THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第二章 凶祭華同盟の虜囚

恐怖の淫獣人第2号〈中編〉

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 鬼舞嵐太郎が天から授かった殆ど唯一の“正なる資質”に〈絵心〉があり、生来自惚れの強い彼は早くから自身を天才と規定して余暇はもとより授業中ですらも〈作品〉の執筆に余念が無かったが、むろんその画題は性愛方面に限定されており、惜しみない喝采を送る数少ない同好の士たちからは漫画家を目指すことをさかんに勧められたものの本人にその気はさらさらなく、提言を受ける度にうんざりした表情で「冗談じゃねえ、あんな仕事、ワシャようやらんわ…せえに運良うデビュー出来ても、せえならせえで興味のねえモンまで描かにゃあおえんじゃろが?

 ワシャあのう、女しか…せえも絵じゃねーと描く気もせんのじゃ!

 じゃけえのお、一番なりてーんはエロ専門のイラストレーターなんじゃけど、せえじゃあ食えんじゃろうが?

 ほんま、この国の芸術事情は遅れとる思うで…じゃってのう、19世紀のヨーロッパじゃあ金持ちのパトロンがお抱えの画家に好みの絵描かす代わりにゴージャスライフを保証しちゃっとったちゅうんじゃからのう…」などと都合の良い歴史解釈を真顔で嘯いていたのであったが、何とかで身を立てようと志していたのは父に無理強いして進学したのがサブカル分野に強い私立の芸大であったことからも窺えたが、“よりナマナマしくリアルなアートをモノにするため”とこれまた身勝手極まりない動機で手を染めた〈下着泥棒〉でとなり、一気に人生を暗転させてしまってからはまるで憑き物が落ちたかのように絵筆を執ることも無くなっていたらしかったが…。

 されどいかなる邪神の計らいか、淫魔教帝ババイヴに憑依された直後に訪れた──というのもその頃、とある若手女優(非AV)に夢中になっていた鬼舞は久しく忘れ去っていた感情=猛然たる創作意欲に駆られ、一晩完徹してと彼女の〈性交画〉を極細サインペンで仕上げたのであったが、これを常連客に自慢気に披露したところたちまち大評判となり、我も我もと怒涛のごとき注文が殺到してきたのだ。

『こりゃ、イケるでえ』──予想通りの反応にほくそ笑んだ鬼舞は直ちに〈入札制度〉を導入して【モデル権】を競売にかけたのだが、顧客としては新顔ながらみごと勝ち獲った定年間近の某大学教授から意外な申し出を受けたのである。

 提供されたのは大学生時代の彼と悲恋に終わったという美しい社長令嬢とのポートレート、そして…。

「頼むよ鬼舞さん──できればコイツを使って欲しいんだ、今年東京の美大に進学した娘が使っていた舶来の色鉛筆なんだがね…」

 それはいいとして、にわかポルノ画家を閉口させたのは教授の注文の細かさと半端ない枚数であり、これには「全く、インテリほど変態が多いっちゅうんは真実ホンマじゃわ…いくらギャラが破格っちゅーてももう二度とコイツの注文は受けとうねえ」と決意させるに十分であったのだが、それでも依頼者の風貌から娘の美貌は容易に想像できる上に、しかも難関で知られる名門美大生でもある彼女が愛用したアイテムをゲットできるとあってはキャンセルなど論外であるため、少しでも負担を軽減するためにはこう懇願するしかなかった──「先生、誠に申し訳ありませんが後が詰まってるんです…とりあえずに①原初の楽園のごとき緑深い森の奥での仁王立ちフェラ(真正面&右側面アングル)、②昼下がりの無人の講堂で、彼女を教壇に寄りかからせての立ちバック(真正面&左側面アングル)の計4点で勘弁して頂けませんか?

 もちろん他の注文を片付けたらすぐにに取りかかりますから──なあに、貧乏人ばっかの後の連中のやっすいモノクロペン画のオーダーなんざ、チャチャッと済ませますんですぐに順番は回ってきますって!」

 かくてまんまとせしめた120本の宝物(その全てにしっかりと使用感があることが何より彼を喜ばせた)の一本一本を、殆ど夜を徹して芯の先に至るまで丹念に舐め尽くした鬼舞嵐太郎は、これまたいかなる僥倖?か、与えられた三週間という制作期間を経て明日受け渡しというその夜に注文主が急死したことでそれ以上の苦役から免れ、このことを思い出すと今でも微苦笑と同時にホロ苦い勝利感を覚えるのであった。

『アレはおそらく、崇高なる《地球淫界化計画》を遂行すべくはるばる来星した余が、こともあろうに〈原住民〉の些末な“個人的淫心”に貴重な時間を奪われるなどとは本末転倒でしかないという無意識下の正当なる怒りが会心の結果をもたらしたものに違いない…尤も、それに要した労力は決して生易しいものではなかったが…」

 しかし何とか締め切りに間に合わせた四枚の完成品が無駄になったかといえばそうでもなく、これぞと思った顧客には“極上のサンプル”として閲覧に供していたのであるが、何よりも当のババイヴがより目的に適した、より拡散力のある手段──つまり自主AV配信なる〈奇策〉に走ったことで惜しくも“開店休業状態“となってしまい、されど意気込んで着手したこの新作戦の成果が無残なまでに壊滅的とあっては、腹心ベルバスならずとも「エロ画業こっちの方がよっぽど見込みがあるのに…何だかんだ言っても、結局ババイヴ様もラクがしたいだけなんだよな」とボヤきたくもなろう…。

         *

 …今しも用事を済ませてそそくさと辞去しようとする目の前の根暗青年──即ち片尾茂一郎を三ヶ月ほど前に偶然レジ奥から目にしたまさにその瞬間、

『こやつだッ!第何号になるかはまだ分からんが(更なる逸材にいつ邂逅するとも限らんからな)、我が大計画の尖兵となる淫獣人に必要な条件全てをこやつは完璧に備えておるッ!!

 何故ならば、こやつの全精神を常に領しておる自身の醜さへの、そして絶対不可能な理想の異性との性愛に対する絶望と怨念、そこから必然的に惹起される終末的破壊願望…更にそれに輪をかけた状況改善の努力を一切放棄し果てた虚無的人生観──これら絶対修正不能なマイナス感情のみが凶祭華同盟の走狗となるために必須の妖魔女の愛液イニシエーションがもたらす激苦を乗り越える力を与えるのだからな…!

 さて、それでは完全に余の隷属下に置くため、貝沼ベルバスにこやつが抱懐するマドンナ像を詳細に訊き出させるとしようか…!!』

 

 

 








 
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