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終章 大動乱の果てに待つもの
宿命の邂逅!戦鬼王VS聖剣皇子
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影白虎となった四元蓮馬は、四神躰極夢において最も猛々しい、まさに闘魂の権化ともいえる変化身を選択したのが自身の本能そのものというべき《夢見ノ力》である以上、この未知の戦場で待ち構えている敵がおそろしく手強い存在であろうことを覚っていた。
立ち塞がる第一の障壁は安癒室の分厚い鉄扉であったが、大上段に振りかぶった聖剣を神速で〆の形に動かすと同時に「ありゃあああああッッ!!!」と裂帛の気合を掛けて臍下丹田から無限に湧き出る闘氣を刀身全体から放出される衝撃波と合わせて撃ち出す“八天蓮夢武法奥義”《斬凶閃刃波》によって難なく突き破ったのであった。
もちろん、この扉の向こうには魔強士族が群れなしていることを想定していたのであるが、意外なことにそこに控えていたのは丈が裾までもある僧服めいた詰襟の衣装に身を包んだ、詰襟異様に鋭い目付きの禿頭の中年男のみであったのである。
しかも最強特抜生の聖剣皇子を前にしているというのに武器らしいモノは一切手にしておらぬ事実によっても、もちろん蓮馬自身は知る由もなかったが、総帥に命じられて搭乗していた黄金巨鳥から小型機を自ら操縦して帰館した、魔強士族内でその名を知らぬ者無きシェザード家執事長のヤルフ=ゲルーチの胆力か並々ならぬものであることを物語っていた。
「──キサマは誰だ?」
およそ三メートルほどの距離を隔てて、右手で柄を握った聖剣の切先をピタリと顔面に突き付けてくる影白虎の双眸を恐れる素振りも見せず慇懃に自己紹介した執事長は、闘盟軍総帥が貴方との対面を求めていること、そして指示に従ってもらえる限りは害意の無いことを告げる。
「──ザナルク=シェザード直々のご指名とは光栄だが、敵将が私に何の用があるのだ?」
この当然の疑問に対する返答はやはりというべきか、執事長自身によってはもたらされなかった。
「ご不審の点はお詫び致すほかありませんが、全ては御当主御自身からお伝えになるということです。
もしご承諾頂けるのであれば、直ちに【総帥執務室】にご案内致しますが…」
──こうなってしまえばもはや乗りかかった船である。
しかも“ペトゥルナワス史上最強戦士”とも評価される“伝説の戦鬼王”と一対一で対面できるとなれば、氏素性は違えど同じく武を志す者にとって新たな知見を得るための千載一遇の機会といえよう…。
「……」
相手が静かに剣を収めるのを受けて小さく頭を下げたゲルーチは、「それではご案内致します」とゆっくりと踵を返したのだった…。
〈研究棟〉と〈居館〉を繋ぐ渡り廊下を渡り、昇降機は使わず天鵞絨を彷彿とさせる生地が敷きつめられた臙脂色の廊下と階段を粛々と進み、最上階(十階)の突き当りに至ると、銀色に縁取られた紫の六角形を四等分する黄金の十文字──即ち闘盟軍の紋章が一面に彫刻され、壮麗な装飾を施された緑一色の執務室の観音開きの扉が出現し、戦闘服に身を固めた親衛隊員によってそれが左右に開かれると、二十メートルほど奥に鎮座する黒化粧石の六角形の執務机にローブを脱ぎ捨て深緑色の普段着姿のザナルク=シェザードが着座していたのであるが、その姿は腹心の執事長を絶句させ、異世界の客人を瞠目させるに十分であった!
あろうことか、卓上にうち伏せた“魔強士族最強の漢”は、必死に抑制されていたとはいえ明らかに慟哭していたのである!
「ご…御当主様──!?」
呆然たる表情のゲルーチが早足で歩み寄って来るのを察知したザナルク=シェザードは左手を掲げてそれ以上の接近を押し留めつつ、右手に持った黒い手巾で俯いたまま暫し顔を拭っていたが、再び面を上げた時、その精悍な容貌に一片の悲嘆すら浮かんではいなかった。
「──みっともない所を見られてしまったな…。
されどこの悲報の前ではさしもの“戦鬼王”も感情が雪崩れるのをいかんともし難かったのだ…。
実はな、ゲルーチ…。
たった今スダイから連絡が入ったのだが、それによるとバアルが黒瀧晶悟との決闘で相果てる結果に終わったそうなのだ…」
「──!?」
これは誕生以来今日に至るまでの成長の軌跡を見守ってきた執事長はむろんのこと、たった一度の対戦で胸をかきむしりたいほどの恥辱を味わわされた四元蓮馬にとっても衝撃の事件であった。
「な、何ですとッ!?
バ、バアル様が…亡くなられた──!?」
虚空を仰いで嘆息したザナルクは、ようやく絞り出したかのような嗄れ声で続けた。
「いや…正確には、得意の回転攻撃で相手の首を刎ねたはよかったが、あろうことか傷口から出現したヌーロスの〈最終奥義〉──どうやら念龍の一種らしいがそれに飲み込まれて共々消滅してしまったらしい…」
「消滅…!?
おお、何とおいたわしいことだ…。
これから御当主様やスダイ様の薫陶を大いに受けられて、いずれは闘盟軍を…否、ペトゥルナワス全界を統べる史上最大の支配者となる運命であられたバアル将軍が、あろうことか卑しき異世界獣民の穢れた肉体をよすがとした裏切り者の邪悪な奸計によって旅立たれてしまうとは…!」
背後に晶悟の同胞が佇立しているのを幸いに、ことさら後半部に力を込めて慨嘆した忠臣を、
「もうよい…それより領内の地下退避壕の稼働状況の確認と監督を頼む」
と追いやった闘盟軍総帥は、やおら立ち上がって異形の剣鬼と化した四元蓮馬を手招きした。
「──かくも激しい変身を成し遂げるとは、改めて八天蓮夢武法とやらの神秘力には感嘆せざるをえんな…!
少なくとも私の知る範囲では、この広大なペトゥルナワスにおいてすらそのような異能を有する者の存在を耳にしたことはない…」
「──正確には、八天蓮夢武法の秘密奥義《四神躰極夢》という…。
そして現在私が化身しているのは、地上世界における“西方の守護神”である〈白虎〉──むろん神そのものではなく、いわばその影にすぎん…!」
「ふむ、なかなか難解だが…。
されど神そのものに我が身をなぞらえぬ所に、逆に四神躰極夢とやらに対する不敵なまでの自信を感じさせるわ…!」
「どう取ってもらってもよい──ましてや、相手が敵であるならば…!」
手招きに従ってザナルクに接近はしたものの、会話の開始と同時に立ち止まったため両者の距離は依然十メートル近く隔たっていた。
「敵か…たしかに今まではそうであったが、果たしてこれからはどうかな…?
何よりも四元蓮馬よ、君の父親である四元蓮士郎──いや、銀魔星首領ゼモンの昨今の所業を見聞したなら、彼奴以上の〈悪〉が少なくともペトゥルナワスにおいては存在せぬことが理解できるはずだ──!!」
立ち塞がる第一の障壁は安癒室の分厚い鉄扉であったが、大上段に振りかぶった聖剣を神速で〆の形に動かすと同時に「ありゃあああああッッ!!!」と裂帛の気合を掛けて臍下丹田から無限に湧き出る闘氣を刀身全体から放出される衝撃波と合わせて撃ち出す“八天蓮夢武法奥義”《斬凶閃刃波》によって難なく突き破ったのであった。
もちろん、この扉の向こうには魔強士族が群れなしていることを想定していたのであるが、意外なことにそこに控えていたのは丈が裾までもある僧服めいた詰襟の衣装に身を包んだ、詰襟異様に鋭い目付きの禿頭の中年男のみであったのである。
しかも最強特抜生の聖剣皇子を前にしているというのに武器らしいモノは一切手にしておらぬ事実によっても、もちろん蓮馬自身は知る由もなかったが、総帥に命じられて搭乗していた黄金巨鳥から小型機を自ら操縦して帰館した、魔強士族内でその名を知らぬ者無きシェザード家執事長のヤルフ=ゲルーチの胆力か並々ならぬものであることを物語っていた。
「──キサマは誰だ?」
およそ三メートルほどの距離を隔てて、右手で柄を握った聖剣の切先をピタリと顔面に突き付けてくる影白虎の双眸を恐れる素振りも見せず慇懃に自己紹介した執事長は、闘盟軍総帥が貴方との対面を求めていること、そして指示に従ってもらえる限りは害意の無いことを告げる。
「──ザナルク=シェザード直々のご指名とは光栄だが、敵将が私に何の用があるのだ?」
この当然の疑問に対する返答はやはりというべきか、執事長自身によってはもたらされなかった。
「ご不審の点はお詫び致すほかありませんが、全ては御当主御自身からお伝えになるということです。
もしご承諾頂けるのであれば、直ちに【総帥執務室】にご案内致しますが…」
──こうなってしまえばもはや乗りかかった船である。
しかも“ペトゥルナワス史上最強戦士”とも評価される“伝説の戦鬼王”と一対一で対面できるとなれば、氏素性は違えど同じく武を志す者にとって新たな知見を得るための千載一遇の機会といえよう…。
「……」
相手が静かに剣を収めるのを受けて小さく頭を下げたゲルーチは、「それではご案内致します」とゆっくりと踵を返したのだった…。
〈研究棟〉と〈居館〉を繋ぐ渡り廊下を渡り、昇降機は使わず天鵞絨を彷彿とさせる生地が敷きつめられた臙脂色の廊下と階段を粛々と進み、最上階(十階)の突き当りに至ると、銀色に縁取られた紫の六角形を四等分する黄金の十文字──即ち闘盟軍の紋章が一面に彫刻され、壮麗な装飾を施された緑一色の執務室の観音開きの扉が出現し、戦闘服に身を固めた親衛隊員によってそれが左右に開かれると、二十メートルほど奥に鎮座する黒化粧石の六角形の執務机にローブを脱ぎ捨て深緑色の普段着姿のザナルク=シェザードが着座していたのであるが、その姿は腹心の執事長を絶句させ、異世界の客人を瞠目させるに十分であった!
あろうことか、卓上にうち伏せた“魔強士族最強の漢”は、必死に抑制されていたとはいえ明らかに慟哭していたのである!
「ご…御当主様──!?」
呆然たる表情のゲルーチが早足で歩み寄って来るのを察知したザナルク=シェザードは左手を掲げてそれ以上の接近を押し留めつつ、右手に持った黒い手巾で俯いたまま暫し顔を拭っていたが、再び面を上げた時、その精悍な容貌に一片の悲嘆すら浮かんではいなかった。
「──みっともない所を見られてしまったな…。
されどこの悲報の前ではさしもの“戦鬼王”も感情が雪崩れるのをいかんともし難かったのだ…。
実はな、ゲルーチ…。
たった今スダイから連絡が入ったのだが、それによるとバアルが黒瀧晶悟との決闘で相果てる結果に終わったそうなのだ…」
「──!?」
これは誕生以来今日に至るまでの成長の軌跡を見守ってきた執事長はむろんのこと、たった一度の対戦で胸をかきむしりたいほどの恥辱を味わわされた四元蓮馬にとっても衝撃の事件であった。
「な、何ですとッ!?
バ、バアル様が…亡くなられた──!?」
虚空を仰いで嘆息したザナルクは、ようやく絞り出したかのような嗄れ声で続けた。
「いや…正確には、得意の回転攻撃で相手の首を刎ねたはよかったが、あろうことか傷口から出現したヌーロスの〈最終奥義〉──どうやら念龍の一種らしいがそれに飲み込まれて共々消滅してしまったらしい…」
「消滅…!?
おお、何とおいたわしいことだ…。
これから御当主様やスダイ様の薫陶を大いに受けられて、いずれは闘盟軍を…否、ペトゥルナワス全界を統べる史上最大の支配者となる運命であられたバアル将軍が、あろうことか卑しき異世界獣民の穢れた肉体をよすがとした裏切り者の邪悪な奸計によって旅立たれてしまうとは…!」
背後に晶悟の同胞が佇立しているのを幸いに、ことさら後半部に力を込めて慨嘆した忠臣を、
「もうよい…それより領内の地下退避壕の稼働状況の確認と監督を頼む」
と追いやった闘盟軍総帥は、やおら立ち上がって異形の剣鬼と化した四元蓮馬を手招きした。
「──かくも激しい変身を成し遂げるとは、改めて八天蓮夢武法とやらの神秘力には感嘆せざるをえんな…!
少なくとも私の知る範囲では、この広大なペトゥルナワスにおいてすらそのような異能を有する者の存在を耳にしたことはない…」
「──正確には、八天蓮夢武法の秘密奥義《四神躰極夢》という…。
そして現在私が化身しているのは、地上世界における“西方の守護神”である〈白虎〉──むろん神そのものではなく、いわばその影にすぎん…!」
「ふむ、なかなか難解だが…。
されど神そのものに我が身をなぞらえぬ所に、逆に四神躰極夢とやらに対する不敵なまでの自信を感じさせるわ…!」
「どう取ってもらってもよい──ましてや、相手が敵であるならば…!」
手招きに従ってザナルクに接近はしたものの、会話の開始と同時に立ち止まったため両者の距離は依然十メートル近く隔たっていた。
「敵か…たしかに今まではそうであったが、果たしてこれからはどうかな…?
何よりも四元蓮馬よ、君の父親である四元蓮士郎──いや、銀魔星首領ゼモンの昨今の所業を見聞したなら、彼奴以上の〈悪〉が少なくともペトゥルナワスにおいては存在せぬことが理解できるはずだ──!!」
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