12 / 19
12
しおりを挟むその夜は、風呂に入らせてもらったり、いろいろと聞かれたりで、気がついたら深夜になってて。
念の為ってことで、拓にいの寝てるベッドの下の床に布団を敷いてもらった。
そこで今日、寝ることになる。
まだ俺のアヘン中毒疑惑は払拭できたわけじゃなかったから…
この部屋は、ドアを外側から施錠できるようになってて、窓はあるけども雨戸が閉まってて、内側から開かないようになってるってことだった。
外部と連絡取られると、困るからって…俺のスマホは石黒さんが持ってることになった。
「ごめんね、悠人くん」
「いえ……」
しょうがない、と思った。
ここに残った本当の理由は、言えなかった。
それは俺自身の保身なのか…それとも、これから先もここで生きていかなきゃいけない拓にいのためだったのかは、正直わからない。
俺のことなんて、どう思われたっていいって。
そうは思うんだけど。
拓にいとしてたことを知られたら、今すぐここから追い出されそうで。
そうしたら、拓にいの傍にいることができなくなってしまう。
「トイレは、行きたくなったらここ使って。それと、夜中に拓ちゃんになにかあったら、壁を叩いたり大声出してくれたら、すぐ来るから……」
部屋の片隅には、ダンボールで作ったスペースがあって。
そこに置かれてるバケツを見たら、なんとも言えない気分になった。
その夜、夢を見た。
夢の中で、俺は拓にいの家に居て。
縁側には親戚のガキどもがいて、座敷で大人たちが酒盛りをしてる。
その中に、あの人がいた。
青白い顔をしてたけど、みんなと一緒に笑って。
そして楽しそうに、酒を飲んでる。
話しかけたいのに、声が出なかった。
仕方ないから、あの人をずっと見てた。
親戚のガキどもが、あの人に気づいて周りに群がった。
あの人は苦笑いしながら縁側に出ると、一緒にガキどもと遊び始めた。
不思議なことに。
その中には、ガキの頃の拓にいも居た。
写真でしかみたことないけど、ほぼ今と変わらない顔してるからすぐわかった。
あの人は……、小さな体の拓にいを、愛おしそうに抱きしめて……。
そして、俺を見て悲しげに眉を下げた。
ごめん、悠人
拓也を助けてやって
俺ができることは、もうない
その瞳からは
綺麗な涙が一粒、零れ落ちた
待って……
俺に、何ができるっていうの…?
林先生や石黒さんが居ないと、なんにもできないのに…!
声を出したいけど、苦しくて出せない。
でも俺の言葉はあの人に届いたみたくて、首を少し横に振ると小さな拓にいを俺に預けてきた。
傍に……
おまえは、生きてる
抱きしめるだけで、いい
抱きしめる…?
突然、目が覚めた。
部屋の中は真っ暗で。
今が何時なのか、わからない。
起き上がって、拓にいの顔を覗き込んだ。
昨日から、一度も目を覚まさない拓にいの細い腕を掴んだ。
「拓にい…」
暗闇の中でよく見えないけど、拓にいは目を閉じてる。
まだ眠ってるみたいだった。
「…寂しかったの…?」
年が離れてるから……。
正直、俺は拓にいのこと、全然知らなかった。
こんな関係になっても、職場のことや友達のことなんて聞いたこともなかった。
何も。拓にいのこと、わかってなかったんだ。
「あの人だけが。拓にいの支えだったの…?」
あの人は
ずっと拓にいの傍に居たんだろうか
拓にいが、寂しくないように
泣かないように
ずっと、ずっと
傍に居たのかな
「拓にい……」
ゆっくりと体を起こすと、ベッドに入った。
あの人に言われた通り、ぎゅっと拓にいの体を抱きしめた。
「ずっと、傍にいるから」
眠ってるから、聞こえてないけど…
「……好きだよ、拓にい……」
ずっと
ずっと言いたかったことを、やっと
この夜俺は、言うことができた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる