傾城屋わたつみ楼

野瀬 さと

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第二章 常磐

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俺が抱くのは、朽葉だけ


祐也さんに抱かれても、他の子と添い寝しても

紫蘭を抱いても

俺が抱きたいのは、たった一人


朽葉だけだった


「自由に…してあげる…湊…」
「朽葉…」

ぼろぼろと涙を零しながら、朽葉は俺に抱きついてきた。

「ごめんな…待たせて…」
「ううん…ううん…」

そっと俺の右腕を取ると、手首から肘に舌を這わせた。
その大きな傷の痕に唇を付けると、朽葉は俺を見上げた。

「ごめん…正広さんから、全部聞いてたんだ…」
「そっか…知ってたんだ…」

あいつに無理心中されそうになったことは、楼の子たちには伏せられていた。
動揺するから。

俺は暫く入院して、リハビリをしてからわたつみ楼に戻った。
まだ借金が残っていたから。

祐也さんが色々計らってくれて、すぐに残りの借金は払い終えることができた。

朽葉はその頃に、店に入ってきた。

だから何も知らないと思っていたけど…

「正広さん、口が軽いんだから…」
「違うよ…僕が無理やり聞いたの」

くすっと笑うと、朽葉は微笑んだ。

「好き…湊…」
「ああ…」

朽葉の温かい唇が重なると、体の奥底から湧き上がってくるこの温かいもの…


忘れていた、もの──


人を好きになるって…こんなに暖かい気持ちになるんだな。


朽葉……




好きだよ






「…みなとぉ…」
「ん……」

こじ開けるように入った朽葉の中は、熱い。
そこから溶けてしまいそうだった。

お互いの汗に塗れながら、俺達はお互いを高め合う。

「あっつい…」
「湊、汗…すごい…」
「おまえだって…」

布団と毛布が暑くなってきたから、それを剥いで畳に蹴り出した。
繋がったまま、もどかしく自分の肌着を脱ぎ捨てた。

「みなと…だっこ…」
「うん…」

朽葉の着乱れた襦袢の隙間から見える生白い身体が、俺をどこまでも誘う。

俺の、もの
この細い体も、白い皮膚も
俺のもの

その身体をぎゅっと、力いっぱい抱きしめた。

なあ朽葉
俺もおまえのものだから

ずっとずっと、おまえだけのものだから

「嬉しいね…湊…」
「え…?」
「嬉しい……」
「ああ…」

愛おしくて嬉しい
こんなにも愛おしいと思えることが嬉しい

言葉にしなくても、伝わってきた。

胸いっぱい、朽葉の嬉しいが広がってくる。
苦しいほどに。

「……なんてかわいいんだよ…おまえ…」
「湊…」

ああ…気持ちいい

今まで俺がしてたセックスは何だったんだ?

前戯もろくにしないで性急に繋がったのに

なんでこんな気持ちいいんだろ


頭の中、真っ白になる

ただ、こいつとふたり…どこまでも昇りつめたい


「名前…」
「え?」
「ぼくの…名前…」

ああ…わかってる
名前、呼ばれるの好きだよな

拓海たくみ…」
「…うん…もっと、呼んで…」
「拓海…、拓海…」

名前を呼ぶ度、俺を離さないとばかりに締め付ける身体

真っ白な皮膚に流れ落ちる汗
榛色の瞳から零れる涙


すべてが綺麗で

すべてが美しくて


ずっとこのまま
このままふたりで


「綺麗だよ…拓海…」
「湊…一緒に…」
「ああ…」


どこまでも、ふたり

一緒だからな


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