ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてますSS集

夢月 なぞる

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企画SS

七夕SS〈紅原〉

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季節七夕ネタ。

紅原×環。
特に中身はないです。イチャコラしてるだけ。

※安定の本編終了後のIF話。
※設定はゲーム終了後、一年進級して三年生
※三年は卒業したので紅原が月下騎士会会長になってると思う。多分。

以下気を付けて。

※ 全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。ネタです。
※ 書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。

・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。
・本編のネタバレ要素は多少有り。本編読後推奨

以上、行ける方はどうぞ。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




「うっわああぁ……」

 扉を開けた先に見えた空は無数の星がきらめいている。
 ほぼ遮る物のない星空は圧巻だった。
 さすがは山奥、とぽかんと口を開けてその光景を見上げる。

 そこは天空寮の屋上だった。
 そこは誰にも知られていない天空寮の隠し部屋の奥にある階段から行ける場所だった。
 なぜそんな場所を知っているのかといえば、もちろんゲーム知識だ。
 ゲームであれば、たまたま隠し部屋の存在に気づいた聖さんがたどり着き、とある人物と遭遇するというイベントが発生する。
 ゲーム期間中であれば絶対に近づきたくない場所だが、すでにゲームが終了した現在、あたしは初めてここに足を踏み入れた。

 もともと人が上るようには作られていない場所だけに、見渡しても手すりなどの安全柵は無い。
 しかし、それがなおのこと満点の星空を際立たせているように見えた。
 片手に道具を入れた、ビニールを持ち、懐中電灯で足元を照らす。
 もともと人が来ると想定されていないその場所ながら、座れる場所はきちんとあった。
 聖さんと遭遇する人物が良く座っている場所だ。
 屋上の縁に近い場所ながら、そこそこ広い平たい場所で、そこにビニールシートを広げ、腰を落ち着けた。

 持ってきたビニール袋を起き、その横に懐中電灯をつけたまま置く。
 懐中電灯は非常災害用のもので、そのまま非常灯の役割もするごついやつだ。
 天空寮の先人たちが置き土産として置いていったガラクタから発掘した。
 果たしてなぜそんな物をそもそもこのセキュリティも災害対策も万全な天空寮の住人が持っていたのかなぞなのだが、今あたしの役に立っているのだから、気にしない。

 とりあえず星明かりがあるとはいえ、あまり安全でない場所で動き回るのも怖いので座ったまま、準備を始める。
 持ってきたビニールから桶を取り出す。そこにペットボトルに入った水を入れた。
 水の入った桶を膝におき、顎をそらし、空を見上げた。
 見事なまでの星空。山奥の裏戸学園だから見れる光景だろうが、本当に綺麗だ。

 星屑がいくつも集まった空にひときわ輝く星をいくつか見つけ、それを頭のなかで線でつなげる。

「えっと、こと座のベガ、わし座のアルタイルは、と……」

 俗に織姫と彦星と呼ばれる星を見つけ、そっと水面にその光が映るように桶を傾けた。
 満天の星星の光を受け、キラキラと煌く水面。
 それを見て、果たしてきちんと目当ての星が入ったかどうかが不安になる。
 しかし、それは厳密に考えなくてもいいだろうと、思い直し、星の映る水面に指をつけた。
 水道からひねってきただけの水はすでにぬるくなっているが、外気より冷たく心地よい。
 それをおけの縁にそって大きく円を描くようにかき混ぜる。
 すると水面が揺れ、それに星明かりが反射し揺らめく。
 念をかけるように五回ほどかき混ぜ、水面が揺れるさまを見る。

 水面に反射し揺らめく星明かりは幻想的で美しい。
 しかし、夜中にいい年をした女が一人屋上に一人やる行為じゃないなとわかっている。

 何をしているのかと問われれば、まあ、おまじないのようなものだ。
 我が家の独特かもしれない七夕行事だ。

 七夕の夜に桶に張った水に星を映し、それをかき混ぜる。
 そうすることによって遠く離れた星である織姫と彦星が混ざり、二人が出会えるようにするといったことだと思う。

 七夕といえば、織姫と彦星の話が有名だ。
 互いに出会ったことでバカップルになり仕事をしなくなった織姫と彦星に天帝が怒って、彼らの間に川を隔てて引離した。
 それに嘆き、改心した彼らに天帝が一年に一度出会うことを許すという。

 しかし実際には織姫と彦星であるベガとアルタイルは光の速さで進んでも十五年かかるほど遠方にある。
 そこで、地上の水を使って二人を出会わせるというのがこの行為の意味だ。
 あわよくば短冊にかいたお願いをより叶えてもらいやすくするために、二人におせっかいを焼いてやるという意味もあるという。

 この行事は多岐家の恒例行事なのだ。
 天文好きでロマンチストな我が父が、昔実際に行われていたらしいこの行為をどこからとも無く持ち出し毎年の恒例としたらしい。
 父の死後も母は出来るだけこの行事を行っていた。
 残念ながら七夕のこの時期は曇りも多く、なかなか星を映してかき混ぜるということはできなかったけど。
 そんな行事を久しぶりにやってみようと思ったのにはもちろん訳があった。

 今日は珍しく七夕で夜に晴れたため、学校では今現在天文観測会が行われていた。
 出席は任意だが、大勢の生徒が参加するそこそこ大きな行事だ。
 主催は月下騎士会。
 その準備と大会の進行運営などには当然の様に天空寮の生徒も駆り出されている。
 現在天空寮にはあたし以外だれもいないのがその証拠。

 なぜ天空寮生であるあたしが一人、手伝いもせず寮に残っているのかといえば、紅原に騙されたからだ。
 開催にかかる準備などを手伝っていたのだが、三日ほど前から少しだるい日が続いていた。
 しかし別に動けないくなるほどではないし、今だってこうして屋上に上がってこれる程度には元気なのだ。
 それなのに妙に過保護なあたしの恋人だ。
 奴はあたしが言うことを聞かないとわかるや否や、部屋にあたしを押し込めた。
 ご丁寧に、眠気を誘う風邪薬を栄養剤と偽ってまで飲ませて。

 そんなことも知らず、時間になったら起こすと言った奴の言葉を信じて、ちょっとのつもりでベッドに入った。
 しかし、当然の様に声はかけられることはなく、喉の渇きを覚えて、目覚めた時にはすでに開催時間のほとんどが終わっている時間だった。
 いまさら行っても、後片付けの終わっている時間帯だし、下手をすると打ち上げにぶち当たる。
 何もしてないのに、打ち上げにだけ行くとか軽い拷問なので行くのを諦めたのだ。
 だが、それでも皆が働いているなか、再び眠る気にもなれずにいたとき、ふとこの行事を思い出したのだ。

 珍しく梅雨の晴れ間である今夜だ。
 今は海外にいる母の代わりに行事を行い、それを伝えれば母は喜ぶかもしれないと思ったのだ。
 いろいろ苦労させられた父だが、それでも母に取っては今でも最愛の人らしい。
 苦労しても、楽な生活をくれない相手でもそれでも一緒にいたい。いるだけで幸せになれるのだと。
 そんな父との思い出の行事を毎年行えないことに母は寂しそうにしていたのだ。

 あたしはそっと水の張った桶を抱きしめる。
 昔は、そんな風に思えるほどの相手がいなかったから、あたしは母の気持ちを理解できなかった。
 母に苦労しか背負わせなかった父が嫌いだった。
 でも今なら、少しだけ母の気持ちがわかる気がした。
 例え一緒にいることで苦労しても、痛い思いをしてもそれでも一緒にいたい。
 会えるだけで幸せな相手がいるのだと。
 いつだったか七夕の夜、あたしが母の横で眠っていたのだが、不意に声に目覚めると母が桶を抱えて「会いたい」と泣いているのを見たことがあった。

 一年に一度でも会いたい。
 そう震えて無く母の姿を思えば、今胸の中にわだかまる自分の願いなどあまりにもわがままなものだと思わざるを得ない。
 別に今日じゃなくても七夕は来年もあるのだ。
 二度と会えない父と母とは比べ物にならない。
 昨日だって、今朝だって、会ったのだ。
 明日だって、ヘタするとこの後だって会える。
 なのに---。

「一緒にいたかったのに……」
「……誰と?」

 突然、響いた予想外の声にハッとする。
 だが慌てて顔を向けたせいで、胸に抱いていた桶がバランスを崩して落ちる。
 幸い外向きにこぼれた水はあたしを濡らすことはなかったが、代わりに少しだけ床を濡らす。
 その後、一度床を跳ねた桶が外に向かって転がっていくのを目の当たりにして、あたしは咄嗟にそれに手を伸ばした。
 幸い、桶は落ちる前につかめた。わすかに外に乗り出した体を支えるべく、ビニールシートの上に手を付く。
 しかし。

 ずるっ!

「うわっ!」

 お約束のように、水にぬれたビニールが滑った。
 思わぬことにうっかりあたしは屋上から落ちかけた。
 ま、まさかのゲーム期間が終わってるのに死亡フラグ?
 腹の奥がひゅっと冷えるような浮遊感を感じた時だった。

「っ!」

 誰かの息を飲む音とともに落ち変えた体を襟首をとられ、咄嗟に引っ張られた。
 一瞬喉がしまるも、腰をぐっとさらわれ、引き戻された。
 気がついた時にはすっぽりと覚えのある体温に包まれていた。
 落ちかけた恐怖か抱きすくめられた羞恥かわからない動悸が激しい。

「え、えっと……紅原様?」

 とりあえず呼びかけは、対外仕様でしてみる。
 他の誰がいるかわからないからね。
 まあ、抱きすくめられている状態でいまさらな気はするのだが。
 すると、頭上から深い溜息が聞こえた。

「まったく、君って娘は……」

 紅原はぎゅううとあたしを抱きしめてくる。
 少し苦しかったが、顔が押し付けられている胸の音が通常よりはるかに早く鳴っているのを感じて、自分が原因だとわかったのでそのままでいた。とりあえず掴んだままの桶に残る水が紅原にかからないようにだけ気をつけた。

「少し目を離しただけでなんで、こんな危険なことになっとるんよ?」

 確かに。
 まさかゲーム終了後にこんな事になるとは思っていなかった。
 思えば、終了した後だって死亡確率が下がっているだけで、死なない保証はない。
 そう思えば、いまさらながら怖くなった。
 思わず震えれば、更に強く抱きしめられた。
 その腕の強さは多少苦しいが、その分安心した。

「ご、ごめんなさい」
「……なんで、こんなところにいたん? いや、そもそもなんでここを知っとるん?」
「それは……」

 紅原の疑問は尤もだが、ゲームの知識を元にするだけに説明しにくいな。
 隠し部屋のそのまた向こうにある場所だ。
 思えばここを自力で発見した聖さんてば、ものすごいな。

 紅原がここに現れたことは、なぜ今であるのかを除けば、そう不思議ではない。
 この屋上は紅原のイベントが発生する場所だからだ。

「たまたま入り口を見つけて……」
「へえ、たまたま見つけて、こんな色々準備して上がってきたん?」

 紅原はあたしの顎を持ち上げ、視線を合わせてきた。
 暗がりにわかりにくいが、いつもの笑顔だが、その瞳には疑心を浮かんでいる。
 怒っているのがわかったが、紅原の顔を見ているとふと、ふつふつと怒りが湧いてきて、彼を睨み上げる。

「……そうですよ。一人で薬のまされて取り残されて、暇だったんです」

 あたしの言葉に紅原が一瞬目を見張った。
 薬を飲ませた張本人だけに勢いが弱まる。

「あ、あれは。だって。ああでも、せえへんと君、休まなかったやろ?」
「過保護すぎるんですよ。大丈夫だといったのに聞かないんですから!」
「聞かないのは君がやろ? 今朝も熱っぽかったくせに」
「だから、それはあなたの体温が低いせいだって言ってるでしょ? あの程度、あたしにとっては微熱にもなりません!」
「せやかて、心配で……」
「心配だからって、あたしの意思無視して騙して、薬飲ませる必要はないでしょう?」
「そ、それはそうやけど。でも…‥」
「楽しみにしてたのに!」

 先代から月下騎士会長を受け継いで色々忙しい人だから、今日だって時間を長くとれないことはわかっていた。
 三年生になってからはお互いいろいろ忙しくて一緒に過ごせる日が減ってしまったのだ。
 会えるには会える。でも挨拶を交わす程度の交わりの日々。

 軽く見えて責任感の強い人だってわかってるから、なにも言わなかったけど本当は寂しかったのだ。

 そんな中で久しぶりの行事で一緒に仕事ができて楽しかった。
 だから、ではないが天体観測会のあと、少しでもいいから紅原を誘ってさっきの七夕行事をやりたかったのだ。
 そのために用意しておいた桶とペットボトルの水が屋上に転がる。

「せっかくの七夕だし、ちょっとでも今夜は一緒にいたかったのに」

 それなのに一人、部屋で目覚めたあたしの気持ちがわかるか?
 このために、天体観測会の準備を頑張ってきたのに、当日にまさかの不参加を強要されるなんて。

「わかってますよ。こんなの幼稚な感情なんだって。でも……んっ!」

 なおも幼稚に喚くあたしの口を紅原は自分のそれで塞いできた。
 思わず、逃げようとするが、顎をとられ体を抱き込まれた状態では逃げられない。
 久しぶりの、しかも深いくちづけに、思いがけずクラリとする。
 キスぐらいで騙されるかと思ったが、恋愛経験値などないにも等しいあたしが紅原に叶うはずもない。
 あっさり抵抗を散らされ、唇が離れた時にはぐったりしてしまった。

「……ゴメンな」

 わずかに口端からこぼれた液体を舐めとり、紅原がポツリと呟く。
 それに答えられないあたしを改めて抱き締め直し、紅原はポツリポツリと話しだす。

「ごめん。そんなに楽しみにしてたなんて思わんかったんよ」

 何度もごめん、と謝る彼に、考えてみれば自分もその事を伝えていなかった事を思い出した。

「……いえ、あたしも考えてみれば話してなかったし」

 当日のサプライズにしようと思っていたのだ。
 伝えていないことに責めるなどありえない。本当に自分の幼稚さに呆れる。
「本当に、勝手でごめんなさい」と謝れば紅原は首を振った。

「いや、ええんよ。それに気づかんかった俺も悪い。……それに、俺のほうがよっぽど勝手やから」

 紅原の言葉に首をかしげる。
 彼の行動は行き過ぎ感はあるが、勝手とは違うだろう。
 あたしの体調を慮ってくれたのだから、それを言えば、紅原は再度首をふった。

「せやない! 確かに体調のこともあるんやけど。俺は、君の浴衣姿、他の誰にも見せたくなかったんや」

 思わぬ理由に固まる。

「今日の天体観測会、希望者は浴衣でもええって言うてたやろ? でも君たち、全員浴衣着るって聞いて…‥」

 まあ、たしかに、着る約束を現在の天空寮にいる全員とはしていたが。
 そんな、ことで? と思ったが、真剣な様子の紅原に思わず黙った。

「今回、結構参加者多くて。何がおこるかわからんし、浴衣の君を連れて行くなんて嫌やったんよ」

 浴衣なんて動きにくい服装で見てないところで何かあったらと思うと、と深刻そうにつぶやく紅原になるほど、と思う。
 多分紅原は何かと危なっかしいあたしが普段着慣れない浴衣で何かあったら、危険だと思ったのだろう。
 しかし、これでも藤崎堂の手伝いで着慣れている。
 そのへんのお嬢さん型よりよほど着物でも動ける自信はあるぞ。

「でもバイトで浴衣ぐらいは……」
「仕事着とファッションとしての浴衣は別やろ? とにかく俺は自分のそばにいない君が着飾るんは嫌や」
「いや、でも別にあたしが着飾ったところで、別に誰が見るわけでも……」
「そんなことない!」

 紅原の剣幕に一瞬驚けば、彼はものすっごく真剣にあたしに力説する。

「君は君が思ってるより、ずっと魅力的やし、ずっと他の男に狙われとる!」

 あたしはその言葉に思わず頬を抑えた。
 熱くなっているのがわかる。すっごく恥ずかしい。

「そ。それは、恋人の欲目では」
「そういうところが心配なんよ。しかも……」

 そう言って紅原が一瞬抱きしめる腕をゆるめ、あたしの姿を見下ろす。
 その視線を追って、自分の姿を確認した時、あたしは思わず固まった。
 実はあたし、今浴衣を着ていた。
 せっかく着ていくはずの行事をお預けをくらって、せめて気分だけでも、と着込んだのだ。

 だがきっちり閉めた帯も、綺麗整えたえりも無残に着崩れ、襟ぐりが大きくあいている。
 しかも乱れた帯は落ちかけ、足もかなり際どいところまで見えてしまっている。
 今すぐ部屋に戻って布団をかぶって二度と外に出ないようにしたいくらい恥ずかしい。

 おそらく先ほど落ちかけた時に、引き戻された時だろう。
 硬直するあたしの頭上から紅原の低い声が聞こえた。

「こんな姿、他人に見られたら俺、そいつをどうするか……」
「こ、こんなの、後にも先にはあなた以外するわけ無いでしょう!」

 一年以上前、藤崎堂でも同じようなことをされたことを思い出せば、紅原は笑った。

「……せやな。なんか懐かしい」

 懐かしがってるところ悪いが、今はあたしはそれどころではない。
 こんな半裸に近い状態で外にいるという状況にあたしは耐えられず、服を抑えながら、身じろぎする。

「離してください。一度、部屋に戻ります」

 だが、紅原の腕はハズレなかった。それどころか簡潔に「嫌」とお断りされる。解せぬ。

「なんでですか!」
「そのまま今日は外に出てこおへんつもりやろ」

 相変わらず胸の内を読まれているようで、歯ぎしりした。

「今夜は一緒にいたいって言ってくれたやろ」
「そ、それはそうですけど、って……うひゃあ!」

 紅原の手があたしの首筋から背中を妙な動きでなでた。
 ゾワゾワするその手の動きに肌が泡だった。

「く、紅原様。こんなところで、何を……?」
「円」
「え?」
「円、や。二人の時はそう呼ぶって約束したよな?」

 そう言いながら紅原はあたしの首筋に顔をうずめた。
 一瞬血を吸われるかと痛みに備えれば、牙を立てられなかったが、ぺろりと首筋を舐められた。
 その感覚にぞわりと鳥肌が立った。

「紅原様。や、やめ……っ!」

 しかしあたしの言葉に全く止まる気配なく、首筋を強く吸われ混乱する。
 あたしは慌てて言い直す。

「まーどーかー! こんなところでやめて~!」
「大丈夫。ここ、絶対。人、来おへんから」

 そういう問題じゃない!いや、そういう問題もあるけど、それだけじゃない!
 だが珍しく聞く耳を持たない紅原の唇があたしの口を塞ぐ。

 吐息を奪われ、それでも必死に抵抗する。
 星空の下とかロマンチックに思えるかもしれないが、不安定な屋上だぞ。
 例え人が来ないにしても屋外とかないから!

 だが、これ以上脱がされるのを阻止しようと服にかけた手を外せず、言葉すら奪われ抱き込まれて半泣きになった時だった。

 パーン!

 突然の破裂音が聞こえたかと思うと、紅原の進行が一瞬止まる。
 その隙を見逃さず、あたしは手に持ったままだった桶を突き上げた。

「うっ!」

 すこーんと音がして紅原の顎を打つ。
 予想外の攻撃にようやく完全に緩んだのがわかって、慌ててその場から立ち上がり扉に逃げた。
 一瞬振り返った先に小さな打ち上げ花火の光を見て、先ほどの音源が誰が建てたものか理解する。

 あたしが寝ている枕元に聖さんからのメモがあった。
 そこには出席できなかったあたしのために花火をあげるから、それを見て元気になって、といった文言があった。
 おそらくあの音は聖さんがあげてくれている打ち上げ花火だ。
 聖さん、GJ!

 あたしはそれを最後に脱兎の如く逃げ出し、部屋に戻って鍵を閉めた。
 その直後、紅原のものだろうノックが聞こえたが、完全に無視して、就寝した。

 一週間後、あたしの足元に土下座しかける彼を止めるまであたしは紅原に出会わないよう行動したのは当然の行為だと思う。 
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