THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

文字の大きさ
162 / 170
終章 LASTBATTLE ON THE EARTH

DEATHGAME-ISLAND⑮

しおりを挟む
 宝麗仙宮地下3階は魔界と化していた。

 もとより全床が牢獄であるゆえ常時陰鬱な空気が立ち籠める空間ではあったが、大教帝復活の煽りを食っていわば生贄にされた総勢十名に及ぶ遠征隊員の屍が累々と折り重なるコンクリート床はそれに倍する殲闘霊獣どもの饗宴の食卓となっていたのである!

 その中には2階の医務室で魔霊バアルとすれ違った“餓鬼蝙蝠”チェリオルらも当然のように含まれており、のごとき人系(とてつもなくいびつな形状ではあったが)がおよそ5体、“一つ目双頭鶴”クレスサ等鳥系が4体、“オレンジカブトガニ”ゲゼバら甲殻系が3体、そしてサイズ的には最も小型な“黃金蜂”ゼシラを筆頭とする昆虫系が6体…と大体同系の霊獣同士仲良く、それぞれの種族の流儀に則って屍肉を貪っているのだが、堂々単独で食事を楽しむが3体存在していた──そして彼らはいかなる偶然か、十人の中では最も屈強な、王妃殺害に激昂したノディグによる星王暗殺を阻止した三人のリュザーンド防衛軍特務隊員=ゾネロ、ルコス、ダギンの血肉を堪能していたのである…。

 まず最も豪快な食いっぷりを披露しているのが“赤き人面獅子”ジャゴルであり、ほぼライオンと同サイズの獣身にギリシャの最高神ゼウスを彷彿とさせる侵し難き厳格な風貌を備えるにも関わらず、内部で滾る野性…否、魔性を憚ることなく全開し、赤銅色の爪牙を駆使しながら三名中最も体格に恵まれたゾネロの筋肉を裂き、骨を砕くさまは地獄の番犬ケルベロスを顔色なさしめる凶猛さである。

 そこから5メートルほど離れた地点で動きこそ緩慢ながらジャゴルに劣らぬ戦慄的な咀嚼を見せつけているのが“有翼魔鰐”ドルーザであり、全霊獣中最も堅牢な漆黒の体躯は“霊獣王”を自認する人面獅子ですらおいそれとちょっかいを出せるシロモノではなかった。

 まずは最も好む腹部を味わい、続いて脳味噌の賞味に取りかかった魔鰐は、あたかも人間が奥歯でピスタチオを砕くように、軽く一噛みしただけであっさり頭蓋を割ってのけると、選り分けるのも面倒なのかそのままボリボリと骨ごと齧り尽くして嚥下するのであった…。

 これら凄惨なる聖餐は3メートルほどの幅を有するコンクリ廊下で繰り広げられていたが、それを挟んで設置された十数の独房の内、唯一扉が開いた房があったが、その内側でも目を覆わしむる怪奇な食事風景が展開していた。

 見よ、3坪ほどの房内を目一杯使用して緩やかにトグロを巻く黝い人面大蛇──奇怪にも2メートルに達するであろう艷やかな青紫色の頭髪を振り乱しながら、今しもダギンの両足首のみを露出して他の部分は膨らんだ体内に収めきったカーリー女神を連想させる狂女の形相はジャゴルやドルーザをも凌駕するで見る者を圧倒する!

 こと戦闘力に関する限り、ほぼ同格とされる三大霊獣ではあったが、もし戦わば、“使役者”メラミオが最も愛着を寄せ、史上最高の死闘となった霊闘極典祭決勝でも文字通り切り札として難敵二リーネを振り切った“愛勝幻蛇”ユノラナこそが〈最終勝者〉となろうというのが斯界の有力者たちによる一致した見解であった。

 そして房の入口に身を寄せて、半開きの鉄扉から半ば痴呆的な表情で内部を盗み見るリュザーンド星人ベラクが脇に抱え込んでいるのは六大霊闘具の一つであり、極典祭後のメラミオが殲闘霊獣を操作する際に使用する直径20センチ、厚さ1センチの紫水晶の円盤【覇空鏡】であったのである!

        ✦

 霊闘具の紛失という一大事が勃発したからにはバアルの助力は不可欠であるため、5分間ほどの待機を経て2匹の鋼蛇を従えて2階に降りた幻護郎メラミオであったが、問題の医務室の扉は閉ざされたまま不気味に静まり返っているのを確認して不吉な予感に苛まれる。

“チッ、一体何をグズグズしてるのよ…!

 しょせん相手は自前の戦闘力がゼロに等しい変態エンジニアに過ぎないってのに…。

 大宇宙の神に誓って断言できるけど、ペティグロス人顔負けのメカオタクに全振りしてて神霊闘術師の資質が皆無のが六大霊闘具を使いこなすなんてことは100%不可能なんだけど、こちらとの取引のために盗み出したということは十分あり得る。

 ただ解せないのは、カギ付きのクローゼットを壊すことなく、そしてダイヤル式のアタッシュケースを開くこともなく中身をどんな方法で取り出したっていうのよ…!?

 ま、まるで霊闘具がそれ自体の意志で飛び出して行ったといわんばかりの鮮やかな消失ぶりじゃないのさ…!!”

 とりあえずドアノブに手を伸ばしてみると、意外にも施錠はされていなかった。

“…ここまで来たら、で事実を確かめるしかないッ!

 あの騒々しいバアルが乗り込んでるにも関わらずこんなに静かなこと自体が異常事態だし、とにかくこの奥に重要な秘密が隠されてるに違いないわッ!!”

 かつてはしょっちゅう入り浸り、盟友ケイファーと時の経過も忘れて対話に興じた懐かしき室内に踏み込んだメラミオであったが、例の巨大水槽はあえて無視して扉が開けっ放しの別室へ迷わず進む。

“──うぐッ!?

 な、何なのよこの光景はッッ!?”

 一瞬、彼女は一体化している機械生命体の人造頭脳にとんでもないバグが発生してしまったのかと絶望したほどであった。

 地獄の餓鬼を彷彿とさせる数十体の影霊獣どもが蠢く祭壇(長テーブル)には殆ど骸骨と化したビドゥロの死骸が散らばっており、机の傍らに置いた椅子に跨り、両手で捧げ持った霊哭笛を恍惚たる表情で吹き鳴らしていたコームが気配を察知して振り返るが、侵入者の余りにも異様な風体に瞬時に表情を引きつらせる。

 されど人工戦士の機眼はテーブルの端に寄せられた白木の棺と蹂躙し尽くされた死体の間、即ち机の中央部にあたかもギターケースのように放置されたM字型甲閃獣の姿に衝撃を受けた!

 しかも哀れなことにモーグは食事に飽きた影霊獣どもの慰み物にされてしまっており、十匹近い全身無毛で鋭い爪牙を誇示する黝い小鬼らはその上で飛び跳ねたり蹴っ飛ばしたりとまさにやりたい放題である…。

“全く何やってんのよッ!

 どうやら霊哭笛の音色がバアルにとっちゃ最高の子守唄になったみたいだけど、この光景を前にしてすらあたしにはこれが現実とは信じられない──でもひとまずコイツから笛を取り戻して、傑出した能力者らしい森藤茉穂美サンにでも、影霊獣どもを再封印するしかないわね…”

 逃亡は不可能と悟った調理人は霊哭笛をズボンのポケットにネジ込み、窮余の策として椅子を振り上げる(彼とベラクには熱光弾銃は支給されていない)が、メラミオは憐れみすら覚えつつその鳩尾に鉄拳をメリ込ませる。

「がぐッッ!!」

 上体をくの字に折って両手で腹部を押さえながら崩れ落ちる神霊闘術師…そして支え手を失って落下した鉄製の回転椅子は悲惨なことに失神状態?で身動き取れぬモーグを直撃したのだが、わんさと群がっていた影霊獣どもが一斉に飛び退いて寸前に回避したのはいうまでもない…。

        ✦

 バスタオルを2枚使って水滴を拭い去った神野優彦は虚空に浮かぶ青紫色の仮面=【極麗瞳貌】へと熱視線を送り、額に象嵌された眼球を彷彿とさせる円型の黃金石が激しく発光しながら急降下してピタリと装着される。

 同時に切れ長の金色の双眸がギラリと輝き、この瞬間に彼は人ならぬ身へと〈超進化〉してしまったのである!

 そして右手の人差し指と中指の間にはこの宇宙で断てぬ物質は無いとされる直径6センチの円盤=【凶殲煌輪】が挟み込まれ、左手には50種もの超毒煙を一切の媒体抜きで発生させる直径13センチの【冥境風炉】が握られていたのであった!


 



 



 



 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

撮影されて彼に愛される

守 秀斗
恋愛
自撮りが好きな杉元美緒。22歳。でも、人前でするのは恥ずかしくて、誰もいない海岸まで行って水着姿を撮影していると、車椅子に乗った男に声をかけられた。「あなたは本当に美しいですね。あなたの写真を撮影したいのですが、だめでしょうか」と。

処理中です...