか怒ったような声が降ってくる。
「…お前今後、図書室出入り禁止」
「え?何で?」
「何ででもだ。…勉強なら俺が教えてやる」
「無理でしょ?どう考えても?ただでさえ忙しいのに。無理しなくていいですよ」
「…お前、他の男には教われて俺には教われないと?」
「他の男って、あの人たちもそう頻度高いわけじゃないし?たまたま出会った時だけですよ。
たいてい真田さんだし。それに図書室以外だと勉強集中できないから出入り禁止はやめてください」
「だけど、あそこで勉強するって、あいつらが…」
「王子、何を考えてるのか知らないけど、あたしと結婚したいなら邪魔しないで」
その一言で王子が顔を赤くして黙った。
一撃必殺の一言だ。
…言っててこっちも恥ずかしいのが難点だけど。
「…だが、それじゃ行く頻度を減らして俺の部屋にこい。
できるだけ時間作ってみてやるから…」
「図書室がいいんです。そこは譲りません」
「俺とは勉強できないと…?そんなに頼りにならないのか?俺は」
「…こと勉強に関しては全くあてにできません」
きっぱり言ってしまえば、ショックを受けたように落ち込む姿になんだか笑みがこみ上げる。
本当にたまにこの人は子供みたいになる。
普段はこっちの話なんて聞かない俺様なのに。
あたしは変な勘違いをしている目の前の恋人の耳に恥ずかしかったけれどそっと理由を吹き込む。
案の定聞いた王子は真っ赤になってこちらを抱きしめた。
「…お前、本当にそれ反則」
参ったとばかりにささやかれる声と同時に振ってくる唇にドキドキしながら、あたしはほらね、と思った。
王子と一緒だとあたしが勉強集中できないんですよ。
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読了感謝!
いろいろ暴走気味なふたりはパラレルパラレル!
このお話はフィクションであり、本編にはなんの関係もございません!
「なんでまたあなたがここにいるんですか?」
あの舞踏会での顛末から半年程度の月日が流れていた。
あれから無事に家に帰りつき、以前どおりの忙しいけれどそこそこ満ち足りた生活を送っていた。
だが、変わった点もある。
それは目の前の光景だ。
出先から帰って一番最初に目にしたのは勝手に人の家の冷蔵庫を漁る見知った男の姿。
「ああ!しかも人ん家の冷蔵庫勝手に開けて中のもの食べないでくださいよ!」
「今さらだろう?」
お忍び用の平民のような質素ななりが全く似合っていない王子はプリンのカップを片手にスプーンを器用に口にしたまましゃべる。
その姿ははまるで一国の王子に見えない。
あの日以来お忍びで我が家を訪れるようになったこの男の姿はだんだん見慣れつつある自分がなんだか恐ろしく感じている、今日この頃だ。
持っていたカバンをリビングのソファにおいて、周囲を見渡すが王子以外の家族の姿が見えない。
「何でいるんですか!確か利音お姉さまがいたはずですけど!」
利音お姉さまはなぜか彼を毛嫌いしている。
なぜか初対面で敵認識したらしく「妹は渡さない」と意味不明な宣戦布告をして彼が家に来ようとするとそれを阻止してくれるのだ。
今日は彼女が家にいるため来ないと思っていたのだが。
「…あ、ああ。あれなら魔王がどっか連れてったぜ」
その何度聞いたかしれない言葉にあたしは頭が痛くなった。
利音お姉さまがいるときによく使われる手だが、利音お姉さまが家にいる時に限って、この王子は魔王を伴ってわざわざ我が家に来るのだ。
王子は敵認識だが、魔王は恋人な利音お姉さまだけに魔王は邪険にできないらしく彼の手に伴われ外出してしまうのだ。
そうなれば、留守番と称してこの王子は家に入りこむ。
そこにあたしが返ればそのままなし崩しで一緒にいる羽目になるのだ。
まあ、彼の忙しいらしいのでそう頻繁ではないのだが、それでも普段は女子しかいない家に勝手に男が入るのはいかがなものかと思うのだが。
「嘘をつかないでください!どうせ、また緑水様に頼んで連れ出してもらったんでしょ!」
「いいじゃないか。別にお互い合意の上だし。疾しいことなど何もない」
そういいつつ、勝手に取り出しているプリン二つ目を口に入れて、にやりと笑われた。
「それにプリンが用意されているってことはお前も俺が来るのを待ってたんじゃないのか?」
言われて答えに詰まる。
「べ、別に王子が来るとわかっていたから作っていたわけじゃ…」
「へえ、俺以外これ食べる人間いるのかよ?」
そういいながら、突然口にプリンを救ったスプーンを突っ込まれる。
甘いバニラの風味が口の中に広がり一種おいしいが、すぐに甘すぎる味が口の中に広がる。
「…甘い」
「…そうか?俺はこのくらいのが好みだけどな。お前の作るのが一番うまい」
満面の笑みで口に含んでいるその姿を見れば、まあ作った身としてはまんざらでもない。
あの時高圧洗浄機の圧力でベランダから吹っ飛んだあたしは三回から投げ出されたあたしはしかし地面に激突する前に魔法で救われた。
あの磁場を発生させた呪文使いの魔法使いの仕業らしいが、一度も姿を見せなかった。
だが、その場で気を失った。あたしを王子がそのまま自室に運んだらしい。
その時にあたしのポケットに入っていた、プリンを見つけ食べたらしい。
…正直この話は引くけどね。
何で勝手に人ポケットに入ってたもの食べるのかな?
しかも生ものだよ?
毒だったらどうすんの?
この人王子だって自覚ある?
いやそもそも大人として、人としてどうなのそれ?
しかしどうも「プリンに化合物が入っていたら瞬時に見分けがつくし腐っていたらわかる」とかわけのわからない技能を持っているらしく今のところあたったことはないらしい。
っていうかそれってプリン限定の能力ってどうなわけ?
とりあえず、その時食べた味がどうやら好みの味だったらしく、しかもあたしが作ったものだと知ると、会うたびにねだられるようになった。
いつ来るかわからないため、来たら作ってやることを繰り返していたものの、出来上がるまでに時間がかかるうえに帰るまでに冷えていないものを食べさせることを何度か繰り返したあと。来そうな日は前日に作りおくようになってしまった。
そもそも何でこんなことになっちゃんてんだろ?
おかしいな。
あの時家に帰ったら、二度と会うつもりはなかったのに。
「何難しい顔してる?」
その声に視線を向ければ、王子はどうやら三つ目のプリンに手を付けていた。
「……体壊しますよ?一度にそんなに食べたら」
「ここに来る時くらいしか食べないんだから問題ない。
…まあ、お前が毎日俺のそばでいつでも作ってくれんなら個数制限してもいいけど」
「…冗談じゃないです。あたしはあなたのプリン職人じゃないです」
「そういいつつお前は作るんだよな」
そういいつつ笑いながら、再び救ったプリンを口に突っ込まれる。
仕方なく口に含んでプルプル甘すぎるそれを嚥下する
あんまりあたしはプリン好きじゃないんだけど、どうも小鳥に餌をやるかのごときこれが最近の彼のお気に入りらしい。
基本プリンは他人には渡さない主義の彼なのだが、なぜあたしにこんなことをしてくるのやら。
いわく「分けたらおいしいじゃないか」らしい。
まあ、確かに、他人と分け合うのは料理をおいしくするとは言うけど、これはどうなんだろう。
しかも同じスプーンを共用するのも衛生上どうかと思うし。
「…今更じゃないか。どうせそれ以上のことやってんだし」
いつの間に近寄られたのか、背後から抱き寄せられた。
耳元で囁かれ、一瞬体温が上がる。
「…王子。いきなりはやめてくださいって言ってるでしょ?」
抗議の声をあげれば、なぜか憮然とされた。
「…二人きりの時は名前で呼べって言ってるだろ?」
「ちょっ、王子!やめ…」
カプリと耳を食まれる。
ふちを甘噛みされればむずむずとした感覚が這い上がる。
「………名前」
つくづくこの人って思うんだけど口に何か含んでいてもきれいに発音するよな。
無駄なことを考えつつ、名前を言うまでやめる気のない王子にあたしは白旗を上げた。
「…と…透…さま」
「…よろしい。目標は呼び捨てだけどな」
冗談ではない。
さすがに一国の王子を呼び捨てにできるか!
「よしよし。素直なお前にはご褒美あげなくちゃな?」
「え?…ちょ、何、押し倒して…、ぎゃあ!しかもご褒美って。結局やめないんじゃないですか」
いつの間にか運ばれたソファの上でのしかかられながら、暴れるが相手はびくともしない。
「お前もう少し色気なる悲鳴あげられないのか?…それに、俺は一度もやめるなんて言ってない」
「堂々と言うことですか!ちょ、そもそもここリビング!」
じたばたしているが、全く力は緩む気配はない。
はーなーせー!
「…大丈夫。今日、家のやつらは帰らないしらしい」
「何であなたがそんなこと知ってんですか!」
「…なあ、お前はいつになったら俺の求婚を受けてくれるんだ?」
「っ!……」
どこか苦しそうな声音に体がぎくりと凍りつく。
数か月前に告げられた告白がよみがえり、胸が苦しくなった。
あの時より、確かにこの人を好きになっているのは自分でもわかる。
しかし、未だあたしに覚悟ができていない。
だが、この人の妻というあまりに大きな役目にあたしは未だ自分がそこにあれるのか自信がないままだった。
「なあ、このまま子供でもできればお前は俺のものになってくれるのか?」
「…そんなことしたら、子供つれてあなたの前から姿消します」
腹を布越しに触れられくずぐったさに我慢しながらにらむと、なぜか一瞬変な顔をされた後で吹き出された。
なぜ笑われたのかわからないあたしは呆然とし次いで憮然する。
「何がおかしいんですか」
「いや、普通はこんなこと言うと死んでやるとかいうかな、と思ってさ」
「死にませんよ。生きたくても生きられなかった人をたくさん知ってますから」
先王時代を知っているからこそ、意地でも生きなければと思う。
あの時たまたまあたしは運よくこの人に出会って命をつなげたけどそうでなかった人間も数多く見てきたのだ。
「…そうか」
この話についてはそれ以上王子の口から何か漏れることはなかった。
ただあたしを抱きしめたまま肩口に顔を埋めた彼の顔は見えない。
何か落ち込んでいるのか、過去を思い出しているのか。悔いているのか。
図体の大きな子供に抱き着かれているような気分になって、あたしはそっとその背に手を回しよしよしと撫でてやる。
この人は大きなものを抱えてここにいる。
しかも誰も変わってやることのできない役目だ。
それはここ半年彼と再会して、その仕事を注意してみればなんと責任の大きく苦しいものか。
あたしだったらとてもではないが耐えられそうにない。
改めてこの人のすごさを思い知らされる気分だった。
同時にこの人のためにできることをしてやりたいという気持ちも自分の中に感じていた。
本当は撫でるより抱きしめるより、もっと彼が喜ぶことを知っている。
けれどそれは簡単に言っていい問題じゃない。
これはあたしたちだけの問題ではないのだ。
たまに彼が王子でなければと思うこともある。
ただの平民で何のしがらみのない人ならすぐに一緒に慣れたのだろうかと。
でもそれはきっと彼じゃない。
苦しみながらももがきながらも前に進もうとするこの人をあたしは…。
「…て、ぎゃあ!か、勝手にことを進めないでくださいよ!リビングだってば!」
いつの間にか脱がされかけた服を必死で死守し、腕で王子を押し返す。
「っち」
「舌打ちしない!」
な、なんか。城下にかかわるようになったからか、この人少し上品さが欠け始めているような気がする。
王子付き侍女頭の妙さんあたりならヘタれるくらいならそのほうがましとか言いそうだけど。
その時、暴れていたせいかソファから何かがどさりと落ちる音がした。
「ん?なんだ…これっ!」
落ちたものに驚いていう王子の様子にいったいなんなんだと視線だけやってその正体にあたしは青ざめた。
「そ、それは…!」
慌てて落ちたものを隠そうとするが、ばっちり見られているのでもはや隠しようもなく、代わりにそれを見て呆然としている王子の体を押しのけあたしは自室に逃げ出した。
「え?あ、ちょっと待て!」
待つか!
脱兎のごとく階段を上がり、部屋に飛び込む。
しかし、鍵を閉める直前に捕まって、部屋に踏み込まれた。
踏み込まれた瞬間、一冊の本を突き付けられた。
「これはなんだ?」
「ほ、本かな?」
しどろもどろになれば不敵に笑われた。
ううう、なんか厚顔不遜の俺様モードになったか?これは。
「へえ、何の本だ?」
「な、何の本かな?わからないし」
「わからないのか?自分のものなのに?じゃあ、当ててやろうか。これは文官登用試験用の参考書だな?」
当ててやろうとか言いながら、はっきりと言い切った王子の言葉にあたしは青くなる。
くうう、秘密にしておいたのに、なんてこと!
まさか今日来るなんて思わなかったから油断した!
思わず悔しさに唸っていると、どこか落ちた声が聞こえた。
「…お前、昔みたいに文官目指してるのか?」
ここまでバレてしまえば今更秘密にしても意味はないだろう。
あたしはしぶしぶ頷いた。
「何で俺に言わない?」
「うう、だって。受かるかわからないし。受かってから言って驚かせたかったんだもん」
「…っ、だもんってお前、それ…反則だろ」
なぜか顔を赤くしている王子に秘密がばれてあたしはそれどころでない。
「だって王妃とか言われてもやれるかわかんないし、自信ないし…。
…でも、もし文官の試験に受かるだけの能力があるんだったら、少しは自信持ってるかなって…。」
「…それは王妃がだめで文官になりたいってことか?」
「違う!ただ、今のままじゃ、無学なままじゃあなたの隣にいてもお荷物になるだけだと思うから」
…周りは気にしないって言ってくれるけど、でも全員が納得しているわけじゃない。
なにより一番自信がないのはあたしだ。
あたしは勉強を怠けてきた。かつてより落ちた学力はなかなか戻らない。
国家の情勢や計算、歴史に至るまで幅の広い勉強は大変だが、有意義でもあった。
知ることは楽しい。だが試験となると苦しい。
期間は限られているし、覚えることが多すぎて目が回りそうだった。
けれどその苦しさを越えなければ、あたしは自信を持てない。
だから頑張りたかった。
「覚悟を決めるために自信がほしい。貴方のそばにいるための覚悟。…お飾りじゃなくちゃんと対等にあなたと同じものを見るための覚悟を」
「…つまりは俺のため?」
あたしは首を振った。
「これはあたしのため。だってあなたと並びたいのはあたしの夢だから。妥協したくな…っん」
最後まで言わせてもらえず、唇を奪われた。
そのまま角度を変えられ深く長く口づけられた。
何度もされて大分息継ぎの仕方を覚えたものの、さすがに長すぎて頭が呆としてきたときになって、ようやく唇が離される。
それから強く抱き込まれた。
「…お前ってホント俺を煽るのが得意だよな?」
そんなつもりはないと言いたかったが、もはやそんな気力もなく王子の体に寄り掛かる。
そうしているとゆっくりと王子の指があたしの髪を梳いてくれる。
その気持ちよさに身をゆだねてゆっくりと呼吸を整えていると不意に聞かれた。
「…で誰に教わってるんだ?」
どこか固い口調に少し疑問を覚えたが、まだ働かない頭はそれを無視して、ぼんやり答えた。
「…ん?…だれって…」
「勉強だよ。…カバン持って帰ってきたんだったら誰かに教わってるんだろ?
塾…なんとお前いかないだろ?」
塾とは文官試験に受かるために受験生が通う勉強施設だ。
だがそこすらなかなか入るのに倍率があるほど人気で、また多額のお金もかかるためあたしは使っていなかった。
「うん、行ってないね。…えっと主にお城の人とかに…」
ここ半年で王子とそういう仲になってから、ほとんど顔パスで王城に入れるようになったため、主に図書室で勉強していたのだ。
先王時代と違って図書室は一般に開放されてる。
あそこで勉強していると、いろいろな人が教えてくれるし、お金もかからないし一石二鳥だった。
「具体的に誰だ?」
「んー。真田さん…」
真田さんは女性初の文官登用試験に受かった才女だ。
もともと名門の貴族の出で、美人でスタイルもよく切符の良い姉御肌で、よく勉強しているあたしに声をかけてくれる。
「…あいつか」
真田さんの名前に珍しく王子の声に嫌悪の色混じる。
どうにもこの二人は仲が悪いらしく、嫌味の応酬をしているのをよく見る。
真田さんも王子相手に一歩も引かず、二人が一緒にいると背後に虎と竜とか犬と猿とかが見える気がすると誰かが噂してたな。
これであと一人を交えて幼馴染というから不思議だ。
「…まああいつだけなら」
「あとは…宮廷魔術師の人とか、魔王様とか…双子伯爵とか…」
「……なんだと?」
「双子は邪魔するだけだけど、宮廷魔術師の人は軽いけど結構わかりやすいし、魔王陛下もお姉さまがいたら機嫌よく教えてくれるし…って。王子。苦しい…」
突然強められた抱擁に顔をしかめていると、なぜか怒ったような声が降ってくる。
「…お前今後、図書室出入り禁止」
「え?何で?」
「何ででもだ。…勉強なら俺が教えてやる」
「無理でしょ?どう考えても?ただでさえ忙しいのに。無理しなくていいですよ」
「…お前、他の男には教われて俺には教われないと?」
「他の男って、あの人たちもそう頻度高いわけじゃないし?たまたま出会った時だけですよ。
たいてい真田さんだし。それに図書室以外だと勉強集中できないから出入り禁止はやめてください」
「だけど、あそこで勉強するって、あいつらが…」
「王子、何を考えてるのか知らないけど、あたしと結婚したいなら邪魔しないで」
その一言で王子が顔を赤くして黙った。
一撃必殺の一言だ。
…言っててこっちも恥ずかしいのが難点だけど。
「…だが、それじゃ行く頻度を減らして俺の部屋にこい。
できるだけ時間作ってみてやるから…」
「図書室がいいんです。そこは譲りません」
「俺とは勉強できないと…?そんなに頼りにならないのか?俺は」
「…こと勉強に関しては全くあてにできません」
きっぱり言ってしまえば、ショックを受けたように落ち込む姿になんだか笑みがこみ上げる。
本当にたまにこの人は子供みたいになる。
普段はこっちの話なんて聞かない俺様なのに。
あたしは変な勘違いをしている目の前の恋人の耳に恥ずかしかったけれどそっと理由を吹き込む。
案の定聞いた王子は真っ赤になってこちらを抱きしめた。
「…お前、本当にそれ反則」
参ったとばかりにささやかれる声と同時に振ってくる唇にドキドキしながら、あたしはほらね、と思った。
王子と一緒だとあたしが勉強集中できないんですよ。
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読了感謝!
いろいろ暴走気味なふたりはパラレルパラレル!
このお話はフィクションであり、本編にはなんの関係もございません!
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